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『バード・ボックス』感想(ネタバレ)…Netflix;目を開けたら終わり

バード・ボックス

目を開けたら終わり…Netflix映画『バード・ボックス』(バードボックス)の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Bird Box
製作国:アメリカ(2018年)
日本では劇場未公開:2018年にNetflixで配信
監督:スサンネ・ビア

バード・ボックス

ばーどぼっくす
バード・ボックス

『バード・ボックス』あらすじ

子どもを身ごもったマロリーは、ある日、突然訪れた世界の終焉と人類滅亡の危機に直面する。それはあらゆる日常生活を破壊し、恐怖に翻弄される人々を混乱に陥れた。謎の異変が次々と起こる中、生き残るためにできることは、決して「それ」を見ないということだけ。

『バード・ボックス』感想(ネタバレなし)

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もし共同生活しなければいけなくなったら…

日本漢字能力検定協会が毎年発表している、その年の世相を表す「今年の漢字」。2018年は「災」でした。公募の結果、「災」が最多の約2万票を集めたとのことで、国民にとって強く印象に残った災害が2018年は多すぎましたね。

災害時に避難所に一時退避した人もいると思いますが、その時に問題になるのは人間関係です。プライベートが保証された“家”という空間を失い、強制的に見ず知らずの人と共同生活を送らないといけなくなるという状況。しかも、災害という不安だらけの異常事態ですから、余計にピリピリします。今はただでさえリアルな人付き合いが薄れているなか、いきなりこんな他者と空間を共有するのはなかなかハードルが高いもの。災害そのものよりも、避難生活の方がツラいという声もあがるのも頷けます。

そんなときは不安や恐怖から目を背けたくなります。いっそのこと何も見なければ、マシになるのではないか…そういう現実逃避もしたくなるものです。

そのような状況に誰でも陥る可能性のある日本にとって、本作『バード・ボックス』はフィクションとして割り切れない不気味さを持った映画かもしれません。

本作は突然起こった異変によって外で目を開けることができない状況に陥った人々を描くシチュエーション・スリラーです。『IT イット “それ”が見えたら、終わり。』というホラー映画がありましたが、本作の場合は本当に見た瞬間が最期です。

最近はこういう特定のシチュエーションを全面に押し出したホラー・スリラーがブームみたいになっていますね。やっぱりただゾンビを出すとか、化け物を出すとか、音で驚かすとか、そういうのでは観客は通用しなくなり、新しい刺激を求めているのでしょうか。

ただ、本作『バード・ボックス』の場合、ちょっと変わっている点があって、それは監督。本作は“スサンネ・ビア”というデンマーク人監督が手がけており、この人は『未来を生きる君たちへ』や『真夜中のゆりかご』など、どちらかといえばジャンル的な分野とは無縁の人間ドラマを主軸にした作品を撮ってきた方です。そのため、本作はあからさまなジャンルに傾倒したベタベタな映画にはなっていないのが個性になっています。このへんは好き嫌いが分かれるでしょう。

また、脚本はあの批評家にも高く評価された『メッセージ』を手がけた“エリック・ハイセラー”が担当しています。この人は、『君の名は。』の実写版の脚本家としても名前が挙がっているので、要注目のライターですね(『君の名は。』実写映画企画はまだまだ初期段階なので実現は未知数ですが)。

主演は『オーシャンズ8』でクールな演技を見せてくれた“サンドラ・ブロック”“サラ・ポールソン”も出演しているので、『オーシャンズ8』の二人が揃っています。他にはアカデミー作品賞受賞作『ムーンライト』で主人公を演じ、非常に大きな注目を集めた“トレヴァンテ・ローズ”。『ジュラシック・パーク』シリーズのヘンリー・ウー役でおなじみの“B・D・ウォン”。他にもまだまだ。こうした個性豊かなメンバーの揃ったキャストにも注目です。

原作は“ジョシュ・マラーマン”という人のデビュー小説。小説家としてはキャリアが浅いですが、今後もこの人の作品が映画化されることがあるかもしれませんね。

上映時間124分と長めなので、Netflixオリジナル作品ですし、時間があるときにゆっくり鑑賞するのがオススメです。

↓ここからネタバレが含まれます↓

『バード・ボックス』感想(ネタバレあり)

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他人を信じる難しさ

『バード・ボックス』は、見たことがあるあの映画たちを組み合わせたような作品だなと思ったのが初見の感想。それくらい既存要素のミックス感があります。具体的には、『ミスト』(2007年)と『ハプニング』(2008年)と『激流』(1994年)の3つを個人的には連想しました。

まず序盤も序盤の平穏ないつもどおりの街が阿鼻叫喚の地獄絵図になる展開。このパートはとても生々しさがあり、引き込まれます。

目に見えてわかる始まりは、病院で頭を盛大にガラスに打ちつける女性患者。これだけだともともと精神的な病気を患っている人なのかなと思わなくもないですが、玄関を出た瞬間、車がドーン。これはヤバいと妹の運転する車で現場を立ち去るも、窓やバックミラーに映る外はどんどんおかしくなり、ついに派手にクラッシュ…からの妹がドーン。

そこから主人公のマロリーは見ず知らずの人の家に逃げ込みます。そこにいたのは同じく場当たり的にここに避難してきた人種も年齢も違う大勢の他人

どうやら外にいる何かを見れば自殺衝動にかられるらしく、一歩も動けない籠城状態で過ごすことになります。このへんの設定が『ミスト』と『ハプニング』そのものですね。もちろんこの家に閉じ込められた人間たちの姿こそ、タイトルどおり「バード・ボックス」なわけですが。

