ドゥニ・ヴィルヌーヴ版がついに降臨…映画『DUNE デューン 砂の惑星』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2021年)
日本公開日:2021年10月15日
監督:ドゥニ・ヴィルヌーヴ
DUNE デューン 砂の惑星
でゅーん すなのわくせい
『DUNE デューン 砂の惑星』あらすじ
人類が地球以外の惑星に移住し、宇宙帝国を築いていた西暦1万190年、1つの惑星を1つの大領家が治める厳格な身分制度が敷かれる中、レト・アトレイデス公爵は通称デューンと呼ばれる砂漠の惑星アラキスを治めることになった。アラキスは抗老化作用を持つ香料メランジの唯一の生産地であるため、アトレイデス家に莫大な利益をもたらすはずだった。しかし、デューンに乗り込んだレト公爵の家族を待っていたのは陰謀だった。
『DUNE デューン 砂の惑星』感想(ネタバレなし)
ドゥニ・ヴィルヌーヴのDUNE、私のDUNE
私が2021年で一番に楽しみにしていた映画のひとつ。やっと公開されました。
ということでさっそく本作『DUNE デューン 砂の惑星』の話。
でもどうなのでしょうか。この『DUNE デューン 砂の惑星』の期待度ってその人それぞれで色が違ってくると思うのです。『ボーダーライン』『メッセージ』『ブレードランナー2049』など今やアカデミー賞常連の“ドゥニ・ヴィルヌーヴ”監督の最新作ということで期待している人もいれば、現在人気絶好調の若手である“ティモシー・シャラメ”主演作であり他にも多数の著名俳優が顔を揃えるということで期待している人もいるでしょうし、ただなんとなく壮大なスケールのSF映画らしいなと漠然と予告動画を観て惹かれた人もいるはず。
けれども私みたいなSFオタクの人は「Dune」のことになるとちょっと煩いですし、ザワつくのです。なぜならこの「Dune」はSF史において特別な作品だからです。
私なんぞが「Dune」を語るのもおこがましいですが、一応「Dune?なにそれ?」という初心者のために簡単に説明すると、これはアメリカの作家“フランク・ハーバート”によるSF小説のシリーズであり、初出は1963年、1作目の出版は1965年。この小説「Dune」はジャンルの古典的名作とされており、後世のさまざな作品(『スター・ウォーズ』から『風の谷のナウシカ』まで)に多大な影響を与えた、まさしく始まりの一作でした。だからSFファンの間ではすごく神聖視されているんですね。
物語自体は壮大な大河ドラマになっており、何千年ものスケールで展開していきます。ある惑星を舞台にした宇宙規模の勢力争いが描かれ、同時に政治と宗教、さらには民族学や生態学の視点まで組み込むという学際的なSFの在り方を確立しました。当時はこういうエコロジーな視点も珍しかったです。
そんな小説「Dune」ですがこれまで映像化の試みも多数あったのですが失敗の連続。例えば、“アレハンドロ・ホドロフスキー”監督が無謀な企画を立ち上げようとして雲散霧消していったのはドキュメンタリー『ホドロフスキーのDUNE』でまとまっているので有名な話(あれはかなり極端なアイディアでしたけどね)。その後に“デイヴィッド・リンチ”監督が1984年に『デューン/砂の惑星』で劇場公開…でもこちらは興行的にも批評的にも惨敗。そして2000年と2003年にはテレビドラマシリーズで展開され、こちらはボリュームもありました。
とにかく映像化が難しいのですよね、「Dune」…。予算的にも大変でしょうし、物語も今となってはクラシカルすぎるのが難易度を上げるし…。
そんな中で2021年に爆誕した“ドゥニ・ヴィルヌーヴ”監督版の『DUNE デューン 砂の惑星』。確かに“ドゥニ・ヴィルヌーヴ”なら最も手堅く原作に忠実に映像化するだろうという期待はあります。私は出来うんぬんよりも2021年に『DUNE デューン 砂の惑星』をスクリーンで観れただけで幸せで感無量です。人によっては他の監督作や企画と比較したがるかもしれないですが、私の中では「Dune」は信仰みたいなものなので個人個人の想いの詰まった「私のDune」が存在すると思っているので、そんな比較論は邪道にしか思えず…。
退屈で眠くなる人がいるのも当然で、「Dune」は架空の歴史書みたいなものですからね。歴史を大スクリーンで観るのと同じです。
そんな「Dune」を知っている人も知らない人も、2021年は『DUNE デューン 砂の惑星』で一緒の体験ができる。私は「Dune」初心者が映画を観て「なんだこれ…」って顔をしているのを横にニヤニヤしながら見ています。
155分の大ボリューム、堪能してください。
『DUNE デューン 砂の惑星』を観る前のQ&A
A:いくつか専門用語が登場しますので以下に解説しておきます。
【世界観】
舞台は西暦10000年以上の遠い未来で、人工知能の反乱で既存の人間文明は崩壊。現在の人類は特異な精神文明を築き、宇宙レベルで権力争いをしている…というのが世界の基本設定です。
