視聴者は記憶喪失ではありません…ドラマシリーズ『シタデル』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2023年)
シーズン1:2023年にAmazonで配信
原案:デヴィッド・ワイル ほか
性描写 恋愛描写
シタデル
したでる
『シタデル』あらすじ
『シタデル』感想(ネタバレなし)
スパイバース…!?
各社が一斉に動画配信サービスを展開することによって勃発した「動画配信サービス競争」の時代は、早くも潮目を迎えたようです。もともとマネタイズしづらいとされてきた動画配信サービスというビジネスですが、損失を穴埋めするべく、シリーズのキャンセルどころか、作品自体をサービス内から除去する事例も目立ってきました。
これまでは兎にも角にもコンテンツを増やせと言わんばかりに作品を量産してきましたが、これからはより売れる作品を中心に特化した制作に移行するのではないかと思われます。有名な俳優がでる作品、有名なクリエイターが作る作品、ネームバリューのある作品…そういうものに集中投資するということです。
そんな2週目へと突入した「動画配信サービス競争」において「Amazonプライムビデオ」を擁する「Amazon」はこのランナーを巨大フランチャイズとして育成して新しく攻めていく作戦のようです。
それが本作『シタデル』。
まずこの『シタデル』、どんな内容の作品なのかと言うと、早い話がスパイ・アクション・サスペンス。『007』と『ボーン・アイデンティティー』を合わせたような、世界中を駆け巡る壮大な物語になっています。スパイ組織があって、スパイグッズもあって、陰謀あり、ロマンスあり…そんなワールドワイドなジャンルなのですぐに想像はつくと思います。
ただ、他のスパイ作品との決定的な違いは、そのフランチャイズ展開の規模で、本作はこのシリーズ一筋ではなく、続編はもちろん、スピンオフもすでに多数展開されることが決定済みで、全ての作品が世界観を共有します。公式では「スパイバース(The Citadel Spyverse)」と呼ぶようです。
『007』シリーズは製作元が絶対にスピンオフはやらないと断言していますから、この『シタデル』が先んじてスパイ・ジャンルで「マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)」みたいなことをやってやる!ってことなんでしょうね。
ということでこの『シタデル』、もう始動時点でめちゃくちゃおカネもかかっており、失敗できない感じになっています。まあ、たぶん多少の評判低めでもゴリ押ししてシリーズは突っ走るでしょうけどね。もう止められません。
『シタデル』は原作無しのオリジナル作品で、よくそんなチャレンジにGOサインをだしたなと思いますけど、それはやっぱりこのクリエイターが中心で率いるからでしょう。その人とは“アンソニー・ルッソ”と“ジョー・ルッソ”の“ルッソ兄弟”です。
『アベンジャーズ インフィニティ・ウォー』『アベンジャーズ エンドゲーム』のハリウッド史に残る巨大な挑戦を成功させてMCUを有終の美で去った“ルッソ兄弟”は、その後に「AGBO」という自分のスタジオを設立し、精力的に映画を連発。『21ブリッジ』などの製作から、『タイラー・レイク 命の奪還』では脚本、『チェリー』では監督もしました。
それでもやはりアクション・サスペンスが好きなようで『グレイマン』のような大作も生み出しています。
『シタデル』はついに“ルッソ兄弟”自らがオリジナルでユニバース作品群を手がけ始めたんですね。気合入ってます。
俳優陣は、『エターナルズ』の“リチャード・マッデン”、『ザ・ホワイトタイガー』の“プリヤンカー・チョープラー”、『スーパーノヴァ』の“スタンリー・トゥッチ”、『ミセス・ハリス、パリへ行く』の“レスリー・マンヴィル”、『ザ・ゴールドフィンチ』の“アシュリー・カミングス”など。
とにかく超大作のスパイ・シリーズなので「Amazonプライムビデオ」で独占配信とは言え、大きい画面で鑑賞するのがオススメです。小さい映像にするのはもったいないです。
『シタデル』のシーズン1は全6話。1話あたり約40分です。
『シタデル』を観る前のQ&A
オススメ度のチェック
ひとり | :ジャンル好きなら |
友人 | :気軽なエンタメ |
恋人 | :趣味が合うなら |
キッズ | :大人なベッドシーンあり |
『シタデル』感想(ネタバレあり)
あらすじ(序盤):あなたは凄腕スパイです
