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ドラマ『アップロード デジタルなあの世へようこそ』感想(ネタバレ)…永久課金人生は嫌だ!

アップロード デジタルなあの世へようこそ

永久課金人生は嫌だ!…ドラマシリーズ『アップロード デジタルなあの世へようこそ』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:Upload
製作国:アメリカ(2020年)
シーズン1:2020年にAmazonで配信
シーズン2:2022年にAmazonで配信
製作総指揮:グレッグ・ダニエルズ ほか
性描写 恋愛描写

アップロード デジタルなあの世へようこそ

あっぷろーど でじたるなあのよへようこそ
アップロード デジタルなあの世へようこそ

『アップロード デジタルなあの世へようこそ』あらすじ

2033年。死が目前に迫った人々は仮想現実の世界に「アップロード」することが可能になり、そこで第二の人生を歩むという選択肢が生まれた。ある日、ネイサンというプログラマーの男がアップロードされる。顧客サービススタッフのノラはいつものように業務にあたっていくが、ネイサンの死には不可解な秘密が隠されていた。

『アップロード デジタルなあの世へようこそ』感想(ネタバレなし)

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さあ、あなたならどうする?

はあ~、こんな現実世界はもううんざり…どうせならバーチャルな世界にずっと浸っていたい…。

そんなふうに考えてしまうのも無理はないほどに嫌な情勢が目につく昨今。現代の私たちにとってデジタルな世界はスマホで簡単にアクセスできるので、格好の逃げ場になってくれます。1日の大半をそのデジタル・ワールドに入り浸っている人もいますし、依存症なんて通り越してこの世界に身を捧げる人だっているでしょう。

ではもし自分の記憶をデジタルな仮想現実世界にアップロードして、生身の体を捨てることができるとしたら…あなたはどうするでしょうか?

寝ることも、食べることも、買い物することも、セックスすることも、何でもできます。ただリアルな肉体を持っていないというだけ。ボディはアバターというデジタルなものになります。現実の人とは交流できますが、元に戻ることはできません。

躊躇なく「それはいいね!」となるでしょうか。「友達しだいかな?」となるでしょうか。「絶対に嫌だ!」と断固反対でしょうか。

もちろんそんな技術は実際には存在しないのですが(今のところはね…)、もしそんなテクノロジーが日常化したら?と想定した奇想天外な近未来SFドラマがにわかに話題になりました。それが本作『アップロード デジタルなあの世へようこそ』という「Amazonプライムビデオ」で配信中のドラマシリーズです。

本作はまさに説明したとおりの世界観。「アップロード」という技術の普及によって、「死ぬ」以外の新たな選択肢、「仮想現実世界で生きる」という道が一般化するようになった世界を描くSFです。

ただ、正直に言うと私は本作を観る前は「それ、面白いのかな?」と半信半疑でした。というのもこういう仮想現実世界で生きることになる(もしくは囚われてしまう)という設定の作品は今や腐るほど存在するからです。作品名を挙げるのもキリがないほどにゴロゴロとそのへんに転がっています。今さらそんな設定の作品を作っても二番煎じどころか見飽きてつまらないのではないか、少なくとも新鮮味は期待できないだろう…そう偉そうに冷めた気持ちを持っていたものです。

はい、土下座タイム。私が愚かでした…。

本作『アップロード デジタルなあの世へようこそ』はそんな凡百の類似作品に生まれるような存在ではありませんでした。むしろ個性が強すぎて、コイツだけ浮いてます。

どう個性が強いのかと言うと、ネタバレなしで説明すると要するに「悪趣味」なのです。この手の作品はデジタル社会への風刺はたいていありますが、今作はそれが尋常じゃない。そこまでやるか!という攻め方で痛快に切っていくので気持ちがいいし、自虐に気まずくもなります。

それも当然、本作の原案はあの“グレッグ・ダニエルズ”なんですね。『サタデー・ナイト・ライブ』『ザ・シンプソンズ』での百戦錬磨の経験がある名プロデューサーです。最近は2009年から始まった『パークス・アンド・レクリエーション』というコメディ番組や、変わり種の職場モキュメンタリー『ジ・オフィス』も手がけていました。

その“グレッグ・ダニエルズ”なのでユーモアに関してはそりゃあピカイチなのは当たり前です。

出演している俳優陣は、主人公のひとりを演じるのはドラマ『THE FLASH フラッシュ』でも活躍した“ロビー・アメル”、もうひとりの主人公兼ヒロインを担うのは音楽活動で輝いていた“アンディ・アロー”、レギュラー出演は初めてなのかな?な“アレグラ・エドワーズ”など。そこまで有名どころはいないのですが、コミカルな演技でしっかり楽しませてくれて今作で印象に刻まれるはずです。

