ピクサーは海の深みの細部まで描きだす…映画『ファインディング・ドリー』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。
製作国:アメリカ(2016年)
日本公開日:2016年7月16日
監督:アンドリュー・スタントン、アンガス・マクレーン
ファインディング・ドリー
ふぁいんでぃんぐどりー
『ファインディング・ドリー』物語 簡単紹介
『ファインディング・ドリー』感想(ネタバレなし)
簡単そうで難しい「続編」というチャレンジ
映画ビジネスにおいて「続編」というのは、世界観やキャラクターを使い回せて、なおかつ前作の人気にのっかることができる安心な商品として重宝されがちです。
しかし、企画をあげて資金を集めるうえでは安全牌なのかもしれませんが、面白い作品として評価されるものを創り上げるのは「続編」特有の難しさがあるのではないでしょうか。
下手をすれば焼きまわしのようになってしまいますし、やりすぎれば前作の良さが壊れていると反感を買いかねません。誘惑されて飛びつくと大変な目に遭う「続編の罠」です。
ストーリー創作に定評のあるあのピクサーでさえ「続編の罠」にハマってしまったというエピソードが「ピクサー流 創造するちから」という本で語られていました。ピクサーはこれまで『トイ・ストーリー』、『モンスターズ・インク』、『カーズ』の続編(前日譚を含む)を製作してきました。ところが、ピクサー初の続編である『トイ・ストーリー2』では脚本製作過程で、一時は完成できない危険性も持ちあがるほどの危機的な状況に陥ったようです。やはり「続編の罠」は油断できません。
そんなピクサーの次の続編が、2003年に公開された『ファインディング・ニモ』のその後を描く『ファインディング・ドリー』です。
気になる出来はさすがピクサーといったところ。前作のテーマをさらに掘り下げた、しっかりしたストーリーが練られた正統な続編に出来上がっています。
主人公は前作で主人公のカクレクマノミのマーリンと一緒に冒険するパートナーだったドリー。
少し前の出来事を記憶できない(健忘症というらしい)変わったキャラのドリーは確かに他にはないユニークさがありました。ドリーは、子どもを信じることができなかったがために離れ離れになってしまったマーリンに「変わるきっかけ」を与えます。いわゆるお騒がせキャラのように見えて、実はメンターとしての役割を担う存在で、これ自体珍しくないですが、前述の特徴ゆえに印象に残りやすいキャラでした。
一方、ドリー自身のバックボーンは語られておらず、成長の可能性を残していました。しかも、このドリーはピクサー作品の中でも人気キャラクターだそうで、だからこその今回の主役抜擢なのでしょう。
基本的に前作を見ておかないとついていけないシーンはないのですが、エンドクレジット後のおまけ映像だけは、前作を見ておかないとわからないので注意です。
ピクサーは『カーズ3』、『トイ・ストーリー4』、『Mr.インクレディブル 2』と今後も続編ラッシュが続くようですが、期待高まります。
『ファインディング・ドリー』感想(ネタバレあり)
あらすじ(前半):絶対に忘れない…はず
ナンヨウハギのドリーはクマノミのマーリンとニモの親子と一緒に生活していました。1年前、ニモは父親のマーリンと離れ離れになってしまい、マーリンがニモを大海原で探し回る旅の途中でドリーと遭遇。それからずっと一緒です。
ドリーは忘れっぽい魚で、ついさっきのことまですぐに忘れてしまいます。
今日はニモを含む小魚たちはエイの先生と一緒に遠足に行きます。ドリーは助手をかってでて、エイの説明に相づちを打ちます。「エイは大移動をして故郷に戻るんだ。みんなの生まれた場所は?」
「ドリーはどこから来たの?」
「わからない…私って家族はどこ?」
そんな会話もすぐに忘れ、ドリーも一緒に激流の近くに。げきりゅう…?
何か、何か記憶が…。ドリーは何かを思い出しかけます。「激流を見たらすぐに…」
そのとき、ドリーは激流に飲まれてしまい、気絶します。そして目覚めた瞬間、自分は何か大切なことを思い出したのではないかと考え込みます。
そして「両親だ!」…ドリーは親を探していたことを思い出します。ずっと小さい頃から親を探していたのだった…。こうなってしまうともう自分を抑えられません。
「私、とにかく会いたくてたまらないの…この気持ち、わかる?」
マーリンはドリーの親を探すのを手伝うことにします。手がかりは「カリフォルニア・モロベイの宝石」という言葉。とりあえずウミガメのクラッシュに乗って一気に移動。
その後、暗がりに辿り着き、ここもどうやら見覚えがあるらしいドリー。そして親の名前はジェニーとチャーリーだと思い出します。ドリーはどんどん先へ。
ところがダイオウイカが襲ってきて大パニック。なんとか逃げ切りますが、ニモが怪我をしてしまい、マーリンは機嫌を悪くします。「向こうへ行っててくれ」
ドリーは助けを呼んでくると言ってひとりで行動。そのとき、謎の声が聞こえてきて…。
海面にあがったドリーは人間に捕まってしまい、マーリンとニモとはぐれてしまいます。そこは海洋生物研究所。ここはどこ? 何をされるの? これでは親探しどころではありません。しかし、ここで意外な手がかりを発見することに…。
普通に続編を作れる凄さ
まず本作『ファインディング・ドリー』の感想を語る前に、同時上映の短編『ひな鳥の冒険』について触れておきたいと思います。この短編、非常に良かったです。何が良いのかというと、『ファインディング・ドリー』は水中というある種の異世界で繰り広げられる物語なわけです。当然、子どもの中には水や海が怖いという子もいるでしょう。そんな子どもに向けて「水や海は怖くないんだよ」と優しく伝えるこの短編は、『ファインディング・ドリー』の導入として完璧でした。正直、今回ピクサー十八番のストーリーテリングで一番上手いと思ったのはこの短編の配置ですね。
