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韓国ドラマ『善意の競争』感想(ネタバレ)…女女の生き残り学習

善意の競争

減点を回避して…ドラマシリーズ『善意の競争』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

英題:Friendly Rivalry
製作国:韓国(2025年)
シーズン1:2025年に各サービスで配信
監督:キム・テヒ
性暴力描写 イジメ描写 児童虐待描写 性描写 恋愛描写
善意の競争

ぜんいのきょうそう
『善意の競争』のポスター。4人の女子生徒が立つ姿を映したデザイン

『善意の競争』物語 簡単紹介

韓国の上位わずかなエリートが集う女子高校。そんな名門校に、地方の児童養護施設出身のウ・スルギが転校してくる。場違いゆえに初日から変な目でみられてしまうが、スルギにはこの学校で熾烈な競争を勝ち抜きながら、密かに画策していることがあった。それは幼い頃に生き別れてしまった父親を捜すこと。しかし、この学校のトップに立つひとりの女子生徒が近づいてきて、意外な出来事が起きる。
この記事は「シネマンドレイク」執筆による『善意の競争』の感想です。

『善意の競争』感想(ネタバレなし)

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女と女のフレンドリー・ライバルリー

日本では3月が卒業シーズンですが、お隣の韓国では日本よりも1か月一足先の2月であることが多いそうです。ひと月の違いとは言え、結構な違いな気もします。日本だったら「2月に卒業式をやります!」となったら四方八方からブーイングがきそうですね…。

でも、日本でも卒業式は和装の着物などを着るのが定番ですけども、韓国でも民族衣装を着るのがよくある風景になっていて、そういうところにお国柄がでつつ、似たような空気も感じますね。

今回紹介するドラマシリーズは、学校を舞台に、卒業シーズンに配信が始まったのですけども、ちょっと和やかな卒業の雰囲気ではいられないかもしれません。

それが本作『善意の競争』です。

いきなりの文句で申し訳ないですが、この邦題、私はあんまり好きじゃない…。英題の「Friendly Rivalry」からそのまま「フレンドリー・ライバルリー」じゃダメだったのか…。日本は韓国作品タイトルを無難な漢字熟語にしがちなのはやめたほうがいいと思うのです。『イカゲーム』がもし「逆転の遊戯」とかいう放題だったらダサかったでしょうに…。

それはさておき、本作『善意の競争』は学園青春モノ韓国ドラマです。

しかも、主演にアイドルグループ出身のキャスティングがなされていて、エンディング曲もアイドルソングだったりするので、わりとアイドル作品っぽさ(アイドルが主題になっているという意味ではなく、俳優がアイドル的に配置されて魅力を放っているという意味)があります。なおかつ、本作は女子高が舞台ですから余計に。

けれども中身はキラキラと青春が輝いているのとは程遠く…。

近年も韓国ドラマでは、『ピラミッドゲーム』(2024年)や『ヒエラルキー』(2024年)など、学内の生徒間の階級の熾烈な争いをテーマにしたサスペンスフルな青春学園モノが盛況ですが、この『善意の競争』もそのグループです。

舞台はエリート中のエリートの女子高校で、そこに地方の児童養護施設出身の主人公が転校してきて、当然ながら金持ちだらけのクラスメイトの中で浮いてしまいます。そんな世界でこの主人公は生き残れるのか…という女子の弱肉強食の争いがまず描かれます。その中でこの学校でトップに立つ才色兼備の女子が主人公に接近してきて…さあ、どうなるか…。

そして本作が少し変わっているのは物語は学内にとどまらず、ある出来事を理由にかなり大ごとな事態が主人公を含めた女子生徒に巻き起こります。このあたりはネタバレは控えますが、ほぼクライム・サスペンスのジャンルに足を踏み入れ始めます。そのため、学園ドラマを軸に期待をしないほうがいいと思います。

