感想は2100作品以上! 検索はメニューからどうぞ。

『逆転のトライアングル』感想(ネタバレ)…やっぱりタコくらい獲れないと!

やっぱりタコくらい獲れないと!…映画『逆転のトライアングル』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:Triangle of Sadness
製作国:スウェーデン(2022年)
日本公開日:2023年2月23日
監督:リューベン・オストルンド
性描写

逆転のトライアングル

ぎゃくてんのとらいあんぐる
逆転のトライアングル

『逆転のトライアングル』あらすじ

モデルでインフルエンサーとしても注目を集めているヤヤと、人気が落ち目のモデルのカール。関係に亀裂が生じ始めている美男美女カップルの2人は、招待を受けて豪華客船クルーズの旅に出る。船内ではリッチでクセモノだらけな乗客がバケーションを満喫し、高額チップのためならどんな期待にも応えようと白人の客室乗務員が笑顔を振りまいている。しかし、ある夜に船で悲惨なことが起きてしまい…。

『逆転のトライアングル』感想(ネタバレなし)

スポンサーリンク

またもやパルム・ドール

近年、ブランド系のファッション業界は勢力図が逆転するかのように揺れています。

例えば、「Angels」と呼ばれるスーパーモデルを起用することでよく知られ、絶大な人気を誇っていたアメリカのファッションブランドの「ヴィクトリアズ・シークレット」。しかし、2019年以降から組織内でのセクシャル・ハラスメントや性的虐待の実態が続々と告発され、さらに文化の盗用などの人種差別、ルッキズム、性的少数者差別など、問題の発覚が雪崩のごとく押し寄せて止まらなくなります。結果、組織のトップが辞任するに至ったのですが、ブランドのイメージは地の底に落ちました。

これは「ヴィクトリアズ・シークレット」だけでなく、他の業界トップだったファッションブランドでも同じようなことが起きていて、いずれも表では美しく着飾っていたのに、裏の組織の醜態が暴露されてあたふた…というありさまです。

こうして業界のトップ・ブランドが自業自得で失速する中、著名人が個人で立ち上げたブランドが人気を集め、パワー関係は変わってきています。既存のトップ・ブランドだった大手も汚名返上しようと頑張っていますが、失墜したブランドを回復するのは大変です。

ブランドというのは言ってみれば「みんなが憧れている」という形の無いものに依存して成功を確立させているものです。そのブランドの印象が一転して「みんながダサいと思う」に変わってしまったら、当然、根底から意義を失います。繁栄や富とは実はそんな薄っぺらいものなのかもしれません。

今回の紹介する映画もそんなファッション業界の欺瞞に始まり、そこからあらゆる富豪たちの醜さが露出していく…そんなブラックユーモアたっぷりの風刺劇です。

それが本作『逆転のトライアングル』

邦題は「逆転」になっていますが、原題は「Triangle of Sadness(悲しみのトライアングル)」。これは整形外科においてボトックス注入される額の真ん中のスポットのことなのだそうで、作中でもセリフででてきます。また、いろいろなダブルミーニングも考えられ、そこは各自で思い浮かべてみてください。

この『逆転のトライアングル』の監督は、今、最も勢いに乗っているスウェーデンの監督である“リューベン・オストルンド”。痛烈な風刺劇を得意とし、2014年の『フレンチアルプスで起きたこと』は雪山にウィンタースポーツの休暇を過ごしに来た夫婦を題材にその関係性の脆さを描き、カンヌ国際映画祭の「ある視点」部門で審査員賞を獲得。続く2017年の『ザ・スクエア 思いやりの聖域』では美術業界とそこに群がるリッチな人たちの偽善性を描き、今度はカンヌ国際映画祭で最高賞のパルム・ドールを受賞。

