腰痛の話題で仲良くなろう…「Apple TV+」映画『ウルフズ』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2024年)
日本では劇場未公開:2024年にApple TV+で配信
監督:ジョン・ワッツ
うるふず
『ウルフズ』物語 簡単紹介
『ウルフズ』感想(ネタバレなし)
フィクサー、現実に負けないで!
2024年9月、ニューヨークの“エリック・アダムズ”市長は連邦法違反で起訴されました。容疑は贈収賄と詐欺(BBC)。トルコ政府からの違法な見返りを貰いつつ、政府側に都合の悪い者を排除するなど手を貸していたようです。
ニューヨーク市長が権力の乱用や不正行為で批判されるのはこれが初めてではないのですが、“エリック・アダムズ”市長の場合、在任中に起訴された初のニューヨーク市長となりました(Politico)。
この捜査は2023年11月から連邦当局が“エリック・アダムズ”の資金調達責任者である“ブリアナ・サッグス”の自宅を捜索したときに始まったそうで、不正が多くの人の関与で蔓延していたとのこと。
例えば、FBIは“エドワード・カバン”警察本部長を捜査し、辞任に追い込んでいましたが、さらにその双子の兄弟であった“ジェームズ・カバン”の携帯電話を押収しており、繋がりを調べています。何でもこの“ジェームズ・カバン”、地元のバーやレストランで「フィクサー」として働いていた疑いがあるそうです(CBS)。
「フィクサー(Fixer)」というのは、いろいろな業界でやや異なる意味がありますが、こういうケースでは、主に不正行為などマズい事件が起きたとき、それをもみ消す人のことです。証拠品の抹消から、目撃者や死体の処分まで、問題を解決するためなら何でもやる。しかも、表沙汰にせずに裏でこなしてくれる。権力者には都合のいい仕事人ですね。
フィクション作品だとフィクサーを描くものはいくらでもありますが、やっぱり現実社会にもフィクサーは確かにいるんですね…。
しかも、現実ではニューヨーク市警の本部長の双子がフィクサーやってるんですよ。こんなのリアルがフィクションを上回ってるじゃないですか。
今回紹介するフィクサー映画もそんな現実社会に負けず(?)に頑張ってます。
それが本作『ウルフズ』です。
本作は、本来は1匹狼で仕事しているフィクサーの2人の男が、うっかり現場で遭遇してしまい、やむを得ず共同で事態を乗り切るハメになってしまうサスペンス映画となっています。
1匹狼(wolf)が2人だから「Wolfs」というタイトルですね。
『ウルフズ』の見どころは何と言っても、2人のフィクサーを演じる主演俳優。なんと“ジョージ・クルーニー”と“ブラッド・ピット”という大物俳優の共演となっています。
この“ジョージ・クルーニー”と“ブラッド・ピット”が豪華にメインで共演するのは、『オーシャンズ11』シリーズ以来だと思うのですけど、『ウルフズ』の場合は“ジョージ・クルーニー”の制作スタジオである「Smokehouse Pictures」と“ブラッド・ピット”の制作スタジオである「Plan B Entertainment」が共同で企画しているので、完全にこの2人の肝入りの映画です。
無論、“ジョージ・クルーニー”と“ブラッド・ピット”の掛け合いをひたすら眺めることができるというのがウリなので、「それだけでいい!」という人は大満足。
『ウルフズ』の監督&脚本を手がけるのは、MCUの『スパイダーマン』シリーズを監督して成功に導いた立役者である“ジョン・ワッツ”です。2021年の『スパイダーマン ノー・ウェイ・ホーム』以降は大作から離れ、映画ではこの『ウルフズ』に専念していた様子。まあ、『ウルフズ』もなかなかに豪華な映画ですけどね。
“ジョン・ワッツ”が『スパイダーマン』以外の映画を手がけるのは、2015年の『COP CAR/コップ・カー』ぶりになるのですが、作家性は全く減退しておらず、いつもどおりの持ち味をみせてくれます。
これだけ盛大な座組の映画『ウルフズ』なのですが、残念なお知らせが…。日本で劇場公開を予定していたにもかかわらず、土壇場で劇場公開中止となり、「Apple TV+」独占配信に切り替わりました。
