本当に安全なのか?…映画『アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。
製作国:イギリス(2015年)
日本公開日:2017年1月14日(一般)2016年12月23日(先行)
監督:ギャビン・フッド
あいいんざすかい せかいいちあんぜんなせんじょう
『アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場』物語 簡単紹介
『アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場』感想(ネタバレなし)
もはやSFではないという衝撃
「ドローン」という言葉はすっかり日本でも一般に浸透しました。少年がドローンを飛ばして自己顕示欲を満たしたり、反原発アピールのために首相官邸に飛ばしたりと、なんだか個人のおもちゃになり下がったみたいな感じですが…。
でも、忘れてはいけません。もともとドローンは戦争の道具として発展しました。今でもドローンが最も活躍している舞台は戦場です。
今や戦争映画でもドローンは当たり前のように登場しますが、戦場のドローンをメインで描いた映画として傑作と評価の高い映画がいよいよ日本でも冬に公開されました。それが本作『アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場』です。
ドローンを題材にした映画といえば、2015年にアンドリュー・ニコル監督による『ドローン・オブ・ウォー』が公開されましたが、こちらはPTSDに苦しむドローン操縦士を描いた個人に視点を置いた社会ドラマでした。
一方で、本作は全く違います。
わかりやすい言い方をするなら『シン・ゴジラ』と同じ。シミュレーション映画です。
本作では映画1本全ての時間を使ってある1つのミッションだけに焦点をあてて、ドローンでの爆撃を実行するのかしないのか…この判断をめぐっての現場と作戦司令部、政府の生々しいやりとりが続きます。
もうひとつ似た作品として、デンマークの戦争映画『ある戦争』が挙げられます。この映画は、戦争におけるある判断が正しいのか正しくないのかを問われ続ける主人公の淡々としつつも苦渋に満ちたドラマでした。本作は『ある戦争』よりはサスペンスが重視されており、退屈することはないでしょう。それどころか後半の怒涛の展開は手に汗握ること間違いなし。
『シン・ゴジラ』と同じと書きましたが、本作で描かれる出来事は現実に起きていること…仮想の世界じゃないのが恐ろしい。現代の戦争を描いた映画として見逃せない一本です。
なお、本作は2016年1月に亡くなったアラン・リックマンが実写で出演する最後の作品となりました(遺作は『アリス・イン・ワンダーランド 時間の旅』ですが、こちらは声の出演のみ)。あまり映画を観ず、アラン・リックマンを良く知らない人にもわかるように彼を説明しておくと、あれです、『ハリー・ポッター』シリーズでセブルス・スネイプ役を演じた人といえば頭に浮かぶでしょうか。彼の最後の演技にもぜひ目を向けてほしいところです。
『アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場』感想(ネタバレあり)
ケニアのナイロビ、そこが今回の戦場。しかし、攻撃をする側の人間はそこにいません。いる場所ははるか遠くの別の国。
イギリス。女性がベッドから起きます。彼女はイギリスのキャサリン・パウエル大佐。彼女にはかれこれ6年もの間、ずっと追いかけている相手がいました。ソマリアのイスラム武装勢力「アル・シャバブ」がイギリスの諜報員を処刑したという情報を今も入手し、気持ちが焦ります。早くなんとかしなければ次の犠牲者が出てしまう…。
ロンドンのノースウッドにある常統合司令部(PJHQ)。パウエル大佐はエレベーターで地下の作戦室に行き、さっそく指示を出していきます。今日は重要なミッションの日です。これが成功すれば彼女の長年の苦労が報われます。
すでに現地の準備も万端。ナイロビの空港で監視をする諜報員も配備済み。
国防相のベンソン中将に電話するパウエル大佐は、ミッションの実行を告げます。
アメリカのネバダ州のクリーチ空軍基地。スティーブ・ワッツと新人のキャリーは作戦内容を聞くべく、ブリーフィングに参加。パウエル大佐と繋がります。ケニアのナイロビをフィールドにした、英米合同のイーグレット作戦です。
パウエル大佐は一気に説明します。アル・シャバブの主要メンバーがナイロビに集まるという情報が入り、場所は郊外の家。所有者の名前はシャヒド・アフメド。参加者はソマリア人のアブドラ・アルハリ、そして彼の妻、アイシャ(本名はスーザン・ダンフォード)。アメリカ人のモハメド・アブリサラームとイギリス人のラシード・ハムードという過激思想に染まった若者と合流する可能性もあり、容疑者が家に入りしだい、部隊を突入。作戦の目的は殺害ではなく捕獲。
クリーチ空軍基地の面々の任務は空の目になること。つまり、無人航空機の操作です。操作室に入るスティーブとキャリー。無人偵察機の操作に移ります。
