未来を見る子どもたちに頼もう!…Netflix映画『ヒーローキッズ』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2020年)
日本では劇場未公開:2020年にNetflixで配信
監督:ロバート・ロドリゲス
ヒーローキッズ
ひーろーきっず
『ヒーローキッズ』あらすじ
スーパーヒーローの大人たちは今日も世界を頼もしく守ってくれている。しかし、いつも絶好調とは限らない。宇宙からの強大な敵を前に、大人のスーパーヒーローたちはどんどんやられてしまう。このままでは地球を守る存在がいない。けれども、まだ手は残っている。子どもたちがいた。大人がダメなら子どもの出番。家でじっとしているくらいなら、世界を救う方がいい。
『ヒーローキッズ』感想(ネタバレなし)
え?あの映画の続編だったんですか!
私も子どもの頃は無邪気に世界を救えると確かに信じていました。それがどうです、自分のことで手一杯じゃないですか。意外と難しかった、世界を救うって…。
いや、でも真面目な話、ヒーローの在り方は正義の価値観が揺らぐ大きな出来事が起こるたびに、更新することを余儀なくされるもので、本当に難しいです。これまでも、911によるテロリズムの時代になり、ポピュリスト権力者によるヘイトクライムの時代になり、そして今はパンデミックの時代に。私たちが身近に感じる危機が劇的に変わるごとにヒーローはどうあるべきか悩みます。
このコロナ禍もほぼ確実にヒーローの存在意義を問うことになるはずです。スーパーパワーでぶっ飛ばすことでウイルスは倒せませんからね。むしろ動き回れば余計に感染を拡散させるだけですし…。ヒーローに何ができるというのか。そんなアフター・コロナのヒーロー像が描きだされるのはもう少し後になるでしょう。
今はそんな新しい時代を担うヒーローの産声を聞けるかもしれない、幼い背中に眼差しを向けてみませんか。
ということで今回の紹介映画、『ヒーローキッズ』に移ります。
本作はNetflixでクリスマスに配信されたプレゼントみたいな映画です。お話はシンプル、スーパーパワーを持った子どもたちが悪者をぶっ倒す…それだけ。ティーンを題材にしたヒーローチーム映画は『ニュー・ミュータント』や『シークレット・ソサエティ 王家第二子 秘密結社』がありましたけど、今作はティーンより年下、完全にタイトルどおりキッズが主役です。
なのでハッキリ言えばものすっごく幼稚でアホっぽいノリも多いのですが、キッズですからね。強ければいいのです。私もキッズ時代はこんなに純真でしたよ…(遠くを見つめながら)。
監督はあのメキシコ系アメリカ人の“ロバート・ロドリゲス”。ジャンル映画を大得意とする彼ですが、大人向けのバイオレンス映画も手がける中、子ども向けのアクション・ムービーも量産。とくに『スパイキッズ』シリーズが有名ですが、よく考えれば最近の『アリータ バトル・エンジェル』もキッズ少女が主役の映画でした。熱心なファン「Alita Army」による続編要望活動も盛んですけど、世界観は拡張できるのかな(個人的には待ってます)。
直近だと『マンダロリアン』シーズン2の監督もしていて、ベビーヨーダと仲良く音楽にのっている撮影合間動画も公開されていたり、クールな風貌なわりには子どもの心を忘れていない人です。ジョン・ファヴローの料理番組『ザ・シェフ・ショー』でクッキングをお披露目しているときは、結構プロフェッショナルなこだわりを見せており、たぶんどんなことでも全力で突き詰めるタイプなのかなとも思いましたが。
実はこの『ヒーローキッズ』、“ロバート・ロドリゲス”監督が2005年に手がけた『シャークボーイ&マグマガール 3-D』の続編なのです。私、それを知らなくて、観ている最中に気づきました。同じ世界観で、ばっちりとシャークボーイとマグマガールが登場しますからね。なんだ、もうちょっと早く言ってくれればよかったのに…(とくにどうってことはないけど)。
『シャークボーイ&マグマガール 3-D』のときは少年が日記に描く空想上のヒーローという扱いでしたけど、この『ヒーローキッズ』では普通に存在するヒーローとして描かれています。なので別に前作を観ないと理解できなくなるわけではありませんので、ご安心を。
“ロバート・ロドリゲス”が監督の他に製作も脚本もしており、完全に彼の世界観です。このままユニバースな広がりを見せるのかな。
俳優陣ですが、キッズばかりがわらわらと勢揃いするのでさながら小学校。子役率高め。その一方で要所要所で大人も活躍。例えば、『マンダロリアン』の中の人にして『ワンダーウーマン 1984』ではヴィランとして大暴れした“ペドロ・パスカル”が今回は真面目なお父さんヒーローとして出演。忙しいな…この人…(でも最近はいっつも子どもを可愛がっている役)。
また、若いながらも今や世界で最も活躍するインド人女優となっている“プリヤンカー・チョープラー”も登場。他には『バベル』の“アドリアナ・バラッツァ”、『ザ・プレデター』の“ボイド・ホルブルック”など。
年末年始に難しい映画も観たくないでしょう。『ヒーローキッズ』は程よい気を抜かせてくれるリラックスシートみたいなエンタメです。こたつでヌクヌクしながら見るのも良しです。
『ヒーローキッズ』はNetflixオリジナル映画として2020年12月25日から配信中です。
オススメ度のチェック
ひとり | ◯(子どもの心を取り戻す?) |
友人 | ◯(童心に戻って観よう) |
恋人 | ◯(だいぶ子ども向けになるけど) |
キッズ | ◎(正真正銘のキッズ向け) |
『ヒーローキッズ』感想(ネタバレあり)
あらすじ(前半):子どもでも救える!
