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『ゴーストブック おばけずかん』感想(ネタバレ)…若干の平成と大半は昭和のジュブナイル

ゴーストブック おばけずかん

若干の平成と大半は昭和のジュブナイル…映画『ゴーストブック おばけずかん』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:ゴーストブック おばけずかん
製作国:日本(2022年)
日本公開日:2022年7月22日
監督:山崎貴
恋愛描写

ゴーストブック おばけずかん

ごーすとぶっく おばけずかん
ゴーストブック おばけずかん

『ゴーストブック おばけずかん』あらすじ

どうしても叶えたい願いがある一樹たち3人の子どもは、学校で噂になっている祠に行ってみる。その夜、寝静まった子どもたちの枕元に現れて「願いを叶えたいか?」と囁く謎のおばけが現れる。夢かと思ったが半信半疑で謎のおばけが言っていた「おばけずかん」を探すことにする。あやしい店主がいる迷路のような古本屋で図鑑を手に入れたものの、古本屋から出ると、そこには知らない世界が広がっていた…。

『ゴーストブック おばけずかん』感想(ネタバレなし)

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子ども向けのファミリー実写邦画の苦戦

2022年の日本の映画興収ランキングでその年の映画の賑わい方を軽く振り返ったばかりですが、2022年は『キングダム2 遥かなる大地へ』を筆頭に邦画実写も大健闘していました。

一方で、同じ実写邦画でも明暗が分かれた部分もあり、それは興収ランキングからはあまり見えてきませんが、無視できない傾向でもあります。

とくに苦戦をしているのは子ども向けのファミリー実写邦画です。これらの実写邦画がヒットできないでいる理由は、おそらくアニメーション映画にその席を完全に奪われてしまっているからというのが主因なのでは?とも思います。日本は国内製作のアニメ映画の勢いが凄まじいですが、その煽りを受けるのは、子ども向けのファミリー実写邦画なのでしょうね。少子化の影響もあるのかもしれませんが、大人も巻き込んで大ヒットできるファン層の基盤の強いアニメ映画と比較して、子どもをメインターゲットにするファミリー実写邦画は分が悪いです。

これは別に日本だけの傾向ではなく、アメリカでも似たり寄ったりで、映画ビジネスは子ども市場ではなくファンダム市場へと移行しつつあります。そんな時代の中で、子ども向けのファミリー実写邦画が今度どう変移していくのかも個人的には注目していきたいところです。

今回紹介する2022年に公開された日本の子ども向けのファミリー実写映画も興行的には惨敗となってしまい、昨今のこのカテゴリに位置する映画の苦境を物語っていました。

それが本作『ゴーストブック おばけずかん』

本作は原作があって、2013年から続く「おばけずかん」という童話シリーズです。2020年にはアニメ化とテレビドラマ化もしています。その原作からしてわかるように、本作は明らかにも子どもを対象としたエンターテインメントです。「おばけ」とありますが、ホラー要素はほぼ無いです。ファンタジーですね。

その原作を映画化したのが、“山崎貴”監督。2005年に『ALWAYS 三丁目の夕日』を大ヒットさせ、以降も多彩な映画を手がけてきました。“山崎貴”監督と言えば、映画ファンの間では、『STAND BY ME ドラえもん』『ドラゴンクエスト ユア・ストーリー』『ルパン三世 THE FIRST』と、アニメの3DCG映画化を量産し、毎度何かしらの物議を醸すことでも話題です。

“山崎貴”監督個人の問題というか、プロデューサーを含む製作チーム全体の問題なんだと思いますけど…。とにかく作品の方向性が部分的に反感を買いやすいんですよね。

とは言え、VFXを専門にしているだけあって自身のプロダクションである「白組」と共に作り上げる映像面は日本映画界ではトップクラスの実力を誇っています。

今回の『ゴーストブック おばけずかん』も『DESTINY 鎌倉ものがたり』と同じようなアプローチで実写とCGを組み合わせて“山崎貴”監督の得意のフィールドで展開しています。違うのは完全に児童向けということでしょうか。デフォルメされたCGキャラクターも多数登場するので半分はアニメ映画みたいなもんです。

ただ、そのためか、『ゴーストブック おばけずかん』は夏休みシーズンという最良のタイミングで公開されたにもかかわらず、興行的には寂しい結果に終わりました。夏休みっぽい青春映画なのに…。

でも何度も言いますがCGIのクオリティは年々パワーアップしており、『ゴーストブック おばけずかん』でも映像面は非常に楽しいです。児童向けの映画でこのCGは普通にゴージャスでしょう。

俳優陣は、オーディションで選ばれた小学生を演じる子どもたちがメインです。その子どもの脇で支えている大人勢としては、“新垣結衣”が単身で頑張っています。“山崎貴”監督とは『BALLAD 名もなき恋のうた』以来ですね。あれも、ひど…いや、もうやめよう…うん…。

