磯光雄監督作の久々の来訪…アニメシリーズ『地球外少年少女(前編『地球外からの使者』、後編『はじまりの物語』)』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:日本(2022年)
日本:2022年にNetflixで配信、2022年1月28日・2月11日に劇場公開
監督:磯光雄
地球外少年少女
ちきゅうがいしょうねんしょうじょ
『地球外少年少女』あらすじ
『地球外少年少女』感想(ネタバレなし)
青春劇×セカイ系×宇宙SF
宇宙ステーションなどの宇宙空間を舞台にしたSFモノは私も好きなのでしょっちゅう色んな作品を見漁っているのですが、その多くは大人が登場人物です。なかなか子どもがメインで登場することはありません。
これはさまざまな理由が考えられます。例えば、映像作品であれば子どもを起用するには条件が厳しく、特殊なセットも多いSFには頻繁に登場させづらいとか。ダークでシリアスな展開をしたいなら、子どもがいるのは少し邪魔になるとか。
でも子どもだって宇宙が好きな子もたくさんいるでしょうから、子どもが活躍するSFが見たいはずです。需要は容易に予測できます。子どもが登場する宇宙SFと言えば、1965年から放送された『宇宙家族ロビンソン』があり、2018年には『ロスト・イン・スペース』としてリブートもされました。こちらは珍しい宇宙SFモノのファミリー作品でした。おなじみ『スタートレック』でも主要メンバーの中に未成年のキャラクターが登場していたこともあり、ファンにはそのキャラも人気でした。『スター・ウォーズ』のアニメシリーズも子どもがメインで活躍するものが目立ちますね。
では日本作品はどうか。日本は宇宙SFを実写で作る自体が稀ですが、アニメなら宇宙SFものはいくつもありました。ただ、その多くは銀河をまたにかけた大戦とかをしていたり、わりと殺伐としていました。10代が登場しても宇宙戦争に駆り出されるくらいなものです。まあ、日本はどうしても宇宙を舞台にするとロボットを出して戦わせたくなっちゃいますからね。
そんな中、2022年に子どもたちを主役にしたジュブナイルな宇宙SFモノが日本のアニメとして誕生しました。それが本作『地球外少年少女』です。
本作は10代の子どもたちが宇宙ステーションでトラブルに遭遇し、そこでサバイバルしながら、やがては世界を救う大きな出来事に巻き込まれていくという、「青春劇×セカイ系×宇宙SF」のジャンルです。登場する子どもたちは個性豊かですが、近未来を舞台にしつつも、現代の私たちが親近感を感じる等身大の子として設定されています。
『地球外少年少女』はアニメファンにとって監督の話題が外せません。本作を手がけるのは、2007年から放送されてその未来観と物語に多くのファンが生まれたジュブナイルSFアニメシリーズ『電脳コイル』の“磯光雄”監督。高く評価された『電脳コイル』以降はテレビアニメや劇場アニメの原画などを担当していたようですが、ここに来てなんと15年ぶりの2022年に久々の監督作『地球外少年少女』が舞い込んでくるとは…。ファンだってびっくりのプレゼントです。企画自体は2016年頃からあったようですけど、全然音沙汰が無くなってしまうこともよくある業界ですからね。
今回のアニメ企画の実現に一役買ったのはやはりNetflixの影響が大きかったのでしょうか。今回は日本での扱いはとても異例で、全6話(1話あたり約30分)のアニメシリーズになっており、Netflixで世界一斉配信され、同時に日本では前編と後編に分けて映画として続けて劇場公開され、なおかつ劇場ではBlu-rayディスクとDVDが販売されるという…なんだかもう全部やっちゃえの精神で投入されています。この15年間で日本のアニメを取り巻く環境も大きく変わりましたね。
アニメーションを制作するのは2020年に設立されたばかりの「Production +h.」。
『地球外少年少女』は子どもでも観やすい宇宙SF作品です。今の民間宇宙滞在は超富裕層の大人たちの道楽になってしまっていますが、せめてアニメの宇宙くらいは子どもに優しい世界であってほしいですね。
オススメ度のチェック
ひとり | :宇宙SFが好きなら |
友人 | :興味ある者同士で気楽に |
恋人 | :ロマンス要素は無し |
キッズ | :宇宙に興味を持って |
『地球外少年少女』感想(ネタバレあり)
あらすじ(序盤):ようこそ、“あんしん”へ
変な夢を見た気がしつつ、ベッドから落ちるひとりの少年。「重力マジうぜぇ」と毒づく彼の名は相模登矢。月で生まれた人類初の子どものひとり。今は「あんしん」という名の日本の宇宙ステーションに滞在し、地球に行くために重力訓練で体を慣らしている最中でした。