世界にはいつも危険が迫ってくるもの。でも大丈夫。どんな世の中でも頼れる存在がいます。それが「ヒロイック(Heroics)」と呼ばれる地球を守るヒーローたちです。それぞれが固有のスーパーパワーを持っており、いざとなればササっと現れてピンチを救ってくれます。みんなが彼ら彼女らに頼っていました。
ヒロイックのひとりである超人的無敵さを誇るミラクル・ガイは、宇宙で艦隊と対峙しました。最初はいつものように簡単に倒せると思っていましたが、予想以上の数と強さで大苦戦。あえなく敗北し、そのまま空を飛ぶテクノが助けてくれますが、一緒に墜落します。
ヒーロー伝説はこの日に終わりました。それは次の伝説の始まりだとはまだ知らず…。
少女のミッシーは朝に起きて学校に行くために準備します。父のマーカスは実は元ヒーロー。でも母が亡くなって以来、そのヒーロー業からは引退しています。マーカスに学校まで送ってもらうミッシー。
普通、ヒーローの子どもは何らかのスーパーパワーを継承していることも多いのですが、ミッシーには何もありません。なので一般の学校に通っています。
一方、ヒロイックの本部では緊迫した空気が流れていました。宇宙から地球に迫る大艦隊を確認。この勢力にどう対処するべきか議論が行われています。シャークボーイとマグマガールを送り込もうと検討しますが、とてもじゃないですが太刀打ちできる数ではありません。そこで「全員を送り込みましょう」と本部長のグラナダは命じました。
そしてその場で動向を見守っていたマーカスも現場に行けと命令されます。自分は引退したと最初は断りますが、娘の暮らす星を守るためなら止むを得ません。マグネットハンドで刀を手にし、現場に復帰です。
一方で、ミッシーはいきなり学校から連れ出され、黒光りする車に乗せられます。説明はなし。
到着したのはヒロイックの本部のシェルター。そこで他の子たちと一緒に過ごせと言われ、厳重なロックのもとで、ドアを閉じられます。
そこには何人かの子どもたちがいました。みんな能力使いです。
車椅子のホイールズが話しかけてきて説明してくれます。ホイールズは強力すぎるパワーを抑えるために車椅子に乗っているそうです。
まずヌードルズ。首が自由に伸び、他の部分もいくらでも伸ばせます。
物静かなオホは絵で会話する子で、普段は全然喋りません。描いている絵もよくわかりません。
アカペラは歌が得意で、あらゆる音域も出せ、低温でモノを浮かせられます。
スローモーはゆっくりと行動することができ、速度の感覚はみんなとは違います。
フェイスメーカーは顔も自由に変えられ、変顔だったら誰にも負けません。
リワインドは時間を数秒巻き戻せるため、何かを失敗してもへっちゃらです。
フォワードは時間の早送りができ、リワインドとは双子ですが、仲が悪いです。
ワイルドカードは何のパワーがでるかわからないという運試しなところがあります。
最年少のグッピーはシャークボーイとマグマガールの子で、水を操れます。
紹介は終わり。みんなが個性豊かな能力を持っている一方、「パワーを持ってないの?」とミッシーは驚かれます。
各自が教室風の部屋でモニターに映るヒーロー招集の動画を眺めます。ヒーローたちは一致団結してあの謎の襲撃者に立ち向かっていきますが、足並みが乱れることでどんどん負けていき、全滅。ミッシーの父も「リーダーは見本にならないと」と言い残し、やられてしまいました。どうやらヒーローたちはエイリアンに捕らえられたようです。
惑星オギマからやってきたというエイリアンからのメッセージが、頼りないニール・アナミ大統領から読み上げられます。もはや地球の主導権を渡すしかないとか…。
子どもたちの部屋は隔離されます。しかし、ミッシーは気づきました。オホの絵はただの落書きではなく、未来を予知しているものだ、と。そして、エイリアンがここにくるという絵も描いています。つまり、逃げないとこちらまでやられてしまうのです。
そこでヒーローの子どもたちは策を練ることにします。
さあ、ヒーローキッズの出番です。
これだから大人は…
ヒーロー映画は食傷気味な人も多いはず。それもあってかヒーローを風刺する作品も近年は増えました。
ドラマ『ザ・ボーイズ』は、スーパーヒーローたちがメディア・コングロマリットの大企業の支配下に置かれ、あらゆるイメージ戦略に使われているという強烈にシニカルな内容で物議をかもしました。偽善的な正義が見栄を張り、弱者を踏みつけている姿は確かに今の社会に重なります。
ドラマ『アンブレラ・アカデミー』は、仲違いをするというヒーローものであればお約束の展開をあえて延々とやり続けることで、一種の天丼ギャグのように完成させ、そのベタさを楽しむという新境地に達しています。ヒーローと言えどもしょせんは人間的な心の弱さを持っていますしね。