なお、内容は大人向けの下ネタも多く、ちょっと子どもには見せづらいのですが、ティーン以上の世代なら話題のネタになること間違いなしの語りがいありすぎな作品ですのでぜひ。

日本語吹き替え あり
種市桃子(ノラ)/ 渡部俊樹(ネイサン)/ 松井暁波(イングリッド)/ 金田愛(アリーシャ)/ 鈴木崚汰(ルーク)/ 福西勝也 / 早川毅 ほか
参照:本編クレジット

オススメ度のチェック

ひとり 3.5:SF好きでも新鮮に楽しい
友人 4.0:話のネタにはもってこい
恋人 3.5:異性愛ロマンスあり
キッズ 2.5:大人向けギャグが多め
↓ここからネタバレが含まれます↓

『アップロード デジタルなあの世へようこそ』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(序盤):夢のセカンドライフ!?

「充実した人生を過ごした後に“アップロード”を行えば人類が創り出せる最も美しい自然が待っています。最高の日々は人生の後にあるのかもしれません。頑張ったあなたにふさわしい日々を」

満員の電車ではそんな動画広告が流れています。これはHorizen社(ホライズン)「Lake View(レイクビュー)」というサービスの宣伝です。

アップロードという新技術は人類の常識を変えました。人間は死んだら終わり…それは過去のこと。死ぬ前に意識をデジタルの世界へと移行し、そこでバーチャルなセカンドライフを過ごすことができるのです。ある程度のおカネさえあれば。

ホライズンのアップロード顧客サポートのスタッフ(エンジェル)として働くノラは今日もいつもどおり出勤します。自分の席につき、上司のルーシーにちゃんと仕事しろと怒られながらも、業務を開始。ここではないどこか遠くの顧客に向かってマイク越しに優しく話しかけるのでした。「安心して。アップロードされました」

一方、別の場所。ネイサンは自動運転カーに乗っていました。彼はプログラマーで友人のジェイミーの新規事業を立ち上げようとしていました。ゲームコントローラーをつけて自分で運転しだすネイサンでしたが、警察に止められ、「車の故障です」と調子こいたことを言います。車に搭載されたAIへの態度も荒いです。

ネイサンは恋人であるイングリッドの家族の感謝祭食事会に招かれました。イングリッドの家はかなりの裕福です。その帰り道、自動運転カーは暴走。前方にトラックがあるのにも関わらず認識できないまま、派手に衝突してしまい…。

ノラは新しいアップロード・ユーザーの初期設定対応をしていました。ユーザー名はネイサン。どうやら自動車事故で死にかけたようです。アップロードの準備として、アバターになるモデルを作成します。過去の写真に基づき、生前のリアルそのままにデザイン。ただ、ちょっとした遊びで、彼の髪をちょこっとはねさせました。

そんなとき、ネイサンの記憶ファイルに破損があるのに気づきます。残ったアップロード直前のデータを動画で確認。ネイサンは病院で運ばれている最中にアップロードするかどうかの選択を迫られ、「古臭い死に方は嫌でしょ」とイングリッドに泣きつかれ、半ば強引にスキャン室に運ばれたようです。

状況が掴めていないネイサンを音声サポートしていくノラ。「レイクビューへようこそ、エンジェルと呼んで」と自己紹介し、この時点では「生きている人間かAIかは教えられない」と業務規程どおり自分の正体は隠します。

ネイサンはレイクビューのホテルで初々しいアップロード新規ユーザーとしての初日を過ごします。豪華な朝食に歓喜しますが、10時に強制終了となり、あえなく食べられず。この仮想現実はプログラムで動いているのです。例外はありません。ルークというすでに昔からここにアップロードされて知り尽くしている男と出会い。いろいろ教えてもらいます。

それでも精神的におかしくなり始めたネイサンは、そこに行けばデータが消えるという「現実の柱(三途の川)」に向かってしまいます。そこにノラが音声ではなくアバターとして目の前に出現し、ネイサンの自殺行動を止めます。

「確かにここは完璧じゃない、でもその方が人生らしい」

ネイサンは感情豊かなノラを人間だと見抜き、しだいにユーザーとサポートスタッフ以上の付き合いに発展していくことに。ところがネイサンの記憶は何者かに削除され、怪しい影がうろつく事態も…。

どんなに技術が進化しても人間自体は不完全。歪でヘンテコな人間模様がデジタルによってさらにバカバカしく浮かび上がる?