そういういろいろなハラハラドキドキを楽しめるのがこの『善意の競争』の面白さです。

『善意の競争』は原作があって、“ソン・チェユン”“シム・ジェヨン”のウェブトゥーンです。

主人公を演じるのは、ドラマ『車輪』(2022年~2023年)で望まない妊娠をした謎の少女を演じて大きく注目を集めた“チョン・スビン”。今作でも話題をさらに積み重ねたので、活躍が見逃せない若手のひとりとなりました。

その主人公と対になる学内トップのエリート女子を熱演するのは、アイドルグループ「Girl’s Day」のメンバーの“イ・ヘリ”です。2015年の『恋のスケッチ〜応答せよ1988〜』からドラマでの活動も目立ち、『九尾の狐とキケンな同居』(2021年)や『百人力執事 ~願い、かなえます~』(2022年)と仕事を重ねていましたが、少し間を開けての久しぶりのドラマでみられる“イ・ヘリ”となりましたね。相変わらずの存在感を放っており、今作のポジションも“イ・ヘリ”らしいパワーが炸裂していて主人公を食う勢いがあります。

他には、アイドルグループ「IZ*ONE」の元メンバーの“カン・ヘウォン”、ドラマ『NO WAY OUT:ザ・ルーレット』”オ・ウリ”、ドラマ『マイ・デーモン』“キム・テフン”、ボーイズグループ「GOT7」のメンバーの“ヨンジェ”など。

『善意の競争』は日本ではいくつかの動画配信サービスで扱われており、観れる機会は多いはずです。全16話(1話あたり約30分)なので、自分のペースで楽しんでください。

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『善意の競争』を観る前のQ&A

✔『善意の競争』の見どころ
★生き残りに全力を尽くす女子たちの駆け引き。
✔『善意の競争』の欠点
☆ガールズラブとしてはもう一歩踏み込んでほしかった。

鑑賞の案内チェック

基本 生々しい残酷なイジメの描写があります。親による児童虐待や性的関係の悪用などのシーンがある他、ドラッグ依存、摂食障害などの描写も含まれます。
キッズ 2.0
性行為の描写が一部に含まれます。
↓ここからネタバレが含まれます↓

『善意の競争』感想/考察(ネタバレあり)

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あらすじ(序盤)

ウ・スルギは幼い頃、存在感がありませんでした。あまりに無さすぎて他の子たちと外に遊びに連れられてもひとりだけ忘れられるほどでした。親もだから見放したのかもしれないと内心で思ってしまいます。地方の児童養護施設での暮らしは地味なもの。いつの間にか他の子たちは新たな保護者に巡り合えて引き取られ、自分だけがぽつんと残されます。

しかし、そんな過酷な環境で育ったことでスルギは不屈の精神を手に入れました。学校でどんなにイジメられようとも、どんなに貧しかろうとも、絶対にサバイバルしてみせるという意地だけで立っていました。

孤児たちが行きつく最下層の施設にまで落ちぶれたスルギでしたが、そこで不正な薬の入手行為に手を染めて小銭を稼いでいたとき、這い上がってみせるという闘志に燃え始めました。

そして猛勉強をし、学校の成績順位はみるみる上がっていきました。自分をバカにしていた同級生も敵わないほどに…。すると施設での待遇も良くなりました。学業で成功することで得られる力に気づいたスルギは、トップの成績を狙うようになり、集中するために薬に依存。誰もイジメもしてきません。勉強、勉強、薬、勉強、薬、勉強…。こうして地方でトップになったのでした。

こうしてスルギはソウル屈指の名門女子校であるチェファ女子高校に転校し、引っ越しました。ここはエリート中のエリートが通う場です。

スルギにはもうひとつの目的がありました。父親との再会を願っていたのです。ここにいるらしいと情報を手にしたのですが、すでに父親だと信じていた教師が最近になって亡くなっていたことを知ります。

