緊急事態はいつか終わる(でも政府は無能だ)…映画『グリーンランド 地球最後の2日間』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2020年)
日本公開日:2021年6月4日
監督:リック・ローマン・ウォー
グリーンランド 地球最後の2日間
ぐりーんらんど ちきゅうさいごのふつかかん
『グリーンランド 地球最後の2日間』あらすじ
それは平穏に済むと聞かされていた。しかし、事態は思っていた以上に深刻だった。突如現れた彗星の破片が隕石となって地球の各地に降り注ぐ。さらなる巨大隕石による世界崩壊まで残り48時間に迫る中、パニックになった人々は避難をしようと動き出す。その一方で人間の欲が剥き出しとなり、街は大混乱に包まれていく。愛する者を守り抜くためにジョン・ギャリティという男もまたその渦中にいた。
『グリーンランド 地球最後の2日間』感想(ネタバレなし)
真面目なディザスター映画
2021年4月29日に中国が打ち上げた大型ロケット「長征5号」が制御不能となり、その残骸が大気圏に再突入し、地球上に落下することが懸念された5月前半。みんなが気になるのは「どこに落下するのか」ということだったのですが、「落下地点は予測できない」と多くの専門家は口にしました。なんでも数秒違うだけで落下予測地点が数千キロと変わってしまうらしく、ほぼ落下してみないとわからないというなんとも元も子もない見解も。結局、このロケット残骸はインド洋に落下したことが確認されました。
この話を聞いたとき、「じゃあ、よくSFで隕石の落下地点を推測するとかあるけど、あれって現状の科学では不可能だったんだな」とやや興ざめする気持ちにもなったり。落ちてくることはわかってもどこに落ちるのかわからないのでは意味ないですからね。となると本当に地球に破壊的な隕石が落下する事態になったとき、私たちを守ってくれる人はあんまり期待できなさそうです。
でもそういうシチュエーションを想定して映像化するのもSF映画の醍醐味のひとつ。1993年にアーサー・C・クラークが小説「神の鉄槌」で小惑星衝突の危機に直面する人類をリアルに描き、その後も1998年の『ディープ・インパクト』や『アルマゲドン』など超大作級のスケールでその危機がダイナミックに描かれてきました。
ただ、現状の人間社会の力量では、迫りくる隕石に何かすることができるわけではなく、ひたすらに祈って凌ぐことに徹するしかできないようです。このコロナ禍でヒトという生き物のちっぽけさを痛感した今、私たちは自分たちの種の驕りを反省し、謙虚に生きることの大切さを見直す時間を与えられました。
そんなこの時期だからこそ今回紹介する映画も胸に響くでしょう。それが本作『グリーンランド 地球最後の2日間』です。
本作は彗星が地球に衝突することが直前に判明し、パニックに陥る世界を描いています。特徴としては、その未曽有の危機に対処する政治家や科学者を一切描いていないということ。しかも、その危機を回避する術もなく、大胆な奇策が実行されることもありません。本作ではヒロイックなストーリーラインに依存せずに、ひたすらに翻弄される庶民をその目線で追いかけ、徹底して庶民の堅実なドラマを映し出します。
ディザスター映画なので多少のVFXによる派手なシーンはありますが、それでもそれありきではない。こういう真面目さを重視したものを、このジャンルとしてハリウッドが作るのは珍しいんじゃないでしょうか。
しかも、監督と主演があの『エンド・オブ・ステイツ』でタッグを組んだ“リック・ローマン・ウォー”監督と“ジェラルド・バトラー”なんですよ。「エンド・オブ(Fallen)」シリーズの最新作はまさか『エンド・オブ・プラネット』になるとはなぁ…(関係ありません)。
「エンド・オブ(Fallen)」シリーズ鑑賞済みの人からすれば、また“ジェラルド・バトラー”がひとりで大暴れして危機的状況を打破しちゃうんじゃないの?と思ってしまうのですけど、『グリーンランド 地球最後の2日間』はそういう映画ではないです。
“ジェラルド・バトラー”は最近も『ジオストーム』でディザスターと言う名の人災に挑んだし、『ハンターキラー 潜航せよ』でも潜水艦を乗りこなしていたし、どうしたって“なんとかなりそう”な人なので、この『グリーンランド 地球最後の2日間』もそう考えてしまうのは無理ないですけどね。
共演は、『デッドプール』の“モリーナ・バッカリン”、『ドクター・スリープ』の“ロジャー・デール・フロイド”、『ライトスタッフ』の“スコット・グレン”など。名もなき庶民はいっぱい映りますが、メインで描かれるキャラクターは絞られており、ドラマに集中できます。
『グリーンランド 地球最後の2日間』はアメリカ本国では2020年に劇場公開を予定していましたが、コロナ禍のパンデミックで断念となり、配信に。でもこういう映画をこんな緊急事態の最中に家で観るのもまた格別の体験だと思います。日本でも皮肉なことに終わらぬ緊急事態宣言の中での公開。本作を鑑賞することで気を引き締められるなら、それもそれでいいでしょう。