そして今回の『逆転のトライアングル』でまたしてもカンヌ国際映画祭でパルム・ドールを受賞してしまいました(本人もびっくりしてた)。史上3人目となる2作連続でのパルム・ドール受賞なのですが、なんだろう、このまま3度目の受賞もサクっと実現しそう…。

で、本作『逆転のトライアングル』も前作に引き続きエスタブリッシュメントを風刺する強烈な気まずい物語なのですが、風刺のしかたが前回よりも、こう何と言いますか…「バカでもわかる!」って感じで露悪性が増した感じがします。そういう意味では見やすくなったんじゃないかな。

映画自体は3パートに分かれていて、それぞれで舞台が異なります。とは言え、最初のパートを除く2パート分は閉鎖的な環境で繰り広げられる富裕層への批評となっており、このあたりは2022年も『ザ・メニュー』とか『ナイブズ・アウト グラス・オニオン』とかで観たとおり。

しかし、今回は部分的に相当“汚い”ですよ。汚物と嘔吐という意味で…。あまり食べ物を食べながら観るのに適している映画じゃないな…。

俳優陣は、『ブルックリンの片隅で』『ザリガニの鳴くところ』の“ハリス・ディキンソン”が主役のひとり。その“ハリス・ディキンソン”演じる男のガールフレンド役としてもうひとりの主人公を演じるのが、モデルで今作で初主演となった“チャールビ・ディーン”。ただ、残念ながら“チャールビ・ディーン”は2022年に32歳の若さで亡くなってしまいました。

共演には“ウディ・ハレルソン”もいるのですが、これがまた実に“ウディ・ハレルソン”らしい演技満載でとても愉快です。

他にも登場人物は大勢いるのですけど、みんな個性が強すぎるのですぐに覚えられると思います。

『逆転のトライアングル』を見ながら、自分自身もどんな薄っぺらい利権の上に浮かんでいるのかを想像してみるといいのかもしれません。

スポンサーリンク

『逆転のトライアングル』を観る前のQ&A

✔『逆転のトライアングル』の見どころ
★権力と貧富を皮肉る痛烈な風刺劇。
★個性的なキャラクターたちの人間模様。
✔『逆転のトライアングル』の欠点
☆鑑賞しながらの食事には不向き。

オススメ度のチェック

ひとり 4.0:風刺コメディが好きなら
友人 3.5:気楽に話せる相手と
恋人 3.0:デートでは気まずい
キッズ 3.0:大人の風刺劇です
↓ここからネタバレが含まれます↓

『逆転のトライアングル』感想(ネタバレあり)

スポンサーリンク

あらすじ(前半):その船は揺れている

集められた若い細マッチョな男性モデルたちの候補。その中にカールという男が混ざっていました。

カールは審査員の前に立ち、自分の仕事の写真を見せ、ウォーキングしてみせます。

それから月日が経過。カールはファッションショーの会場にいました。でも居場所は客席、それも後方です。ショーが始まり、トップバッターで堂々と歩いてくるのは人気絶好調のヤヤ。カールはそんなヤヤと交際していました。

高級レストランで2人で食事。どちらが払うかでやや気まずい空気になります。カールは不満をもっと言いたげではありますが、ヤヤは気分を害して席を立ってしまい、なんとか呼び止めて、カールは自分が払うと言い直します。でもヤヤの方が稼ぎはいいのは事実。カールはモデルとしては全然成功していません。結局、ヤヤが払おうとしますが、カードが読み込めませんと言われ、カールはここぞと僕が払うと発言。また気まずい沈黙…。

