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ドキュメンタリー『キャッチ&キル / #MeToo告発の記録』感想(ネタバレ)…なんとなくMeTooを語る前に

キャッチ&キル / #MeToo告発の記録

なんとなくMeTooを語る前に…ドキュメンタリーシリーズ『キャッチ&キル / #MeToo告発の記録』の感想です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Catch and Kill: The Podcast Tapes
製作国:アメリカ(2021年)
配信日:2021年にU-NEXTで配信(日本)
製作総指揮:ナンシー・アブラハム、ローナン・ファロー ほか
性暴力描写

キャッチ&キル / #MeToo告発の記録

きゃっちあんどきる みーとぅーこくはつのきろく
キャッチ&キル / #MeToo告発の記録

『キャッチ&キル / #MeToo告発の記録』あらすじ

2017年10月、ハリウッドの大物プロデューサーであるハーヴェイ・ワインスタインの性暴力を告発する記事が発表された。長年の間に渡って映画界での成功を夢見る女性たちを毒牙にかけていたという最悪の所業。それは業界では公然の秘密として噂されていたことだが、それはいかにして暴かれたのか。その裏には真実と正義を求める被害者やジャーナリストの戦い、そして加害者側による陰湿な妨害工作があった。

『キャッチ&キル / #MeToo告発の記録』感想(ネタバレなし)

#MeTooについてどこまで知っていますか?

2022年前半、日本では映画・テレビ・演劇など俳優が関わる業界において、性的被害の告発が相次ぎました。

始まりは2022年3月。一部のメディアで複数の女優が“榊英雄”監督から性的行為を強要されたと訴えました。さらに俳優の“木下ほうか”からも性的加害を受けたと告発する女優も出現。また、“園子温”監督による日常的な性的加害行為も業界関係者から告発され、“園子温”監督は世界的にも知られる日本人監督だったこともあって海外の映画メディアもこれを報じました。

この他にも演劇の業界でも性的被害の報告が相次いでいます。

残念ながら日本の映画・テレビ・演劇など俳優が関わる業界ではこうした性的加害行為やハラスメントが常態化していることがハッキリと浮き彫りになりました。直接的な加害者だけでなく、それを見て見ぬふりをして許容してきた業界関係者も大勢いたわけです。

こうした日本で突如として生じた性的加害の告発ムーブメントに関して「やっと日本でも#MeTooが起きた」と評する声もあります。大物プロデューサーの“ハーヴェイ・ワインスタイン”による性的加害行為の告発に端を発する「#MeToo」は2017年にアメリカから始まり、瞬く間に世界中の業界へと波及し、女性への理不尽な暴力をやめようという業界改革へと発展しました。日本を除いては…。当時の日本ではほぼ波風立つことがありませんでした。日本は犯罪の少ない国として名が挙げられるくらいに有名ですが、犯罪学の専門家は女性の性的暴力の問題は軽視されている体質があることを指摘しています。この日本での#MeTooスルー状態はその表れであり、被害者が相当に声をあげづらい環境が存在したことを如実に示していました。

実際、今回の2022年の相次いだ性的加害問題の告発は、確かに業界関係者の意識を高め、問題に取り組む団体が立ちあがったりもしたのですが、本格的な業界改善には至っておらず、大手の映画会社も反応は鈍いです。私の個人的な感触としても、これが日本の業界を劇的に変えると言えるほどの希望的観測はとても抱けないなというのが正直なところ。あまりにも日本は劣悪すぎます。一部の加害者は被害者を告発しようとしていますし、その加害者の取り巻きの関係者の中にも加害者を擁護したり、被害者をバッシングしようとする連中がわらわらいますから。

早急な対策が必須ですが、同時にこの問題へのリテラシーを高めることも必須です。例えば「そもそも#MeTooの盛り上がりの始点となったワインスタイン事件とは何か?」を整理してみるのもいいかもしれません。というのもなんとなく#MeTooやワインスタイン事件についてニュースで聞きはしたけど詳しくは知らないという人も多いと思います。

この事件について知ることで、被害者の辛さ、加害者の行動の出方、告発の難しさ、報道のスタンス、そして根本的な問題構造といったものがあらためて理解できますし、それは日本で今後もたらされるであろう(そうでないと困る)本格的な#MeTooにおいても有用な情報のはずです。

幸いにもこの事件について整理されたドキュメンタリーシリーズが2021年から配信しています。

それが本作『キャッチ&キル / #MeToo告発の記録』です。

本作はワインスタイン事件の告発に大きな役割を果たしたひとりであるジャーナリストの“ローナン・ファロー”が書いた「Catch and Kill」という2019年の書籍が原作で、それをポッドキャストにしたものを、さらにドキュメンタリー化したものです。“ローナン・ファロー”が関与した一連の告発の全容がひととおりまとまっています。

