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『ハッチング 孵化』感想(ネタバレ)…理想の家族の動画には映らない私の正体

ハッチング 孵化

理想の家族の動画には映らない私の正体とは?…映画『ハッチング -孵化-』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:Pahanhautoja(Hatching)
製作国:フィンランド(2021年)
日本公開日:2022年4月15日
監督:ハンナ・ベルイホルム
動物虐待描写(ペット) 児童虐待描写

ハッチング 孵化

はっちんぐ ふか
ハッチング 孵化

『ハッチング 孵化』あらすじ

フィンランドで家族と暮らす12歳の少女ティンヤ。完璧で幸せな家族の動画を世界へインターネットで発信することに夢中な母親を喜ばすため、すべてを我慢し自分を抑えるようになった彼女は、体操の大会優勝を目指す日々を黙々と送っていた。ある夜、ティンヤは森で奇妙な卵を見つける。ティンヤが家族には内緒で、自分のベッドで温め続けた卵は、やがて不思議なことに大きくなり、遂には孵化するが…。

『ハッチング 孵化』感想(ネタバレなし)

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少女が卵を孵化させるホラー!

少女が卵を孵化させます!…と聞くと、市販のウズラの卵を孵化させた話とかを思い出してしまいますけど(スーパーなどで売っているウズラの卵は鶏と違って有精卵がまれに混ざっているので手順どおりに頑張れば運が良ければ孵化する)、今回はそういう動物ほんわかエピソードではありません。

今回紹介する映画に登場する「卵」は…何と言えばいいのか、とにかく不気味です!(全然説明になってない)

本作を観れば、とりあえず卵を孵化させてみたいな~!なんてお気楽な気分ではいられないでしょう(まあ、そもそも卵から生まれる生物を育てられないならむやみに孵化させないでね)。卵を食べる気分にだってならない…と思ったけど、私、毎日1個は卵を食べているし、この映画を見た日も普通に卵を食べたな…。

その少女が怪しげな卵を孵化させる映画のタイトル、それが本作『ハッチング 孵化』です。

物語は、とある12歳の少女が森で小さな卵を拾う、家に持って帰って自室で温める、孵化する、大変なことになる…以上! そんな4コマ漫画で整理できそうなほどにはシンプルなのですが、その「大変なことになる」が、本当に大変で…。

この映画はどんな人にオススメかと言えば、まずはクリーチャー・ホラーが好きな人は大好物ではないかと思います。どんなクリーチャーがでてくるかは秘密にしておきますが、ともあれ非常に造形の凝った不気味なクリーチャーが見られるのでそれだけでもマニアックな満足感を得られます。グロテスクではあるけれど、芸術的な評価もできる、そんなクリーチャー・デザインもお楽しみに。

怖い御伽噺系のストーリーが好きな人にもぴったりです。映画全体がちょっとゾっとする童謡のようなおぞましさを漂わせていますし、かなりリアルからは乖離した演出も随所にあり、日常的なホラーというよりはどこかファンタジックなホラーとして期待をしておくといいでしょう。“ギレルモ・デル・トロ”監督作品とかが好きな人にはハマるのではないかな。

そして『ハッチング 孵化』はフィンランド製作の映画であり、あの北欧的な冷たさと温かさが同居した世界観でひっそりと進む、恐ろしげな物語…というテイストもあって…。フィンランドは北欧の中でもシュール寄りな立ち位置なことも多いお国柄ですが、今回はきっちり怖い物語を届けてきます。北欧スリラーが好物の人も見逃せません。

また、若い女性を主人公にしているホラーということもあって、その物語自体がとてもこの年齢の女性の身体的&精神的変化をメタファーとして表現しているような、ジェンダー的な解釈をしても興味深い作品にもなっています。そんな視点で映画を分析してみたい人にもうってつけです。

なお、話が少し逸れるけど、日本の宣伝はこういう白人金髪少女が主人公のスリラー系の作品において、よく「イノセント」という宣伝文句を多用する傾向にあるのですけど、それはあくまで一部の人のフェティシズムな消費対象としての受け取り方でしかないので、あんまり宣伝に使うべき用語ではないと思うんだけど…(ましてやこの映画のテーマ的にもね…)。

それはさておき、要するに、単にギャー!と驚かせるだけではない、多角的な視点で“観る”ことの需要に答えられる、結構しっかりしたホラー映画なのです。どうしてもこういうタイプの映画って一歩間違えるとB級と世間で言われるようなチープなエンタメだと思われかねないところもあるし、今回は『ハッチング 孵化』はそういうものじゃないよとハッキリ事前に断言しておきますね。

そんな『ハッチング 孵化』を監督したのは本作が長編映画監督デビュー作となる“ハンナ・ベルイホルム”。その“ハンナ・ベルイホルム”が“イリヤ・ラウチ”と共に脚本を手がけて生み出した『ハッチング 孵化』は、まさしくこのホラーに傾倒している2人の共同作業だからこそ孵せた映画ですね。フィンランド映画は『サマー・ヴェンデッタ』(2016年)など最近はホラー・スリラーのジャンルも勢いが出始めており、この“ハンナ・ベルイホルム”と“イリヤ・ラウチ”の2名がさらに引っ張っていってくれるかもしれません。

