エメリッヒ特製の太平洋戦争パフェ…映画『ミッドウェイ』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2019年)
日本公開日:2020年9月11日
監督:ローランド・エメリッヒ
ミッドウェイ
みっどうぇい
『ミッドウェイ』あらすじ
1941年12月7日、日本軍は連合艦隊司令官・山本五十六の命により、真珠湾のアメリカ艦隊に攻撃を仕掛ける。大打撃を受けたアメリカ海軍は、チェスター・ニミッツを新たな太平洋艦隊司令長官に任命。日米の攻防が激化する中、日本軍は次なる戦いを計画する。アメリカ軍は、その目的地をハワイ諸島北西のミッドウェイ島と分析し、全戦力を集中した逆襲に勝負をかける。
『ミッドウェイ』感想(ネタバレなし)
エメリッヒ監督が次に破壊するのは…
マイクロソフト社共同創業者で有名なポール・アレンはミリタリー趣味があるらしく、陸海空あらゆる軍用機コレクションを持っており、中には超貴重な品まであります。その彼の財団が2019年10月18日・21日、中部太平洋の海底にて大日本帝国海軍の航空母艦「加賀」と「赤城」を発見したと発表しました。
この2つの空母は1942年6月のミッドウェイ海戦で沈没しましたが、その沈没した正確な場所はわかっておらず、沈没時の状況も含めて謎も多かったそうです。ついに再び私たちの前にその残骸を見せたことで新発見があるかもしれません。
その太平洋戦争史にとっての大発見があった2019年10月から1か月後。運命的と言っていいものか、アメリカではこんなドンピシャな映画が公開されました。それが本作『ミッドウェイ』です。
本作はタイトルそのまんまであり、ミッドウェイ海戦(ミッドウェー海戦)を題材にした戦争映画です。ミッドウェイ海戦についての説明はいらないでしょう。まあ、映画を観ればわかりますしね。さすがに「え、昔、日本とアメリカって戦争してたの!?」と驚く人がいる…なんてことは想定もしたくない…。
太平洋戦争の局面を変えたミッドウェイ海戦はこれまで何度か映画化されてきました。
やはり有名なのは1976年のアメリカ映画『ミッドウェイ』でしょうか。ジャック・スマイト監督作で、三船敏郎が山本五十六を演じました。
日本も製作しています。1953年の本多猪四郎監督作『太平洋の鷲』は、山本五十六の半生を描いたもので、もちろんミッドウェイ海戦も描かれています。『ハワイ・ミッドウェイ大海空戦 太平洋の嵐』(1960年)、『連合艦隊』(1981年)と定期的に題材になり、最近だと『永遠の0』(2013年)でも主題ではないですがちょっと触れられていました。
そんな映画史もある中での今回の『ミッドウェイ』(アメリカでは公開年は2019年なので、2019年版と呼ぶことにする)。正直、作る必要があったのかという気持ちも大いにあるのですが、この人が作りたかったのならしょうがない。その人とは、そう、“ローランド・エメリッヒ”監督です。
ドイツ出身ながらハリウッドで大活躍しているブロックバスター大作の名手。その特徴は何と言っても大雑把に表現すれば「大味な破壊」。破壊王と言えばマイケル・ベイがいますが、彼が爆発に特化していると考えるなら、この“ローランド・エメリッヒ”監督は何でも破壊します。
『インデペンデンス・デイ』(1996年)ではUFOで地球の人間社会を破壊し、『GODZILLA』(1998年)ではゴジラの伝統を破壊し、『デイ・アフター・トゥモロー』(2004年)では気候変動の正しい理解を破壊し、『ストーンウォール』(2015年)ではLGBTQコミュニティを破壊し…。
あらためて振り返ってみると凄いです。まさに破壊王、いや破壊魔人ですよ…。
その“ローランド・エメリッヒ”監督が歴史戦争モノを手がけるということで、アメリカ独立戦争を描いた『パトリオット』(2000年)以来なのかな? 私はてっきり『インデペンデンス・デイ リサージェンス』の次は月を破壊してくれると思っていたので、なんか無難な題材に逃げたなと目を細めていましたけど、まあ、この監督なら何をやっても同じか(冷静)。