今作の“新垣結衣”は先生役なのですが、“新垣結衣”の先生キャラ、もう何回も観た気がする…。

ちなみに主題歌を歌っているのは“星野源”です(映画内では登場しない)。

他にも“神木隆之介”も出演していますが、こちらは意味深にサラっとでてくるだけです。声の出演をしている“釘宮理恵”、“杉田智和”、“下野紘”、“大塚明夫”の方がよっぽど目立ちます。なお、“田中泯”も声ででているのですが、あんな最強そうな強面のキャラでも、声が“田中泯”だとちょっと安心感あるな…。

子ども向けの作品だからか、“山崎貴”監督作品の中では比較的癖が出すぎないバランスで収まっているので、見やすいとは思うのですが、でもやっぱり“山崎貴”監督チームの特徴は垣間見えたり…。

後半の感想ではそこらへんも含めて語っています。

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『ゴーストブック おばけずかん』を観る前のQ&A

✔『ゴーストブック おばけずかん』の見どころ
★作り込まれたVFXによる世界観。
★王道のジュブナイル・ストーリー。
✔『ゴーストブック おばけずかん』の欠点
☆キャラクターや展開はやや古い。

オススメ度のチェック

ひとり 3.5:青春映画が好きなら
友人 3.5:ジャンルが好みなら
恋人 3.5:子どもの恋愛模様あり
キッズ 3.5:小さい子でも平気
↓ここからネタバレが含まれます↓

『ゴーストブック おばけずかん』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):願いを叶える祠の秘密

「ほんとにそんなのあるのかよ。願いが叶える祠ってさ」…そんなことを喋りながら自転車で駆ける子ども3人。その道端にポツンとある祠に並んで手を合わせると、何か草むらに隠れる白いものがいた気がします。「ハクビシン?」なんて推測してみますが、結局わかりません。

その3人のひとり、坂本一樹は家の自分の部屋でオンラインゲームをしていました。気持ちは沈んでおり、家族と一緒に食事をとる気分でもありません。

その頃、とある古本屋の店主は、ある存在から「願いの光る玉」を受け取っていました。「これならいいかも」「おばけずかん、発動でいいですよね」「主、この願いの持ち主は子どもでして」「こんなに強い願いならやり遂げちゃうんじゃない?」と両者は会話。「3本、厳しいな~。自力で乗り越えないとな」と店主は言いつつ、「告知に行ってきます」とお化けの格好をしたその小さな存在はでかけていきました。

夜、自室で寝ている坂本一樹の前に「我が名は図鑑坊」と名乗る、いかにもおばけ風の白い布をかぶった小さな存在が出現。「昼間の願い、叶えたいか」と言い、「命懸けの試練になるぞ」と脅してきます。それでも「いいよ、懸けるよ」と坂本一樹は強気で述べ、おばけは「祠のある古本屋でおばけずかんを手に入れよ」と指示して消えました。

翌朝、登校する坂本一樹。友人の工藤太一の夢にもそのおばけはでてきたらしいです。さらに飯田サニー宗佑も見たと言います。教室で飯田サニー宗佑は絵を描き、確かに共通したものを見ていると2人は納得。祠に願いをしたせいなのか…。

教室では葉山という女性が産休の先生の臨時教員の仕事で来た新しい担任として紹介されます。ぎこちなく挨拶する葉山は、先生をやるのは初めてだと言います。教育実習以来、教育の仕事に戻るのは久しぶりです。ある児童が「とりま先生」とあだ名をつけました。

坂本一樹たち3人は自転車で向かい、「失敗したら死ぬのかな」と喋りつつ、祠へ。しかし、祠があった場所に奇妙な古本屋が建っており、覗いてみます。誰かいます。寝ているのか?

そこに葉山が通りかかり、3人が建物に入っていくのを見て、万引きだと疑います。そして葉山も本屋の中に足を踏み入れます。

そのとき、坂本一樹たち3人と葉山が異空間から道端に出てきましたが…

3人は本屋でそれらしき本を見つけるも、店主に話しかけられて驚いて逃げます。葉山も追いかけ、異様に広い店を走って、3人は外へやっとでれました。本を持ってきてしまったのですが、返す気分にもなれません。葉山も息きれぎれで追いついて外へ。気を逸らして逃げる3人。

周囲の家のかたちが奇怪になっているのに葉山は気づきます。坂本一樹も一旦家に帰るも、誰もおらず、家の中が変形していることを自覚。友達2人も合流し、スマホも通じず、自分たち以外誰もいないと察して慌てます。

ところが外で意外な人物に出会いました。それは同級生の橘湊という女子生徒。

「気が付いていたらこの世界に来ていたんだよ」と語る橘湊に3人は複雑な顔を浮かべ…。

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不思議ギミックな街並みと家だけでも楽しい

『ゴーストブック おばけずかん』の原作は筋の通る一本のストーリーは無く、おばけの図鑑として解説書っぽくなっているだけなので、映画ではオリジナルのストーリーが考案されています。

結果、『ゴーストブック おばけずかん』は王道のジュブナイルとなっています。このジャンルと言えば、“山崎貴”監督は2000年のデビュー作『ジュブナイル』とまさに同じ。こちらはSFでロボットがでてくる内容ですが、子どもたちが繰り広げる不思議な体験という土台も一緒です。“山崎貴”監督なら『ゴーストブック おばけずかん』をこういう物語にアレンジしてくるのも当然でしょう。

