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ドラマ『ジ・オファー ゴッドファーザーに賭けた男』感想(ネタバレ)…どこまでが実話?

ジ・オファー ゴッドファーザーに賭けた男

どこまでが実話?…ドラマシリーズ『ジ・オファー ゴッドファーザーに賭けた男』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:The Offer
製作国:アメリカ(2022年)
シーズン1:2022年にU-NEXTで配信(日本)
原案:マイケル・トルキン
恋愛描写

ジ・オファー ゴッドファーザーに賭けた男

じおふぁー ごっどふぁーざーにかけたおとこ
ジ・オファー ゴッドファーザーに賭けた男

『ジ・オファー ゴッドファーザーに賭けた男』あらすじ

映画製作の夢を抱え、パラマウント・ピクチャーズに入社したアル・ラディは、凄腕プロデューサーのロバート・エヴァンスから、マフィア一家の男の半生を描いたベストセラー小説「ゴッドファーザー」の映画化を任される。しかし、低予算でヒット映画を作れというスタジオからの無茶振りと、脚本の内容にこだわる監督たちの意志の間で製作は難航。さらに、映画製作に反対する実際のマフィア集団から狙われるハメになり…。

『ジ・オファー ゴッドファーザーに賭けた男』感想(ネタバレなし)

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『ゴッドファーザー』の舞台裏をドラマに!

みんなそれぞれのお気に入りのナンバーワン映画があるものです。それは当然です。でも多くの大規模で著名な映画ランキングにおいて、常に上位に名を連ね、まるで「映画の中の映画」と言わんばかりに何年経っても不動でその座を保持している…そんな伝説的な映画もあります。

その一本と言えば、間違いなく『ゴッドファーザー』でしょう。

1972年に公開されたこのアメリカ映画は…なんというべきか…世の中を圧倒させました。映画の在り方を一変させたと言っても過言ではないと思います。その偉大さはここでは語り尽くせないのですが、とにかく『ゴッドファーザー』は映画史に刻まれ、今も愛され続けています。

ではこのイタリア系マフィア「コルレオーネ・ファミリー」の壮大な家族物語を描き出した映画『ゴッドファーザー』はどうやって生まれたのか。この映画の製作裏話は作品が有名なだけにあれこれと伝承のように語り継がれているものも多々あるのですが、その『ゴッドファーザー』誕生譚を描いたドラマシリーズが、なんと『ゴッドファーザー』生誕50周年の記念すべき2022年に登場しました

それが本作『ジ・オファー ゴッドファーザーに賭けた男』です。

ドラマ『ジ・オファー ゴッドファーザーに賭けた男』は、映画『ゴッドファーザー』の製作プロデューサーであるアルバート・S・ラディを主人公に、その映画製作の始まりから完成までの紆余曲折の道のりを全10話のドラマチックな物語としてまとめた作品です。当然、監督のフランシス・フォード・コッポラ、原作・脚本のマリオ・プーゾ、パラマウントの重役たち、俳優のマーロン・ブランドアル・パチーノなどなど、実在の人物がバンバン登場します。『ゴッドファーザー』のあんな裏側、こんな裏側…あれやこれやが繰り広げられるので、映画ファンなら毎話全てで大歓喜ですよ。馬の首とか、映画好きほどわかる小ネタが無数にあります。

ただ、本作を史実に忠実な伝記ドラマだとは思わない方がいいです。というのも相当に盛っています。ドキュメンタリー的に実際に起きたことを正確に再現して描いているわけではなく、あくまで『ゴッドファーザー』の舞台裏という史実を素材にして大胆にアレンジも加えつつ、みんなが楽しめるエンターテインメントに作り変えている…そう考えてこのドラマと向き合った方が変に誤解もせずに済むでしょう。

むしろ「え? これは本当に起きたこと? それともフィクション?」とツッコみながらわいわいと楽しめばいいのではないでしょうか。虚実を混ぜ合わせてわからなくする…それもまた映画の醍醐味であり、まさにこの『ゴッドファーザー』がやってみせたことでもありますからね。

