逃げられない、逃がしはしない…映画『パーキングエリア』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2022年)
日本では劇場未公開:2022年にDisney+で配信
監督:ダミアン・パワー
児童虐待描写 ゴア描写
パーキングエリア
ぱーきんぐえりあ
『パーキングエリア』あらすじ
『パーキングエリア』感想(ネタバレなし)
暴風雪を上回る恐怖
2月も終わればもう春…になってくれるといいんですけど…。
私の地元である北海道・札幌圏ではすでに例年平均を上回る降雪量となっていたのに、2月後半になってダメ押しでさらに暴風雪が襲いました。その爪痕は凄まじく、除雪作業は全く間に合わず、電車は全日運休になるわ、飛行機は全部停止になるわ、高速道路は機能せず、バスも走れず、タクシー会社も臨時休業になり、一般道路は大渋滞で、住宅地道路は道幅が狭くて車が走れず、食料品店には物資が届かず…。どう考えてもコロナ禍よりもこっちの雪害の方が緊急事態宣言が必要なレベルでした。
とくに雪による車の障害は恐ろしいものです。どうせなんとかなるだろ…と油断して吹雪の中で運転してしまう人もいるのですが、本当に危険です。ホワイトアウトと呼ばれる雪で完全に視界が消える状況になると、人間の方向感覚が狂ってしまい、自分が前に進んでいるのかさえも認識できなくなります。雪はやわらかいから事故でぶつかってもダメージは低いだろうという思い込みも甘いです。想像以上に雪は堅いものですし、スリップするので思わぬ派手なクラッシュが起きやすくもあります。
なかなか体験しないと実感できないことではあるのですが…。
そんな危険すぎる冬の雪の猛威で進路を絶たれた1台の車を運転する女性が、悪天候回復を待つために一時避難したパーキングエリアで、暴風雪を上回る壮絶な恐怖を味わうことになるスリラー映画が今回紹介する作品です。
それが本作『パーキングエリア』。
本作は“テイラー・アダムス”が2017年に発表した小説を原作にしています。原題は「No Exit」で、これもいくつもの解釈ができる良いタイトルです。
物語自体は先ほども説明したように、悪天候でパーキングエリアに一時的に閉じ込められた人たちを描いており、いわばシチュエーション・スリラー。赤の他人と一緒の空間で、誰が信用できるのかもわからずに疑心暗鬼に陥りながら、舞い込んだ事態に対処しようとします。その恐ろしい事態というのが本当にゾっとするもので…。このへんは事前に言ってしまうとネタバレで面白さも半減してしまうので伏せておきますけど…。
ただ、本作『パーキングエリア』はいわゆる「拷問ポルノ(torture porn)」と呼ばれることもある、登場人物が凄惨に痛めつけられる描写が多分に含まれる内容の作品です。ゴアというほどではないかもしれませんが、かなりバイオレンス度は高めだと思って身構えてください。そんなのがあると知らずに鑑賞してしまうと結構ギョッとさせられるくらいには暴力的です。
なにせ本作『パーキングエリア』の監督を手がけるのは、2016年公開のオーストラリア映画『キリング・グラウンド』を監督した“ダミアン・パワー”ですからね。こちらの映画は田舎にキャンプにやってきたらとんでもない“狩り”に巻き込まれることになってしまう人々の恐怖を描くスリラーで、これもそのショッキングな暴力性で一部のマニアの間で注目を集めていました。その作家性を持つ“ダミアン・パワー”監督ですので、『パーキングエリア』でも容赦ありません。“ダミアン・パワー”監督はサスペンスの演出がやっぱり上手いですね。
とは言っても暴力描写ありきではなく、主人公の人生の苦境と重ね合わせた、寓話的な体験でもありますし、物語面でも面白いと思います。
『パーキングエリア』の主役を務めるのが、本作で長編映画初主演となった“ハバナ・ローズ・リュー”。ドラマ『ザ・チェア 私は学科長』や『空はどこにでも』などに出演していた新人です。アジア系の俳優がこうしたスリラー・ジャンルで主役となるのは珍しいので(サイドキャラクターでの出番はあったけど)、アジア系のレプリゼンテーションを切り開く活躍を今後も見せてほしいところ。今作『パーキングエリア』も全くアジア系のステレオタイプが欠片もない役どころですし。
共演するのは、ドラマ『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』にも登場していた“ダニー・ラミレス”、『That’s Not Us』の“デヴィッド・リスダール”、『パーム・スプリングス』の“デイル・ディッキー”、ドラマ『24 -TWENTY FOUR-』の“デニス・ヘイスバート”など。
