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『ドント・ウォーリー・ダーリン』感想(ネタバレ)…ネタバレはサランラップの刑です

ドント・ウォーリー・ダーリン

ネタバレはサランラップの刑です…映画『ドント・ウォーリー・ダーリン』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:Don’t Worry Darling
製作国:アメリカ(2022年)
日本公開日:2022年11月11日
監督:オリヴィア・ワイルド
性描写 恋愛描写

ドント・ウォーリー・ダーリン

どんとうぉーりーだーりん
ドント・ウォーリー・ダーリン

『ドント・ウォーリー・ダーリン』あらすじ

完璧な生活を満喫する夫婦が集う住宅街のコミュニティ。ここで夫のジャックと幸せな日々を送るアリスは、ステキな夫が仕事に出かけるのを見送り、日中は家事をテキパキとこなし、隣人の奥様方と談笑し、帰って来た夫を熱いキスで出迎える。しかし、ある日、隣人の奇妙な光景を目撃する。それ以降、彼女の周囲では不可解な出来事が続発。次第に精神が不安定となり周囲からも心配されるアリスだったが…。

『ドント・ウォーリー・ダーリン』感想(ネタバレなし)

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ネタバレせずに何を語れと!

家事は労働として扱われていない現実を思い知らされる日本の報道がありました。

ある女性が家事代行の仕事で長時間労働をした結果、急死するという痛ましい事件が発生。しかし、労働基準監督署は労災を認めず、遺族と支援者らは2022年11月、女性の労災認定と労働基準法の改正を求め、署名と要望書を厚生労働省の担当者に提出しました。

この社会は特定の行動を「労働とみなさない」ことでその行動の価値を貶めるという常套手段をよく使ってきます。その対象とされるのは、家事であったり、性産業であったり、ボランティアであったり、学問であったり…。とにかく労働とみなさないということはすなわち搾取であり、従事者の権利なんてどうでもいいということです。

ことさら家事というのはたいていの人にとって生活に欠かせないものであるにもかかわらず、その価値は不当に過小評価され、さらに家事はもっぱら女性に偏向して割り当てられてきました

今もそのおぞましい社会構造は少なくとも日本では残存しており、その歪んだ構造のしぶとさには辟易させられます。

今回紹介する映画はそんな理不尽を日々実感している人ほど腑に落ちる作品かもしれません。

それが本作『ドント・ウォーリー・ダーリン』です。

『ドント・ウォーリー・ダーリン』は…その…この映画、ものすっごくネタバレ厳禁なタイプで…。何から説明したらいいものか…。言葉選びが慎重になってしまう…。ネタバレしようと思えば、結構あっさり核心的なオチの部分をネタバレできちゃう映画なので(そしてこのオチで全てが成り立っている)、むやみに映画のことを検索して調べない方がいいです。

本作は、とある夫婦の物語で、この夫婦は仲睦まじくラブラブに暮らしています。そして“何か”が起こる。はい、以上です。全然わからない紹介のしかただな…。

まあ、テーマ的な部分を先に言及してしまうなら、それこそ恋愛伴侶規範やジェンダーロールなどへの風刺であり、非常にフェミニズムな視点で作品を構築しています。それは見始めればすぐに「あれ?」と違和感として気づく話なんですけどね。真っ当な倫理観さえあれば…。

この『ドント・ウォーリー・ダーリン』を監督したのは、俳優としてキャリアを重ねてきた身ながら、2019年に『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』で映画監督デビューを果たし、それが批評家から大絶賛されて華々しく監督キャリアを飾った“オリヴィア・ワイルド”です。

当然、その“オリヴィア・ワイルド”監督ですから、次はどんな映画を手がけるんだと注目が集まっていましたが、こうきたか…。というかこのタイプのジャンルもいけるんですね。こういう挑戦的なスタイル、私は好きですけど、監督キャリアとしては大冒険だろうな…。でも自由奔放でいいんじゃないかな。

脚本も『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』と同じく“ケイティ・シルバーマン”です。

物語面に言及しづらいので、俳優の話をしましょう。

俳優陣も豪華で話題性抜群。まず主人公を演じるのは『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』『ブラック・ウィドウ』でも活躍を重ねる“フローレンス・ピュー”。今回も印象に刻まれるでしょう。『ミッドサマー』を彷彿とさせる、踏んだり蹴ったりな目に遭う“フローレンス・ピュー”が見られますよ。

そしてその“フローレンス・ピュー”演じる主人公の夫を演じるのは、アイドルとして世界を熱狂させている“ハリー・スタイルズ”。2022年は俳優としての本格的な活躍が目立ち、『僕の巡査』という『ドント・ウォーリー・ダーリン』とは似てるようで対極的な映画でも主演しているのでそちらも注目です。

他には、『オールド・ナイブス』の“クリス・パイン”、『エターナルズ』の“ジェンマ・チャン”、『オールド・ガード』の“キキ・レイン”など。監督の“オリヴィア・ワイルド”も出演しています。