登矢は地球に関心はありません。今、夢中なのはひとつ。自分のドロイド「ダッキー」の改造です。機能リミッターを一部解除することに成功し、球型のドロイドであるダッキーが幼稚に喋れるようになります。知能量は以前の2倍。「よ~し、今度こそ」と意気込み、とうとう反射機能まで解除できたことで「早くルナティックを起こしてセブンを超えてくれよ」と登矢はダッキーに声をかけます。
一方、この宇宙ステーションに接近しているシャトル。その中では、宇宙チューバーを自称してフォロワー集めに必死な美笹美衣奈が「みなみな、み~な」と持ちネタの挨拶で動画実況をしており、その隣で弟の種子島博士(あだ名はハカセ)が呆れています。その博士の隣には筑波大洋という知的そうな落ち着いた子がひとり。この3人はディーグルの未成年者宇宙体験キャンペーンに選ばれ、今回は「あんしん」に滞在できることになったのです。
登矢はそんな地球人の浮かれた子どもの来訪予定にも全く関心なし。「地球なんて人間の住む環境じゃねぇよ、人間は地球外に住むべきだろう」と愚痴ります。このステーションには七瀬・Б・心葉というもうひとりの月生まれの子もいて、今は那沙・ヒューストンの診察を受けていました。月生まれの2人はインプラントが埋め込まれており、それは史上最高のAIと言われている「セブン」が設計したものでした。このインプラントのせいで心葉の健康は異常をきたしており、「俺のが上手くいったらお前のインプラントも直してやる」と心葉に声をかける登矢。
「あんしん」は登矢の叔父を含む3人のオペレーターによって安全を監視されています。そのとき、オペレーターが飛翔体を確認。発射元はUN2で軍事用のものらしいです。すると停電。通信障害。「あんしん」のホストAI「トゥエルブ」までダウンし、デブリシールドも機能を喪失します。なんとか手動でシールドを起動しましたがデブリ接近を探知。それでも衝突は回避され、トゥエルブも再起動しました。
美衣奈と博士と大洋は「あんしん」ステーションに到着。ここは未成年滞在機能の宇宙ホテルであり、那沙が案内します。そこにやる気のなさそうな登矢が現れ、「月で生まれた最後の子どもとしてディーグル社には感謝の気持ちでいっぱいです…」と棒読みで形式的な挨拶。
登矢のフォロワーである博士は大興奮。登矢が裏アカで話していた「セブンポエム」についても熱烈に話題にしてくれます。セブンポエムというのはAIのセブンがルナティックという制御不能状態に陥って殺処分される前に発したとされる言葉で、一部界隈ではそれは予言だとかいう陰謀論として注目されていました。
大洋は相棒のドローンである「ブライト」とともに独自に行動し、「君のドローンは知能リミッターを外している」となぜか登矢を捕らえようとします。大洋は実はホワイトハッカーでUN2.1の人間のようです。
そんな中、管制室では先ほどの通信障害はEMPのせいで、商業彗星を核攻撃したものであり、しかも核攻撃は失敗してまだ彗星は接球中かもしれないことが判明します。
そして分裂した彗星がステーションに衝突。何も知らない子どもたちが大混乱の中で機能不全となったステーションに取り残され…。
それっぽくリアルな日本SF
“磯光雄”監督デビュー作の『電脳コイル』は2020年代を舞台にした近未来SFで、電脳眼鏡が代表格のアイテムでした。しかし、今はその2020年代。この時期に“磯光雄”監督が世に送り出した『地球外少年少女』は2045年を舞台にしており、宇宙ステーションがフィールドになることで、「手が届きそうでまだ届いていない未来」としてちょうどいいバランスになっています。
世界観の土台は高度に進んだ宇宙開発とAIの発展を軸にしています。2018年に有人火星探査に成功し、月の移住も当たり前にできるようになるも、2024年にルナティックセブン事件が勃発。AIへの不信から知能リミッターをかけるのが通常となり、そんな中で月生まれの子どものインプラントに設計ミスが発覚。2031年に月面で出産は禁止され、人類の次なる舞台としての宇宙の暗雲が立ち込めてしまっている世界。
そこに地球から子どもたちがやってきて、月生まれの子どもたちと遭遇するという、とてもワンダーな出だしです。
それにしても未成年者宇宙体験キャンペーンを主催にしているのが「ディーグル社(Deegle)」という明らかに「Google」のパロディになっていたり、宇宙開発が巨大IT企業の主導権となってしまうというのは実際どうなるのでしょうかね。今のところテック企業の進出よりも政治競争の色がまた濃くなってきているけど…。