『パーキングエリア』はアメリカ本国では「Hulu」オリジナル映画として配信されているのですが、日本では「Disney+(ディズニープラス)」での独占配信となりました。Disney+がリニューアルして「STAR」ブランドで20世紀スタジオ映画も多数扱うようになったので、これからは『パーキングエリア』のように全部がDisney+で本国公開と同じタイミングで観れるのかなとも思いましたが、『マザー/アンドロイド』みたいにNetflixに売られている映画も最近でもあるし…なんか状況が読めないですね…。
ちなみに『パーキングエリア』のレーティングは「R15+」です。子ども向けの制限のあるアカウント設定になっている場合はサイトやアプリで作品が表示されません(設定を変更すると表示されます)。
『パーキングエリア』を観る前のQ&A
A:Disney+でオリジナル映画として2022年2月25日から配信中です。
オススメ度のチェック
ひとり | :スリラー映画好きなら |
友人 | :緊迫感を一緒に楽しむ |
恋人 | :ロマンス要素はほぼ無し |
キッズ | :暴力描写が多め |
『パーキングエリア』感想(ネタバレあり)
あらすじ(前半):5人と1人
「いつも同じだった。昔からの知り合いで話してくれる人はいない。おカネを貸してくれる人もね。借りられてもまたすぐに必要になる。でも今は再出発できる気がしてる」
こうしてジェイドは語り終えます。「次は君の番だ」と今度はダービーという女性が促されます。
しかし、ダービーは「こんなの意味がある?」とこのリハビリ施設での禁酒会に苦言を呈します。ダービーはあれこれと7回もいろいろなことを試しており、今は禁酒11日目。全く成果がなく、本人は不満を溜め込んでいました。
そこに緊急の電話だと呼び出されます。電話に出るとジョーという男が「お母さんが脳動脈瘤で搬送された 今夜手術する」と深刻そうな声で状況を伝え、「デヴォンに連絡を」と電話番号を伝えてきます。すぐに姉のデヴォンに連絡をしようとするも、電話には許可がいると言われ、しかも許可を出す先生はいないので何もできません。怒りを露わにするダービー。
その夜、ジェイドを訪ね、本来は持つことを禁止されている携帯を借ります。リハビリ施設にいることを姉に伝えますが、姉は「面倒を起こさないで、ママが危ないのに、もう電話しないで!」と冷たい言葉で電話を切ってしまいました。
家族にも切り捨てられ、それでもじっとできないダービーは、工具を持ち出してゆっくりとドアを開け、ダッシュで夜に外へ逃げ出します。急いで車をこじ開け、エンジンを始動。サクラメントのリハビリセンターを後にして、ソルトレークへ向かうのでした。
スマホのナビは警報を知らせています。雪が強くなってきました。一旦停車して、スマホを見ると「ママは会いたくない、来ないで」という虚しいメッセージが…。
ダービーはすっかり落ち込み、そのまま茫然と…。
目を覚まします。車内で寝てしまったようです。まだ夜。吹雪の中、ドアを叩く警官。封鎖されたそうで、「引き返すか、パーキングエリアにいるか」の選択を迫られます。
しょうがないのでミューア・パーキングエリアに到着 他にも車があります。パーキングエリア建物にはWiFiはないようです。外の木のそばで電波が1本だけ立つらしいという話を聞き、行ってみると物音を耳にします。バンの中からです。窓を覗くと拘束された女の子が見えて、衝撃を受けます。車は開きません。ネバダ州のナンバープレート。とりあえず写真を撮り、「出してあげるからね」と声をかけ、建物に戻ります。
パーキングエリアの建物にいたのは自分を覗くと4人。サンディとエドという夫婦。独り怪しい雰囲気の男のラーズ。寝ていて起きてきた男のアッシュ。
あの女の子を誘拐したと思われるバンは、この中のうち一体誰の車なのか…。
その場の雰囲気でカードゲームをすることになり、ダービーは車が気になりながら、さりげなく「どこから来たの?」と質問します。
ラーズは実家に帰る予定だそうで、バトルマウンテンという場所とのこと。そこはネバダです。コイツなのか…。そう察知したダービーはこっそり911に連絡しようとするも圏外。
吹雪で孤立するパーキングエリアで、この異常事態にどう対処すれば…。
工具が大活躍
『パーキングエリア』は誰もが絶対に経験したくはないシチュエーションに放り込まされる、嫌~なスリラーです。母が危篤状態で、しかも真冬の暴風雪の中でパーキングエリアで立ち往生となって、赤の他人と一緒にいることを強制され、挙句にその中の誰かが子どもを誘拐した犯罪者なんですよ。現在進行形で女の子はバンの中で不安と恐怖で覚えている。二重の“孤立した人間”がいるわけです。
