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『カオス・ウォーキング』感想(ネタバレ)…頭の中のことまでネタバレしてしまうトム・ホランド

カオス・ウォーキング

SF小説「心のナイフ」を豪華俳優で実写映画化…映画『カオス・ウォーキング』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:Chaos Walking
製作国:アメリカ(2021年)
日本公開日:2021年11月12日
監督:ダグ・リーマン
恋愛描写

カオス・ウォーキング

かおすうぉーきんぐ
カオス・ウォーキング

『カオス・ウォーキング』あらすじ

とある星。この地で暮らす男たちは頭の中の考えや心の中の思いが「ノイズ」となってさらけ出されてしまい、周囲に丸わかりだった。しかも、星にもともと住んでいた生命体によって女は皆殺しとなってしまい、男しか住んでいない状況でもあった。この世界で生まれ育ったトッドは、一度も女性を見たことがなかったが、ある時、地球からやって来て墜落した宇宙船の生存者ヴァイオラと出会い、騒動に巻き込まれる。

『カオス・ウォーキング』感想(ネタバレなし)

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豪華な俳優が仇になった映画

映画は劇場で広くお披露目になる前に鑑賞される機会があります。そのひとつが「試写会」であり、これは応募したことのある映画ファンも多いでしょう。実はさらにその前に鑑賞できる場合もあったります。それが「スクリーン・テスト(Test screening)」と呼ばれるものです。

これはまだ完全に完成していない映画をほんの一部の人(多くの場合は映画関係者もしくは密かに選ばれた一般人)に観てもらい、その感想を元に映画に改良を加えるために行われます。その反応からフィードバックを得て、脚本の修正やシーンの追加撮影、エンディングの変更までしたります。ただ、極秘に行われるものなので後のインタビューとかでその影響が語られる程度ですけどね。

基本的にはより良い映画を一般公開するためのステップなのですが、ときにはそのスクリーン・テストで大不評を受けて大幅な修正を余儀なくされるものもあります

今回紹介する映画もそんな二転三転があった作品です。それが本作『カオス・ウォーキング』

まずこの『カオス・ウォーキング』は原作があって、イギリスの作家である“パトリック・ネス”が2008年に上梓した小説「心のナイフ(The Knife of Never Letting Go)」が基になっています。“パトリック・ネス”の作品は以前にも『怪物はささやく』(2016年)というタイトルで映画化されたこともありました。

「心のナイフ」は「Chaos Walking(混沌の叫び)」というシリーズものになっており、他にもいくつもの小説が刊行されており、“パトリック・ネス”を象徴する代表作です。賞もいくつも獲っています。

そんな有名な小説ですから映画化の話も当然あって、2011年頃から映画化権は獲得していた様子です。一時は“ロバート・ゼメキス”が3部作で映画化するという案もあったり、1作目の『カオス・ウォーキング』の脚本の初稿を『マルコヴィッチの穴』『もう終わりにしよう。』の“チャーリー・カウフマン”が書いていたこともあったとか。

しかし、映画企画は順調に進まず、足踏みが続き、やっと製作が動き出したのは2016年。監督は『ボーン・アイデンティティー』でおなじみの“ダグ・リーマン”が抜擢され、なんだかんだで脚本は原作者の“パトリック・ネス”本人が手がけることに。

キャストも決まり、撮影も始まり、2017年終わりには「よし、スクリーン・テストだ!」となったわけですが、ここでまさかの試写反応は最悪。大規模な再撮影をすることになったのです。

ところが問題がひとつ。実はこの『カオス・ウォーキング』、俳優陣が豪華なのです。

MCU『スパイダーマン』で大人気の“トム・ホランド”と、新続三部作の『スター・ウォーズ』で一躍有名になった“デイジー・リドリー”がダブル主人公として起用され、さらに北欧の至宝である“マッツ・ミケルセン”も参加。他にも『ハリエット』の“シンシア・エリヴォ”や、『ウォーターマン』の“デヴィッド・オイェロウォ”までいる。贅沢なキャスティング。

ただこの豪華なメンツが仇になってしまい、再撮影しようにも俳優のスケジュールが調整しづらく、結果的に再撮影が大幅に遅れてしまう事態に。この再撮影では『ドント・ブリーズ』の“フェデ・アルバレス”が監督を担ったそうです。

そして製作費が1億ドルに膨らみつつも、ようやく完成。コロナ禍を挟みながらやっとアメリカ本国では2021年3月5日に公開に至ったのでした。長かった…。映画化権の獲得から10年かかってしまった…。