2人は車に戻り、ホテルに帰ります。車内でカールは「対等でいたい」と言いますが、ヤヤの態度は冷たいです。

エレベーターでも必死に自分の気持ちを伝えようとするカール。しかし、大半のものはヤヤが支払っており、カールはブチ切れるしかなくなります。

ホテルの廊下を怒りながら歩いて、自分の部屋に。暗い部屋で座り込み、電源も切られて連絡ができないと理解し、ベッドにひとりで佇みます。

それでもヤヤが訪ねてきて、2人で向き合って本音で語り合います。こんな感じで2人は関係を続けていました。

そんなカールとヤヤはセレブが集う豪華客船のクルージングに参加することになりました。ヤヤはインスタの写真を撮るのに一生懸命で、カールはもっぱら撮影係です。

パスタを食べるインスタ用の写真だけを撮っていると、同じテーブルの年配の夫婦客に話しかけられます。このロシアからの夫婦、ディミトリベラは農業用肥料で財産を得たらしく、ディミトリは饒舌に語りだします。

別のテーブルでは車椅子の女性のテレサが、イギリスからの高齢夫婦であるクレメンティンウィンストンに話しかけられていました。テレーズは脳卒中で言語障害があるので上手く喋れません。

夜、ITで大金を手に入れた独り身の男ヤルモは、バーでヤヤ含めた女2人と写真を撮れて上機嫌。「私は超リッチなんだ」と何でもおごろうとします。

一方、白人の客対応スタッフは高額チップをもらおうと張り切っていました。しかし、スタッフリーダーのポーラは部屋から出てこない船長のトーマスが悩みの種でした。ポーラは一等航海士のダリウスにどうすると相談しますが、全てはトーマスの気分次第です。

船長主催の晩餐会の時間となり、セレブたちの前に続々と高級な食事が提供される中、船は大きく揺れ始めます。

そんな船の表では見えないところで、有色人種の裏方スタッフはテキパキと働いていましたが…。

スポンサーリンク

やりすぎなくらいのカオスな船

『逆転のトライアングル』は「カールとヤヤのカップル険悪編」「クルーズ船でのカオス編」「島サバイバル編」の3パート構成です。

最初のパートは、カールとヤヤのモデル業界カップルがひたすらに険悪な空気になっている姿が描かれます。このへんは『フレンチアルプスで起きたこと』と同じような雰囲気ですね。

基本的にキャリアが成功しているヤヤの方が圧倒的に優位で、カールはもはやなんでそこにいるのかわからないくらいに居場所ゼロです。本人はここで「男女平等」だとかなんとか表面的には綺麗事を言っていますが、実際は惨めさに耐えられないという男らしさの劣等感に沈んでいるだけです。対するヤヤはトロフィーワイフになると言ってみせるなどかなり強気で、カールは必死に愛だとかそんな言葉で訴えようとしますが…。

ここでのカールの言動は後の「島サバイバル編」で盛大なブーメランとして跳ね返ってきて、カールはアビゲイルと性的な関係まで持つなど、トロフィーワイフならぬトロフィーハズバンドに成り下がります

ちなみにこのパート冒頭でのファッション業界描写。“リューベン・オストルンド”監督の妻はファッション写真家だそうで、このシーンにあるような光景も実際に目にしているそうです。こんなんだからハラスメントが蔓延するんだろうな…。

そしてパート2の「クルーズ船でのカオス編」に突入。大型クルーザーに集結したセレブたちはどれも個性が強すぎます。なお、「帆が汚れている!」とケチをつける人がいましたが、このタイプのクルーザーは「スーパーヨット」と呼ぶので、だから勘違いしたのかな。

ロシアの新興財閥「オリガルヒ」の男であるディミトリとその妻ベラは、いかにも成金という感じで、やりたい放題です。軍事産業で財を成したイギリスの高齢夫婦クレメンティンとウィンストンは、たぶん元ネタはウィンストン・チャーチル夫妻ですね。『ザ・スクエア 思いやりの聖域』に続いて今作でも言語障害を持つキャラクター(テレサ)が登場します。

カオスに本格的に舵を切るのが晩餐会のシーン。ここは本当に演出が露悪的でわざとらしくて、あえて画面を揺らして左右に傾けつつ、だされる食事までぷるぷる揺れますからね。もうイジメですよ。

