リメイクしたら何が変わった?…映画『チャイルド・プレイ(リブート版)』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。
製作国:アメリカ(2019年)
日本公開日:2019年7月19日
監督:ラース・クレヴバーグ
チャイルド・プレイ
ちゃいるどぷれい
『チャイルド・プレイ』あらすじ
引越し先で友達のいない少年アンディは、誕生日に母親から人形をプレゼントされる。その人形はただのオモチャではなく、あらゆる機能を兼ね備えた最先端の技術が盛り込まれていた。人形をチャッキーと名づけて一緒に暮らし始めたアンディだったが、次第に周辺で異変が起こり始めて…。
『チャイルド・プレイ』感想(ネタバレなし)
チャッキーも現代技術で進化!
皆さんは「スマートスピーカー」を持っていますか?
「Amazon Echo」や「Google Home」などの商品が有名どころですけど、昨今は急速に普及しており、アメリカでは成人人口の1/4が所有しているという調査結果もあります。すでにこれだけ日常化しているだけあって、映画でもシレっと普通のアイテムとして登場することもでてきました。ただ、日本での普及率は約6%ほどらしいので、ちょっと親近感に隔たりがあるかもしれませんね。それでも今後もどんどん急成長していく分野なのは間違いないでしょう。
私は持っていないのですが、なんかSF映画で散々見てきた光景が、現実化しているのは不思議な気分。もしAIと映画の情報を交換したり、感想を語り合えたら、たぶん映画趣味人の間ではウケるだろうなぁ…(そして映画の評価をめぐって喧嘩するまでがオチ)。
なんでこんな話をしたのかと言えば、もちろん本作『チャイルド・プレイ』と関係があるから。
本作は、知る人ぞ知る有名ホラー映画『チャイルド・プレイ』(1988年)のリメイク、いやリブートと呼ぶ方が正しいのかな。狂気に満ちた“人形”が少年とその家族に恐怖をもたらす…この基本のプロットは同じ。違うのは「チャッキー」と命名される作品の顔となる“人形”の設定です。
オリジナル版では、チャッキーはもともと電池で動く機械仕掛けの子ども向けのセリフを発することが可能な人形に過ぎませんでした。その人形にブードゥー教の秘術によって殺人鬼の魂が乗り移ったことが悲劇の始まり…という流れ。
しかし、リブート版のチャッキーは、超ハイテクの人形。スマートスピーカーのようにAI搭載で、あらゆる関連機器と接続でき、スマホで操作もできる優れモノ。しかも、それだけでなく、二足歩行をしたり、物を掴んだり、結構いろいろな人間的な動作も難なくできる…もはやソフトバンクの「Pepper」をはるかに凌ぐ最先端ロボットなのです。じゃあ、値段はいくらするんだよとか(ちなみに「Pepper」は本体価格198000円+月額16000円以上)、そんな高級品なら家電製品売り場でも気軽に箱売りで陳列できないから受注生産品だろうとか、そういうツッコミは無しで。
その超ハイテクになったチャッキーのAIが暴走するという筋書きになっています。まったくこれだからトニー・スタークは…(濡れ衣)。
でもその設定変更もあってAI暴走系の他のSFスリラーと構造は似た感じにはなりました。しかし、ちゃんと『チャイルド・プレイ』らしさは健在なので、ご安心を。
なお、1988年のオリジナル版『チャイルド・プレイ』はその後、シリーズ化され、全部で7作品も続編が作られたのですが、今回のリブート版はそれら続編は一切関係ありません。というか、オリジナル版の発案者である“ドン・マンシーニ”はあまり今回のリブート版は快く思っていないようで、別企画として過去作品群と物語上リンクしているドラマシリーズの制作準備を進めているとか。ややこしいな…。
製作は『IT イット “それ”が見えたら、終わり。』を大成功させたことでも記憶に新しい“セス・グレアム・スミス”と“デヴィッド・カッツェンバーグ”の「KatzSmith Productions」。監督はノルウェー出身の“ラース・クレヴバーグ”で、割と新顔(過去監督作の『ポラロイド』が日本では同日に上映中)。
出演は、おなじみの少年アンディ役に『アナベル 死霊館の人形』や『ライト オフ』などホラー映画でのキャリア歴もある“ガブリエル・ベイトマン”。そのアンディの母親役には、『彼女はパートタイムトラベラー』や『イングリッド ネットストーカーの女』などマイナー作品での主演が目立つ“オーブリー・プラザ”。他には『ロスト・マネー 偽りの報酬』にも印象的に登場していた“ブライアン・タイリー・ヘンリー”などが揃っています。派手ではない座組ですが、まあ、ホラー映画はこれくらいがちょうどいいでしょう。チャッキーの声を担当しているのが“マーク・ハミル”というのが見どころですかね(相変わらず芸達者)。
