感想は2100作品以上! 検索はメニューからどうぞ。

『リトル・モンスターズ』感想(ネタバレ)…保育士の人に観てほしい

リトル・モンスターズ

保育士の人には共感がある?…映画『リトル・モンスターズ』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Little Monsters
製作国:オーストラリア・アメリカ・イギリス(2019年)
日本公開日:2020年1月10日
監督:エイブ・フォーサイス

リトル・モンスターズ

りとるもんすたーず
リトル・モンスターズ

『リトル・モンスターズ』あらすじ

冴えないミュージシャンのデヴィッドは、恋人と大喧嘩したあげくに姉の家に転がり込む。今度は甥が通う幼稚園の先生キャロラインに一目惚れし、下心満載で自ら志願して甥の遠足に同行することにする。ところがその遠足はロマンチックな空気にはならず、子どもの相手に辟易するだけ。しかも、突如としてゾンビが現れ、事態は予測不可能な方向に…。

『リトル・モンスターズ』感想(ネタバレなし)

スポンサーリンク

保育士はゾンビどころじゃない!

少子高齢化で自然消滅に突き進んでいる日本社会。そんな窮地の日本にとって欠かせない役割を担うのは幼稚園の先生や保育士です。子どもを育てやすい環境にするためには、こういう子育てをサポートする労働者を育まないといけません。国も保育士育成に力を入れている…はずですが、2019年の会計検査院の調査によれば保育士の賃金を増やすため保育施設に支出した交付金のうち7億円余りが、実際は賃金の上乗せに使われていない疑惑が判明しました。なんというか虚しくなるだけのニュースです…。

これでは保育士のモチベーションは下がるばかり。保育士という職業のリスペクトが根本的に足りていないのではないか…。

そんな今の日本はこの映画を観るべきなのかもしれません。それが本作『リトル・モンスターズ』です。

そうは言ってもこの『リトル・モンスターズ』は小難しい題材を扱った社会派ドラマでもドキュメンタリーでもありません。「ゾンビ映画」です。はい、あの“うーうー”呻いてヨロヨロ追いかけてくるだけのゾンビです。

ゾンビなんて保育士と全然関係ないじゃないか。それがこの『リトル・モンスターズ』ではしっかりミックスされているのです。これまでいろいろな奴らがゾンビと戦ってきました。ボンクラ中年男、童貞ナヨナヨ男、ヨボヨボ高齢者、青春ボーイ&ガール、クレイジーなアホ…。今回は保育士が戦います。当然、子どもを守るために。

しかし、ただゾンビをボコスカ殴ればいいわけじゃないです。なにせ子どもの面倒も同時に見ないといけません。子どもに精神的ショックを与えるような事象からは遠ざけて、常に安心の環境を提供しないといけないです。加えてなにしろ無邪気な子どもに囲まれていますから、ゾンビなんていなくても普段からパニックなシチュエーションが頻発するわけで…。これ以上、保育士にプレッシャーとストレッサーを与えないで!という話ですが、それでも頑張る、頑張り抜く。だって私は保育士だから…。

そんな保育士マジかっけー!と称賛したくなる『リトル・モンスターズ』。

ハッキリ言います。全く怖い映画ではありません。コメディです。しかもすっごくゆる~い。なので手に汗握る緊迫感とスケールを期待しないでくださいね。『新感染 ファイナル・エクスプレス』とは雲泥の差です。

じゃあ何が良いのかと言えば、この緩さと、後は大人と子どものアンサンブルですかね。本作にはたくさんの幼稚園クラスの子どもたちが登場するのですがその子ども描写がすごくナチュラル。なんか是枝裕和監督がゾンビ映画を撮ったらこうなりそうな空気感。子ども好きにたまらない一作です。

