原作どおりの筋肉男です!…ドラマシリーズ『ジャック・リーチャー ~正義のアウトロー~』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2022年~)
シーズン1:2022年にAmazonで配信
製作総指揮:ニック・サントラ、リー・チャイルド ほか
人種差別描写 ゴア描写 性描写 恋愛描写
ジャック・リーチャー 正義のアウトロー
じゃっくりーちゃー せいぎのあうとろー
『ジャック・リーチャー 正義のアウトロー』あらすじ
『ジャック・リーチャー 正義のアウトロー』感想(ネタバレなし)
今度は原作重視でドラマ化
自分の故郷で、普段は見知った人しかいないような地域だとして、そこで見知らぬ筋骨隆々の大男がノソノソと歩いていたら「なんなんだ、あいつ?」と思うのは無理もないことです。いや、別に誰が歩いていたとしても“よそ者”であればある程度は警戒するものでしょうけど、見るからに威圧的な大柄の男性だったら余計に緊張してしまいます。
逆にその大男側の視点に立ってみれば、どこに行っても体格ゆえに目立ってしまい、なんだか警戒心を向けられるのは気に障るのかもしれません。世間には自分が望んで筋力トレーニングをして自ら好んで筋肉アピールする男もいますが、もともとの持ってして生まれた体質的に大柄な筋肉多めの身体になる人もいるわけで…。世間には身長が極端に高い人、低い人、体重が極端に重い人、軽い人、他にも多くの身体的特徴の個性があり、それぞれでいろいろな目線を向けられてしまいます。『ミラベルと魔法だらけの家』では筋骨隆々の肉体(この作品では女性)ゆえに生じる周囲の扱いにともなう本人のメンタルの問題に焦点があたったりもしていました。筋骨隆々の肉体も時にはハンデになることもある…ということですね。
今回紹介するドラマシリーズも筋骨隆々の肉体を持つ主人公があれこれと騒動の渦中に巻き込まれ、そして自身で突っ込んでいく…そんな作品です。
それが本作『ジャック・リーチャー 正義のアウトロー』です。
本作のタイトルは映画好きの人なら聞き覚えのある名でしょう。そのとおり、過去に映画化されています。
原作は、アメリカに住むイギリス人推理小説家の“リー・チャイルド”が1997年から刊行した小説シリーズです。“リー・チャイルド”は当初はテレビ番組の制作の仕事をしていたのですがリストラに遭い、小説家に転身。そのデビュー作「キリング・フロアー」が大成功し、その主人公である「ジャック・リーチャー」を主軸にしたシリーズは2020年時点で25作も作られています。
内容は、主人公で屈強な肉体と明晰な頭脳を併せ持つジャック・リーチャーが各地を放浪しながらいろいろな騒動や陰謀に巻き込まれつつ、それを解決していくというクライム・スリラー。ハードボイルドな雰囲気が強く、ストイックで寡黙で孤独を好む男が悪い奴をベキバキと倒していきます。
この「ジャック・リーチャー」シリーズは2012年に映画化され、『アウトロー』という邦題(原題は「Jack Reacher」)で公開されました。この際に主演として起用されたのが、ハリウッドが誇る現在のスターである“トム・クルーズ”でした。私はこの“トム・クルーズ”版も好きでしたけど、ファンからはさすがにイメージが違うという声もあがりました。なにせ原作のジャック・リーチャーは筋骨隆々の大男でそれがトレードマークだったからです。“トム・クルーズ”は全然そういう雰囲気はありません。
この『アウトロー』は2016年に続編も作られ、この際の邦題は『ジャック・リーチャー NEVER GO BACK』になりました。
とはいえ、映画シリーズとしては2作目ですでに方向性を見失い始めている感じもあったのですが、製作陣はここで仕切り直して今度は原作重視でリブートすることにしたようです。それもドラマシリーズで。
そうしてこの『ジャック・リーチャー 正義のアウトロー』というドラマの誕生です。それにしても過去の映画2つを合体したような邦題にしたんだな…。
この本作ドラマの特筆点はやはり主人公がちゃんと筋骨隆々の大男になっている!という点です。演じているのはドラマ『Titans/タイタンズ』でハンク・ホールを演じていた“アラン・リッチソン”。今回は見事に肉体的な意味でもジャック・リーチャーになりきっており、完全に当たり役をゲットしましたね。