驚きなのは本作『ミッドウェイ』、インディペンデント映画なのです。1億ドルの製作費がかかっているらしいですけど、大手の映画会社が企画したものではありません(アメリカの配給はライオンズゲート)。よく資金を集めたなと関心しますが、中国資本に助けてもらいながらの苦難があったようで。そう考えると主要映画大手企業が関与していない戦争映画大作というレアな一作になりますね。
2019年版『ミッドウェイ』の注目点は、俳優陣です。資金的に苦しかったでしょうし、スターを集めることができなかったのでしょうけど、目にとまる役者もチラホラいます。『アリータ バトル・エンジェル』で敵として出演した“エド・スクライン”が本作では主役のひとり。『死霊館』シリーズでおなじみの“パトリック・ウィルソン”、実写版『美女と野獣』でも活躍した“ルーク・エヴァンズ”、『エンド・オブ・キングダム』の“アーロン・エッカート”、『ゾンビランド ダブルタップ』の“ウディ・ハレルソン”、『僕のワンダフル・ライフ』の“デニス・クエイド”、『塔の上のラプンツェル』の“マンディ・ムーア”など、これまた頑張ってキャスティングしたんだろうなという努力が窺える面々。
さらにここが偉いなと思いますけど、日本側の主要人物には日本人キャストを起用しています。山本五十六は“豊川悦司”、山口多聞は“浅野忠信”、南雲忠一は“國村隼”が熱演。
だからもっと日本で宣伝されまくっていいはずの映画なのですが、いかんせんインディペンデント作品で配給も大手ではないので、ちょっとアピールは弱めですね。
戦争映画は絶対に大きいスクリーンで観る方が良いので、臨場感と迫力を求める方はぜひ。
オススメ度のチェック
ひとり | ◯(戦争映画大作が好きなら) |
友人 | ◯(迫力映像を共有しよう) |
恋人 | ◯(恋愛要素はあっさりめ) |
キッズ | ◯(残酷シーンは少なめ) |
『ミッドウェイ』感想(ネタバレあり)
次に会うときは敵同士
1937年12月、東京。駐日米大使館海軍武官補で日本語も堪能であったエドウィン・レイトンは、海軍次官である山本五十六中将と会話をしていました。資源不足に悩む日本がアメリカに戦争を仕掛けるのではないか…そんな不吉な噂も聞かれる中、腹の探り合いのようなやりとり。
「君は日本で何を学んだのかね」…そう聞かれつつ、「噂によると日本とアメリカが戦争になれば勝てないと進言したそうですね」とレイトンも尋ねます。山本五十六は穏健派で知られていました。しかし、どうやら今この場で2人がどう話そうとも、動き出した2つの国を止めることはできそうにもありません。
「さよなら、レイトンさん」「さようなら」…そう言って日本の地で繋がった2人は別々に進み始めました。
1941年12月7日(日本時間12月8日)、ついにそれは起きました。
空母エンタープライズ。無理なやり方で着艦しようとしている米軍機が一機。操縦しているのはディック・ベストという負けん気の強い若きパイロット。エンジンも停止させ、機体を斜めにして、なんとか成功。実力は確かなようですが、上司にはその無茶ぶりをたしなめられます。そして、これからハワイの真珠湾(パールハーバー)に向かう仲間を見送るのでした。
その真珠湾に停泊していたアメリカ海軍の艦隊。今日ものんびりと過ごしていました。しかし、突然、日本軍の艦上機部隊が飛来、問答無用で急襲されます。あまりにもいきなりのことで茫然とする中、一気に炎上・爆発する艦隊。反撃体勢すらもままならない状態で、ただ業火から逃げるしかありません。サリーという若い兵士はピアースという上司に退避するよう指示されますが、気が付いたときにはピアースは炎に消えていました。
空母エンタープライズから真珠湾にやってきた戦闘機はすぐに異変に気づきます。そしてすぐさま日本戦闘機に攻撃され、脱出を余儀なくされました。
家で妻と団欒していたエドウィン・レイトンに電話がかかってきます。それは日本に攻撃されたという衝撃の知らせでした。日本の大将である山本五十六の命により、南雲忠一中将や山口多聞少将らの空母機動部隊が、アメリカに奇襲攻撃を仕掛けた…つまり、宣戦布告であり、アメリカと日本の戦争の開幕を意味します。考えたくなかった事態です。
ハルゼー提督率いる空母エンタープライズはすぐに戦闘機を送り込み、真珠湾を攻撃して帰っていく日本艦隊を追いますが、既にその姿はなく、敵の拠点も発見できませんでした。