若干、『クレヨンしんちゃん』に近いノリのある映画ですね。

監督は“エイブ・フォーサイス”。オーストラリアの俳優なのですが、監督業もやっています。

俳優陣は、主演に“アレクサンダー・イングランド”という、映画だと『エイリアン コヴェナント』にも出ていた人がメイン主人公を務めています。そして『アス』で素晴らしい怪演をみせ、『ブラックパンサー』などブロックバスターにも活躍の場を広げている“ルピタ・ニョンゴ”が保育士の役で準主役ポジション。コメディエンヌの才能もあるのがよくわかります。

また『アナと雪の女王』のオラフ役や『僕のワンダフル』シリーズの犬役など、ファミリー受けのいい演技をする“ジョシュ・ギャッド”が、パブリックイメージをかなぐり捨ててクソ野郎を熱演しているのでお見逃しなく。

なお割とストレートな下ネタがあるので、子どもには見せづらいかも。あくまで大人が笑うコメディということで。

日々子ども相手にお疲れの現役保育士さんも、これから保育士になりたいと夢を持っている人も、保育士を取り巻く一般の人々も、全員がこの映画を鑑賞すれば、ほんの少しだけ、優しい世界に近づける…そんな希望を持ってもいいじゃないですか。

オススメ度のチェック

ひとり ◯(ゾンビ映画で気分スッキリ)
友人 ◎(気楽に観ると楽しい)
恋人 ◎(子どもが好きになる)
キッズ ◯(思いっきり下ネタあるけど)
↓ここからネタバレが含まれます↓

『リトル・モンスターズ』感想(ネタバレあり)

スポンサーリンク

遠足は、帰るまでが…

レストランでも車内でもショップでもノンストップで口論しまくる男女。その舌戦は収まる気配がなく、周りはうんざり顔だが当人たちはお構いなし。相手しか見えていません。

デヴィッド・アンダーソン(デイヴ)はいかにも冴えなそうなミュージシャンで、路上でギター片手にパフォーマンスするも聴衆なんてゼロ。素通りです。

そしてついに自分の傍にいてくれたはずの恋人すらとも破局し、独りになってしまいます。行き場所もないので、とりあえず妹の家に転がり込むことにするデイヴ。しかし、そこでも邪魔者扱いにされている感じは否めません。甥のフェリックスは純真無垢で、元気な子ども特有のテンションとマイペースさにすっかり参ってしまうのでした。さすがに子ども相手に口論は通用しません。

また名誉挽回のチャンスはあるのはないか。そう考えて、このフェリックスを悪用、じゃなかった協力をしてもらうことにし、ダースベイダーの格好をさせて連れ出すデイヴ。こんなキュートな演出で彼女のハートを狙い撃ち。ラブなフォースを全開にさせてやる気満々でいざ彼女のいるであろう部屋へ。

ドアを開けてフェリックス(ダースベイダー)がサプライズ登場!…と思いきや、彼女は別の男とセックスの真っ最中で、求婚作戦はあっけなくデススター爆破。というか、修羅場に。男を殴るが殴り返され、押し倒されるなど、弱いところを散々無様に見せるデイブ。相変わらずダースベイダーになりきっているフェリックス。

安易なプランは轟沈し、大人しく家に帰ってきたデイヴ。翌日、フェリックスを幼稚園まで送っていくことに。教室に行くと子どもとハイタッチする幼稚園の先生、キャロラインが目に映ります。はい、恋です。一目惚れです。

幼稚園でつまらなさそうにしているフェリックスとは真逆のテンションで、ノリノリで迎えに行くデイヴ。偶然にも遠足の引率の手伝いが不足していることを知り、好機だと飛びつきます。無論、子どもなんてどうでもいい、お目当てはキャロラインです。

遠足の日。バスでノリノリで思い思いに先生と一緒に歌う子どもたち。デイヴが紹介されますがその反応はマチマチ。まあ、キャロラインと一緒に過ごして近づけるならそれでいいか。