【宇宙帝国】
長きにわたって宇宙の人類を支配する統一政体。各惑星あるいは恒星系を統治する「公家」などからなる厳密な階級区分による封建制を土台にしており、各公家は争っている。
【サーダカー】
皇帝直属の親衛隊。圧倒的な軍事力を持つ。
【アトレイデス家】
公家のひとつ。惑星「カラダン」を統治しており、由緒ある血統で人気も高い。主人公のポールはこのアトレイデス家の後継者。
【ハルコンネン家】
公家のひとつ。惑星「ジエディ・プライム」を統治しており、暴虐的。みんな暗い顔をしている。当主のウラディーミル男爵は極度の肥満ゆえに反重力装置で浮いている。
【ベネ・ゲセリット】
女系を重視する女子修道会で、他人を声で操れる「ボイス」など特殊な能力を持つ。「教母」と呼ばれる者が特に力を持ち、敬われている。「クウィサッツ・ハデラック」という未来を予視できる救世主を生もうとしている。
【惑星アラキス】
別名「デューン」。砂だけの過酷な環境の星。
【メランジ】
惑星アラキスだけで唯一採取できるスパイス。抗老化作用の他に特殊な能力を開花できる効果もあるので、みんなが欲しがっている。砂虫(サンドワーム)が成長過程で産出する。
【フレメン】
惑星アラキスの先住民。独自の言語・文化がある。メランジの作用で目が青い。いつの日か外世界から救世主が現れることを信じている。
【砂虫(サンドワーム)】
本作を象徴する生物。惑星アラキスに生息する巨大な芋虫のような生き物で、全てを飲み込む。フレメンは「シャイ=フルード」と呼んで崇拝している。
オススメ度のチェック
ひとり | :2021年の必見作 |
友人 | :趣味の合う者同士で |
恋人 | :興味があるなら |
キッズ | :SFが好きなら |
『DUNE デューン 砂の惑星』感想(ネタバレあり)
あらすじ(前半):砂の惑星へ
惑星カラダンを統治するアトレイデス家は帝国より惑星アラキスの管理を命ぜられます。この惑星アラキスを以前に支配していたのはハルコンネン家でしたがそのあまりの残虐非道が問題視され、この度、支持も高いアトレイデス家に役目が回ってきたのです。惑星アラキスは砂ばかりの環境ですが、そこでのみ採取できるスパイスであるメランジは貴重なものであり、莫大な富をもたらします。
アトレイデス家の公爵のレトはさっそくダンカン・アイダホを始めとする先遣隊を送り、準備を開始。レトは帝国の狙いもわかっていました。アトレイデ家とハルコネン家の因縁を利用してわざと対立を煽るつもりだと。間違いなく危険が待っています。
一方、アトレイデス家の息子で後継者のポールは奇妙な夢を見ていました。その夢には惑星アラキスの先住民であるフレメンと思われる少女がよく登場します。母のジェシカに打ち明けると、女性のみで結成された秘密結社ベネ・ゲゼリットの教母に呼び出され、苦痛に耐えるテストを受けさせられます。その試練に耐えられたのは、日々能力を教えてくれた母のおかげなのか。母はベネ・ゲゼリットのメンバーであり、本来は女の子を産むことを期待されていましたが、父のために男の子の自分を愛してくれました。ポールはそんな母の妊娠に気づきます。
いよいよ惑星アラキスに向かう日です。その砂風が吹き荒れる地に降り立つと、大勢の群衆が騒いでいるのが見えます。一部の先住民は信仰している救世主の到来だと考えているようです。
現地で先に準備をしていたスフィル・ハワトいわく、ハルコンネン家が撤退した後の設備は古く、相当に今後も大変であるとのこと。早くメランジを安定採取しないといけません。
ところがポールは謎の刺客に命を狙われ、さらに不穏な動きが…。
エコロジカルな私の評価ポイント
『DUNE デューン 砂の惑星』、これぞ「Dune」の映像化だ!という迫力と気合がありました。変な奇をてらったアプローチをせず、真正面から突き通す感じというか。過度にエンタメに頼らないあたりは“ドゥニ・ヴィルヌーヴ”監督らしさであり、それゆえに一般ウケからは遠ざかるのですけどね…。
「Dune」と言えば「砂」。砂がないと始まりません。砂の惑星ですから。今作では砂をとことん大盛りしており、スクリーンから砂が溢れてきそうな息苦しささえあります。もちろんこれは単なる背景ではなく、物語上もとても重要なのですが、あまり深く言及すると今後のネタバレになりそうなので口を閉じておきます。
その砂を統べる真の統治者。それが砂虫ことサンドワームです。今作のサンドワームの存在感は完璧でした。“ドゥニ・ヴィルヌーヴ”監督は『メッセージ』でもそうでしたが、人間とコミュニケーションできるかできないかのギリギリの得体の知れなさの存在感を具現化するのが上手いですね。本作のサンドワームは神のような超越的存在でもあるのですが、しっかり生物です。あの砂の惑星の生態系を構築している上位種です。その野生生物らしさを忘れずに、かといって人間に消費されるような愛玩さをださないようなバランスにとどめる。この仕上がりは見事。