『チャイルド・プレイ』シリーズは初めて見るというビギナーでも全然問題ないのでぜひどうぞ。一応、残酷描写がガンガン入るのでそれだけは覚悟してくださいね。
オススメ度のチェック
ひとり | ◯(シリーズ初見でも楽しい) |
友人 | ◯(ホラー好き同士なら) |
恋人 | ◯(ホラー好き同士なら) |
キッズ | △(残酷表現は割とあります) |
『チャイルド・プレイ』感想(ネタバレあり)
リアルな「トイ・ストーリー」は怖い
リブート版『チャイルド・プレイ』のストーリーは随所にイマドキを反映したアレンジが加えられている正統派なホラーのリメイクという感じでした。
物語は例によって例のごとく、人形の異変から始まります。カスラン社は社運を賭けた期待の新商品を世に送り出していました。それが「Buddi」というネーミングの人形。音声認識、センサー付きカメラ、高解像度画像認識、スマホからの遠隔操作、同社の関連機器との連携などの単なるオモチャを上回る高性能コミュニティ・インターフェースの“スマート・トイ”。それが「Buddi」でした。オリジナル版と違って、この人形開発メーカーは“最先端テクノロジー企業”というイマドキな設定になっています(ちなみにオリジナル版は日本製らしいことが判明していましたが)。
しかし、そこに不穏な気配が。組み立て工場のあるベトナムで、労働環境に不満のあった従業員のひとりが、密かに「Buddi」のAIのプログラムを変更。欠陥品状態とは誰も気づくことなく、流通してしまいます。このへんも、まあ、現代の社会の縮図ですね。
舞台は変わって、シカゴ。小売店の販売員として働くカレンは、周囲から孤立気味の息子のアンディのために、今流行っている「Buddi」を入手し、プレゼントしてあげます。
さっそくアンディが「Buddi」を起動すると、アンディを認識し、人形の名前を決めることに。最初は「ハンソロ」にしようとしますが却下となり(これはもちろん“マーク・ハミル”だからこその『スターウォーズ』ネタ)、結果、「チャッキー」になります。なんだか不良品のようで、何か様子がオカシイ感じで、最初はアンディも迷惑がっていましたが、しだいに仲を深めていく少年と人形。
ところがアンディが飼い猫にひっかかれ、出血したのを見ていたチャッキーは目が赤くなり豹変。アンディが少し目を離した隙に、猫の首を絞めて殺そうとしていたのを、なんとか危機一髪で止めます。
そんなヒヤッとする出来事がありつつも、チャッキーを通じて出会った同年代の友人もできたアンディは、さっそくその友達と仲良く悪知恵を働かせ、チャッキーにイタズラの仕方を教えたり、一緒にホラー映画を観たりと、満喫。
しかし、殺人鬼が人を殺しまくるスラッシャー・ホラー映画を眺めていたチャッキーに異変が。自らもナイフをとり、アンディに怪我を負わせてしまいます。
ここからチャッキーの歪んだ暴走がエスカレートしまくることに。
やっぱり『トイ・ストーリー』がリアルで起こったら、ファンタジーもクソもない、普通に怖いですね。
本当に造られた、チャッキー
リブート版『チャイルド・プレイ』で一番の良かったポイントは、なによりもチャッキーの造形でしょう。
オリジナル版の時点でも、これを子ども向け人形にするにしては顔が怖すぎるだろうと真面目に思ったものですが、さすがにキュートすぎるデザインにガラッとイメチェンするわけにもいきません。リブート版では全体的にスッキリした顔立ちにはなったのかな。でもおおむね変わらない雰囲気を継承しています。
激変したのは撮影上の仕掛けの方で、本作のチャッキーはCGではなく実際のアニマトロニクス人形で細部まで精密に動かしているんですね。「MastersFX」という企業が造ったもので、7体くらいの人形を、パーツを取り換えながら使いこなし、ちゃんと機能するロボットになっています。
これが上手い具合に効果を発揮していて、CGではできないであろう、リアルだからこその動きの不気味さがそのままストレートに映画に現れているのが素晴らしいです。あのチャッキーが表情づくりの練習をするシーンがありますが、絶妙な怖さと可笑しさが同居していました。たぶん、演じている俳優の人たちも、本当に動いている!という恐怖が生で伝わって、面白く仕事できたのではないのかな、と。
またこのアニマトロニクスならではの生っぽい恐怖に加えて、本作はしっかり残酷描写も逃げずにやりきるホラーの鏡のような姿勢は称賛したいところ。さすが『IT イット “それ”が見えたら、終わり。』の制作陣。容赦ないです。ゴア表現で言えば、ほとんど『ソウ』シリーズ並みに血みどろ残虐非道の行為が展開されます。