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シーズン1:こんな世界、嬉しいのか?

『アップロード デジタルなあの世へようこそ』の何が面白いって、前述したとおり世界観の悪趣味さです。このそこまではるか未来でもない、もしかしたら十数年後には実現しているかもしれない、デジタル過多な世界を嫌みたっぷりに露悪的なまでに描きだしています。それらが今の私たちにも「ああ、これわかる!」というネタばっかりなんですね。少なくともある程度のネット社会に触れている一般人ならみんな経験のあるものが満載で、既視感に笑ってしまいます。

物語の舞台になる「レイクビュー」という仮想現実世界。宣伝ではいかにも理想のリゾートのように謳っていましたが、確かにアメニティは充実しているし、ネイサンのいるクラスは最も最上位ということもあって、悪くはありません。でもやっぱりリアルではない、仮想現実世界なので、どことなく“雑な綻び”があるわけです。

みんな同じ顔のAIのホテルマンの言動は妙にウザいし、プログラム遵守なので融通が利かないし、未実装の機能にヤキモキするし、成長できないし、やっぱり監視されているという世界独特の居心地の悪さもある。しょせんは自分すらもデジタルな存在であり、“生き物”ではないので、どこかのオペレーターのひとつの操作で簡単に行動はコントロールされてしまいます。

私たちも日々イライラしている欠点もここにはあります。頻繁に表示してくる広告にうんざりし、そして何よりも結局は「課金」しないと始まらないということ。何をするにしても課金、課金、課金。死んだら労働もないので納税もないぞ!とはならない。廃課金者にならないと贅沢な暮らしはできない。しかも半永久的に。これはツラい…。

で、最も悲惨な底辺を見せてくれるのが「2Gのアップロードの部屋」。貧困層がアップロード分の料金だけを最低限払ったのみのサービス。そこの惨状は牢獄と言っても過言ではない世界。これ、絶対に嬉しくない…。

一方で、トイレの放尿は必ず外れないとか、ゲームモードでホテルマンと戦えるとか、割とどうでもいい機能はある…。

また本作は仮想現実世界だけでなく、リアル世界でも風刺たっぷりな未来技術を見せてくれます。胸に「同意します」と言う装置をつけてセックスするデートアプリは一見すると性被害を防げる画期的感じもしますが、なんか変です。コンビニではロボットアームがレジをしており、受け答え能力はほぼゼロ。コンドームサイズを自動検出で教えてくれる店舗棚は余計なお世話。

極めつけはセックススーツ(表向きは高齢者がお孫さんを抱きしめるための「ハグスーツ」だという白々しさ)。使用している現実ではなんともマヌケな絵面(バスルームでウェットスーツにゴーグル)。VRの登場時、性における革命になる!なんて騒がれもしましたけど、こうやってみるとますます惨めになっているだけですね。

本作の悪趣味っぷりには大満足なのですが、唯一、文句を言うならなぜAmazonは出てこないのかということ。あれだけ実在の大企業の名前をガンガンだしておきながら(インスタグラム、ディズニー、フェイスブックなどたいていの大手はアップロード・ビジネスを展開している様子)、一方で世界の買い物を実質支配するAmazonは登場しないのです。これは明らかに「Amazon Prime Video」配信であることへの忖度じゃないですか…。

こうなってくると日本はどんな感じなのだろう?と妄想できますよね。絶対にDocomoの運営するアップロード世界は2年縛りとかあるんだろうな…とか、アニメや漫画のワールドは絶対にあるな…とかね。

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シーズン1:生身の交流に飢えている

『アップロード デジタルなあの世へようこそ』はただのブラックコメディでアホしているだけには終わりません。ちゃんと現代への大切な示唆も与えてくれます。

面白いなと思うのは、アップロード・ユーザーを現実世界の人たちはとくに気味悪がらずにすんなり受け入れているということ。これはそもそも人間関係が「相手が生きているか、死んでいるか」という点を気にしない、非常に表面ありきの交流になっているという強烈な皮肉です。実際、私たちはSNSで相手のユーザーの生身を一切気にせずにやりとりしているわけです。つまり、本作の要である「アップロード」という技術はそれだけ切り取ると凄いことに思えますが、根本的にデジタル社会の発展が究極的に行き着くのは生死という概念の消失だ…という、至極リアルで、そして鋭利な風刺を投げかけているのでしょう。