マフィア映画を作る傍らで、本物のマフィアの抗争にも巻きこまれていったりして、単なる舞台裏モノというだけではない、別のサスペンスもあったりします。

ドラマ『ジ・オファー ゴッドファーザーに賭けた男』の製作にはパラマウントは関わっていますけど、『ゴッドファーザー』の製作陣は関与していません。ドラマを手がけたのは、原案はハリウッドの映画製作の内幕を上手く物語に仕上げて好評を博した『ザ・プレイヤー』の脚本でおなじみの“マイケル・トルキン”。そしてエピソード監督は『ロケットマン』の“デクスター・フレッチャー”、ドラマ『メディア王 ~華麗なる一族~』の“アダム・アーキン”、ドラマ『THE GREAT ~エカチェリーナの時々真実の物語~』の“コリン・バックシー”、ドラマ『POSE ポーズ』の“グウィネス・ホーダー=ペイトン”

気になる俳優陣ですが、主人公のアルバート・S・ラディを演じるのは『トップガン マーヴェリック』にてキャリアも絶好頂の“マイルズ・テラー”

また、パラマウントの名プロデューサーであるロバート・エヴァンズを演じるのは『キングスマン ファースト・エージェント』の“マシュー・グッド”で、経営的なトップのチャールズ・ブルートーンを演じるのは『パシフィック・リム』の“バーン・ゴーマン”。フランシス・フォード・コッポラを熱演するのは『ファンタスティック・ビースト』シリーズですっかり知名度もあがった“ダン・フォグラー”です。

アル・パチーノを演じるのは“アンソニー・イッポリト”という若手で結構頑張って似せてます。マーロン・ブランドを演じるのは『グレイズ・アナトミー 恋の解剖学』の“ジャスティン・チェンバース”です。他にもドラマ『テッド・ラッソ 破天荒コーチがゆく』でも印象的な“ジュノー・テンプル”も活躍。

映画好きの人のために捧げる“映画愛”賛歌のドラマになっているのでぜひどうぞ。『ジ・オファー ゴッドファーザーに賭けた男』は日本では「U-NEXT」で独占配信中です。

オススメ度のチェック

ひとり 4.0:映画ファンこそ満喫できる
友人 3.5:シネフィル同士で盛り上がる
恋人 3.5:ロマンスは薄め
キッズ 3.5:映画業界に興味あるなら
↓ここからネタバレが含まれます↓

『ジ・オファー ゴッドファーザーに賭けた男』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(序盤):この映画を作れ!

1969年、ニューヨーク市のリトル・イタリー。地元の住人から愛されるジョゼフ(ジョー)・コロンボ「情けをみせるとファミリーから舐められるぞ」と言われ、「席につきたければ自分で奪え」とマフィアの覚悟を問われます。

その頃、パラマウント・ピクチャーズでは『ターザンの大逆襲』の試写を見て気分が荒れているプロデューサーのロバート・エヴァンスがスタジオ側のいつものゴネに対処していました。『ローズマリーの赤ちゃん』は批評的に良かったですが、バリー・ラピダスからヒット作を生み出せと言われます。

また、別の場所。作家のマリオ・プーゾはサイン会に人が全く来ずガッカリ。「マフィアの話でも書けば?」と言われ、マフィアの家族の話のアイディアを思いつきます。タイトルは「ゴッドファーザー」

さらに別の場所。ランド研究所で退屈そうに仕事していたアルバート(アル)・ラディは友人にシャトー・マーモントというホテルに連れて行かれ、そこでパラマウントのエヴァンスを見かけます。映画の仕事もいいかもしれない…。ラディはホテルのオーナーのフランソワーズ・グレイザーに会い、交際関係を持ちながら芸能界にハマり、退職。

そこで俳優のバーナード・ファインと知り合って、2人はシットコムの『Hogan’s Heroes』という番組企画をCBSに売り込みます。ナチスをコメディにすることに難色を示してきますが、ラディの巧みな話術でドラマにゴーサインがでます。