そしてこの『ハッチング 孵化』で主役に抜擢された“シーリ・ソラリンナ”は、オーディションで選び抜かれた逸材。シンクロナイズド・スケーティングをしていたらしいのですが、今作では新体操をしている設定ですが、それ以上にホラー演技がキマってました。スポーツも演技も瞬発的な集中力を必要とするし、ノウハウが活かせるのかな。

共演は、『Invisible Heroes』の“ソフィア・ヘイッキラ”、『Ramble』の“ヤニ・ヴォラネン”、『Rendel』の“レイノ・ノルディン”など。

2022年の北欧スリラーの一本と言えばこの『ハッチング 孵化』です。

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『ハッチング 孵化』を観る前のQ&A

Q:怖いのが苦手でも観れる?
A:ゴアというほどではないかもしれませんが、グロテスクで残酷な描写はあります。あと動物の死骸が印象的に映ります。

オススメ度のチェック

ひとり4.0:ジャンル好きなら要注目
友人3.5:趣味の合う者同士で
恋人3.5:ロマンス要素はあまり無し
キッズ3.0:やや残酷描写あり
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『ハッチング 孵化』予告動画

↓ここからネタバレが含まれます↓

『ハッチング 孵化』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):私があなたを孵す

家でストレッチをするひとりの少女、ティンヤ。その姿を動画に撮る。傍にはもいます。幸せそうな家族の団欒です。

そのとき、窓に1羽のカラスが激突。窓を開けるとそのカラスが入ってきて暴れまわり、家のまわりの小物などを壊して滅茶苦茶にします。天井の小さなシャンデリア風の照明も落下し、悲惨なことに。

ティンヤはその鳥をシーツで包んで捕まえます。母に渡すと、母はそれを抱きかかえ、全く動じることなく絞め殺したのでした。唖然とする娘を前に、ゴミ箱に捨ててと指示。

そんなこともありつつ、それでも母の期待に応えたいとティンヤは願っていました。弟が寝た後、母は動画を編集して、幸福な家族の記録を満足そうに眺めます。母はこうして動画ブログを更新し、自分の家族の幸せな生活を世界に発信するのを生きがいにしていました。母にとってティンヤは手塩にかけた自慢の娘であり、体操選手として優勝することに今は一番期待を寄せています。

ティンヤはふと思い立ち、あの鳥の死骸を捨てたゴミ箱を確認。でもいません。鳥の鳴き声がけたたましく近くの森から聞こえるので、そちらに歩いて行きます。すると苦しそうなカラスが地面に横たわっていました。助けてあげようと手を伸ばすも、もう手遅れです。さっさと殺して楽にしてあげようと、やむを得ず石を振り下ろして鳥の頭を何度も打ちつけます

それが終わって息を整えていると、すぐそばに巣を見つけます。中にはひとつの片手におさまる小さな卵が…。

その卵を部屋に持ち帰り、人形の下に優しく置きます。

翌日の体操の練習は失敗続きでした。仲間からも避けられ、ひとりトレーニングに打ち込むしかありません。

帰宅すると、母がシャンデリアを直している男とキスをしているのを目撃してしまいます。母が部屋にやってきて、大人になるといろいろあると濁しながら「内緒にして」と優しく言ってきます。母は出張にでるとのことでした。

卵を確認すると両手で支えないといけないくらいに大きくなっていました。今度は人形の中にいれます。

体操は相変わらず不調です。隣の子のほうが上手く、母は何度もやらせてきます。

家に戻れば、夜中にシーツにくるまって卵を観察。手をあてると赤くぼんやり光ります。

ある日、母はティンヤに秘密を打ち明けてきます。あのキスをしていた男性、テロに恋をしたと。初めて本当の誰かを愛している感覚だそうで、母は幸せそうです。

卵は人形に入らないほどの巨大さになり、ティンヤはそれを抱き、しくしくと泣きます。

その瞬間、卵にひびが…。孵化しようとしているのです。そして卵から手のようなものがでてきて、驚いて思わずクローゼットに隠れるティンヤ。鳴き声を発する“それ”は窓を割って逃げたようです。

しかし、夜、“それ”は戻ってきました。ティンヤは恐怖心がありながらも、なんとなく“それ”に親近感を感じ、密かに育てるようになっていき…。

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“それ”の造形と生態が秀逸

『ハッチング 孵化』、やはり目を引くのは、後に「アッリ」と名付けられる“それ”の造形。

鳥の巣にあった卵なので、当然「鳥」が生まれるのだろうとは推察しながらティンヤも大事に卵を温めるのですが(ちなみにああやってただ保管しているだけでは実際に卵は孵化しません。転卵という作業が必要になります)、どんどん卵が大きくなってしまってヤバさも増大。