もう一度繰り返しますけど、ネタバレはダメなタイプの映画ですからね。先に感想を見てから映画を観るか判断しよう…なんて思っているとネタバレをくらって新鮮な衝撃が半減します。俳優とか監督が気になるなら、もう観たらいいです。映画が合うか合わないかは二の次です(ただでさえこの映画は好みがわれそうなジャンルだし…)。

以下の後半の感想からはこちらでもネタバレするので注意してください。

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『ドント・ウォーリー・ダーリン』を観る前のQ&A

✔『ドント・ウォーリー・ダーリン』の見どころ
★豪華な俳優たちのアンサンブル。
★恋愛伴侶規範やジェンダーロールへの風刺が効いた仕掛け。
✔『ドント・ウォーリー・ダーリン』の欠点
☆ジャンルとしてのオチ自体に評価は分かれやすい。

オススメ度のチェック

ひとり 3.5:好きな人は楽しい
友人 3.5:話題性はある
恋人 3.0:やや気まずいかも
キッズ 3.0:性描写あり
↓ここからネタバレが含まれます↓

『ドント・ウォーリー・ダーリン』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):私たちの世界だ!?

家でパーティーに興じて、ハシャぐ男女。女性たちは頭にグラスを乗せて、男たちは囃し立てます。ここはディーンとバニーの家で、近所の夫婦たちが集まって、よく愉快な時間を過ごしているのでした。

その中にいる若い夫婦のアリスジャックもキスして楽しいひとときを満喫。2人は外へ繰り出し、車で円を描きながら爆走します。

翌日、アリスは朝食を用意。ジャックは後ろから抱きしめます。そのとき、急に家が少し揺れ始めますが、いつものことで気にしません。ジャックは身なりのいいスーツを着て、出勤します。

外に出ればお隣さんもみな同じ。小綺麗な妻は夫を愛おしそうに見送り、夫はピカピカの車で出ていく…。その多くの車は砂漠を疾走していき…。

残った妻たちは家事に勤しみます。それがひと段落すると、妻たちは住宅地を一周するトロッコバスに乗って、このコミュニティを管理するフランクの妻シェリーが経営するダンス教室に通います。

それが終わって家に帰って洗濯物をしまうアリス。ふと隣の家の敷地に立つマーガレットに気づきます。何やら飛行機のオモチャを握りしめて目を閉じています。

また、家で料理をしていると卵に違和感を感じ、手で握りつぶすと中に何もありません。黄身も白身さえもない。全部の卵がそうなっているのは説明がつきませんが、アリスにはそれ以上判断のしようもありませんでした。

ジャックが帰ってきて、キスで出迎えるアリス。2人はダイニングのテーブルで体を重ねます。

次の日、プールで他の妻たちと談笑していると、アリスは謎の映像が頭をよぎるような感覚に襲われます。前もこんなことがあったような…。

引っ越してきたビルとヴァイオレットを歓迎するパーティーがフランクとシェリーの家で開かれ、シェリーはみんなの前で語りだします。ところが、マーガレットは「ここにいるべきではない」と呟き、場の雰囲気が固まります。夫のテッドは彼女の腕を引っ張っていき、場から消えます。

その後に何事もなかったかのようにフランクは自信満々に演説し、コミュニティの結束を鼓舞するかのごとく雄弁でした。

家で休んでいるマーガレットが「私は悪い夢を見ている」と真顔で口にする姿をアリスは目撃します。明らかに異変を感じますが、周りはそんな彼女を異常者として話のネタにするだけです。

また、ある日、アリスがトロッコバスに乗っていると、軽飛行機がこのコミュニティの本部があるとされる山の中腹に墜落するのを目撃。運転手に止めさせますが、見ていないらしく、道を逸れることはできないとバスの進路変更を拒否。しょうがないのでアリスは降りて歩き、様子を見に行きます。

ひたすら歩くと、そこに飛行機はなく、謎の半球建造物とその中に多面に並ぶ鏡がありました。ゆっくり近づき、その鏡に触れてみると…。

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これはあのジャンルの最新版

はい、ネタバレします。映画は観ましたね。観てないならサランラップでぐるぐる巻きにしますよ。

『ドント・ウォーリー・ダーリン』は冒頭から違和感の連続。サブアーバンな高級住宅街風に見えるコミュニティで、これまたあからさまな過度に理想的な美男美女の夫婦が暮らしている…。

でもあまりにも浮きでている世界観。コミュニティの外は一切描かれず、夫たちはなぜか砂漠に車を突っ走ってどこかへ消えるし…。何よりもどの夫婦もコテコテなジェンダーロールでしか振舞っていない。これはなんなのか…。

結論、というかオチ。本作のこのビクトリープロジェクトというコミュニティは、これ自体が全部バーチャルな仮想空間でした。特定の機器を装着することで、この現実と見間違うような仮想世界にログインできます。そして現実のアリスは看護師としてせっせと働き、ジャックは仕事無しで、愛も冷めた関係でしたが、その状況に業を煮やしたジャックがアリスを勝手に機器で仮想世界に送り込み、まるでこれが現実であるかのように騙して「嘘の夫婦」をロールプレイしていた…というのが真相です。