じゃあ何が大事なのか。それはやっぱりリアルな人と人との交流、触れ合い、支え合い。月並みな解答かもしれないけど、でもそれが真理だという、行き着くのはそこです。

人間関係が職場でも恋愛でも「星の数」でレビューされてしまうと途端に虚しくなりますし、プリンター食品は便利ですがそこには作ってくれた人への感謝もない。テクノロジーは生活を豊かにしているようで、実はコミュニケーションの簡略化どころか、形骸化を招いている。

だから人は生身のコミュニケーションに飢えていきます。ネイサンとノラの交流、ネイサンとイングリッドの交流。どちらも不器用で失敗も多いですが、そんな欠点も生身のコミュニケーションにおいてはエラーではなくそこすらも愛しさになる。

不幸中の幸いといいますか、テレワークや自宅待機を経験した私たちはその生身のコミュニケーションの価値に気づけましたよね。

もちろん生身のコミュニケーションは深刻な問題を引き起こすこともあります。ネイサンのように私欲に堕ちることもあるし、傷つけあったりもする。

でも私たちはこの生身のコミュニケーションを欲してしまうんだ…という、実は本作はデジタル依存症ではなくて、人間のリアル依存の切なさを描いている。そんなふうに私は感じました。

ネイサンというある種のゼロになってしまった素体を通して、私たち人間は今一度考えるべきなのかもしれません。容量不足になる前に…。

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シーズン2:やっぱり悪用される

※シーズン2に関する以下の感想は2022年8月30日に追記されたものです。

『アップロード デジタルなあの世へようこそ』のシーズン2は全7話と、前作のシーズン1の全10話と比べるとボリュームダウンしてしまい、少し展開も小規模になってしまったのは残念ですが、まあ、もしかしたらコロナ禍の撮影でやむを得ず規模を縮小したのかもしれないですし、そこは良しとしましょう。

「2Gのアップロードの部屋」から帰還したネイサン。助けてくれたのはなんと恋人のイングリッドであり、自身もアップロードしたと言います。そんな一途な愛を…と思いきや、実は例のハグスーツによるVRでログインしているだけでした(なぜか気づかれない)。愛されたいけど愛するのが上手くいかないイングリッドのコミュニケーション下手っぷりが哀れで切ない…。

一方、ノラはアップロードに反対する反デジタルで保守派の自然共同体のもとへ。そこでマテオというステキそうな男性に出会い、しかしその反対活動にどうしても身を投じることができません。シーズン2はノラとネイサンのラブストーリー的な側面が濃くなりましたね。アリーシャとルークのアホな関係もいいけど。

もちろんシーズン2も風刺たっぷりです。これまた課金必須のデジタルベイビーとか。そして何よりも個人情報の扱いの酷さ。アップロード者の思考を検索できるようになったり(マインドフリスク)、写真や映像も勝手に撮られるし、そのアップロード者の夢を企業側が問答無用で権利を保有して動画サイト(ドリームハブ)にあげたり、やりたい放題。

なんかこれを観てしまうと、今注目のメタバースとやらも絶対にプライバシーの観点でヤバイことになりそうだなと暗澹たる気持ちになりますよ。

物語としてはついに陰謀が見えてきました。ネイサンがチョークに奪われたコードが「フリーヨンド」という無料アップロード・サービスのもとになっており、それは選挙の激戦区で勝つための小細工に悪用されている様子。とてもアメリカらしい政治ネタです。

ノラの協力のもと、ダウンロードして現実にあるクローン肉体に意識を戻すという賭けにでたネイサン。成功したかに見えましたが、でも不調が…。またイングリッドはヘアブラシでネイサンの髪の毛を入手し、まだ諦めていないようです。そして新人社員のティンズリーがネイサンをバックアップから修復してしまったのもどうなることやら…。

シーズン3はもっと大変なことになりそうです。

『アップロード デジタルなあの世へようこそ』
ROTTEN TOMATOES
S1: Tomatometer 87% Audience 88%
S1: Tomatometer 100% Audience 76%
IMDb
8.1 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 7/10 ★★★★★★★

作品ポスター・画像 (C)Amazon Studios

以上、『アップロード デジタルなあの世へようこそ』の感想でした。

Upload (2020) [Japanese Review] 『アップロード デジタルなあの世へようこそ』考察・評価レビュー