そして、当然、そんな良くも知らない他人との集合生活ですから、みんな仲良くパーティ・ゲームで遊ぶみたいなことにはなりません。疑心暗鬼や裏切りなど色々な人間の闇が出てくる…というのが本作の面白さ。とくにこれらの人間関係は世相を反映しており、今の対立だらけの世界観をどうしても重ねてしまう構図になっています。例えば、ダグラスというスキンヘッドのあのイカツイ男。明らかにアレな人に見えますが、演じている“ジョン・マルコヴィッチ”が右寄りの過激な発言で知られる人ですから、完全に狙っていますよね。でも、その人でさえ意外な一面を見せる。他人の良し悪しなんて表面ではわからない。だから怖い。

私たちの身近で普通に感じている人間関係そのものです。

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川下りは母になる試練

一方、その家に籠城するパートは過去編であり、その間に挟まれるように5年後となる現在を描くパートが描かれます。

そこでは、マロリーは「boy」と「girl」と呼ばれる二人の幼い子どもを抱え、外に出ることに決めるシーンからスタート。二人の子どもに「目隠しを外したらぶつわよ」「目隠しは絶対に外さないで」と念入りに忠告し、3人とも目隠しで外へ。そのまま船をこぎだし、川を下ります。

このパートは過去編よりも目立った急展開もなく、散発的なシーンの連続なので、若干退屈ですが、一言で言ってしまえば「母になる」という一種の試練です。

そもそもマロリーは、冒頭、ニュースで報じられる外の騒動にもまるで関心がなく、家に引きこもって絵を描いているだけ。その絵も、つながりのない人間関係と表現する暗そうな絵を描いています。自分のかなり膨らんだお腹にいる生まれる赤ん坊にも全然興味なしで、赤ん坊を迎える準備もゼロ。養子に出すことすら頭によぎって考えてしまうほど、母とはほど遠い存在でした。

本来、ここからじっくり母になる準備を精神的にも肉体的にも進めればいいのですが、あの騒動でそんな状況でもなく、自分で整理のつかぬまま出産の日を迎えてしまいます。そこでマロリーは初めて母としての行動をとるわけです。赤の他人であるオリンピアの赤ん坊までもを守り、トムという愛するパートナーと出会い、母になれたかと思いきや、でもまだ子どもを「ボーイ」「ガール」と呼び、子どもには「マロリー」と呼ばせるくらいの他人関係

しかし、急流という避けられない流れの中で、船という最も狭い“ボックス”で支え合った3人は、その試練をクリアしたとき、すでに家族になっていました。このあたりは完全に『激流』と同じ。

盲学校にたどり着き、初めて子どもに名前をつけるという、本来は生まれた時に行うことを、この時に成し遂げ、マロリーは羽ばたく鳥のように自由になる。母になって束縛される苦悩を描いた作品もありますが、こうやって新しい自由を手にする映画もあるんですね。

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見えない(観客は見えている)

そんな感じで、テーマや人間ドラマは味わい深いのですが、肝心のというか、多くの人が期待するであろうメインどころのサスペンス部分はあまり面白い方ではない気がする…。

何よりなにが致命的かといえば、最初に現在編を見せてしまうので、過去編の家パートでも、誰が生き残るか観客はわかってしまいハラハラしないことでしょう。二人目の妊婦が出てきた時点でだいたい察しがついてしまいます。

加えて「外で目を開けたら終わり」という作品の根幹を成す部分も映画と相性が悪すぎる。小説だったら面白くなっているのかもしれませんが、映像にしてしまうと目を覆っている登場人物はハラハラしているのはわかりますけど、観客は普通に光景を見ていますから。全然怖さを共有できません。

同じシチュエーション・スリラーでも『クワイエット・プレイス』は音を立ててはいけないという要素を巧みに登場人物と観客でシンクロさせていましたが、さすがに『バード・ボックス』の場合は、若干、客観的にすらなってしまうという…。

ただ、唯一、恐怖を共有しやすいシーンが、車でスーパーマーケットまで向かう場面ですね。あそこは観客も車という密閉空間にいる気持ちになれるのでハラハラ度合いが増しています。最初はどうやって視覚のない運転で目的地に行くんだと思いましたけど、ナビと近接センサーというイマドキなテクニックを駆使しているのもユニーク(現実的に不可能でしょうけど)。こうやって身の回りに新しい技術が生まれるたびに映画のアイディアに組み込まれるのは楽しいものです。

あとは、あの普通の船で川は下れないだろうとか、ツッコむとキリがないですが、まあ、そこらへんはいいや(投げる)。

恐怖度は少なめですが、暇つぶしにはじゅうぶんな映画じゃないですか。それくらいでいいんです。Netflix配信なのだし。毎回『ROMA ローマ』みたいなベスト級の傑作が来たら目が疲れてきますからね。

本当に恐怖を味わいたいという人は、目を覆い隠して、何も見えない状態で、Netflixの作品一覧画面で映画を選択し、それを強制的に視聴するというゲームとかしたらいいんじゃないですか。私はやりません。

『バード・ボックス』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 65% Audience 65%
IMDb
6.7 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 5/10 ★★★★★
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関連作品紹介

続編の感想記事です。

・『バード・ボックス バルセロナ』

作品ポスター・画像 (C)Netflix

以上、『バード・ボックス』の感想でした。

Bird Box (2018) [Japanese Review] 『バード・ボックス』考察・評価レビュー