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ドラマ『ザ・クラウン The Crown』感想(ネタバレ)…英国王室の観察シーズンです

ザ・クラウン

英国王室の観察シーズンです…ドラマシリーズ『ザ・クラウン』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:The Crown
製作国:イギリス・アメリカ(2016年~)
シーズン1:2016年にNetflixで配信
シーズン2:2017年にNetflixで配信
シーズン3:2019年にNetflixで配信
シーズン4:2020年にNetflixで配信
原案:ピーター・モーガン
性描写 恋愛描写

ザ・クラウン

ざくらうん
ザ・クラウン

『ザ・クラウン』あらすじ

イギリスの君主として唯一無二の立場に君臨するエリザベス2世。彼女の暮らす英国王室は常にイギリスの歴史とともにあり、その激動の瞬間を目撃し、さらにはその渦中に佇むこともあった。それでも不動の存在としてその権威が揺らぐことはない。庶民には決して覗くことができない、様々な人間模様が渦巻くこの世界の内側では何が起こってきたのか。

『ザ・クラウン』感想(ネタバレなし)

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英国王室モノの話題沸騰なドラマ

詮索好きなのか、好奇心なのか、私たちは他人の家族模様を覗きたくなることもあります。とくに最も興味をひかれる究極の家族…それは「王族」です。

家族と言っても庶民とはかけ離れたものだと推察しながらも、実際はどんな生活を送っているんだろう…と空想するしかできない。凡人には高嶺の花、遠い雲の上の世界。

その中でもことさら歴史があり、世界的に有名なのが「英国王室」です。いまだにその権威が衰えることなく、君主制を維持しているのはそれだけの存在感だという証左。

英国王室を描く映像作品も当然のごとく大人気で、『ふたりの女王 メアリーとエリザベス』(2018年)や『女王陛下のお気に入り』(2018年)など直近も多数がお披露目されています。

その英国王室モノの作品群においてひときわ話題騒然となった最近のセンセーショナルなドラマシリーズがありました。それが本作『ザ・クラウン』です。

この『ザ・クラウン』がなぜ注目されるかと言えば、現在(2021年2月時点)でイギリスの君主である「エリザベス2世」の人生を描いているからです。つまり、現在進行形に繋がっていく物語なわけです。これまでの英国王室モノのように「過去の歴史」と割り切れるものではありません。シーズン1ではエリザベス2世として女王に即位し始めた前後(1947年~)を描き、そこからシーズンが進むごとに年代が経過していきます。となってくると「え、こんなことまで描いちゃうの?」「まだ存命の人の話だけど、そこに踏み込むの?」と視聴者はまんまと夢中になってしまうことに…。

もちろん完全に史実どおりではないです。脚色も大いにしているでしょう。しかし、題材は実話なので、単純にまず英国王室の歴史的変遷と出来事が知れて面白いです。英国王室に詳しくない人でもここからどっぷり浸かれます。

原案・脚本の“ピーター・モーガン”は、『クィーン』『ラストキング・オブ・スコットランド』『ブーリン家の姉妹』『フロスト×ニクソン』などの脚本をこれまで手がけてきた、王族や政治を描くならお手の物なベテラン。

そして豪華な世界観と俳優陣のコラボレーションがとにかく見どころ。本作はNetflix配信のオリジナルドラマシリーズですが、2016年のシーズン1当時は破格の予算が投入された超大作としても話題でした。

登場人物はとにかく多いので相関図を描くのも大変なのですが、主軸はひとりだけ。それはもちろんエリザベス2世です。ただし、若い時から中年期へと年月をまたいで描いていくこともあって、ひとつのキャラを年齢ごとに複数の俳優が演じています

主人公のエリザベス2世を演じるのは、若い時代は“クレア・フォイ”(代表作:『ファースト・マン』『蜘蛛の巣を払う女』)、中年期は“オリヴィア・コールマン”(代表作:『女王陛下のお気に入り』)。そのエリザベス2世の夫であるエディンバラ公フィリップを演じるのは、若い時代は“マット・スミス”(代表作:『オフィシャル・シークレット』)、中年期は“トビアス・メンジーズ”(代表作:ドラマ『アウトランダー』)。