ディック・ベストは真珠湾に帰還し、家族の無事を確かめます。しかし、親友や多くの仲間は真っ黒で身元もわからないような焼死体になっていました。
一方、日本では山本五十六は苦悩していました。本来はこのまま攻撃を続けるべきでしたが、手柄が欲しい陸軍の圧力もあり、海軍は全力を出せません。「眠れる巨人を起こし、恐ろしい決断をさせてしまった」…彼もまた来るべき戦争を予期していました。
アメリカはただちに反撃体勢を用意します。そのためにはリーダーが必要です。そしてチェスター・ニミッツ大将が総司令官に任命され、情報将校で日本に精通しているレイトン少佐に敵の分析を任せます。
こうして1945年まで長きにわたって続く太平洋戦争が本格化します。不意打ちを受けて犠牲を払ったアメリカ、軍備のもと先手を取って有利に進める日本。この情勢をひっくり返したのは、1942年6月5日から7日にかけてミッドウェイ島付近で行われた海戦。どちらにとっても負けられない戦いが迫ります。
日本語、喋ってる!
2019年版『ミッドウェイ』、私に言わせれば「エメリッヒ特製の太平洋戦争のパフェ」です。
まず本作を語る前に1976年の『ミッドウェイ』について比較しながら語るとします。こちらの映画も構成は似たり寄ったりで、アメリカと日本の双方が描かれ、冒頭の始まり方も一緒です。
ただこの1976年版『ミッドウェイ』は結構滅茶苦茶な映画でした。というのも、肝心の戦争描写が記録フィルムを駆使していたり、はたまた他の戦争映画から借用してきた映像を多用したりしているわけです。しかも、ミッドウェイ海戦とそんなに関係なかったりするので、時代考証や軍事考証的にもかなりカオスなことになっています。
加えて、日本側のキャストは英語を話しているので、なんだかアメリカと日本が戦っている雰囲気もなく、ずいぶんヘンテコな世界観になっていました。
言ってしまえばずいぶん雑な調理でできたパフェです。
そんな1976年版『ミッドウェイ』のパフェに対して「これじゃあ美味しくないし、客に出せないよ!」と自分で調理し直したのがこの“ローランド・エメリッヒ”監督の2019年版『ミッドウェイ』。
まず、映像は一新し、何よりもぐちゃぐちゃだった戦闘シーンをデジタル処理でゼロから再現。CGで作られた大規模戦争演出がおそらくこの本作の一番の売りでしょう。それはもう序盤のパールハーバーから炸裂しています。
そして、今回は日本側がちゃんと日本語を話すのです。これだけで褒めるのはどうなんだという気持ちもしないではないですが、一応、改善だからここは素直に褒めたい。“豊川悦司”、“浅野忠信”、“國村隼”の抜群の安定感のある3人のせいか、なんかこの日本軍、勝てそうな気がしてくる…。
これらだけでも2019年版『ミッドウェイ』は間違いなく1976年版『ミッドウェイ』よりは成長していることが窺えますし、これだけのものをインディペンデントで作り上げたことは本当に凄いなと思います。
見た目は綺麗だけど…
けれどもです。私は2019年版『ミッドウェイ』に大いに不満がある部分もあるので、そこも素直に書きます。
確かにこのパフェは昔のよりも見た目が綺麗で、デコレーションも素敵なので、インスタ映えとかしそうです。でもいざ食べてみると「あれ、味が…」となるし、よく調べれば「この添加物、健康問題が指摘されているやつでは…」となる。そんな感じです。
第1に、デジタルなコンピューターグラフィックスで再現された美麗な戦闘映像ですが、すっかり戦争ゲームのような既視感があり、フレッシュでも何でもないのが残念です。そもそも昨今の戦争映画は『ダンケルク』しかり『1917 命をかけた伝令』しかり、CGではない特撮にいかに力を入れるかで、技術の結集として唸らせるのがトレンドなわけで、イマドキこんなCG一辺倒で見せられても評価はしづらいかな、と。
それだけ製作費もあれば、もっと特撮に注力もできただろうに、やっぱりそこは“ローランド・エメリッヒ”監督、派手な映像があれば観客は喜ぶだろ!くらいの感覚なんですかね(実際に一定数はウケるし…)。