共演は、ドラマ『iゾンビ』の“マルコルム・グッドウィン”、『ザ・ゴールドフィンチ』の“ウィラ・フィッツジェラルド”、ドラマ『Most Dangerous Game』の“クリス・ウェブスター”、ドラマ『冒険野郎マクガイバー』の“ブルース・マッギル”、ドラマ『Swamp Thing』の“マリア・ステン”など。個人的にはドラマ『シェアハウス・ウィズ・ヴァンパイア』の“ハーベイ・ギーエン”がひょうきんな検視官の役で出ているのがツボです。
原作重視ということもあって、原作ファンも大満足の出来栄えではないでしょうか。ちなみにシーズン1は原作の1作目「キリング・フロアー」を題材にしており、全8話(1話あたり約40~60分)です。
『ジャック・リーチャー 正義のアウトロー』は「Amazonプライムビデオ」で2022年から独占配信されています。
オススメ度のチェック
ひとり | :ジャンル好きは要注目 |
友人 | :アクション好きは楽しめる |
恋人 | :異性愛ロマンスあり |
キッズ | :暴力描写&性描写あり |
『ジャック・リーチャー 正義のアウトロー』感想(ネタバレあり)
あらすじ(序盤):放浪者が町にやってきた
ジョージア州のマーグレイヴ。この田舎町にバスから降り立ったひとりの大男。「マーグレイヴへようこそ」と書かれた看板には「クライナー財団」の文字が目立っています。
大男はダイナーに到着。その入り口から男女がでてきてチップを払いすぎた女を男が恫喝していました。その恫喝男は「おいお前何を見ているんだ」と大男の方に文句をつけてきますが、大男に睨みつけられ、恫喝男は尻込みして立ち去ります。
そのダイナーでピーチパイを注文していざ食べようとすると、急にパトカーがダイナーを囲みます。察したように大男は紙幣を机に出します。店内に入ってきた警察が銃を向けて「両手を頭の後ろに!」と命令。こうして大男は殺人容疑で逮捕されました。
警察署に連行され、受付で「ジャック・リーチャー」という氏名を確認。荒っぽい態度で接する警官ですが、大男は一言も喋りません。するとツイードのスーツで律儀に権利を語る警部のオスカー・フィンリーが間に入ってきて2人で会話します。
なんでもハイウェイの陸橋のそばで遺体が発見され、後頭部に至近距離で9ミリ弾2発を撃ち込まれたようで、死体は段ボールで覆われていたとのこと。被害者は30代の大柄な男性。身元は不明。
「なぜ殺したんだ?」と聞かれますが、リーチャーは「弁護士は要らない」とやっと声に出し、「誰も殺していない、ここ最近は」と付け加えます。
リーチャーには存在を証明できる記録が一切無いようでした。両親は他界、兄がひとり、元軍人、軍警察の第110特別捜査部隊を指揮、任務中に何人か殺したが正当性が認められた…そういう事情は判明します。
おもむろにリーチャーはその場にある情報だけで犯人は3人の男だと分析してみせます。フィンリーはなおも信用しません。とりあえず勾留。警官のロスコー・コンクリンは無実だと信じているようで、優しくしてくれます。
被害者の靴の中に紙切れがあり、電話番号と「プルリブス」の文字がありました。その電話番号の情報から銀行員のポール・ハブルに辿り着き、本人に会うとあっさり殺しを自白。でも明らかに嘘をついています。
ハブルとリーチャーは2人揃って刑務所に。しかし、なぜか極悪犯の監房に送り込まれ、そこで殺されそうになりますが、リーチャーが撃退。ハブルは家族を殺すと犯罪組織に脅迫されて罪をかぶったと告白します。
釈放され、ロスコーが迎えに来てくれます。リーチャーは町に来た理由として、好きなブラインド・ブレイクという歌手にゆかりがあるからだと答えます。行きたいところに行く、それがリーチャーの生き方。
理髪店へ行くと、ここはクライナー財団で潤っている町だと教えてもらいますが、そこにクライナー・シニアの息子であるKJがやってきて、バグダッドの件を話題にされて言葉で脅してきます。
警察署に行くと第2の殺人が発生したらしく慌ただしそうです。そこで遺体安置所で最初の被害者の遺体を確認すると、それはリーチャーの兄のジョーであることが判明。
関わった奴をひとり残らず殺す。リーチャーは決心します。
シーズン1:筋肉と頭脳を両立する男
筋骨隆々の大男が主人公のアクションというのは、『コマンドー』に代表されるように1980年代に流行りました。勧善懲悪的な正義を志す筋肉男がその肉体で悪をぶっ倒す…そういうタイプですね。