現地では諜報員が鳥形ドローンで家を監視。
子どもの人形をどれにすればいいのか迷っていたベンソン中将は、イギリスの内閣府・ホワイトホールに到着。作戦会議室A(コブラ)に入ります。
ハワイのパールハーバーでは画像解析班がスタンバイ。現地の諜報員は家の中の映像を映すために鳥形ドローンを操作。でも外からは見えません。
すると動きがありました。もう帰るような感じで、出動部隊が慌てますが待機命令が出ます。3人が車で出ていくようです。うちひとりの女性はダンフォードかどうかの確認ができません。車を空から追います。
どうやら別の家へ入ったようです。ソマリアの商人の家らしく他に情報はなし。室内に入っていきます。
家の中の映像が欲しいとパウエル大佐は命令。ダンフォードの確認がとれないと攻撃命令が出せないので、リスク覚悟で現地に諜報員を送ることに。
一方、渦中の家のすぐそばではそんなことも知るはずもなく、アリアという少女は路上で食べ物を売り、それが終わるとフラフープで遊んでいました。ドローン操作室ではそんな無邪気な少女を確認し、少し和みます。
諜報員はバケツを売る商人のふりをして近くに接近、虫型ドローンを飛ばします。室内へ。女の顔を確認。ダンフォードだと解析されます。
「攻撃すべき」とベンソン中将にメッセージを送るパウエル大佐。しかし、武装勢力の支配地域に入れません。無人偵察機のリーパーで上空から攻撃できますが、法務長官たちは反対します。パウエル大佐はこの機会を逃せないので苛立つばかり。
見ているしかできない一同。すると自爆ベストを用意しているのを映像で確認。事態は一気に緊迫します。
これはテロの直前なのは言うまでもなく…。「今すぐヘルファイアを撃ち込むべきです」と大佐は強く進言。交戦規定を拡大適用すべきだと主張しますが…。
現代のトロッコ問題
『アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場』の邦題には「世界一安全な戦場」という副題がついています。
いきなりであれですが、個人的にこの副題のセンスにはちょっと不満があります。どういう意図でこの副題を設定したのでしょうか。ドローンを操縦している人は遠く離れた建物で作業しているから安全だということ? それとも兵士を派遣せずドローンに任せられるから安全だということ? おそらく、ドローンが映し出す映像を戦場から遠く離れた地にある会議室で見ている人々とその現状への皮肉を込めて「安全」としたのだと思いますが…。
確かに本作は、現代のドローンを使った戦術への倫理的な問いかけが込められています。
一方で、安易な善悪論で片づけていないのも特徴でしょう。ドローンの情報を基に戦場から遠く離れた地で議論を交わす軍人や政府の人間を決して嫌な奴としては描いていません。結果はどうであれ、全員がそれなりの理念と正義をもって可能な限りのベストを尽くして仕事しています。それでも一筋縄ではいかないのは、このドローンにおけるPID(敵の存在の確証を得ること)の問題が、いわゆる「トロッコ問題(言葉の意味はWikipediaなどを参照)」だからです。絶対に正しい判断はない…それこそ科学的に妥当性を求めてもデータの計算はどうとでもいじれてしまう。そんな苦悩が本作ではリアルに描かれていました。
本作の邦題は、説教臭いというか、ただの皮肉屋になっているのが気になります。解釈の分かれるテーマに対して、一方的に価値観を押し付けるような映画のタイトルを設定するのは私はあまり好きじゃないですね。ドローンをコントロールする人はPTSDになりやすいというデータもありますし、安全なんて言葉を言い放つ資格は誰にもないでしょう。無論、一番の被害者は映画終盤でも強烈な皮肉として結末が描かれるあの子なのですが…。
そういう倫理的な話は置いておいて、本作はサスペンス映画のドラマとしても非常に緊迫感のある面白い作品でした。リアルとフィクションのバランスが上手いのが効いています。終盤の「パンを買えるか」展開といい、わかりやすいサスペンスに落とし込んでおり、脚本の手際が見事です。
新年早々、印象に強く残る戦争映画の傑作でした。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 95% Audience 82%
IMDb
7.3 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 7/10 ★★★★★★★
作品ポスター・画像 (C)eOne Films (EITS) Limited アイインザスカイ 世界一安全な戦場
以上、『アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場』の感想でした。
Eye in the Sky (2015) [Japanese Review] 『アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場』考察・評価レビュー