全6話(1話あたり約30分)、日本では「U-NEXT」で配信中です。

ただし、性的加害行為へと被害者を誘う現場の録音音声など生々しい描写もあるので、その点は注意をしてください。

オススメ度のチェック

ひとり4.0:映画が好きなら知っておいて
友人3.5:業界の問題を語り合える人と
恋人3.0:シリアスな題材だけど
キッズ3.0:センシティブな題材なので注意

『キャッチ&キル / #MeToo告発の記録』予告動画

 

↓ここからネタバレが含まれます↓

『キャッチ&キル / #MeToo告発の記録』感想(ネタバレあり)

口を封じられていた被害者たち

“ハーヴェイ・ワインスタイン”は1979年から始まった「ミラマックス」の創業者であり、この会社はインディペンデントな映画を作りつつもヒットも生んでいたので業界で支持されました。ハリウッドで最も成功したプロデューサーとして名声を轟かせ、90年代には絶大な存在感を業界で発揮させていました。

この“ハーヴェイ・ワインスタイン”は2017年になって唐突に告発されたわけではありませんでした。昔から、それこそ90年代からその悪評も業界内で囁かれ、公然の秘密として共有されていたことがこのドキュメンタリーでも関係者の口から語られます。

“グウィネス・パルトロー”“ロザンナ・アークエット”といった女優が被害を受けているという噂も流れる最中、ミラマックスのアシスタントとして入社した“ロウィーナ・チウ”の被害体験談が生々しいです。しかし、示談とされて秘密保持契約書を結ばれ口外もできずにさらに契約書の写しも無しで裁判所に取引記録がゼロなので、結果、被害が“存在しなかったこと”にされていたことがわかります。

そして当の被害者は自分のことでいっぱいいっぱいなので理解していませんが、この口封じを大勢の女性が体験したという…。

“ロウィーナ・チウ”が入社時にワインスタインの評判について「短気だしマッサージを求め不適切な話もする」と聞かされそれでも受け流してしまった話がありましたが、ただでさえチャンスの少ない女性がキャリアを手に入れねばと焦る中、こういう平然と耳に入る悪評でも「まあ、しょうがないか」と我慢してしまう。こんなのは日常茶飯事でしょうが、それこそこの問題の構造の一端ですね。個人としての女性の立場の徹底した脆弱さ…。

また、証拠さえあれば告発できるという考えも脆くも打ち砕かれた、女優の“アンブラ・グティエレズ”のエピソードもキツイものです。

だからこそ“ローズ・マッゴーワン”のようにTwitterで被害を訴える者もでてくる。「#MeToo」はSNSを土台にした運動ですが、なぜそもそもSNSなのか。そこには会社も公的機関も助けてくれず、こうしたネット上での告発に頼るしかないほどに追い込まれた被害者の切実な実情がありました。

ローナン・ファローとは?

そんな被害者女性たちを奮いあがらせるきっかけとなったジャーナリスト、それが“ローナン・ファロー”でした。

まずこの“ローナン・ファロー”とは誰なのか。本作は“ローナン・ファロー”が製作に関与しているので彼自身のことに関する説明がなく、ここで簡単に説明をしておくと、彼が関わるというのまた巡り合わせみたいなものです。なぜなら“ローナン・ファロー”はあの大物監督“ウディ・アレン”の息子だからです。“ウディ・アレン”と言えば1992年に元妻の“ミア・ファロー”から「当時7歳だった養女に性的な虐待をした」と告発を受けた人物。“ローナン・ファロー”は母の“ミア・ファロー”を擁護し、父の“ウディ・アレン”を非難。結局、“ウディ・アレン”は有罪にならず、“ローナン・ファロー”にとっては屈辱だったでしょう。

その“ローナン・ファロー”は母の影響でユニセフの仕事をしたり、政府関係の職に就いていたそうですが、しだいにジャーナリストとして活動をしだします。

それで“リッチ・マクヒュー”といった先輩のもとで、キャンパスでの性暴力事件などを扱っていたことが本作でも語られます。“ローナン・ファロー”にとって社会に巣食う性犯罪を扱うのは人生上の命題だったのかもしれませんが、こうやって経験を積んでいたんですね。

で、次の取材対象としてワインスタインの事件を調べ始めます。そこで過去にワインスタインの性暴力事件を突き止めるもあえなく報道を断念せざるをえなかったジャーナリストの“ケン・オーレッタ”や芸能記者の“キム・マスターズ”といった先人たちの後を受け継ぐように活動開始。