ある日、ラディは『猿の惑星』を見て映画体験に興奮します。映画を作りたい…。

ラディはエヴァンスのもとに強引に駆け込み、映画製作をやりたいとアピール。なんとか秘書のベティ・マッカートをつけ、パラマウントで映画作りを開始します。ラディは現在『明日に向かって撃て』を撮影中のロバート・レッドフォード主演でバイクレーサーの話を提案し、『お前と俺』を製作。でも低調でした。

一方、プーゾの新作小説「ゴッドファーザー」は大人気に。「ゴッドファーザー」の映画化権はパラマウントにありましたが、ワーナーブラザースはパラマウントに電話して映画化権を売るように交渉してきます。

エヴァンスは「ギャング映画はもう古い」と言われてもパラマウントの上に立つガルフ・アンド・ウェスタン社のCEOのチャールズ・ブルードーンに映画化権を保持するよう説得します。

ラディはエヴァンスから「ゴッドファーザー」を400万ドルで作れと指示されます。正式にプロデューサーになったラディ。映画製作の経験はほとんどないラディは自由な発想で取り組みます。ハリウッドでは原作者は雇わない決まりでしたが、ライターはプーゾに頼みます。3カ月で脚本を仕上げないといけません。

でもプーゾは映画の脚本は書けないと自信無さげで、しょうがないのでフランシス・フォード・コッポラに目を付け、「マフィアを称賛する映画はちょっと」と渋るコッポラを「真のアーティストが必要なんだ」と納得させます。そしてコッポラは監督もすることに。

しかし、この映画化を快く思っていない者がいました。フランク・シナトラに煽られ、コロンボはマフィアらしい手に打ってでます。

映画は無事に完成するのか…。

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史実との違い:ビジネス至上主義と抗争する

ドラマ『ジ・オファー ゴッドファーザーに賭けた男』を観ればたいていの人が気になるのは「どこまでが実話なの?」という部分でしょう。

まずビジネス面で言えば、本作は経験浅く熱意で突っ走るラディと、経営などを重視する企業側との対立を描くことでひとつのサスペンスを用意しています。当然そこにはドラマ性を盛るための脚色が無数にあります。

何より多くの実在の人物がところせましと出まくる中で、バリー・ラピダスだけは架空の人物になっています。彼は映画芸術を何もわかっていない奴の代表として配置され、『チャイナタウン』は水の映画だとか、『ゴッドファーザー』の上映回転率をあげるために2時間以内に収めろだとか、なかなかクリエイターをイラつかせる嫌な役です。実際はああいう商売ありきの石頭の人は会社内にたくさんいたとのこと。今作ではひとりに集約しているのでしょう。最終話では一斉上映という興行の伝統を変える手段を提案してみせて名誉挽回しますけど、それもひとりの人間の功績ではないです。

一方の敵だったり味方だったりするエヴァンスは実際は協力的だったそうですが、本作はあくまでラディを引き立たせるプロットになっているというのは気に留めておかないといけません。

また、アル・パチーノの起用で揉めている描写がいくつもありましたが、史実ではコッポラの監督起用もすんなりいきませんでした(他にも候補になる監督が複数いた)。本作では第1話がやたらと高速で進んでいましたね。

そう言えば、作中ではやたらと男女は破局しまくっていましたが、なんだかんだで本作で一番ラブラブだったのはコッポラとプーゾだったなぁ…。あの2人の脚本作りの共同生活のシーンが微笑ましかった…。本作のコッポラはなんだか頼りなさそうな雰囲気でしたが、撮影中ではあのトイレでマイケルが銃を取り出すシーンでのナイスなディレクションといい、やはり才能を光らせる場面もあって良かったです。

私は“ダン・フォグラー”のコッポラがすっかり好きになったのでこのままスピンオフとか作ってほしい…。

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史実との違い:マフィアと抗争する

ドラマ『ジ・オファー ゴッドファーザーに賭けた男』の最大の「これって実話?」と疑ってしまう要素は、マフィアとの関係性ではないでしょうか。確かにこんなのにわかには信じがたいです。さすがにここはフィクションだろう…そのとおりで…。