私にとっては一番好きな「エンド・オブ」シリーズの一作になりました(だから違う)。
オススメ度のチェック
ひとり | :じっくり鑑賞するも良し |
友人 | :自分ならどうするか語り合う |
恋人 | :家族ドラマとして |
キッズ | :ディザスター映画好きなら |
『グリーンランド 地球最後の2日間』感想(ネタバレあり)
あらすじ(前半):緊急事態宣言はいつも突然に…
ジョン・ギャリティは建設中のビルの上でいつものように仕事に向き合っていました。建築構造の専門家であり、ボスとして部下からは頼りにされています。
世間では隕石の話題で持ち切りです。地球の上空を通過するとされる彗星「クラーク」のニュースばかりがテレビでもラジオでも新聞でもネットでも流れていきます。
そういうジョンはそんな時事ネタに関心を持っている余裕がありません。実は妻アリソンと息子のネイサンとは別居中であり、そのことが気が気ではないのでした。
結局居ても立っても居られず車を走らせます。家に到着。少しインターホンを押すべきか躊躇しつつ、やっぱり鍵を使って入ることに。部屋では妻がランニングマシンで汗を流していました。やや気まずい空気。夫婦の関係性は溝があります。
そこに息子が帰宅。元気にハグしてきます。この子だけが繋がりです。
今のテレビではこの彗星に危険はないと再三繰り返されていました。息子と買い物に行くと上空で軍用機らしきものが大量に飛んでいるのを目撃。「クール!」と息子は上機嫌。
すると自分のスマホが聞いたこともないアラートを鳴らし、「プレジデント・アラート」なるメッセージが届きます。そして電話まで。なんでも自分とアリソンとネイサンが秘密のバンカーに移る者に選ばれたという機械音声風の知らせでした。さっぱり意味がわかりませんが、怪しさを感じ、すぐに家に帰ります。道には軍用車両が何台も走っていました。
家では近所の人たちが何も知らず呑気に居間に集まっていました。アリソンに例の話をします。ニュースと違うと意見する妻。
そのとき、今のテレビでは彗星の破片が海に落ちたというニュースが。直後、わずかな揺れを感じたジョンが外に出ると、鳥が群れで飛び立ち、間髪入れずに大規模な衝撃波に倒れます。
居間に戻ると彗星の破片がフロリダ州を襲ったというニュースが。街が壊滅する衝撃の映像が流れており、一同は困惑。事前の話と違いすぎる…。すると大統領の警告がテレビにデカデカと映し出され、ロビンズ空軍基地に移動するようにギャリティたちにメッセージを表示します。
急いで荷物を準備するジョンの家族。車を出します。しかし、隣人のエドはあれはまだ破片でもっと巨大な隕石本体が落ちてくることになり、地球が崩壊すると恐ろしい話をしてきます。さらに別の隣人のデブラが娘エリーを抱えて乗せてと懇願。しかし、ジョンは無情にも「すまない」としきりに謝り、無情にも発進。選ばれた人しかダメなら連れて行っても意味はありません。
夜になりました。ハイウェイは大渋滞。別の道へルート変更。それでも長い車の列なため、しょうがないので車を降ります。基地の前では群衆が入れろと訴えていました。選ばれた人はゲートを通してくれるようです。自分たちは選ばれた人間だと声を張り上げてなんとか通してもらいます。
ところが、軍用機に乗り込む直前の荷物整理でネイサンの糖尿病の薬がないことが発覚。どうやらネイサンが車に置いてきてしまったようです。急いでジョンは取りに行ってきます。
しかし、前代未聞の危機でパニックになった群衆はコントロール不能になってしまい…。
ジェラルド・バトラー(弱い)
『グリーンランド 地球最後の2日間』は過度にエンタメに走らない真面目なディザスター映画でした。それはキャラクター描写にも堅実に表れていたと思います。
主人公のギャリティ一家は典型的な白人中流階級です。近所づきあいもいいようで、冒頭ではアットホームな空気を醸し出しています。しかし、例の隕石の危機が起こる前から夫婦にはすでに別居という危機が起こっており、一抹の不安を抱えた状態です。
そして危機が勃発。避難することになるのですが、ここで近所の住人を車に同乗させることをやむなく拒否するなど、まずは家族の近所との築いてきたコミュニティは崩壊してしまいます。
次にジョンとアリソン&ネイサンが分断化してしまい、さらにアリソンとネイサンが分かれてしまうことに。家族が完全にバラバラになります。
ここでそれぞれの家族メンバーの描き方がシンプルながら良かったです。
例えば、ジョンは、もともと図面と睨み合って指示を飛ばす仕事をしている頭脳派な職業なので、今回の“ジェラルド・バトラー”はあんまり肉体的にマッチョでもなく、どこかややだらしない体型をしています。そんな彼が薬を取りに車に戻ったり(結局は無駄足)、また飛行機に戻れたと思ったらもう1度車に向かったり、とにかく可哀想なくらいに何往復もすることになります。そのたびに息切れしていく。観ている観客にしてみれば、大丈夫かな?という不安になります。