しかし、この筋骨隆々の大男を主役にしたものはすぐに勢いは衰え、今ではすっかりネタ化しています。現在は筋肉男が登場してもそのネタ化を前提にしたギャグ的な要素を持つキャラクターとして活かされることが多いです。
だからこそ“トム・クルーズ”主演の映画でも筋骨隆々の大男という原作の設定をあえて消臭してしまったのだとは思います。
そんな中でこのドラマ『ジャック・リーチャー 正義のアウトロー』は、筋骨隆々の大男を正々堂々と主人公に据えて、ネタ化に走らず、かといって古臭いままにもせず、とても程よいバランスで映像にしてみせた成功例となったのではないでしょうか。
もちろんその見るからにマッスルな肉体ゆえにいろいろと不都合な目に遭わされます。手錠が入らないので結束バンドで腕を拘束されて無様な姿になったりとか、スーツ着用時のアホっぽさとか。殺した相手をトランクに詰めるときに手足をボキボキに折るなど、明らかにパワープレイもでてきます。
でも本作のリーチャーはいわゆる「脳筋」ではありません。とても頭脳明晰で賢いんですね。序盤から「正確さは重要だ」を口癖に、限られた情報だけで推理。思い出してほしいのですが、第1話で「犯人は3人」と性格まで分析しているとおり、実際に本作の事件の黒幕はKJ・ティール・ピカードの3名でした。またピーチパイを食べそびれて、それでも律儀に紙幣を出すのですが、そこで今回の100ドルの偽造紙幣(スーパービル)が鍵になるという伏線のチラ見せにもなっており、このあたりも演出がさりげなく効いていますね。ジョーの「エ・ウヌム・プルリブス(E UNUM PLURIBUS)」のヒントはまどろっこしいけど…。
見た目は筋肉男だけど、作品自体はとてもクレバー。まさに「ジャック・リーチャー」シリーズらしさです。
シーズン1:アウトローなチームアップ
『ジャック・リーチャー 正義のアウトロー』は主人公のワンマンプレイでゴリ押しするわけではなく、しっかりチームアップが作られ、その過程も含めて丁寧に描かれています。
そもそもリーチャーだけが単独で正義を成すというのはどうしてもマスキュリニティの横暴にも見えてしまいますし、あまりそれは“正しさ”とは言えない。かといってこのシリーズの世界観は基本は権力は腐っているので、公的なサポートは期待できない。
じゃあどうするかと言えば、リーチャーのようなアウトロー同士でその場限りのチームを組む。ここが本作の面白さですし、今回の映像化にあたって強化された部分でもあると思います。
妻を亡くしたことで心に穴が開いて、現実逃避をするかのようにボストンから人種差別の根強い南部のマーグレイヴに来てしまった黒人のフィンリー。両親を失って育ての親のグレイも殺されて失意の中で怒りを爆発させていく、女性としても舐められたままだったロスコー。私立探偵としてリーチャーと知り合いで互いをよくわかっており、男性客に乱暴されるストリッパーに鉄槌を下すシーンでもわかるように、内に正義を持っているもうひとりの放浪者のニーグリー。みんながみんなこの地に1発ぶちかまそうと最終話で燃え上がる。
本作の舞台であるマーグレイヴはクライナー財団に支配されて偽札生産場と化していましたが、このジョージア州というのは大企業の進出も多く(それこそ映画産業も)、そういう意味ではかなり広範に刺さる権力批判的な作風でもありました。
孤軍奮闘だったリーチャーはチームでの正義の大切さに気づいていきます。本作ではリーチャーを人種差別や女性差別のようなノリに加担させません。もうそういうのはカッコよくもありませんよ…という姿勢を見せることで、「力を正しいことに使う」というリーチャーの母の言葉に現代の説得力を持たせます。
筋骨隆々の大男はこうやって旧態依然の存在感から脱する。良いお手本のドラマでした。シーズン2も楽しみですね。
ROTTEN TOMATOES
S1: Tomatometer 90% Audience 90%
IMDb
8.3 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
作品ポスター・画像 (C)Amazon ジャックリーチャー
以上、『ジャック・リーチャー 正義のアウトロー』の感想でした。
Reacher (2022) [Japanese Review] 『ジャック・リーチャー 正義のアウトロー』考察・評価レビュー