そしてその両腕で抱えきれないほどのサイズになった卵から生まれたのは、みにくいアヒルの子…よりもさらに不気味度がアップしている鳥の雛のような生物

これ、CGじゃなくてしっかり実物で作られているのがまたクリーチャー好きにはたまらないですね。

鳥っぽいですが、どこかこの時点で人間味もある絶妙なデザイン。そこからこの鳥がいかにも鳥っぽい生態で、ティンヤの嘔吐物を食べたりします。哺乳類ではなく鳥を選択したのもナイスで、やっぱり鳥は哺乳類と比べるとどこかコミュニケーションをとれるか微妙な感じがあって、そのあやふやさが恐怖を引き立たせるんですよね。

でもこれで終わらない『ハッチング 孵化』。このアッリはしだいにティンヤと同じような姿になっていくわけです。その変容はまるでボディ・ホラーのジャンルです。孤独な女性が男性によって人形に変えられていく『Puppet Master』(2018年)という短編を手がけた“ハンナ・ベルイホルム”監督は、こういうボディ・ホラー系が好きなのかな。鳥と人間という動物学的には全く異なる構造の生物にトランスフォームしていく過程のおどろおどろしさが巧みに映像化されていました。口裂け状態になるあたりもすごく良かったです。

また、アッリだけではない、映画全体のデザインも秀逸でした。

例えば、主な舞台となる家。いかにも北欧らしいテンプレな落ち着いた、いや、あえて言えば誇張されていると言ってもいいくらいに北欧っぽさが濃いです。これはこれでこの世間的にも認知されている北欧スタイルの善良性というものが実は偽善じみたものであることを暴くような御伽噺の構造になっています。

御伽噺としては、人間関係も最小の構成になっていました。母も父も弟もどこか役割としてしか機能していませんし、お隣さんの少女以外に近隣住人は全然でてこない。それどころか日常というものを感じない。あの世界観自体がどこか作りものに思えてくる。

ホラーファンタジーとしては雰囲気はもう満点ですね。

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“それ”が意味するもの

『ハッチング 孵化』は、その物語自体がこの年齢の女性の身体的&精神的変化をメタファーとして表現しているようにも解釈できます。

それこそこういう思春期の少女の変化を、ホラーやスリラーで表現するのは定番です。最近だとファミリーコメディにはなっていましたが、『私ときどきレッサーパンダ』と同じ。ホラー・スリラーのタイプだと、『ブルー・マインド』『RAW 少女のめざめ』などと同類です。

『ハッチング 孵化』のティンヤは母の考える理想どおりの女性にならなければと強迫観念にかられており、それが自身への負担となっています。その逃げ場としてあのアッリを育てることにしていくのですが、アッリはティンヤの負の感情を餌にするかのように成長。ティンヤが嘔吐したりするのもスポーツ選手の若者にありがちな摂食障害を表しているとも言えますし、そもそも「卵」というもの自体が月経を示しているものでしょうし…。

そのティンヤは、殺そうとした母からアッリを身をていして守ってしまい、刃物で刺されて死亡。その後にティンヤとほぼ同じ姿のアッリが起き上がり、「ママ…」と呼びかけて成り代わった感じを醸し出し、映画は終わります。

子どもが怪物を育ててしまい、それで家族が破滅するのは『アントラーズ』なんかでもありました。家族の誰かが怪物で…という葛藤は、家族ホラーには付き物です。

今作の場合は『ボーダー 二つの世界』でも見られた「チェンジリング」の要素も感じ取れます。自分の子どもではなく別の子どもを育てていた…というあれです。

そう考えるとこの『ハッチング 孵化』の終わりもバッドエンドに見えて、実はそうではないという受け取り方もできると思います。

例えば、母親は抑圧的な存在ですが、一方でその母も幼い頃から同じような抑圧の中で「理想的な女性」として育てられてきたのだろうなと感じさせます。そんな母がテロの家で別の家族像を築こうとするのは一種の抵抗なのかもしれません。今さらではあるけど本音では理想にうんざりしている。

ティンヤも理想に縛られるのは嫌だと感じ取っているでしょうし、だからこそアッリを見捨てません。あのアッリの姿はティンヤの理想的ではない自分の醜い部分も含めたもうひとりの自分とも言えます。理想的な自分が死んで、醜い自分が生き残ったというのは、ティンヤがそういう選択をしたということでもある。

父がティンヤにベッドの血(実際はティンヤのものではない)を見て、初潮が来たのだろうと勘違いして、ティンヤと距離をとってしまうシーンがありましたが、世間は女性の“汚らしさ・醜さ”というものを忌避します。テロのように多くの男性は、赤ん坊を育ててくれる女性の役割を期待したりもします。

『ハッチング 孵化』はそんな周囲の視線を気にして自分の体に劣等感を感じがちな若い女性に対して、自分のボディへの主体的な肯定感を与える映画なのかなと思いました。

本作は「イノセントなんてクソくらえ」ホラーでしたね。

『ハッチング 孵化』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 91% Audience 61%
IMDb
6.6 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
8.0
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作品ポスター・画像 (C)2021 Silva Mysterium, Hobab, Film i Vast

以上、『ハッチング 孵化』の感想でした。

Hatching (2021) [Japanese Review] 『ハッチング 孵化』考察・評価レビュー