そう思っていた矢先、目的地の農場につくとフェリックス含む子どもたちに大人気のキッズ番組の収録が行われており、子どもは大熱狂。その番組の主役である陽気なテディ・マッギグルはキャロラインと仲良くトークし、不愉快なデイヴ。さらにこの場での空気も完全に子ども色に染まっていき、デイヴの不機嫌さは増すばかり。しかも、キャロラインの指に指輪を見つけ、結婚している事実を知り、露骨にショックを隠せません。

そんなダメ男の下心が脆くも頓挫していた頃。別の場所。具体的には軍の施設でとんでもないアクシデントが起きていました。軍施設から大量のゾンビがトテトテと脱走。この生ける屍が向かっていったのは、近くの農場。デイヴたちがいるエリアです。

子どもたちを安全に楽しく過ごさせることに腐心する真面目なキャロライン。すでにやる気をなくしたデイヴ。子どもを守る役目を持つ大人たちはこの異常事態をどう対処するのか…。

スポンサーリンク

ダークサイドに堕ちた男ども

『リトル・モンスターズ』は基本的に大人視点の映画であり、もっと言えば成長するのはデイヴです。

デイヴは正直に言ってクソ野郎です。人間関係の雑さが災いとなって周囲との折り合いは悪くなる一方で、子ども相手でもその性格は変わらず。甥のフェリックスに、何の配慮もくなくゾンビを倒すVRゲームさせているあたり、基本他人はどうでもいい感じです。

しかし、そのくせ自分の欲望には忠実で、かなり自己満足的にキャロラインに目を付けており、下手したら欲求のはけ口くらいにしか見ていません。早速“オカズ”にしたり、遠足での搾乳するキャロラインの手つきを意味深な顔で見つめるとか、生理的に最低ですもんね…。

つまりデイヴもまた限りなく中身は子どもの状態の大人。保育士が必要なレベルです。

ところがここでデイヴ以上のクソ野郎が正体を現します。それがテディ・マッギグルことネイサン・シュナイダー。表向きは子どもに愛されるチャーミングなキャラを装っていましたが、その本性は子ども嫌いの陰険男(熟女好き)なのでした。

すっかりゾンビのテーマパークと化した農場でギフトショップの建物内にひとり籠城して他人は入れない。子どもたちに容赦なく「Fuck」を連呼しまくる。擁護できないクズさ…。

なんかテディを見ていると、“ジョシュ・ギャッド”も本当はひょうきんな雪だるまの役なんて嫌だったんじゃないかとちょっと同情してしまう…。まあ、でもクズです。

そんなテディを反面教師にしながら少しずつ成長していくデイヴ。その成長はラブコメ特有の単純なステップアップなのですけど、最初はひとりギターを弾いていた彼が、やがて子どもたちという聴衆を手にしたラストシーンにつながり、視覚的な対比になっていて上手いです。

スポンサーリンク

保育士は多忙でツラい

問題を抱えた男たちと違って『リトル・モンスターズ』のもうひとりの主人公、キャロラインは仕事に徹します。彼女の場合はいかにして保育士の仕事を完遂できるか、それがミッション。

トラクターでの初ゾンビ遭遇時も、無理やり歌って誤魔化す(“歌”最強説)。バスに戻るためにゾンビの中を引率する際も、一列に並ばせて移動(基本中の基本)。保育士テクニックがいかんなく発揮されていきます。

ただそこに空気を読まない男(テディ)が邪魔をするならば容赦はしない。説教という名のガチの脅し(まあ、ほぼ傷害事件ですが)で黙らせるキャロライン。ここでさすがのデイヴも察知して、子どもにお菓子を配りだし、一緒にスナックを食べて“先生のお叱り”を眺めているのが最高にシュール。

その後、フェリックスがアレルギー発作で苦しみだし、対処のエピネフリンを取りに行くべく、ゾンビが徘徊する農場を突っ切ってトラクターまで向かうことにしたキャロライン。子どもの目がないので完全になりふり構わず開放モード。ゾンビを回避しながらダッシュしまくり、そのへんにあったスコップで戦闘し、頭を気持ちよくぶったぎる。帰りも果敢にゾンビの群れに挑み、血まみれで帰ってきます。この一連のシーン、たぶん『ブラックパンサー』のパロディですよね(該当作品でナキアという非常に戦闘力の高いキャラを演じています)。