そこに泥酔トーマスとディミトリの独断大演説放送があり、おまけに海賊の追い打ちもあり、コメディの過剰摂取な盛り合わせ。このあたりはユーモアとしてエンタメ度を濃くして突っ切った構図なので『逆転のトライアングル』は考察もいらない単純明快さがやはり強いなと感じました。

スポンサーリンク

私はキャプテン

『逆転のトライアングル』の3パート目の「島サバイバル編」へと移行すると、見どころは当然、各人物の立場の逆転です。

海であっさりタコを捕まえて、淡々と分配決定権を独占し、自分をキャプテンだと認めさせるアビゲイル。清掃スタッフにすぎなかった人物が頂点となり、この勢力図は確定します。

他の人物もなんだかんだで自分の居場所を新しく見定めて落ち着ているのもユニークです。

ディミトリら男たちは肉のためにロバを殺して(最初に全然殺せずに真っ青になっているのがシュール)、その後は幼稚な男の子の群がりに舞い戻っています。

なお、黒人男性がしれっと混ざっていますが、こんな人、船内にいたかな?と思うのですけど、おそらく海賊のひとりなんでしょうね。身分も立場も消え失せるとこんなことまで不問になります。

そしてカール。お前のその筋肉は飾りなのかとツッコミたくなるほどに、島でも無能です。プレッツェルを盗んで怒られる姿は完全に子どもで、最終的にはすっかりいじけて、アビゲイルに甘えるしかない存在に…。一番若い男性なのに妙に弱々しいんですね。

思えばカールは不貞腐れている状態がずっと続いていますけど、よく見ると別にそんな悪い状況ではないんですよ。ヤヤだってなんだかんだで傍にいてくれているのだし、そこまで貧困でもない。いくらでも自分の立ち位置を見つけ直す機会はあったはずです。カールこそ逆転はできる。

それでもカールがあそこまで惨めそうに過ごしているのは、とにかく前述したとおり男らしさの劣等感に沈んでいるだけ。プライドの問題です。

カールだけが今回の騒動で立場が反転したわけでもなく、ずっと自ら底辺に頭を突っ込んでいじけていたのでした。

そのカールにラストのラストで「逆転の機会か!?」という瞬間が訪れる…ように見えるのが本作。終盤では実はここはリゾート地で、普通に人工物があることが判明。それをアビゲイルとの探索中に発見したヤヤは安堵しますが、ここでの権力を失うことを恐れたアビゲイルはそっと岩を手にヤヤを背後から殺そうと忍び寄り…。

映画はこの先を描いていないので、アビゲイルがヤヤを殺したのか不明です(「アシスタントにならない?」というヤヤの提案がまた微妙に格差を温存するもので無念ではありますが…)。

でもカールが森を激走しているシーンで終わります。

カールはついに“いじけ”モードから反転し、ヤヤに尽くそうと思い立ったのか。だとしたらヤヤが殺される前に追いついたのかもしれないです。一方で、ヤヤが死んだという一報を聞いて必死に走っているだけという可能性もなくはない。

どちらにせよあのエンディングでのカールは、傷だらけになっても気にせずに走り抜ける姿は本作で初めてと言えるぐらいに男らしく見えるのですが、でも男らしく振舞おうと気取ったモデル風の体裁でもなく本気なのだろうと伝わってきます

“リューベン・オストルンド”監督は単に悪趣味で終わらず、最後にそっと希望かもと思えるシーンを挿入するセンスが絶妙に上手いなと今回も感心してしまいました。

何はともあれ、皆さん、タコを捕まえるスキルは磨いておきましょう。

『逆転のトライアングル』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 72% Audience 72%
IMDb
7.5 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
8.0

作品ポスター・画像 (C)Plattform Produktion トライアングル・オブ・サッドネス

以上、『逆転のトライアングル』の感想でした。

Triangle of Sadness (2022) [Japanese Review] 『逆転のトライアングル』考察・評価レビュー