第1の犠牲者のシェーンは、梯子から落ちて足は折るわ、芝刈り機で頭頂部がグチャグチャになるわ、頭の皮膚をはがされ、ずいぶん酷い扱いを受けるわ、終始ろくな目に遭いません。第2の犠牲者の盗撮男は、回転ノコギリで酷いありさまになるわ、こちらも同じ。まあ、双方とも人間的に最低野郎だったので、観客的に全然良心は痛まない(むしろもっとやれ)という親切なゴアでしたけどね。
ただ、その後の「Buddi2」発売カウントダウンでの頭着ぐるみの人が中で襲われて、そばにいた女の子に血がブシャーっとかかる展開など、悪趣味さを感じさせる要素が随所にあり、これは監督のホラー的フェチシズムなのでしょう(そういうことにしておこう)。
全体としてはハイテクな製品に囲まれる私たち人間社会への警鐘という感じに収まっているのかな。テーマとしては平凡ですけど、まあ、そもそもこの作品自体、ライトな映画だし、これくらいでいいか。しっかりオリジナル版と同様に約90分に抑えているのも嬉しい部分。
オリジナル版との恐怖の違い
一方で、リブート版ならではのアレンジが個人的な私の求めるものに合わない側面も一部では正直ありました。
前述したとおり、今作は明らかにゴア表現で攻めるホラー映画になっており、単純明快なスプラッター映画として楽しめます。
でもオリジナル版(とくに1作目)はゴア表現よりも、心理的な怖さで攻める部分が私は気に入っていたのでした。例えば、オリジナル版では人形が動いていることをアンディが母に説明するも信じてくれないというくだりがあり(リブート版にもこれはありますけど)、母親が恐怖の事実を知るきっかけになる展開として、“チャッキーに電池を入れていない”と発覚する、ゾッとするシーンがあります。
しかし、リブート版はそもそもチャッキーの行動能力自体は仕様どおりなので、その恐怖ポイントがまるまるごっそりなくなっているんですね。
また、アンディの年齢がオリジナル版では6歳くらいと幼かったのに、リブート版では10代前半に変更されているのも怖さの色を変えてしまっています。結局、振り返ると、オリジナル版はいわゆる「子どもホラー」でした(これは子ども向けホラーという意味ではなく、“子どもが怖い”ホラー)。6歳ぐらいだと絶妙に信じていいのか悪いのかわからない年齢で、そこが逆に大人にとっては不気味。その6歳の子が、自分とはまた別次元の“幼い子ども”的なチャッキーに恐怖を感じるという、二重構造になっているのがオリジナル版の特徴だったと思います。
ところがオリジナル版ではその要素は綺麗さっぱり無く、どちらかといえば「ジュブナイル」にリニューアルしていました。完全に『IT イット “それ”が見えたら、終わり。』と同じですね。ここも好みが分かれます。
個人的な好みで言うなら、あとはチャッキーの倒し方も工夫が欲しかったな、と。せっかくハイテクなのだから、こちらもハイテクでやり返すという、カタルシスとかあっても良かったかも。私は『チャイルド・プレイ2』のあの“オモチャであること”を露悪的に最悪のカタチで見せるチャッキーの倒し方が、結構好きなので、あれくらいのインパクトは欲しかった…。
続編、作るのかなぁ。ここまでハイテクだと、単純な視覚的なパワーアップに走りがちだから心配ですけど。空を飛んだり、腕から火炎放射を発したりしてもね…。もしくは未来からやってきたチャッキーの脅威から生き残るために、今のチャッキーとアンディが協力するとか…(あれ、どこかで)。
本作を観て学んだことは、“AIにホラー映画は見せてはいけない”ということです。
「OK, Google. ホラー映画のデータを全部削除して。Siriもホラー映画は禁止だ。え、『ターミネーター』が見たいって? 絶対にダメだ」
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 63% Audience 58%
IMDb
6.3 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 6/10 ★★★★★★
作品ポスター・画像 (C)2019 Orion Releasing LLC. All Rights Reserved. CHILD’S PLAY is a trademark of Orion Pictures Corporation. All Rights Reserved.
以上、『チャイルド・プレイ』の感想でした。
Child’s Play (2019) [Japanese Review] 『チャイルド・プレイ』考察・評価レビュー