まさに男性側のジェンダーロールへの歪んだ願望が最悪のかたちでテクノロジーによって実現してしまった世界。妻は、家事をする存在で、夫を愛でる存在であればいい…そんな価値観のもと、女性の“労働”は労働ではなくなり、バーチャルに消費される…。

かなりゾっとする真相です。目を覆う装置に接続したアリスの姿は痛々しい…。

このSF的な仕掛け。設定としてはそこまで目新しいものではありません。

最近だとやはりドラマ『ワンダヴィジョン』を連想する人が多いかもしれません。アメリカの典型的なサブアーバン・ファミリー空間が実は虚構であった…というSF的な構図を持つ作品ならば、『トゥルーマン・ショー』(1998年)や『カラー・オブ・ハート』(1998年)も同じです。舞台は違いますけど、テクノロジーによって現実と瓜二つの世界が構築されていて、そこに無自覚に囚われているものが脱する物語であるならば、『フリーガイ』やドラマ『ウエストワールド』なども同一ですね。

一方で『ドント・ウォーリー・ダーリン』は「妻」という立場が強調される仕掛けであり、その点では『ステップフォード・ワイフ』も思い浮かべるところ。

つまり『ドント・ウォーリー・ダーリン』はハリウッドの虚構ファミリーSFの2022年最新版というポジションと言えます。

なんでもあのビクトリープロジェクトの中心に立つフランクという男は、監督いわく、インセル・コミュニティで支持される論者の“ジョーダン・ピーターソン”を基にしているそうです。本作はインセル批評を土台にしているんですね。

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酷い目に遭うフローレンス・ピュー鑑賞会

なので『ドント・ウォーリー・ダーリン』は既存のジャンルを知っている人からすればそんなに斬新な映画ではありません。

ただ、“オリヴィア・ワイルド”監督らしく、非常にゴージャスな映像と俳優のアンサンブルで披露しており、なかなか見られなかったようなこのジャンルの贅沢な使い方をしているため、そこは見ごたえがあります。

とくにアリスを演じた“フローレンス・ピュー”。当初は“オリヴィア・ワイルド”自身が主人公を演じるつもりだったそうですが、『ミッドサマー』の熱演を見て“フローレンス・ピュー”を抜擢したという、そのキャスティングは大正解。なんだろう、“フローレンス・ピュー”って酷い目に遭う姿が似合っていますよね(褒めてなさそうに見える文章)。

今作でも、窓ふき中に壁と窓に潰されそうになったり、本当に唐突に自分の頭をサランラップで巻き始めたり、視覚映像で混乱っぷりを表現している中に“フローレンス・ピュー”渾身の体を張った要素も挟まれる。個人的には申し訳ないけどもっと見たいと思ってしまうくらいに“フローレンス・ピュー”が楽しい…。最後の全力で山場を走っていく疾走感も良かったです。キラキラとか健気さゼロで「こっちは死ぬ気でやってるんだ!」という切羽詰まった感じで疾走する女性って、私は好きかもしれない…。

一方で映画単体として見るなら少し盛り上がりに欠けるというか、この一本で描き切るにはもったいない世界観のような気もしてきます。

これだったらドラマシリーズでじっくり見せる方が良いかも…。これがシーズン1の最終話だったら絶対に盛り上がりましたね。この後どうなるんだ!というクリフハンガーとしては最高ですよ。毎話“フローレンス・ピュー”を応援したくなるし、今度は夫が別人に変わったりして、視聴者をいくらでも翻弄できるポテンシャルを持った世界観だと思います。

風呂敷を広げすぎる世界観だとせっかく良質でもなんだか持て余して終わってしまう感じがするんですよね。『ドント・ウォーリー・ダーリン』も『セヴェランス』みたいに継続前提で物語を構築した方がいいタイプの作品なのは間違いないのではないでしょうか。

“ジェンマ・チャン”演じるシェリーとか、他の女性キャラクターのバックグラウンドももっと知りたくなりますしね。ちょっと最後は急ぎ足だったかな。

『ラストナイト・イン・ソーホー』など同じくサプライズ系のフェミニズム・ホラーと比べると、『ドント・ウォーリー・ダーリン』は直接的な暴力を素材にしていないぶん、メンタル的な見やすさは確保されています(それでも作中で行われていることは残酷だけど)。

このジャンルの入門的な一作として紹介しやすいかもしれませんね。

『ドント・ウォーリー・ダーリン』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 39% Audience 74%
IMDb
6.2 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
6.0

作品ポスター・画像 (C)2022 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved ドントウォーリーダーリン』

以上、『ドント・ウォーリー・ダーリン』の感想でした。

Don’t Worry Darling (2022) [Japanese Review] 『ドント・ウォーリー・ダーリン』考察・評価レビュー