またエリザベス2世の妹であるマーガレットを演じるのは、若い時代は“ヴァネッサ・カービー”(代表作:『私というパズル』)、中年期は“ヘレナ・ボナム=カーター”(『英国王のスピーチ』ではジョージ6世の王妃エリザベス・ボーズ=ライアン、つまりエリザベス2世の母を演じてました。混乱する…)。エリザベス2世の長男にして王位継承順位第1位のチャールズ皇太子を演じるのは“ジョシュ・オコーナー”(代表作:『ゴッズ・オウン・カントリー』)。

そしてそのチャールズ皇太子と一時は結婚するも悲劇的な運命をたどるダイアナ妃を演じるのは、若い時代は“エマ・コリン”。今作で一気に人気がブレイクしました。そのダイアナ妃と因縁のライバル関係となるカミラ・シャンドを演じるのは、『Promising Young Woman』で監督としても高く評価されている“エメラルド・フェンネル”

まだ終わりじゃありません。王室と政治は密接。大物政治家も出てきます。首相もいっぱい。ウィンストン・チャーチルを演じるのは“ジョン・リスゴー”(代表作:『スキャンダル』)、アンソニー・イーデンを演じるのは“ジェレミー・ノーサム”(代表作:『奇蹟がくれた数式』)、マーガレット・サッチャーを演じるのは“ジリアン・アンダーソン”(代表作:ドラマ『セックス・エデュケーション』)。

他にも挙げきれない山ほどの登場人物。Wikipediaで確認してください!(丸投げ)

テーマ音楽は“ハンス・ジマー”が手がけていていつもな感じですが、作中ではクラシックな名曲も多数引用されていて王室らしい威厳に満ちています。“マックス・リヒター”によるヴィヴァルディの名曲「四季」のRecomposedバージョンを使用したり、随所で音楽も物語を盛り上げます。

英国王室をただむやみやたらに褒めたたえる作品でもありません。王室内にも王室に批判的な考えの人もいますし、王室を公然と非難する政治家や庶民も出てきますし、中には暴力が向けられることも…。『ザ・クラウン』は英国王室と政治・社会・大衆文化の関係を映し出すジャーナリズムなアプローチも持ち合わせています

かなり長いシーズンで完全鑑賞するのは大変ですが、それだけの価値のある骨太な作品ですのでぜひどうぞ。

オススメ度のチェック

ひとり ◎(知識がなくても大丈夫)
友人 ◎(英国王室好きで語り合うのも)
恋人 ◎(ロマンス要素もたっぷり)
キッズ ◯(小さい子にはやや難しい)
↓ここからネタバレが含まれます↓

『ザ・クラウン』感想(ネタバレあり)

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シーズン1:vsチャーチル

1947年、バッキンガム宮殿。エリザベスフィリップは婚約を決めました。ギリシャ及びデンマーク王子フィリップは国籍を放棄し、イギリス海軍フィリップ・マウントバッテン大尉に肩書が変わります。イギリスで最も高貴なガーター勲章を現国王のジョージ6世から授与され、イギリス王族に帰属することになったフィリップ。「自分を放棄したんだ、やり直せない」と言う夫に、エリザベスは「世界一の宝を手に入れた」とキスします。

婚礼の儀。外は大観衆。現首相のクレメント・アトリー(労働党)が入ってきたときは誰も立たなかったが大戦時の首相ウィンストン・チャーチルが来たときはひときわ外で歓声があがり、教会でも全員が起立。「いまだ自分がイギリスの父だと思っている」と王室関係者は陰口。

「私、フィリップは、汝、エリザベス・アレクサンドラ・メアリーを妻とします」と永遠の愛を誓い、「愛し、慈しみ、従います」とエリザベス王女も宣言。表向きは華やかな祝いの空気ですが、その裏では「この結婚を支持している者は宮廷にも政府にもいない」と不満・不平が漂っていました。

1951年。マルタ、ボートレースに参加した夫妻。仲睦まじい姿で子ども(チャールズアン)と楽しく過ごしていました。そこに電話。ジョージ6世は癌で肺を一部摘出する手術をするも弱りきっていました。それを狡猾に察知したチャーチルは2度目の首相就任で「今、この国に求められているのは何年も続く、強く揺るぎのない経験豊富な内閣なのです」と語り、王室に並ぶ権力を再び誇示してきます。

王の座を交代するときは近づき、父の椅子に座ってみるエリザベス。国王崩御の瞬間とともに、彼女の人生は揺らぐことも許されない1本道に突き進むことに…。

シーズン1はエリザベス2世の即位を描き、新たな女王の誕生を語る序章です。しかし、名目上は女王にサクッとなれますが、名実ともに君主として成り立つのは簡単ではありません。