では、メインの『ファインディング・ドリー』についてですが、繰り返しになりますが続編として良く出来ている作品だと思いました。
『インサイドヘッド』や『アーロと少年』のように奇抜な世界観設定はないし、ストーリーも平凡といえば平凡です。物語の結末も甘々なハッピーエンドだし、ミズダコのハンクとシロイルカのベイリーが反則級の能力を持っているためリアリティあふれるサスペンスもありません。
でも、ちゃんとアドベンチャーとして緩急あるストーリーができていたし、魅力的な新キャラクターも物語をひきたてています。「続編の罠」に陥らず、続編がつくれるというのは当たり前のように見えて実は凄いことです。
全体的に丁寧なつくりです。トラック爆走というトンデモシーンも、事前にベビーカーの移動という前ふりがあって「こんなのありえない」と観客が思わないように配慮されてました。ドラマ展開でいえば、トラックをラッコたちが止めるシーンは無理やりな感じもしましたが…(これは何か元ネタあるのかな?)。
生物学的視点で見ると面白い
前作もそうですが本作『ファインディング・ドリー』は実は「障がい者」を扱った作品だといわれたりします。
とくにドリーは少し前の出来事を記憶できないという特徴がしつこく描かれており、それに両親や周りの他者も戸惑い、ドリー自身も悩みます。また、新キャラクターたちも、目が悪い、腕が欠けているなど普通とは違う要素を抱えています。明らかに製作者は狙っているのは間違いありません。
でもこれをもって「障がい者」を扱った作品という人間的なモノの見方はちょっと違うのではと私は思います。
それを説明するうえで役立つのが生物学的視点で本作を見るということです。
本作は基本的に生物学的なツッコミはナンセンスな作品です。実在する生物種をモチーフにしたキャラクターですが、実際ではありえないアニメらしいオーバーな行動や演出がてんこ盛りですから。
でも生物学的視点で本作を見れば、意外に本作のテーマを深読みできるんじゃないかと思っています。
例えば、ジンベエザメのデスティニーは目が悪いことが悩みですが、本来サメは視力が低いという事実があります。腕が1本欠けてしまったことをトラウマにしているミズダコのハンクについても、実際のタコの腕は本体を危険から守るためにちぎれやすく再生するようになっています。そして、記憶力に欠点があるとされる主人公のドリーですが、魚の記憶力は数秒から十数日しか持たず、明らかに哺乳類や鳥類よりは低いのです。
つまり、彼らが他者とは違う欠点だと思っている(ゆえに「障がい者」のように見える)それは、生物種(もしくは生物)のただの普遍的な特性に過ぎないのです。
本作はその特性の異常性を強調することで、生物学的知見のない観客にまるでキャラクターたちが欠点を抱えているように錯覚させています。
劇中でアシカの二人組キャラが岩場から一人のアシカを執拗に追い払いますが、本作を「障がい者」を扱った作品だと思ってしまうと、このシーンもまるで障がい者差別を表現しているように見えてしまいます。でも、これはアシカの雄が普通に行う縄張り行動にすぎません。
本作に「障がい者」なんていないのです。治す必要もないのは当然です。
この見せ方のトリックは非常に巧みだと思います。
日本ですか?
本作『ファインディング・ドリー』の数少ない残念だと思ったところも書いておきます。
ピクサー作品は作中に登場する文字をその国の言語に翻訳してわざわざ各言語版で個別に作成する丁寧さがあります。でも、今回これが余計なお世話になってしまったように思います。
例を挙げるなら、場所が「カリフォルニア州」だと物語上で説明されているのに、その場所の施設では「海洋生物研究所」と日本語で書いてあるという…。ここは英語で書いておいて、登場キャラクターに読ませるとか、文字を使わずに理解する流れにするとか、工夫してほしかったところです。
また、しつこいくらい連呼されてましたが、施設のアナウンサーが日本語版では「八代亜紀」本人ということになってました。いや、面白いですけど、場所の設定上これも明らかに変です。私はこの役は「さかなクン」がやればよかったなと思います(本作では「マンボウ」の声を担当してました)。彼なら世界的に有名な研究者ですからアナウンスしていても一応おかしくないですし、日本の子どもたちにもわかるでしょう。
ちなみに、英語版ではこのアナウンスの声を担当するのはシガニー・ウィーバーです(アンドリュー・スタントン監督つながりだと『ウォーリー』(2008年)にてアクシオム・コンピュータの音声を担当していました)。“シガニー・ウィーバー”関連ネタもありました(ドリーがベイリーのエコロケーション頼りにパイプを進む場面は、シガニー・ウィーバー主演の『エイリアン』にてダクトでエイリアンに襲われるワンシーンのオマージュ)。
言葉ネタも含めて、これはグローバル展開の難しさですね。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 94% Audience 84%
IMDb
7.3 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 7/10 ★★★★★★★
(C)2016 Disney/Pixar. All Rights Reserved. ファインディングドリー
以上、『ファインディング・ドリー』の感想でした。
Finding Dory (2016) [Japanese Review] 『ファインディング・ドリー』考察・評価レビュー
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