イタリア、アルプス山脈。豪華な列車が山間部を走ります。その車両の中、赤いドレスのナディアがバーナードに密かに通信し、ターゲットを確認したと報告します。濃縮ウランを運んでいるとされるその標的を逃がすわけにはいきません。
そこにイタリア語を喋るひとりの男が現れ、そのメイソンとナディアはいろいろな国の言語で相手を試すように会話します。牽制し合っていると、標的に気づかれそうだったので、怪しまれないように2人でキスしてその場を切り抜けます。
ナディアは先に行き、ベージュの服の男がそれを追い、メイソンは後ろから追いかけ、トイレで交戦します。一方の食堂車でナディアはグレゴール・ヨヴァノビッチに接触。
ナディアは談笑するふりをして股間に銃を突きつけ、「何者だ? MI6か? CIAか?」と聞かれるも、相手はすぐに「シタデルか?」と察して驚きます。
「鞄を渡して」と静かに要求するとグレゴールはナディアの名を言い当て、ここにウランはなく偽情報を流したと語りだします。そして仲間が殺されている映像を見せられ、グレゴールは自分の腕の模様を見せつけました。罠です。車両にグレゴールの仲間がおり、制圧されます。
「我々は世界からシタデルを一掃する瞬間を待っていた」
メイソンが乱入して乱戦状態になり、2人は傷だらけになりながら絶体絶命を痛感。
瀕死のグレゴールは「マンティコアからは逃げることはできない」と言って自爆。列車は線路を外れてクラッシュしてしまい…。
イタリアのベラジオ。メイソンは治療室のベッドの上で目覚めます。列車爆発の後に湖畔で発見されたそうで、記憶喪失になっており、名前もわかりません。カイル・コンロイという名のパスポートがあり、アメリカ領事館にはそれ以外の記録は何もなく…。
8年後。オレゴン州ユージーン。カイルは妻アビゲイル(アビー)と子どものヘンドリックスと穏やかに暮らしていました。
最近はセラピーをまた受け始め、自分をもっと知りたいと思うようになっていました。発見されていたときに結婚指輪をしていたこと、女性の姿もフラッシュバックすること。これが気がかりで、彼女が誰かわかれば自分が何者かもわかる気がしており、医師に薦められてDNA検査をします。
バージニア州では、マンティコアを率いるダリア・アーチャーがCIA長官ハロルドにシタデルXケースについて尋ねていました。ダヴィック&アンダースのシルエ双子に連絡し、ケースを回収するように命じます。
一方、バーナードはメイソン発見の通知を受け取り、その場所に直行。カイル一家を車に強制的に乗せ、隠れ家に連れてきます。バーナードは元妻ジョーとその元妻の今の妻のサンドラと一緒。ヘンドリックスはバーナードの娘ヴァルと共にいるそうで安全だと言い、「我々は旧友だ、久しぶりメイソン」と語りかけてきます。
自分がスパイだと知って驚愕するカイル。8年前に裏切り者によってシタデルは壊滅。その引き金をひいたのがマンティコアという世界の8大富豪によって作られた組織で、核兵器コードと秘密情報満載のXケースを狙っているそうです。
そしてもうひとつ、重大な情報を教えてくれます。相棒がいたこと。その名はナディア・シン。
しかし、誰も知らない中、ナディアも実は生き残っており…。
シーズン1:どこかで見たことあるような…
ここから『シタデル』のネタバレありの感想本文です。
『シタデル』は「シタデル」と「マンティコア」という特定の国の諜報機関でもない、完全に世界規模の架空組織を舞台にしているので、自由度が広いです。世界観光的なスパイ・ジャンルにとってしてみればうってつけであり、いろいろな各国のスパイ・エージェントも出し放題ですし、こんな拡張しやすい設定もないでしょう。本作はこの自由さを思う存分に利用しています。
2つの組織の全容はよくわからず、「シタデル」に関してはかなりのエージェントを抱えていて、ティア1といった階級制があるようで、作中ではグレイス・ヘルフゴットという人物がディレクターとして指示をだしていました。バーナード・オリックは技術担当のようです。
ここでバーナードの開発したある技術が本作の仕掛けの根幹にして、最大の問題点になります。
それが「バックストップ」という技術。どういう原理かさっぱり不明ですが、エージェントの記憶を遠隔で消去し、しかも血清注射のようなもので可逆的にまた記憶を戻せるという代物。バイオハッキングプロセスだかなんだか言ってた気もするけど、よくわかりません。
『ボーン・アイデンティティー』じゃないか!って作中でもセルフツッコミしてるんですけど、これ、完全にMCUの「ウィンターソルジャー」のパクリでは…。