エリザベス2世の前に立ちはだかる最大の相手。それがチャーチル。「まだ経験の浅い若い女性vs熟練の老齢男性」というかなり不利な構図に挑むことに。

個人的にはシーズン1でお気に入りのエピソードは第4話。ロンドンスモッグの話です。濃霧で機能マヒするロンドンを放置するチャーチルに対して、エリザベス2世は苦言を言うか迷いますが、結局チャーチルの土壇場の底知れぬ凄さを見せつけられて圧倒されることになります。この屈辱が後の老いたチャーチルへの形勢逆転に繋がるまでのカタルシスの起点になり、非常に上手いストーリー構成でした。

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シーズン2:vs夫

シーズン2は私なりに簡潔に言ってしまえば「夫」との向き合い方の物語だったように思います。

エリザベス2世の夫であるフィリップは由緒あるイギリス王族の人間ではありません。ギリシャおよびデンマーク、ノルウェーの王家であるグリュックスブルク家の出身であり、4人の姉はドイツ人と結婚したため、ナチスとも関与することに。フィリップは両親とともに亡命しますが、父は家を放棄し、母は精神を病み、子ども時代から孤立。ゴードンストウンというユダヤ系ドイツ人が設立したスコットランド北部の名門寄宿学校で過ごすも、姉たちが航空機事故で死亡。

そんな不幸のどん底にあったフィリップが手にした平穏な生活がエリザベス2世の夫というポジションです。しかし、海軍の仕事だけでも満足しきれず、キャリアに飢えるフィリップはその鬱憤を晴らすように飛行機を飛ばし、そして不倫に流れ、あげくに20世紀最大の英政界スキャンダルと言われるプロヒューモ事件への関与まで疑われる事態に。

それでもエリザベス2世は「離婚という出口は選べない」として関係を固持。これはもはや自由恋愛ではないんですね。

夫と向き合い方に悩むのはエリザベス2世だけではありません。妹のマーガレットは、平民の写真家であったアンソニーと交際していきます。マーガレットはマーガレットで結婚が全然認められず、夫を持つという普通が欲しかったのでしょう。ところがそのアンソニーに同性愛疑惑(作中ではどことなくポリアモリーな感じにも見える)が持ち上がったり、どうも一心同体とはいかず…。

要するに女王とは言え、本質的には男に振り回される男社会で生きている。その現実を誰よりも痛感するのは王室の女性たちでした。

そんな中で、私のシーズン2のお気に入りエピソードは第5話。自動車工場を訪問した際のスピーチの内容のせいでオルトリナム卿にこっぴどくこきおろされ、そこで直接面会して、王室の改善を促されるという展開。神聖な王権や権威が大衆化で消えることを危惧しつつも、実はその平等を誰よりも欲していたのは王室の女性たちなのではないかという捻り。

また、美人と評判のケネディ大統領夫人(ジャクリーン)のカリスマ性にやや嫉妬しつつも、彼女が夫の添え物として生きざるを得ない苦悩、そして最悪の悲劇(ケネディ暗殺)を目の当たりにして、エリザベス2世の中には夫の必要性を実感していくくだり。

最終的にエリザベス2世はフィリップとの運命共同体を確認し合います。これを誠実と言うのか、歪と言うのかはあれですけどね…。

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シーズン3:vs中年

シーズン3になって多くの登場人物は中年期に突入。エリザベス2世も俳優が変わり、その変化を映すメタっぽい冒頭があったりしますが、このシーズンの主題もまさに「加齢とは上手く付き合うしかない」という現実の問題でした。

もちろん中年になることは悪いことばかりではないです。これまでずっと年上の男性首相を相手にしてきましたが、今回はハロルド・ウィルソン率いる労働党が政権をとり、そのウィルソンと対面。これまでの歴代の首相は椅子に座らなかったのにあっさり座ったり、このウィルソン、とにかく拍子抜けするほど弱そうなのですが、これもエリザベス2世に貫禄がついたゆえか。

その一方でエリザベス2世は自分はいかに大衆に寄るべきかで悩みます。第3話の「アベルヴァンの惨事」と呼ばれることになる南ウェールズのボタ山崩落事故では、144名の死亡という痛ましい悲劇に対して涙を流すかの葛藤。第4話ではBBCによる王室密着ドキュメンタリーを撮るもどうも空回り。ウィルソンすらも「民衆は普通の王室を望んでいません」と言ってきます。