それだけ頑張ったのだから良い出来栄えだといいんですけど、まあ、そこはあなたの目で確かめてください。

肝心の内容の話をしてなかった。『カオス・ウォーキング』はヤングアダルトSFで、ある星の入植地の村が舞台。そこではある理由で男しかいないのですが、その地に唐突にひとりの女性が現れて…という謎が謎を呼ぶストーリーになっています。ネタバレしても面白くないのであれですが、なんともヘンテコな物語ですし、かなりユニークな演出もあったり、「これは確かに映画化が難しかったんだろうな」と同情したくもなります。

俳優ファンと、クセのあるSFが好きな人向けかな。大作ではないので(予算はすごいかかっちゃったけど)、あまりスケールの巨大な映像は期待をしないでくださいね。中規模くらいです。

“トム・ホランド”はほんといつもの“トム・ホランド”ですよ。

オススメ度のチェック

ひとり 3.5:俳優ファンなら注目
友人 3.5:ややクセのある内容
恋人 3.5:ロマンスはやや薄い
キッズ 3.5:低度の暴力描写あり
↓ここからネタバレが含まれます↓

『カオス・ウォーキング』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):初めての女性

とある星。この星に入植してきた人間たちの住む村「プレンティス・タウン」で暮らす、ひとりの少年。名前はトッド・ヒューイット。犬のマンチーをいつも連れて、今日も森を歩いています。

ここの村の人間たちは男ばかりで、全員が頭の中で考えていることが相手に読まれてしまう現象(ノイズ)が生じていました。その脳内の思考は頭の周りでモヤとして具現化し、より鮮明に幻影として発現することもできます。

この村は首長のデヴィッド・プレンティスによって支配されており、その首長の息子であるデイヴィとはやや仲が悪いのでトッドは孤立ぎみです。家では養父であるベンがいましたが、仕事は退屈でした。

ある日、家に泥棒らしき人間がいるのを発見し、森へと追いかけます。たどり着いたのは、森が焼けて木がなぎ倒されている場所。何が起きたのか。奥には人工物のようなものが大破しており、もしかして宇宙船なのか、生存者はいるのかと脳内では混乱します。

とりあえず村へ行き、頭に今しがた見た光景が消えない中、それはみんなに伝わってしまいますが、首長のデヴィッドを現場に連れていきます。その盗人みたいな人間にはノイズを感じなかったとデヴィッドに告げると、彼はすぐさま「女を見つけろ」と指示を出します。そこでトッドは初めてあれは女だったのかとそのときになって気づきます。

トッドがひとりになったとき、ふと目の前に例の女と対面してしまいます。頭はパニックです。見つけたことはすぐにみんなに伝わり、女はデヴィッドに捕まり、家に連れていかれます。

そこでデヴィッドはこの地で起きたことを話します。在来の生物種である「スパクル」と戦争があり、女たちは全員滅ぼされてしまった…と。

住人たちはまた戦争でも起きるのかと不安になる中、このスペース・ガールの登場は混乱の火種に。しかし、デイヴィが女のアイテムをいじったことで爆発が起き、その隙に床下に逃げる女。

一方でトッドは納屋に女がいるのを発見し、なんとか匿います。養父のベンとキリアンに見せると、ベンはトッドに「ファーブランチ」と呼ばれる別の入植地について話し、そこならこの女も安全になると言います。デヴィッドがすでにここに来ており、時間はありません。

女は納屋にあったバイクを修理し、大勢に包囲されている中、逃げ出しました。トッドも馬で追いかけます。急斜面を転げ落ち、馬は足を怪我。逃げようとする女に声をかけ、喋ってきたので話せることに驚きつつ、例の場所を話をして連れていくことに同意。

犬のマンチーもついてきて、一緒の旅です。

女はトッドに身の上話をします。4000人以上の乗客を乗せた大型のコロニー船から来たそうで、地球から新世界への64年間の旅の間に両親が亡くなっており、これからもコロニー船は到着するはずだ、と。

私はヴァイオラだと女に自己紹介され、初めての女性の名前を頭の中で反芻するトッド。

しかし、その先には過酷な運命が待っており…。

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トム・ホランドがよく喋る映画

『カオス・ウォーキング』、とにかく“トム・ホランド”がよく喋る映画です。いや、実際は口から音を出しておらず、ほとんどは脳内で言葉にしているだけなのですが。

この世界ではノイズという現象によって、脳内の考えが周囲に漏れてしまいます。映画ではそれは全てセリフとして表現されています。しかも、人間だけでなく、動物までもその声が聞こえてしまうという状況。

なのでトッドは愛犬のマンチーとも会話することに。まあ、ろくな会話はないのですけど…。

それにしてもこうやっていざ実現すると、犬と喋るのはそんなに楽しそうではないですね。相手が犬なので考えることが乏しすぎるという問題が露骨にでてきて…。食事と排泄くらいしか考えてないのか…。