そもそも『ウルフズ』は入札競争の結果、「Apple」が映画の公開の権利を所有しており、映画館での公開に関しては「ソニー」と契約を結んでいました。これは『ナポレオン』と同じです。
ところがAppleは劇場公開の規模を縮小することに決めたようで、本国アメリカでは限定公開に変更され、日本では公開中止に…。もう前売り券も販売していたのに劇場公開1カ月前に急遽の取りやめとなってしまいました。
「ジョージ・クルーニーとブラッド・ピットの二大スターの共演でも劇場公開されないのか…」と思ってしまいますけど、今回はAppleの方針変更なので、誰が主演していようが関係ないのでしょうね。それよりも今後の「Apple TV+オリジナル映画」も日本では映画館では上映してくれないのではないかと、そっちのほうが心配だ…。
悔やんでも今や手遅れなので、とりあえず気になる人は『ウルフズ』に要注目です。
『ウルフズ』を観る前のQ&A
A:Apple TV+でオリジナル映画として2024年9月27日から配信中です。
オススメ度のチェック
ひとり | :スター俳優を満喫 |
友人 | :俳優ファン同士で |
恋人 | :気軽に見やすい |
キッズ | :大人の掛け合いです |
『ウルフズ』感想/考察(ネタバレあり)
あらすじ(前半)
夜のニューヨークのビル群。叫び声が響きます。ある高層ビル。ひとりの女性が怯えるように動揺して暗い部屋に立っていました。床に人物が横たわっています。若者です。女性は血しぶきが飛び散ったスマホを震える手で操作。ある電話番号にかけるも「使われていない」とメッセージ。そのとき、電話がかかってきます。
「どうしてこの番号を?」と落ち着いた男性の声が質問してきます。そして一切その部屋に誰もいれずに大人しくしていると指示し、合図でノックするので、今から駆け付けると言ってくれます。
年配のプロのフィクサーである男は依頼主のもとへ到着しました。高級ホテルです。部屋に着くなり、さっそく仕事に取りかかります。
依頼主は地区検事長のマーガレット。これでキャリアは終わってしまうとオロオロしています。それを回避してもみ消すためにフィクサーがいるのです。
マーガレットいわく、その日の朝、ホテルのバーでキッドと呼ばれる若い男をナンパして遊んでいたらしいですが、その若者はベッドに飛び乗って跳ねているうちにガラスのテーブルに落ちた死亡したようです。
その説明の最中、部屋のドアを突然ノックする音が聞こえ、死体の処理を中断。ルームサービスではないです。
入って来たのは別の男。「問題を片付けにきた」と言います。気づきませんでしたがこの部屋には監視カメラがあり、その後から来た男はホテルのオーナーであるパメラ・ダウド=ハードリーに雇われているようです。
オーナーのパメラ(パム)は揃ってしまった2人のフィクサー男に、この混乱を片付けるために協力するように勧めます。すぐさま2人は拒否します。
2人ともひとりで行動したい性格の人間で流儀に反するのです。何より相手を信用できません。けれども記録もされているので引き返せません。
やむを得ず2人は手を組むことになります。マーガレットには何もかも忘れて家で過ごすようにと指示し、部屋を出ていかせます。
2人きりとなり、最初に来た男は作業を開始。しかし、後から来た男は呑気に缶を開け、くつろいでいます。あくまでホテルの名誉を守ることを後から来た男は、最初に来た男の仕事を眺めてラクする魂胆のようです。不満を押し殺して作業を続けるしかありません。
しかし、そのとき、後から来た男は棚の裏から麻薬の入ったバッグを発見。しかもひとりでちょっと使用する量ではないです。塊がいくつもあります。
パムに報告しますが、これは処分すればいいものではありません。盗品なので何か裏があり、持ち主が捜しているかもしれないのです。
駐車場まで到着し、遺体を後部のトランクにぶちこみます。
あらためて2人は対峙。「お前は何者だ?」「そっちこそ何者だ?」
その瞬間、驚いたことに死んでいたと思ったキッドが突然息を吹き返します。すぐさま殴って気絶させるも2人には意味がわかりません。
