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『ルイスと不思議の時計』感想(ネタバレ)…カボチャは嫌いですか?

ルイスと不思議の時計

カボチャは嫌いですか?…映画『ルイスと不思議の時計』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:The House with a Clock in Its Walls
製作国:アメリカ(2018年)
日本公開日:2018年10月12日
監督:イーライ・ロス

ルイスと不思議の時計

るいすとふしぎのとけい
ルイスと不思議の時計

『ルイスと不思議の時計』あらすじ

両親を亡くした少年ルイスは、叔父ジョナサンの古い屋敷で暮らすことになるが、実は叔父のジョナサンは、二流のポンコツだが不思議な力を使える魔法使いだった。不思議なことがいっぱい起こる屋敷で新生活を始めるが…。

『ルイスと不思議の時計』感想(ネタバレなし)

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綺麗なイーライ・ロス

「エドワード・ゴーリー」というアメリカの絵本作家をご存知でしょうか。

個人的に好きな絵本作家なのですが、この人の絵本の何が面白いかって、とにかくアバンギャルドすぎるのです。よく「大人の絵本」ですと紹介されることもありますが、そういう次元を超えています。ときに残酷、ときに不条理、ときに意味不明…そんな作風。代表作『うろんな客』の謎生物に象徴されるように、絵のタッチと発想力がこれまた独特で、ヘンテコな世界観が病みつきになります。

そんなエドワード・ゴーリーが挿絵を描いたのが、ジョン・ベレアーズによる児童小説『The House with a Clock in Its Walls』です。私はこの小説は読んだことがなかったのですが、いわゆる「少年少女が魔法の世界に迷い込んで…」という物語を基盤とするジュブナイル・ファンタジーの原点とされているものだそうです(出版は1973年)。ちなみに邦訳タイトルは当初は「壁のなかの時計」でしたが、今は映画の公開に合わせて「ルイスと不思議の時計」に改めて直されています。当然、エドワード・ゴーリーの絵も消えて、可愛らしいイマドキなイラストに変わっています(ちょっと残念…)。

ということで、その児童小説の映画化が本作『ルイスと不思議の時計』

製作を担当した企業は「アンブリン・エンターテインメント」です。あのスティーヴン・スピルバーグが立ち上げた映画製作会社で、『E.T.』『グレムリン』『グーニーズ』『バック・トゥ・ザ・フューチャー』『ジュラシック・パーク』と数多くのファミリー映画の傑作を生みだし、“ジュブナイル・ファンタジーなら任せろ”な4番バッターとしておなじみ。そんな名手がジャンルのベーシックとなった作品を手がけるわけですから、これもホームランを打つのか?と期待しちゃいますが、製作規模的には堅実なヒット狙いなのかな。

本作は日本の前評判が面白いです。一般層は「コナンじゃん!」という反応がSNSに多々見られることからも、まあ、興味はそのあたりですよね(主人公の少年の吹き替えを担当するのが「名探偵コナン」でおなじみの“高山みなみ”であるため)。でも、映画マニアは違うポイントに注目しています。「えっ、監督は“イーライ・ロス”なの!?」と。

“イーライ・ロス”といえば、知る人ぞ知る残虐理不尽ムービーのトップランナー。最近の監督作もノリノリです。若者たちがジャングルで食人族にいただきますされる『グリーン・インフェルノ』、キアヌ・リーヴスが美女に肉体的にも精神的にもズタズタにされる『ノック・ノック』…どれも常識的な倫理観を持っている人が観れば「うえぇ…」となるものばかり。だから一部でカルト的な支持を集めているのですが…。

そんな“イーライ・ロス”が子ども向けのファミリー映画を撮るなんて…ジョーク? トラップなの?と私なんかは疑心暗鬼になるのですけど、ちゃんと全年齢が観られる映画になっています。綺麗になっちゃって…。

なので、「わぁー、こんな素敵なファンタジー映画を撮る監督さんは、他にどんな作品を作っているんだろ~(ワクワク)」と目を輝かせている無垢な観客を見かけたら、心の淀んだ私のような人間の皆さんはそっと「『ホステル』がオススメだよ」と囁いてあげましょう。

↓ここからネタバレが含まれます↓

『ルイスと不思議の時計』感想(ネタバレあり)

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イーライ・ロスらしい配役も

『ルイスと不思議の時計』は「さすがアンブリン・エンターテインメント」と言える、なかなかに豪華なキャスティング。出演陣は少ないですが、贅沢な顔ぶれです。

ポンコツ魔法使い「ジョナサン・バーナヴェルト」を演じた“ジャック・ブラック”は、元祖オタク俳優でコメディ映画を中心に活躍をしてきましたが、結構多才な人。『スター・ウォーズ』に勝手に全然関係ないセリフをアテレコしたパロディ動画(口の動きは合っている)を作ったり、音楽活動もしたりと、こと音を使った分野に関しては器用です。当人は全然ポンコツじゃありません。本作では完全に“憎めない人懐っこいオッサン”そのままであり、“ジャック・ブラック”にしかできないキャラクターを全開にしていました。魔法で動き出すたくさんの人形相手に「気持ち悪い」と言っていた彼ですが、まさか「顔だけそのままサイズなジョナサン・ベイビー」という一番の醜態を現すとは…本作の見せ場ですかね。正直、2018年に見た映画で一番、気持ち悪かったな…。