そのエリザベス2世に対して、真逆とも言えるのがフィリップの母であるアリス。統合失調症で療養所に強制され、そこで劣悪な治療とは名ばかりの拷問を受け、それでも献身的な姿勢で修道女として尽くす。そのアリスをガーディアン紙のアームストロングは「王室の聖人」と評価。

エリザベス2世にとっては感情を打ち明けられる対等な存在はマーガレットくらいしかいません。薬を大量服用し、自殺未遂を図ったマーガレットに「あなたは私の大事な存在なの」と言葉をかけるのも当然でしょうか。

また、フィリップも中年問題に直面します。私にシーズン3のお気に入りエピソードは第7話。月面着陸に成功した宇宙飛行士たちを称賛するも、実は「超人ではなかった、風邪をひいたただの3人の男」と対面してガッカリ。ウッズ司祭のセントジョージハウスにおいて開かれる男たちの集まりに敬意を払い、「助けてくれ。どんなロケットに乗るよりもここに来るほうが怖かった」と弱さを吐露する。彼が若い時はホモソーシャル全開な世界で生きてきたのと正反対の結果にたどり着く。こういう物語を王族の男でも描くというのは大切なことかなと思います。

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シーズン4:vs新しい女性たち

シーズン4は王室に新しい時代を示すような女性の風が吹きます。

ひとりはイギリス初の女性首相であるマーガレット・サッチャー。保守的かつ強硬なその政治姿勢から「鉄の女」という異名を持ち、最初はエリザベス2世とも明らかに反目する部分が目立ちます。スコットランドのバルモラル城での王室の休暇に招かれた際は完全に浮いてしまったサッチャーも「根底から変える必要がある」と決意するほどに(それにしても鹿狩りに無我夢中すぎてあのロイヤルファミリーがすごくアホっぽく見えるのが面白い)。

しかし、最終的にはサッチャーとエリザベス2世の間に共通点を見い出し、在任11年で最大の危機に陥って辞任した悔しさを抱えるサッチャーに会って、エリザベス2世はメリット勲章を与えます。あそこは中年女性のささやかな連帯という感じで良いシーンでしたね。

そしてもうひとりがもちろんダイアナ・スペンサーです。類まれなる天性の愛嬌によってバルモラル・テストで圧倒的勝利をおさめた彼女。幼稚園のパートで働き、掃除婦でしかなかった18歳の小娘が、王室に認められ、求婚を受けるという、典型的なプリンセスストーリー。ところが…。

ここは私たちは彼女の顛末を知っているので余計に重苦しい気持ちで鑑賞することになるのですが、それでも辛いですよね。「摂食障害のシーンがあります」と冒頭で注意文が出るたびに「ああ、今回もダイアナ不幸回か…」と憂鬱になります…。あんな絶望的なウェディングドレス姿、ありますか?

このシーズンでダイアナを演じる“エマ・コリン”がまた幼い顔立ちでなりきっているので残酷さがなおさら際立っています。これはもうチャールズの評判ダダ下がりですわ…。

王室では必要ない人間、とくに女は容赦なく切り捨てられるという厳しい非情な現実は、マーガレットの母方の従姉妹のエピソードでも提示されるとおり。ダイアナの場合はもはや天真爛漫さすらも王室に都合のいいキャンペーンガールでしかない。

女王の君主制がその他の女性を踏みにじっていく酷薄というものが最も強調されたシーズンでした。その中でもマイケル・フェイガン宮殿侵入事件のように庶民がバシッと訴えるエピソードも入れたりしつつ、いろいろ揺るがされるシーズンだったのではないかな、と。

シーズン5、シーズン6と続く予定ですが、これはますます王室激震の予感ですね。

あと日本版『ザ・クラウン』も作ってほしいなぁ…。本作にも天皇がちょこっと出てきたけど、日本も稀有な象徴的ながらも君主制の残る国。しかもこの2020年代になっても天皇を直球で描くことが許されていない世間の空気。その意味を問う創作の試みを最も必要としている国でしょうから。

『ザ・クラウン』
ROTTEN TOMATOES
S1: Tomatometer 88% Audience 94%
S2: Tomatometer 89% Audience 94%
S3: Tomatometer 90% Audience 82%
S4: Tomatometer 97% Audience 85%
IMDb
8.7 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
8.0

作品ポスター・画像 (C)Netflix

以上、『ザ・クラウン』の感想でした。

The Crown (2016) [Japanese Review] 『ザ・クラウン』考察・評価レビュー