第2に、日本との並行した描写ですが、確かに日本語は話しているけど、だからなんだとも言えるわけで…。少なくとも画期的な一歩でも何でもない。日本とタッグを組んで作った戦争映画と言えば、『トラ・トラ・トラ!』(1970年)がありました。それからこの日米合同という戦争映画史でひとつの到達点を達成したのはやはり2006年のクリント・イーストウッド監督の『父親たちの星条旗』『硫黄島からの手紙』の2作でしょう。アメリカと日本の視点でそれぞれ映画を別に作ってしまうなんて荒業は今だってあり得ない驚きでした。
そのイーストウッドの成し遂げたことを考えれば、申し訳ないけど“ローランド・エメリッヒ”監督が2019年版『ミッドウェイ』でやったことは2~3歩劣るのではないか。そう思わずにはいられません。
滲み出るアジア人への尊敬という名の偏見
いや、この2019年版『ミッドウェイ』には日本に蹂躙されたアジアの民族の視点も描かれているから、そこが大きな進歩だ!…そうとも言えます。
日本の宣伝や公式サイトではバッサリ無かったことにされていますが、本作には短いシーンですが、植民地支配の残忍さを見せる場面があります。エンドクレジットにも文章が出ます。
これはもちろん本作が中国資本で作られているのだから当然だとも推察できます。最近の“ローランド・エメリッヒ”監督は『2012』といい『インデペンデンス・デイ リサージェンス』といい中国になびくのに遠慮がないので、全然気にしてないのかもしれませんけど。
ただ、この本作のそうした描写もずいぶんあっさりだと思います。なぜそうなるのかと言えば、本作は社会や政治を批判する面が極めて薄いからです。あくまで戦争に直面した関係者を描く英雄譚であり、古き良き第二次世界大戦の映画を引き継いだ、戦争体験テーマパーク・ムービーです。
中国資本が入っている以上、権力者批判的なことは一切できませんし、そういう戦争批評はなく、結局、武勇を讃えるお約束なメッセージのみ。
加えて私がとくに気になるのは、神風特攻の描写。本作を観ていると「神風精神は恐ろしくもあるけど、国に忠を尽くして勇敢で素晴らしい」というメッセージが滲んでいるような気もします。こういう精神が欧米人から称賛を安易に受けやすいのはそれ自体、(欧米人の考える)エスニックな日本人像を勝手に解釈した差別だと私は思います。「日本の民族精神を尊重してますよ(マイノリティ、尊敬してますよ)」アピールでしかないような…。それはこれまでずっと日本の戦争思想を反省すべく映画で向き合ってきた先人を無視しているし、“ローランド・エメリッヒ”監督も『日本のいちばん長い日』とか観て、今一度その日本の精神が本当に良きものだったのか、問い直してほしいのですけど…。
そのせいか、ディック・ベストのキャラクターもいかにも軍隊上の模範的ヒーローであり、アメリカ版KAMIKAZEスピリットを見せているだけです。特攻こそ愛国!と示した1996年の『インデペンデンス・デイ』から全然成長していない…。
あの戦争をそんな結論でまとめたら一番ダメだろうということをしている。2020年にもなってこれでは先が思いやられますし、そろそろアジアをそんな目で見ないでほしいんですけどね。
もちろんこういう王道な2019年版『ミッドウェイ』の作りは一般観客にはウケます。でも、戦争映画というのは一般観客の評価が微妙に低いくらいがちょうどいいバランスだと私は考えています。戦争映画が政治に無感覚でウケてはいけないし、気まずさを刺激するものがないと…。
このカロリー高めのパフェは食べ過ぎると心身に悪影響が出るのでお気を付けください。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 41% Audience 92%
IMDb
6.7 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 3/10 ★★★
作品ポスター・画像 (C)2019 Midway Island Productions, LLC All Rights Reserved. ミッドウェイ2019
以上、『ミッドウェイ』の感想でした。
Midway (2019) [Japanese Review] 『ミッドウェイ』考察・評価レビュー