この出だしのサスペンスからして緊張感はMAX。しかし、意外にもあっさりと犯人が判明。見るからに挙動不審なラーズという男がネバダ州のナンバープレートの車の持ち主だと推測できます。
ところがここで思わぬ誤算。ひとりじゃどうにもできないのでアッシュという男に事情を打ち明けて協力してもらおうとしますが、そのアッシュも共犯者でした。完全に人選ミス…(まあ、他にそんな人もいないのですけど)。
ここからのダービー、アッシュ、ラーズの3人だけが真実を知っている状況での張り詰めたような腹の探り合い。どうしたらこの事態をこちらに有利にできるかを必死に考える。まさしくダウトのようなカードゲーム以上の頭脳戦が静かに展開します。
しかし、さらなる衝撃の事実。女の子(ジェイ)の「ロウリーさん?」の一言が真実を明らかにします。なんとサンディも実はアッシュとラーズの犯行を知っていて、あえて黙認していました。自分以外の大人4人中3人が犯罪関与者。アウェーすぎる…。身代金目的の誘拐を取り巻く関係者の思惑が暴露され、ここから物語の緊迫感は一段上のヤバさに突入。
サンディの吐露と、それを知ってしまったエドの悲痛な表情が可哀想だった…。
これ以降は“ダミアン・パワー”監督の十八番であり、痛々しいシーンの連発。エドはあっけなく撃ち殺され、いつ誰が死んでもおかしくない最悪の緊張にこっちまで吐き気がしてきそうです。
ネイルガンでダービーの腕を打ちつけるシーン、そしてそれを工具で無理やり引き抜くシーンも…。施設から脱出する際からずっと役立ってきた工具をこう応用するときが来るとは…。
最終決着といい、全体的に工具が大活躍する映画でしたね…。
人生のリハビリに抜け穴はない
『パーキングエリア』はバイオレンスなスリルが見どころではありますが、しっかりドラマ性もあります。
主人公のダービーはアルコール依存症で、それは相当に酷いらしく、家族からも距離を置かれるほど。おそらくアルコール以外にもいろいろと依存症をこじらせているのでしょう。
当初のダービーは治療に興味なく、とりあえずさっさと施設から出たいと思っています。でもそれは許されません。まさに本作の原題どおり「No Exit(出口なし)」というわけです。
それでも無理やり脱出してしまったダービーに待つのはパーキングエリアのビジターセンターでの待機。このロケーションは暗示的であり、人生の待機場という感じでしょうか。引き返せないけど、前にも進めない。そういう人生の立ち往生にあるのが今のダービーで…。
その中でダービーがかつてない危機に直面する。これもやはり依存症や家族の問題からの克服という課題と重なるものです。依存症になってしまった原因は詳細については語られませんが、限られた情報から推測するに、ダービーの家族の軋轢があるのでしょうし…。
終盤の展開はついに自分と向き合うことに覚悟ができたダービーの反撃。それがコカインを吸って感覚を麻痺させての腕から釘を引き抜く展開で開幕するのも、依存症に対する皮肉めいた仕掛けですし、ラストは警察の無線で助けを呼ぶというのも弱音を吐きだすという意味で、治療の正しい出発点だと思いますし。
それにしても主演の“ハバナ・ローズ・リュー”の佇まいも良かったですね。何よりも全くアジア系のステレオタイプがないのがいいです。何かと家族重視のアジアっぽさとは真逆で、家族と敵対してしまっている立場ですし、品行方正で大人しいか逆に誇張されたおどけたキャラになりがちなアジア系の固定観念とは全く違うクールな雰囲気全開です。あの他の役者を寄せ付けない、鋭い顔面のパワーも良かったかな。
皆さんもいざという時のために車には工具を備えて積んでおくのがいいですよ、ほんとに。タイヤ交換用の工具なら必要最低限はあると思いますけど、それ以外の工具も。あと雪国を運転するなら携帯式の小さなスコップもあるとなおさら安心です。車が吹き溜まりで雪で埋まらないように除雪できますし、凶悪な犯罪者をスコップで殴ることもできますし、雪の落とし穴で罠にハメることもできるかもしれません。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 54% Audience 71%
IMDb
6.1 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
作品ポスター・画像 (C)20th Century Studios ノー・イグジット
以上、『パーキングエリア』の感想でした。
No Exit (2022) [Japanese Review] 『パーキングエリア』考察・評価レビュー