がっかりする中、入学説明会の式で、この学校でトップに立つユ・ジェイを目にします。彼女は英語でスピーチし、困っている高齢者に躊躇いなくカネを渡しており、只者ではない雰囲気。誰もがこのユ・ジェイを称賛の眼差しを向けていました。最先端の学校設備と歴史実績を紹介する彼女もまたこの学校の象徴だったのです。

遅れて教室に入って後ろの席に座るスルギ。隣は空いています。

そのとき、ユ・ジェイが入ってきて、同じクラスだとわかりました。他にいくらでも席はあったのですが、なぜかジェイはスルギの隣に座ることを選びます。ジェイに憧れる他の子たちには衝撃の出来事でした。見知らぬ転校生にどうして…。

さらにジェイはなぜかスルギの手を引き、一緒に昼食へ連れていってくれます。

廊下を歩く2人をみんなが驚いて見つめ…。

この『善意の競争』のあらすじは「シネマンドレイク」によってオリジナルで書かれました。内容は2025/04/20に更新されています。
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システムを出し抜くしかない女子たち

ここから『善意の競争』のネタバレありの感想本文です。

ドラマ『善意の競争』は、完全によそ者扱いの主人公女子が転校をきっかけに自分の縄張りではない学校で生存しようと奮闘し、かつその学校の頂点に立つ女子と親しくなっていくという…この導入だけをみると、『ミーン・ガールズ』の系列です。

しかし、本作のチェファ女子高校のクイーンであるユ・ジェイは、とてもミステリアスで本心が読めず、この「ジェイは敵か味方か」というサスペンスが最終話まで引っ張られます。

そのサスペンスの鍵を握るのがジェイの父ユ・テジュンで、中盤にかけて徐々に明らかになるように、この男は本作の最大にして根源的なヴィランです。

ユ・テジュンは自身の娘であるジェイとジェナの姉妹を私利私欲で巧みにコントロールしており、自身が経営する大病院とチェファ女子高校とのパイプを活かして権力圏を構築しています。医療界に住み着くサイコパスな性質といい、保守的なキリスト教を出自とする過去といい、極めて韓国らしいエリート系のヴィランのキャラ作りになっています。

その父親に対して娘のジェイは、同質的なコントロール・フリークな本質を持っているのか、それとも被害者で反逆を試みようとしているのか…。これは血縁主義(悪の子は悪なのか)をどう捉えるかという話にもなってきます。

作中ではジェイの危うさがあちこちで示唆され、視聴者を不安にさせます。スルギを監視しているし、手術への才もあるし、何より薬の校内蔓延の黒幕として女子たちを依存の力で引き込んでいるし…。

まあ、最終的にジェイが父と同じ道を歩まずに歯向かって脱していくというオチは、予定調和的にじゅうぶん予想がつくものでしたけども。

このジェイとユ・テジュンの娘父の関係性のドラマはちょっと単純すぎて面白味に欠けるのですが、本作がそこに深みを加えているのは、他の女子たちが複雑に絡んでいく展開です。

そもそも女性差別的なこの韓国社会で「女」に生まれた子どもたちは必然的にそこで生存するべく過酷な競争を強いられます。あのチェファ女子高校に所属する女子たちも、それぞれのサバイバルに臨んでいるわけです(そのやりかたが正しいかどうかは別にして)。

そうなってくると前提として最初からフェアではないこの世界では、そのシステムを出し抜いたほうが勝ち上がれます。ジェイやジェナはシステムを出し抜く(試験を勝ち抜く)方法として、薬と試験問題流出に密接に関わり、ジェイは生き残るも、ジェナはスルギの父と性関係を持つまでに踏み込みすぎて破滅してしまいます。

結果、ジェイがシステムを出し抜ける頂点になったわけですが、そのジェイが今度はシステム側となり、そのジェイを出し抜きたい女子たちが現れます。それがまさにチェ・ギョンチュ・イェリ、そしてスルギのような女子です。