本作には政治色はあまりありません。そこを脱臭するためにAIを活用しており、ジョン・ドーのテロリストのようなAIを信仰する集団の暗躍を描くことでサスペンスを生み出しています。
日本のステーションである「あんしん」のツッコミどころ満載の設定も面白いです。日本政府は科学予算を縮小しているらしく、「あんしん」というネーミングのわりには安心感は薄く、屋根瓦や蟹がついているセンスの悪いデザインとやたら商業に染まった内部のカオスさが目につくという…。なんというかノリがニコニコ動画とかと同じレベルなんですね…。
子どもは宇宙でも成長する
そのステーションで『地球外少年少女』というタイトルまさしく、地球外に孤立した子どもたちは成長をしていきます。
構図はベタです。登矢と大洋の「月生まれvs地球生まれ」のいがみ合いだとか、科学が好きなわりには陰謀論もわりと信じている博士だとか、インフルエンサーで動画エンターテイナーになっている美衣奈のコメディエンヌっぷりとか、日本のアニメに毎度存在する薄幸の女の子ポジションである心葉とか。とくに時代を投影したアイディアもなく(美衣奈みたいな動画配信者は2040年代にもいるのかな?)、定番のキャラクターの型どおり。
ただ、この宇宙ステーションの大舞台で子どもがわちゃわちゃしている絵は珍しいので楽しくはあります。序盤も登矢と大洋のドローン・バトルが繰り広げられるのですが、まるでオモチャで喧嘩しているだけにも思えて微笑ましいです。
その5人のサバイバル。ここでの身の回りにあるものだけで未知のトラブルから生き残ろうとする展開は、やっぱりこのジャンルの鉄板であり、基本はたいていはワクワクします。個人的には『地球外少年少女』で一番面白かったのはこの前半部のサバイバルですね。
ピュアなAI信仰
一方、『地球外少年少女』は後半はかなり駆け足になり、しかも超技術な展開の連続なので観客としてはやや置いてけぼりをくらう面も多々ありました。
たぶん作り手も本来はもっとじっくりストーリーを進めたかったのではないかな。全6話ですけど、全13話とかだったら全く違う印象で、世界観にゆっくり浸れたかもしれません。
例えば、最終話では登矢と心葉は大ピンチを迎え、死期迫る心葉を生かすために登矢は思考をルナティックして11次元にするという、もう観客に理解させる気のない展開に突入するのですが(本人は「わかるわかるぞ」って言ってるのだけど)、このいきなりのボーイミーツガール的でセカイ系な始まりも唐突すぎる部分はあって…。2人の過去の絆を描くパートが1話まるまるあれば、もっと2人の感情も理解できたのだろうけど…。できたら他の月生まれの子とのエピソードも観たかったですね。
一応の黒幕となる那沙も、背後にある動機としてはやや意味不明なままに終わった感じです。ジョン・ドーの一員であり、セブンポエムに陶酔し、これは革命だと言い張り、全人類の36.7%を殺処分するというセブンの提案らしき言葉を盲信する。しかし、本作は政治要素を意図的に排除していることもあって、単純に那沙だけが奇妙キテレツな考えで暴走しているだけにしか見えなかったり、敵にしても説得力は薄いし…。キャラクター造形も「子ども嫌いな女性を悪にする」というのはやや古いです。
物語自体のオチはいわゆる「ホープパンク」(警鐘よりも希望を提示するSF)であり、ピュアなAI信仰のその先を見せてくれます。知能を有したセカンド・セブンである彗星にインターネットを全部見せて、世界は醜くなんかないと示し、子どもに無編集のありのままの世界を見せることを肯定する展開は素直な勢いがありますが、これはリアルな子どもの願いというか、大人になっても童心を捨てられないSFオタクの大人の願望という感じですかね。おそらく現実社会を見渡すとZ世代の子どもの方が真面目にネット規制を支持していると思うし…。
ゆりかごの外側、地球外に子どもたちが進出するようになっても、見捨てられる大人にはなりたくないものです。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer –% Audience –%
IMDb
6.8 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
作品ポスター・画像 (C)Netflix
以上、『地球外少年少女』の感想でした。
The Orbital Children (2022) [Japanese Review] 『地球外少年少女』考察・評価レビュー