「ニューヨーカー」の上層部の協力姿勢、校閲担当者の卓越した仕事ぶりなど、多くの支援に恵まれます。

2017年10月10日、「ニューヨーカー」で暴露記事を発表するに至ることに…。

これまで封殺されてきたのに“ローナン・ファロー”が今回報道して注目を集められた理由は、証拠としての被害証言の多さもさることながら、彼自身のネームバリューがあったことも影響しているんでしょうね。

ちなみにワインスタイン事件を暴いたのは“ローナン・ファロー”だけでなく、同時期に「ニューヨーク・タイムズ」の“ジョディ・カンター”と“ミーガン・トゥーイー”も記事を公表しています。

言論封殺;報道しない報道機関

一方でそう易々と“ローナン・ファロー”が記事を公表できたわけもなく…。

その裏には加害者側と結託したメディアの言論封殺という現実がありました。報道しない報道機関なんて何の価値があるんだという話ですけど…。

もともとは“ローナン・ファロー”は「NBC」の特派員で、そこで記事を発表したいと考えていましたが、NBCの上層部側はこれを「価値あるネタではない」として捨てます。それでも上司の目を盗み調査を続けた“ローナン・ファロー”に対して、NBCニュース社長“ノア・オッペンハイム”(『ジャッキー/ファーストレディ 最後の使命』の脚本家でもある)は報道中止を命令。しょうがないので「ニューヨーカー」に移ることに…。

まるで1999年の映画『インサイダー』の再現のようだと作中で語っていますが、本当にいつかこの一件も絶対に映画化されそうです。

NBCユニバーサル会長の“スティーヴ・バーク”も報道を止めたこの一件。実はNBCも社内のセクハラを口止めしていたことがわかり、同類の奴らだったことが判明します。

報道が正しく機能するということがいかに大切なのか、すごくよくわかる話でした。

加害者はただの男にすぎないが…

本作を観ていてとくに印象的なのは“ハーヴェイ・ワインスタイン”という加害者の実像。

性犯罪に限らず、よくこういう醜悪な犯罪事件が起きると、加害者は恐ろしいヴィランのように極端に悪人として持ち上げられがちです。でもここで示されていく“ハーヴェイ・ワインスタイン”の実像は言ってみれば、ただの映画業界で働く、どこにでもいるオッサンです。

録音音声に残された言葉もそうです。「君さえよければ私が指導してやろう」「我が子に誓って何もしない」「恥をかかせるな」「私を誰だと思っている?」…その言葉の数々はいかにもよくある言い文句ばかり(これが映画の脚本だったらつまらないセリフだと馬鹿にされそう)。ジャーナリストの前で急に泣き崩れたり、記事公表に向けて準備する“ローナン・ファロー”に接触してきて電話ごしに告発していない事件まで自白しだすなど発言はめちゃくちゃだったり、洗練された悪という感じも欠片もない。プロデューサー業では確かにカリスマ性はあったのかもですが、中身は凡人です。自分がした行いの後始末にオロオロするくらいの…。

ではなぜそんな凡人が多くの女性を餌食にする所業を長年実行できたのか。それはその凡人を擁護し、支援し、手を貸すような人間や組織がたくさんいたからでした。警察、弁護士、メディア、民間調査会社、イスラエル系の民間スパイの業界まで…。また、“アンブラ・グティエレズ”が娼婦扱いされてまともに取りあってもらえなかったように、女性の人権だけでなく、セックスワーカーの人権問題もまた性犯罪の隠蔽に加担していました(セックスワーカーが労働者として認められていればこうはならなかったのに)。これらがただの凡人を“失脚させるのは困難な重鎮”へと改造する…。

『ジェフリー・エプスタイン 権力と背徳の億万長者』でも思ったことですが、権力実行型の性犯罪にせよ、一般個人型の性犯罪にせよ、それを成立させているのは、加害者の性格でも性欲でも何でもなく、社会構造であるということ。

この認識だけは必ず持っておかないといけないですね。

日本でも「枕営業なんだから女性にも非がある」とか、「加害者はちょっと誤解を招く行動にでてしまっただけ」とか、問題を個人感覚に矮小化しようという世間の空気がありますが、その空気こそまさに性犯罪を生み出す構造的な諸悪の根源です。

被害者にこれ以上負担をかけないためにも、自発的にこの業界の空気を変えないといけない。それは監督、俳優、プロデューサー、宣伝・広報、スポンサー、メディア、批評家、映画ファン…みんな等しく責任があることですよね。

『キャッチ&キル / #MeToo告発の記録』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 88% Audience 75%
IMDb
7.2 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
7.0
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作品ポスター・画像 (C)HBO キャッチ・アンド・キル #METOO告発の記録

以上、『キャッチ&キル / #MeToo告発の記録』の感想でした。

Catch and Kill: The Podcast Tapes (2021) [Japanese Review] 『キャッチ&キル / #MeToo告発の記録』考察・評価レビュー