そのパートナーとしてタッグを組んでいる凄腕魔女「ツィマーマン」を演じるのが、“ケイト・ブランシェット”です。カリスマ性がありながら、結構、何でも映画に出演しているイメージの彼女ですが、本作でもファミリー映画であろうときっちり役にハマるあたりは見事。もともと魔女っぽい存在感がありましたけど(普通ではない超越した雰囲気という意味で)、佇まいだけでキャラクター性を示せるのはやはりこの人のパワーです。それに“ジャック・ブラック”と組み合わせると良い感じの凸凹感が出ていいですね。こういう男性キャラと対等にコンビになっている出演作はフィルモグラフィ的に最近はあんまりない気がする…(それだけ“ケイト・ブランシェット”が強すぎるというのもあるのですが)。

で、この二人以上に個人的にびっくりなのが、“カイル・マクラクラン”が出演していること。この“カイル・マクラクラン”といえば、デヴィッド・リンチ監督作品では有名で、とくに『ツイン・ピークス』のデイル・クーパー捜査官役などの印象は深く、あんまり最近の映画に出ていない雰囲気でしたが、まさか本作でとは! 本作では、アイザック・イザード、まあ、要するに悪役での登場でした。やっぱり存在感ありますね。このキャスティングには、“イーライ・ロス”監督の趣味を感じます。

ちなみに“ロレンツァ・イッツォ”(監督の奥さん)はやっぱり出るんですね。もう彼女が出た時点で「絶対にクセのある悪だな…」と思っちゃいますよ…。

もちろん主人公の少年ルイスを熱演した“オーウェン・ヴァカーロ”も良かったです。このジャンルでは大事な“スクリーム・キャラクター”の大役をしっかり果たしていました。序盤の、夜に奇怪な現象に驚きパニックなルイスに対して、「私だよ」とジョナサンが存在を明かし、その顔を見てまた絶叫するシーンが個人的にはお気に入り。この子の出演をもっと観たい人は、『パパVS新しいパパ』シリーズがオススメです。

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ファミリー映画、初心者だから!

お話自体は可もなく不可もなくといった感じで、特筆するのに苦労するのですが、ファミリー映画として考えれば全然OKなつくりじゃないでしょうか。

ちょっと変わり者の子どもが、学校でも虐められたりと孤立しながら、新生活を過ごす場所で魔法に目覚め、その過程で身近な危機を救ったりする。テンプレどおり。まあ、このテンプレを作ったのが本作の原作だといえるわけですけど。

ただ、ところどころ“イーライ・ロス”監督だなと思わせる演出が目につきます。トピアリー(植木アート)のライオンが糞をするとかの下ネタギャグ、学校のバスケで松葉づえの子が選ばれる障がい者ギャグ、ジョナサン・ベイビーやかぼちゃモンスターのゲロ攻撃などただただ気持ち悪いギャグ…明らかにちょっとちょっと“イーライ・ロス”さん…となるようなシーンがあったり。ミセス・ハンチェットとキスするアイザックとか、こう言っては失礼ですけど、子ども感覚的に気持ち悪いと思う映像をしれっと入れるのは、“イーライ・ロス”監督の素なんですかね。やっぱりこの人、綺麗になってないな…。

コンセプトとしては、それこそアンブリン・エンターテインメントが手がけてきた、往年のファミリーホラーを今の技術で映像化するというのが狙いだったのでしょうが、それもなんとなく伝わってくる感じでした。昔のこういうジャンルは、ファミリー向けと言いながら、普通に怖いシーンや気持ち悪いシーンがあるんですよね。

いや、完全に個人の願望を言わせてもらうなら、原作挿絵のエドワード・ゴーリーのビジュアルを再現してほしかったですけど、さすがに無理でしょうし…。作中の小物にそれっぽさを感じなくもないでしたが。

脚本を担当したのは、“エリック・クリプキ”。『スーパーナチュラル』や『レボリューション』などテレビドラマシリーズで活躍しているSFクリエイターで、ジョン・ベレアーズからも影響を受けたそうです。自分の創作性の源を映画化できてさぞかし嬉しいでしょうね。

もう少しアトラクション的なライド感が映画全体にわたって持続すると良かったなと思います。でも、ほら、“イーライ・ロス”さん、ファミリー映画初心者だから、まだビギナーだと思ってあげよう、うん。いっそのこと、『ルイスと不思議の時計(R18版)』を作ってくれても私は一向に構わないのですけど。むしろ観たいのですけど。

今作の綺麗な“イーライ・ロス”じゃ物足りん!という人は、同月公開の監督作『デス・ウィッシュ』に期待するべし。こっちはファミリーなんてクソくらえな勢いがムンムンしてますよ。

『ルイスと不思議の時計』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 67% Audience 50%
IMDb
6.3 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 4/10 ★★★★
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関連作品紹介

ジャック・ブラック出演作

・『カンフー・パンダ』シリーズ
…アニメ映画。主人公のパンダの声を担当。非常に彼らしいテンションが愛らしい。
・『ガリバー旅行記』(2010年)
…ゴールデンラズベリー賞で最低主演男優賞にノミネート。でも気にしない。
・『グースバンプス モンスターと秘密の書』(2015年)
…こちらもファミリー映画で、雰囲気が似ています。
・『ジュマンジ ウェルカム・トゥ・ジャングル』
…体はオッサン、中身はギャル。わりといつも損なキャラを演じてますね。

(C)2018 UNIVERSAL STUDIOS AND STORYTELLER DISTRIBUTION CO.,LLC

以上、『ルイスと不思議の時計』の感想でした。

The House with a Clock in Its Walls (2018) [Japanese Review] 『ルイスと不思議の時計』考察・評価レビュー