ただでさえこの“ジェラルド・バトラー”は人を見捨てたり、うっかり殺してしまう状況を経験して動揺してしまうようなメンタルの持ち主です。“ジェラルド・バトラー”らしからぬ弱さですよ。
どこかで“ジェラルド・バトラー”がブチ切れて、周りにいる人間を八つ裂きにしていくんじゃないかとか、別の意味で緊張感があったのも内心では思っていたのですけど…。
一方で妻のアリソンはその逆。初登場時にランニングマシンで走っているとおり、かなり体力があります。これは単にスタイルを維持するみたいな目的ではなく、どうやら彼女の父は軍人だったようですし、家柄的に“体は鍛えるべし”というスタンスなのかもしれません。とにかくアリソンは夫と離れ離れになってからも何かと行動が的確で、それに走る走る。綺麗なフォームで走りまくり、それがまたパワフルです。
最初、なんでジョンはアリソンに追いつけないのかな?と思ったのですけど、アリソンの方がテキパキと前進できる性分なんでしょうね。
この夫婦間のすれ違いがしっかり避難過程にも反映されているのが上手い配置だなと思いました。
話としてはいかにもアメリカ的な家族がバラバラになってまた団結するという、もう何千回と見たやつなんですけどね。
最後のシーンは映画館でこそ
『グリーンランド 地球最後の2日間』は夫婦の物語ですが、背景にはいろいろなその他大勢が描かれています。
中には完全に自己中心的な欲に走る者もいます。略奪行為に身を投じたり、生き残りたくて児童誘拐に手を染めたり、こんなときでも他人を見下す人もいる。または、完全に現実逃避してパーティーで騒いでいるだけの集団もいたり…。
それでもこんなカオスの世界でも、まだ献身的な優しさを見せてくれる人がいて、その存在に出会うたびに少しだけ救われていくことに。本作はそういうそれだけでは根本的な解決にはならない“小さな優しさ”がやがては命を救うというバトンに連なっていくことを描いているような作品でもありました。
そのあたりの描写は確かに心を震わすものなのですが、確かにちょっと都合がいい面は目立ちます。やっぱり主人公が白人だから助かっているところも多々ありますよね。きっと黒人だったら車や飛行機に乗せてすらもらえなかったんじゃないか、その場で撃たれるだけなのでは…とか。
あと、子どもの糖尿病の件が車に戻るというストーリーを動かすありきの仕掛けでしかないので、ややリアリティは薄いです。たぶん実際に糖尿病の子を抱える親御さんは災害で避難所に逃げる際もすごく慎重に薬のことを考え抜いて行動していると思うし、常に万が一の不安を抱えて生きていると思うのです。その割にはあの両親はうっかりしすぎな気もする…。
政府の国民への対応があまりに無味乾燥で冷酷なのはリアルだなと思いましたけど。もうアメリカ国民はあんな大統領を経験してしまったから、政府には期待していないのだろうな…。
それ以外だと映像面は良かったですね。VFXが過度に悪目立ちしていないというか。最初は突然の衝撃波。そこから基地での引火大爆発という人災。そしてすっかり忘れた頃に終盤で細かい隕石群が降り注ぐ中のドライビングという見せ場。終わり間際では飛行機に乗って上空視点での圧倒的なインパクトを思い知らされる。
どんなに懸命に行動しようともヒトという生き物になすすべはなしという本作のテイストは、何度も言いますけど、このコロナ禍を体験してきた人なら身を持ってわかったはずです。それこそ家に籠ってステイホームとか言って耐えるしかできない。どんなに科学が発展しようとも人間には限界がある。
でも同時に新しいスタートを切りだすこともできる。エンディングで開くゲートはすごく壮観で興奮するシーンでもありました。この場面は映画館で観ると特に感動しますね。劇場スクリーンとあのゲートがちょうど重なって光が差す体験をあのグリーンランド・ステーションのバンカーの生き残りと一緒に一体になって観客も味わえますから。
この後は異形のモンスターと戦ったりするのかな…。
隕石が落下するような緊急事態宣言になったら、さすがにオリンピックは中止する…よね?
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 78% Audience 64%
IMDb
6.4 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
作品ポスター・画像 (C)2020 STX FINANCING, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
以上、『グリーンランド 地球最後の2日間』の感想でした。
Greenland (2020) [Japanese Review] 『グリーンランド 地球最後の2日間』考察・評価レビュー