メイソン・ケインとナディア・シンだけでなく、いろいろなエージェントが記憶を好き勝手に消去され、駒に使われているというわけで、そのやけに壮大な設定の広げ方含めて『キャプテン・アメリカ ウィンター・ソルジャー』や『シビル・ウォー キャプテン・アメリカ』での既視感が濃すぎる…。いいのか、やっちまってないか、“ルッソ兄弟”…。
しかも、『シタデル』はこの記憶喪失が本当に都合よく使われまくります。以前から私も記憶喪失はかなり便利すぎるのでほどほどに採用しないとダメだと思ってるんですが、本作は遠慮なしなんですよ。
だから全体的にずっと後出しじゃんけんを延々と見せられている感じで、あまりスリルに浸っている余韻も無いのはちょっとどうかなと思います。
アメコミ映画だったらまだもともとが荒唐無稽な世界観なので、ある程度の記憶喪失もリアリティラインとして許容できるにしても、『シタデル』は一応は現代的なスパイアクションですからね。
うん、まあ、でも『ワイルド・スピード』シリーズとかなら、記憶喪失くらいいくらでも導入しそうだけど、あれはアメコミ映画よりももっとリアリティゼロな一品だから…。
シーズン1:セルフ・ネタバレに落ち込む男
ここからは『シタデル』の本格的なネタバレをしていきますけど、後出しじゃんけん的な衝撃の事実の提示がシーズン1では連発されていきます。
「ナディアは生きていた!(それはさすがにわかる)」に始まり、「メイソン(カイル)の妻のアビーの本名はセレステというシタデル・スパイでブリエルという名で潜入していた!」「セレステの記憶消去を実行したのはメイソンだった!」「メイソンはナディアにプロポーズしていた!」「ナディアは裏切り者の疑いがあった!」「ナディアの父はテロリストのラヒ・ガンビールだった!」「ナディアは妊娠して極秘出産していた!」と続き…。
最終話では「メイソンこそが裏切り者だった!」「マンティコア幹部のダリアはメイソンの母だった!」「メイソンの父はシタデルの誤爆で死亡し、隠蔽された!」と、特大級の驚愕の事実が明らかになり、シーズン1は終了します。
自分で自分の記憶を戻したことで一気にセルフ・ネタバレを食らって意気消沈するメイソン…。不意のネタバレは辛いよな…。
ただ、このメイソン、記憶喪失云々はさておき、ちょっとアホなんじゃないかと思う場面が散見されるのが気になります。
個人的に一番の「オイオイ!」と言いたくなる点は、ナディアが妊娠していたと知って動揺するメイソン。正直、スパイの世界でこういう「意図しない妊娠が起きてしまう」みたいなミス、本来は絶対にダメだと思うのですけど、フィクションのジャンルではいまだに生じがちで…。「一流スパイなのに避妊知らないの!?」と思うし、もういい加減、男性のスパイが妊娠の分野に関して男子中学生程度のリテラシーしかないのは止めた方がいいのではないかと…。
また、話運びもサプライズな衝撃事実発覚を踏み台にしすぎるあまり、かなり急ぎ足な感じで、各パートのスリルをじっくり味わっている暇もなく、それが余計にメイソンがプロフェッショナルのわりにはおっちょこちょいに見えてしまうというマイナス効果を生んでいる気がする…。
『007』くらいの愛嬌にまで確立できていればいいのですけど、そういう完成度には到達していないんですよね。
あと、この『シタデル』、まだシーズン1とは言え、キャラクター構築においてファンダムを盛り上げる要素に欠けるのも気になります。やっぱりこういうフランチャイズが人気持続する秘訣はファンダムを育めるかにあると思うのです。『キャプテン・アメリカ』シリーズだって、キャップとファルコンとか、キャップとバッキーとか、そういうファンの心を掴む男同士の組み合わせがあったりしたじゃないですか。『シタデル』はそういうの生み出せるのかな…。
シェアード・ユニバース大失敗の新たな事例にならないことを祈る…。
「スパイバース」として次は『シタデル:ディアナ』に続くと予告がでていましたが、雰囲気はガラっと変えてもいいのかなと思ったりしました。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 54% Audience 64%
IMDb
6.1 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
作品ポスター・画像 (C)Amazon
以上、『シタデル』の感想でした。
Citadel (2023) [Japanese Review] 『シタデル』考察・評価レビュー