生態系と言えば、アトレイデス家が使用する航空機はトンボみたいに4つの翼を高速でパタパタさせる仕組みになっており、これも映像的にはあの砂の惑星を構成するひとつの生物に見えてきて、エコロジカルなビジュアルを提供してくれます。
『DUNE デューン 砂の惑星』は人間同士の醜い権力争いと植民地支配の物語ではあるのですが、より大きなスケールで言えば、自然破壊をテーマにもしています。自然を搾取するという意味では人間の所属などの大小関係なく、大いなる自然からすればちっぽけな存在にすぎない。自然のサイクルから恵みを得て、生かされているだけであるという話。小説「Dune」の生まれた1960年代は「ガイア理論」が提唱された年代でもありますから、そのへんも重なります。まあ、この側面は今作ではまだそこまで深く突っ込んいなかったですが…。
『ブレードランナー 2049』でも環境問題をさりげなく背景で描いていましたし、“ドゥニ・ヴィルヌーヴ”監督はそこも気配りはできる人ですね。
本作は人工知能の反乱で機械文明が衰退しており、言わば人類の歴史は逆行し始めているわけです。結果、人類が自然との一体的な共生という原点に帰ろうとする、いや帰ることはできるのか?という問いかけは本作の大事な部分でしょう。
またパート1だから…
2021年の『DUNE デューン 砂の惑星』は全体的には非常に原作に忠実です。でも違うところもあって、“ドゥニ・ヴィルヌーヴ”監督らしい解釈が加えられたりしています。
本作のタイトル文字は印象的な形をしていると思ったのではないでしょうか。「ᑐ ᑌ ᑎ ᑢ」みたいな。これはカナダ先住民文字にとてもよく似ており、たぶん意識したのではないかな。“ドゥニ・ヴィルヌーヴ”監督はカナダ人なので自国の先住民のエッセンスを作品に込めたのでしょう。
本作は先住民との交流を描く物語です。他所から来たものが先住民と触れ合い、世界の運命を変えていくという物語のフォーマットはその後も『アバター』などにマネされています。
原作はイスラム文化の影響を強く感じさせます。今作ではそこまでイスラムっぽさを強調しないように抑えていたと思いますが(これはステレオタイプの助長を避けるためか、もしくは白人救世主的な貴種流離譚の構図を回避するためなのかな)。ちなみにハルコンネン家は今作では全員が坊主頭になっていて(というか全身脱毛症とかなのか)、サーダカーは侍の動きも参考にしているそうなので、総合的に見ると仏教っぽくなっていましたね。それにしてもウラディミール・ハルコンネン男爵を演じた“ステラン・スカルスガルド”、今回も怪演だったなぁ…。
逆にアトレイデス家の男性陣はやたらとフェティシズム全開でセクシーに描かれていましたね。あれだとアトレイデス家は血縁とかではなくてセクシーだから人気だったんじゃないかと疑いたくなる…。
『DUNE デューン 砂の惑星』だけを観るとポストコロニアリズムと言い切るには弱いと思いますし、そもそもが古い作品なのであまり現代社会にクリティカルヒットする鋭利さは持っていません。
正直、そのあたりは今後の展開しだいだと思います。“ドゥニ・ヴィルヌーヴ”監督はあまり大幅なアレンジとかしなさそうですが…。
そう、この『DUNE デューン 砂の惑星』はまだ「パート1」。“ドゥニ・ヴィルヌーヴ”監督的には二部作だと以前から言ってましたが、なんか3作目も考えているとのことで、続編含めて終わりは見えません。スピンオフの企画もあるようですし…。
原作はすごく膨大で、その気になれば今回のような2時間半の大作映画を10本以上は作れるでしょう。問題はそれだけの予算が続くのかという点と、観客を惹きつけられるかということ。やっぱりマニアックすぎますからね。通好みに特化しているから…。
「Dune」をもっと一般観客にウケやすいようにアレンジすればいいんだ…って言っても、エンタメ満載でヒロイックな物語に改変したのが『スター・ウォーズ』なので…。
『DUNE デューン 砂の惑星』がサンドワームに飲まれる前にこの勢いでどんどん映像化してくれると、少なくともオタクな私は喜ぶけど…。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 89% Audience –%
IMDb
8.4 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
作品ポスター・画像 (C)2020 Legendary and Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved
以上、『DUNE デューン 砂の惑星』の感想でした。
Dune: Part One (2021) [Japanese Review] 『DUNE デューン 砂の惑星』考察・評価レビュー