『リトル・モンスターズ』を観れば、“ルピタ・ニョンゴ”がさらに好きになること間違いなしの一作じゃないでしょうか。

スポンサーリンク

子どもたちは観客です

ゾンビ以上に厄介な“リトル・モンスター”な子どもたちは、本作のトラブルメーカーにしてマスコットでもあり、そしてこのドタバタ劇の観衆でもあります。

先にも書いたように本作はとにかくこの子どもたちの姿が自然体。

最初のバス内でデイヴが紹介され、可愛いプリーズのおねだりで歌うことになるシーンでの子どもたちの三者三様の反応。全くキッズ向けではない大音量ボイスに、面白おかしくにやける子、哀れみの目で無表情で見つめる子、心底嫌そうに耳を塞ぐ子…。

バスの横をものものしい大量の軍事車両が通ると子どもたちは大ハシャギですし、ゾンビに四苦八苦する大人たちも余裕で見物。なんて自由奔放なんだ…。

それを傍から見ている私たちは可愛げあっていいねと気楽ですけど、当事者としてその場にいる大人たちは滅茶苦茶大変なのですが…。

あの人数感もほどよく、キャロラインひとりでは面倒見きれず(歩行器がないと移動できない子もいるし)、絶妙にあとひとりは保護者が要るバランスがまたもどかしい。

あの子たちは子役というか、普通に一般の子どもを集めて撮ったのかな。何にせよ子どもを撮るのが上手い監督は実力者だと言ったりもしますし、“エイブ・フォーサイス”監督、侮れません。

スポンサーリンク

映画自体がお遊戯会

『リトル・モンスターズ』における最大のツッコミは、ゾンビが弱くない?ってことだと思いますが、確かにほぼ「レベル1」くらいの最弱です。というかお遊戯会程度のゾンビの存在感しかありません。

これは製作陣もわかってやっているのだと思われ、その印に、コアラ着ぐるみでゾンビになっている人とか(どうやって噛まれたんだろう)、あげくにはパペット人形のゾンビ化(これにいたっては意味不明)が登場したり、もうやりたい放題です。

最終的には「If You’re Happy and You Know It(幸せなら手をたたこう)」に合わせて一緒に歌を歌ったり、手拍子したりします。

ただ、これらお遊戯ゾンビになっている理由は、そもそも本作自体がキッズ番組の延長のような立ち位置になっているからであり、実は映画として一貫しているんですね。

それが明確にわかるのはラストシーン。隔離施設で楽しく歌うデイヴ&キャロライン&子どもたち一同と、それをほっこりと眺める保護者たちの図。ここで“見られる”という構図を提示することで、映画の観客にも「ああ、この物語全体がそういう一種の保育園のとある教室風景だったんだな」と思わせる。

むやみにスケールアップしたりもしないでブレたりもせず綺麗に着地しており、『リトル・モンスターズ』の“リトル”に収まる謙虚さが私は好きです。

ゾンビの存在自体も育児に関わる“困難”を象徴したモノに見えてきますしね。

ゾンビも子育ても楽しく協力し合えばそれほど怖くないのです。

『リトル・モンスターズ』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 80% Audience 100%
IMDb
6.3 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 8/10 ★★★★★★★★
スポンサーリンク

関連作品紹介

ゾンビ映画の感想記事の一覧です。

・『ゾンビランド ダブルタップ』

・『アナと世界の終わり』

・『ディストピア パンドラの少女』

作品ポスター・画像 (C)2019 Little Monsters Holdings Pty Ltd,Create NSW and Screen Australia

以上、『リトル・モンスターズ』の感想でした。

Little Monsters (2019) [Japanese Review] 『リトル・モンスターズ』考察・評価レビュー