ただでさえ村はノイズだらけです。あれも不便です。私なんて大勢がいる空間だけで嫌なのに、加えてノイズまで聞こえるとなると…地獄だな…。

だからこそトッドはノイズから解放される沼地に足を運びます。

正直、このノイズという最も映像化が難しいであろう設定を本作が上手く表現できているのかは微妙なところ。頭にモヤがフワっと浮かぶような描写になっているのですが、これだとよくゲームとかでキャラクターが発言していることを示す「記号」にそっくりで、やや説明的すぎる気もします。こうでもしないと観客にはわかりにくいと思ったのかもしれませんが…。

このモヤが視覚的現象として幻影の術みたいに応用できるのも飲み込みづらい設定です。後半ではヴァイオラの姿をした本物と見間違うほどの精巧な幻影でデヴィッド・プレンティスを騙すシーンもありますが、あんなことまでできるの?とは思ったりも…。

実際のところ、本作のこのノイズというのは主人公の成長を示すための仕掛けにすぎないので、あまりそこまでSF的なリアリティを追及はしていない代物です。ただ、映画になってしまうと小説以上にリアルを問われるので、これは相性がもともと悪かったというべきかもしれません。

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原作は13歳の物語

ただ、この『カオス・ウォーキング』最大の映画化の「それどうなの?」ポイントは主人公の年齢設定です。

作中では童顔で有名な“トム・ホランド”が演じていることもあって、どんなに若く見てもせいぜい10代後半くらいに思えます。しかし、原作ではそもそも「13歳」の設定なんですよね。あのプレンティス・タウンでは最年少ということになっており、重要な要素です。つまりこの物語はほぼ児童文学なのです。

ティーンになることになる少年が大人の男たちの仲間入りを果たすうえでの恐怖感や不安というものを暗示させた物語。その大人の男の形容しがたい怖さをあのノイズで表現しているわけです。

しかし、映画では“トム・ホランド”をもってしてもさすがにどう考えても13歳には見えないので、物語の軸とキャラクターの年齢が妙にミスマッチな気がしてきますよね。

13歳ってあれですよ、『グッド・ボーイズ』とか『ベビー・シッターズ・クラブ』とかに近い年齢設定ですよ。やっぱり同年代俳優(子役)じゃないと出せない幼さと成長期のさじ加減がある年頃です。

あれだけ脳内パニック状態で喋りまくるのも13歳くらいならあり得るかなと思うのですが、10代後半の見た目の男がそれをやるのはどうも変、というか不自然です。ヴァイオラに対する初心な反応も13歳なら可愛いで済まされると思うのですけど、あの2人の年齢感だとなんというか性を匂わす感じになってしまい、構図として失敗している気もするし…。川辺でトッドが服を脱ぎだすシーンも思いっきりいい体つきしてしまっていますもんね…。在来の生物をナイフで刺しまくるトッドとか、もはや幼さもなく、怖いだけでしたよ。

あの年齢ゆえに観客側の反応としても「主人公は男ならヴァイオラに対してあんなことを考えるのも当然だ」みたいに異性愛的規範を助長させてしまうでしょう。ちなみに原作者の“パトリック・ネス”は同性愛者で、作中でもトッドは男性2人に育てられており、ゲイカップル風に描かれています。

また、原作に本来はあった「大人の男社会に“男になる前の少年”が反旗を翻す」という根幹のテーマ性は薄れてしまい、なんか童顔のティーン男子が宇宙からやってきた女性と遭遇して、トキめく男女交流が起きそうで起きることもなく時間は過ぎ去り、なんやかんやで悪そうな村のリーダーを倒しましたという着地にしか観客には見えないのではないかな、と。

後半のファーブランチではいよいよ真実(女性を殺したのはデヴィッドたちだった)が発覚しますが、物語自体がこのオチの提示以上の衝撃を与えることもないので後は予定調和でした。

それにしてもファーブランチのリーダーである“シンシア・エリヴォ”、今作では全然カリスマ性を発揮するような出番はなかったな…。“マッツ・ミケルセン”はいつもどおり虎視眈々と暗躍する悪役を演じさせたらやっぱり上手かったですけどね。

たぶん続編は作られそうにないですけど、やるなら今度はキャスティングからやり直しかな…。こればかりは再撮影ではどうにもならないのでね…。

『カオス・ウォーキング』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 21% Audience 71%
IMDb
5.8 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
4.0

作品ポスター・画像 (C)2021 Lions Gate Films Inc. All Rights Reserved カオスウォーキング

以上、『カオス・ウォーキング』の感想でした。

Chaos Walking (2021) [Japanese Review] 『カオス・ウォーキング』考察・評価レビュー