今回の場合は、おばけを一体一体攻略して、捕まえて使いこなしていく必要性があり、その設定はとてもゲーム的、というか「ポケモン」ですね。このあたりも無難な映画化における着地という感じです。

しかし、やはり“山崎貴”監督のフィルモグラフィーとしての進化を感じさせる一番の違いは映像面。今作の映像はジュブナイル・ファンタジーにおける「不思議さ」を盛り上げるのに大きな役割を発揮してくれています。

別にVFXならハリウッド映画でもいくらでも豪勢なのが見れますが、『ゴーストブック おばけずかん』では日本の見慣れた街並みが奇妙に変形しており、そういう意味での日本人観客としてのリアリティある異次元体験が楽しめるのは今作ならでは。細かく観れば見るほど本当によくできています。

日本の家らしい狭い空間の家内もギミックのように変形していくと、何か不思議と新鮮でワクワクしてきます。変形台所での料理シーンとか、ああいうのをもっと見たくなりますね。動き回るトイレでどうトイレするかとか、そういうしょうもないシーンとかも映像化してほしかった…。

こういう映像作りこそ映画化の醍醐味だと思います。本にはできない面白さを提供できるというのは大事なところ。この映像だけでもこれを作り上げたCGスタッフを始めとするチームは誇ってもいいでしょう。この世界をアニメーションではなく実写で映像化できたのですから。

正直、これだけ奇怪な街並みを築けるなら、最後までその要素を物語の仕掛けに引っ張っていってほしかったですが、そこは予算と製作期間的に限界だったのかな…。

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でも大丈夫?

『ゴーストブック おばけずかん』の物語面としては、映像とは真逆で奇をてらったものもなく、王道です。児童向けならこれくらいのバランスでいいかもしれませんが、時間制限があるわりには呑気に家で料理しているなど、やや緊迫感には欠けるのですけど…。

あと、“新垣結衣”演じる葉山瑤子のドラマは本当に薄味でしたね。あまりあの子どもたちのサポートとしてついている意味を感じないのですが、Tシャツ要員なのか…。教師というキャリアを目指す動機のエピソードとしてバックグラウンドが大雑把すぎるんだろうな…。

個人的に『ゴーストブック おばけずかん』で一番気になるのは、子どもたちの描写の古風さ。こう言っちゃあれですが、全体的に子どもたちの造形が昭和臭がするんですよ。

例えば、ふざまくる男子たちに対して、橘湊が「男の子ってこれだから幼稚なんだから…」と呆れる古風な女の子仕草とか。男の子の態度も、女の子の態度も、ものすっごく昭和の定番そのものです。

物語の基本軸も、橘湊が実は事故で意識不明となっていたことがわかり、「悲劇の女の子を救う」というジュブナイルでも少年視点側に偏っています。役立たずではない”男を見せる”結末と、ささやかな告白の成功…特定の少年(今は大の大人)の妄想が濃密に恥ずかしげもなく詰まっている…。ファントムペインどころか、こっちが痛恥ずかしいくらいです。

そう言えば、作中では葉山が平成世代で令和の子どもたちとジェネレーションギャップでノリが食い違うという部分がギャグになってましたけど、あの子たち、厳密には平成生まれなんだから平成世代なんじゃないのか? たぶんまだ完全に令和の子どもという独自の位置づけは確立されていない気がする…。そのへんの時代感覚も本作はテキトーなんですよね。“新垣結衣”本人も昭和生まれなのに…。

『ゴーストブック おばけずかん』はドラマ『ストレンジャー・シングス 未知の世界』のような子どもたちが主役の作品の成功に刺激されて企画されたみたいですが、だったらなおさら時代の需要に応えるのは大事のはず。

原作を最近のものにしても、作り手がその中身を昭和の価値観で盛り付けしていたら台無しになってしまいます。

もし子ども向けのファミリー実写邦画を成功させたいなら、今求められるアップデートをきっちり施して、「これなら子どもに今度10年間はずっと見せ続けたいよね」と良識ある大人が考えるような、そんな作品を作らないといけないのではないでしょうか。

以前に“山崎貴”監督作品の感想でも書きましたけど、“山崎貴”監督作品によくありがちなステレオタイプな古臭い家庭観が滲むキャラクター造形の問題は、ちゃんと組織作りから叩き直さないとなかなか治らないと思います。それこそそのあたりに強い新しい脚本家を加えるとか、プロデューサーもそのへんを理解したうえで製作チームを組み上げないと…。

これじゃあ「でも大丈夫」とはお気楽には言えないかな…。

“山崎貴”監督の次回作はなんと『ゴジラ』。次はどうなるのやらですが、これは神霊以上の難易度のおばけなので、嵐の予感…。

『ゴーストブック おばけずかん』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer –% Audience –%
IMDb
?.? / 10
シネマンドレイクの個人的評価
5.0

作品ポスター・画像 (C)2022「GHOSTBOOK おばけずかん」製作委員会

以上、『ゴーストブック おばけずかん』の感想でした。

Ghostbook (2022) [Japanese Review] 『ゴーストブック おばけずかん』考察・評価レビュー