万年2位で美貌がないゆえにルッキズムで負けるという屈辱を内に秘めるギョン。母の背中をみて覚えた他人の弱みを握って優位に立つという戦略を駆使するイェリ。全くの持たざる者の状態からここまで独力で這い上がってきた根性一筋のスルギ。

これら女子たちは互いを競争相手として「敵」とみなしますが、大本の巨大なシステム(男社会)に苦しめられているという意味では「同類(友)」です。なので本作は、ジェイ、スルギ、ギョン、イェリがいわゆるフレネミーな関係を醸し出していきます。

『善意の競争』はそういう現実社会を背景にした一筋縄ではいかない女子たちのヒリヒリした関係性が見ごたえがありました。

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ガールズラブは満点とは…

『善意の競争』の全体的な残念ポイントとしては、話数の多い韓国ドラマにありがちなことですけども、展開が終盤で急いで解決している感じになっているところですかね。

ジェイの父親の悪行と、ジェイとスルギの亀裂をもっと中盤あたりで大きく描いて、残りの後半でじっくりと反逆のターンを描いてほしかったなとは思いました。

各生徒の問題が最終話最後の10分でなんとか改善の方向に丸く収めてはいましたが、正直、「良い方向になったのか?」と首をかしげたくなる部分もあったし…。ギョンが女子の性欲を素直に描くキャラクターとなっているのは良かったですけども、彼女の中にある「1番手にならなければ」という固執はあまり解消されていないです。イェリも摂食障害を抱えていると示唆するシーンもあったわりには、彼女自身の有害なライフスタイルを緩和していく流れには乏しい幕引きでした。

そして、スルギとジェイの関係性のもうひとつの面になっているようでなっていないようでもある「ガールズラブ(GL)」的な雰囲気の件。第4話で、スルギはジェイとお泊りするのですが、ジェイが目の前で普通に着替える姿に目をそらすスルギに始まり、極めつけはスルギが“お風呂(泡)でジェイと裸でキスを夢中でする”夢をみるというシーンが続きます。

結構長めでしっかりキスするのですが、このスルギのセクシュアリティの目覚めを予感させる演出を描かれるものの、以降は最後まで進展はありません(愛らしい雰囲気のシーンはあるけど)。「Bait-and-Switch Lesbians」の典型のようになってしまっています。

韓国はアイドルのMVとかでも若い女性同士の恋愛的仕草を取り入れて、それがクィアベイティングだと批判されることもしばしばあるので、アイドル表象のベタな感じにとどまったなとは思いました。

もし後半にかけてスルギがジェイと恋愛関係を構築するというアプローチで、それがスルギにとってのジェイを引き戻す武器になっていけば、別の新鮮な駆け引きが加わって面白さも増したのでは?とも思ったり。このへんはドラマ『愛をこめて、キティより』のほうが日和ることもなく上手くやっていた気がします。

映画ですが女子同士の恋愛を真正面から描いている『私たちは天国には行けないけど、愛することはできる』のような韓国作品も今は少しずつでてきているのだし…。

あと薬の描写。本作は若者たちの間で広まる「集中できる」薬(スマートドラッグ)の問題性を描いてはいるのですが、いかんせんその描き方が妙に視覚的にスタイリッシュに描いている(水中の演出)せいで、逆に薬を魅力的に伝えてしまっているんじゃないかと心配にはなりました。

そんな感じで惜しい減点も多い『善意の競争』でした。

『善意の競争』
シネマンドレイクの個人的評価
6.0
LGBTQレプリゼンテーション評価
?(匂わせ)

作品ポスター・画像 (C)STUDIO X+U All Rights Reserved フレンドリーライバルリー

以上、『善意の競争』の感想でした。

Friendly Rivalry (2025) [Japanese Review] 『善意の競争』考察・評価レビュー
#韓国ドラマ #女子高校生 #学校 #受験 #医療 #ドラッグ依存 #父親 #摂食障害