いや、実のところ、このマフィア絡みの話は案外と一番実話に基づいています

アル・ラディとジョー・コロンボが関係を深めていったのも事実ですし、マフィアのメンバーがエキストラとしてセットに雇われたのも本当で、イタリア系アメリカ人市民権連盟が脚本を事前にチェックしたのも実際にあったこと。作中どおり「マフィア」という言葉を台本から削除したのだそうです。

この映画製作陣とマフィアとの関係は1971年のニューヨーク・タイムズの記事であれこれと書かれており、当時から知られていたようです。

とは言え、本作ではコロンボがギャロという主義の異なる派閥と抗争勃発していき、それがラディの映画製作にも一心同体で影響を及ぼしていくという、かなりサスペンス増し増しのテイストになっており、このへんはいかにもエンタメ的な盛り方ですけどね。

お近づきになりつつも「マフィアはやっぱり怖い。価値観が根底から違う」という恐怖を描いており、反社会勢力を過剰に美化・同情せずにエンタメに落とし込むという、『ゴッドファーザー』がやってみせたことをこの『ジ・オファー ゴッドファーザーに賭けた男』もやっているのではないでしょうか。

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史実との違い:女性の活躍、そして未来

以上のことはドラマ『ジ・オファー ゴッドファーザーに賭けた男』が当時をどこまで再現しているのかという話でしたが、本作は当時は目を向けられなかった人を掘り下げることもしています。

そのひとつは、男性社会の職場で働く女性の存在。皮肉にも映画業界もマフィアもどっぷりホモソーシャルな空間という点では瓜二つで、女性は影に隠れがち。そこで本作が一番にピックアップしているのが、秘書のベティ・マッカート。作中ではめちゃくちゃ有能なんですが、エンディングで示されるとおり、彼女も実在の人物ですが、歴史ではあまり公に語られないです。また、キャスティングを担当するアンドレアもそうです。ドキュメンタリー『キャスティング・ディレクター ハリウッドの顔を変えた女性』で示されるとおり、この職種には女性が才能を発揮していました。

また、男ばかりがキャリアを構築する中で自分も何か作品を生み出したいと踏み出したフランソワーズ・グレイザーであったり、プロデューサーの隣に配置されるだけで無味乾燥な人生を送るのに嫌気がさしたアリ・マッグローであったり、撮影中に男性キャストに暴力を受けたと訴えるタリア・シャイアだったり…とにかくいろいろな女性がそこにいて、夢や苦悩を経験して存在していたのに、現実では不可視化されていました。

一方、『ゴッドファーザー』が無事に完成し、ラディは続編ではなく自分の新たな企画『ロンゲストヤード』に挑戦しますが、その前にスタジオに忍び込んでまで「自分も映画製作をしたい!」と熱意をぶつけてくる若者がひとり登場します。名前はエディ・カーランドでしたが、この人物は架空です。でもこういう夢だけを背負って駆け込んでくる若い人はたくさんいたはずで…。それこそラディだってそうでした。

ハリウッドはそんな陰で頑張っている人たち、次の夢を叶える者たちの味方であるべきだという、このドラマの作り手の揺るぎない姿勢がハッキリでていました。

映画業界批判もしながら映画作りの理想を語る。『ジ・オファー ゴッドファーザーに賭けた男』はハリウッド批評ドラマとしては実に楽しい一作でした。

『ジ・オファー ゴッドファーザーに賭けた男』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 55% Audience 97%
IMDb
8.7 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
7.0

作品ポスター・画像 (C)2022 Paramount Pictures. All Rights Reserved.

以上、『ジ・オファー ゴッドファーザーに賭けた男』の感想でした。

The Offer (2022) [Japanese Review] 『ジ・オファー ゴッドファーザーに賭けた男』考察・評価レビュー