ドラマ『ウォッチメン』は、ヒーローがマスクをかぶるというその行為の裏に潜む動機を、歴史の闇と重ね合わせるという禁忌に踏み込みました。語られない人種差別の暗黒史を暴き、ヒーローの腐敗と、その中でも求められる正義の葛藤を描く、とんでもない意欲作でもありました。
では『ヒーローキッズ』はどうなのか。
本作はキッズが主人公であり、それゆえにキッズ目線による大人への風刺がまず刺さります。
子どもにとって、大人は憧れの存在。でも子どもから見てもダメダメな大人の醜態もよく観察しています。大人が思っている以上に子どもは大人を分析しているのです。
なんで大人は強そうなのにすぐに喧嘩とかしちゃうのだろう。意地を張らなければいいのに。あの肌とか出しちゃうファッションセンスもダサいよね、全然機能的じゃない。
そんな容赦のないツッコミにさらされる序盤。まあ、だいたい正論。子どもに言われると何も言い返せない…。
大人たちが戦っている映像を鑑賞する子どもたちという絵柄も、なんだかアメコミ映画を観ている映画館の風景みたいで、シュールではあります。当の親がやられてしまっているので、フィクション感覚でお気楽ではいられないのですが(でもこれは最後に明かされる真相を考えると、やっぱり映画と同じ構造なんですけどね)。
リーダーシップは最重要能力
しかしながら、そんなヒーロー批評家にでもなったつもりの子どもたちも結局は同じ穴の狢。自分たちも大人に指摘したとおりの弱点を持っているというブーメランが頭部にヒットします。
互いに敵意を持ってしまったり、コミュニケーションが上手くとれなかったり、はたまた能力の使い方がわからなかったり。子どもゆえにその欠点はひときわ雑で、大きな穴が開いています。
それを打破するための突破口をこの映画は提示しています。それは「リーダーシップ」。
超人的な能力を持たないミッシーはリーダーとして開花していくことになります。実は私たちに今一番求められている能力は「リーダーシップ」、まさにそれです。
なんか教育番組を観ている気分。Eテレとかで放送するべき内容かもしれません。それかリーダーシップが欠片もない、私利私欲中心の政治家に見せるか…。
このミッシーというリーダーを中心に子どもたちがまとまっていく姿は王道ですが、でもやっぱり楽しいです。今作では子どもの人種構成も多様で、まさしくダイバーシティなチームが完成していきます。
みんなきっとお気に入りになったであろう、最年少のグッピーもコテコテながらのユーモア。このへんは監督の十八番ですね。水を操るだけではない、完全にハルクみたいなパワータイプでもありますから。あれ、成長したらどうなるのだろう…。
ちなみに終盤でグッピーの力によって登場する「液体金属サメ」。でました、サメです。これでサメ映画になりました。ええ、そんなんでいいんです。あんなものまで召喚できるのですから、もうグッピー最強でしょう。
それはともかく、リーダーシップを発揮してついに一丸となったヒーローキッズ。そこで明かされる真相。無口な絵描きの少女オホはエイリアンのボスであり、大統領もグラナダも手先。そして今回の一連の騒動は全部仕組まれたことでした。全てはキッズたちへとヒーローを継承するための儀式。親世代からのパワーの引き渡しって言ってましたけど、能力自体はもう持っているので、パワーの使い手としての在り方を引き継ぐという意味なのかな。
些細な話に思いますが、これも今の私たちとシンクロする部分。現在、ヒーロー映画を観ている人たちはその時代の初期から第一線で追いかけているベテランも多いのですが、そろそろその時代を知らない世代も増えてきて、バトンタッチが行われる時期です。もうヒーロー映画は次の世代に向かっています。それは『アベンジャーズ エンドゲーム』とかを観ていると作中の物語でもそう描かれていますよね。第一陣のヒーローたちはリタイアして、若きヒーローに繋いでいく。
『ヒーローキッズ』はその過程をメタ的に描く、未来への希望に溢れた一作でした。
次回はグッピーが闇堕ちして、世界に危機が訪れるとかでいいですよ。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 65% Audience 68%
IMDb
4.9 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 5/10 ★★★★★
作品ポスター・画像 (C)Troublemaker Studios, Netflix
以上、『ヒーローキッズ』の感想でした。
We Can Be Heroes (2020) [Japanese Review] 『ヒーローキッズ』考察・評価レビュー