車内で口論がまた勃発。「脈は確認したのか?」「ドラッグのせいだ」「そんなヤクがあるか?」
とにかく急いで策を考えなくては…。
どうでもいいことをあえてやる
ここから『ウルフズ』のネタバレありの感想本文です。
映画『ウルフズ』は2人のフィクサーの男(名前がわからないので、とりあえずマーガレットが雇った“ジョージ・クルーニー”演じる男を「ジョージ」、パムが雇った“ブラッド・ピット”演じる男を「ブラッド」としておきましょうか)、この2人の邂逅から始まります。
互いは1匹狼で仕事しており、そんな職業的こだわりを持つ者同士が、仕方がなく協力しないといけないことになってしまうというシチュエーション…「間に合わせのバディ」モノです。サブジャンルとしては定番ですね。
もちろん1匹狼というのは個々のこだわりがあるにせよ、仕事上の理屈としても理解はできます。秘匿にしないといけない以上、そんな他人と気軽に慣れ合えませんから。ひとりのほうが何かと安全なのは当然です。
ただ、観客としてはやっぱり“ジョージ・クルーニー”と“ブラッド・ピット”がぴりぴりしながら手探りで関係を構築していく…その光景が楽しいですよね。
“ジョン・ワッツ”監督らしさなのですけど、「これぞ秀逸な脚本だ!」という完璧なプロットを用意するわけでもなく、考えてみるとものすごくアホなことをただ大の大人たちが淡々とやっている…それだけでも何か面白くさせてくれる匙加減のユーモアを持続させるのが上手いです。
例えば、駐車場から車を出し入れするためにゲートを開けないといけないのですけども、そこでジョージとブラッドではやり方が全然違っていて、傍から見ると「もうそんなのどうでもいいだろ!」っていうシーンがあります。あの場面をあえて入れるおふざけとか。別にカットしても展開は成り立つのですが、それでもあのシーンを入れることで「こいつら、ほんと、くだらないことで喧嘩しているな…」と観客に呆れさせる。
本作は何度もしつこいくらいに観客を呆れさせる演出があって、それで本当に観客が映画に呆れて「こんな映画、つまらん!」となるリスクがデカいのですけども、しかし、“ジョン・ワッツ”監督はそれをやめません。久々に大作から降りて、ふざけ放題できる快感を満喫している感じでした。
今作も子どもが振り回す
“ジョン・ワッツ”監督のもうひとつの得意技は「大人」と「子ども」の掛け合わせ。とくに大人が子どもに振り回されるという展開。もしくは子どもが悪い大人に出会ってしまうという展開です。監督の過去作である『COP CAR/コップ・カー』や『スパイダーマン』シリーズなども、そういう要素で成り立っていました。
映画『ウルフズ』もフィクサーのジョージとブラッドが「キッド」(これも仮名だろうけど)というガキに振り回されます。一応、あのキッドは学生ですが、だいぶ子どもっぽいアホさ全開です。
そもそも今回の事件の引き金となった「薬物過剰摂取でハイになって転んで死にかける」という出来事もバカバカしいにもほどがありますし(ちゃんとエンディングでその全容を映像化してくれるも笑える)、以降も2人のフィクサーを終始呆れさせます。
まさかのパンツ一丁でのニューヨークの都会を大爆走する展開も実にマヌケ。「そこまで粘るの!?」という驚異のスピード・ランナーっぷりをみせてくれます。もうスパイダーマンなんじゃないかと思うくらい…。というか、“ジョン・ワッツ”監督は『スパイダーマン』のときに“トム・ホランド”をこうやってパンツ一丁で街中をスイング爆走させてみたかったのではないだろうか…(上から止められたのかもしれない…)。
そこからの部屋での尋問のくだりも完全に漫才です。キッドを演じる“オースティン・エイブラムス”のいつまで続くんだというひとり喋りがジョージとブラッドの体力を削っていく…。あれも全部台本なのかな…。
ラストはすっかりバディも完成。あの2人のフィクサーがターゲットにされたことが発覚し、2人が重い腰をあげて立ち向かうことにする閉幕のあのぶん投げる感じ…すごく『ジョン・ウィック』的ではある…。
映画『ウルフズ』は“ジョン・ワッツ”監督の中では続編の構想もあるらしいですけど、主演がスター俳優なので結構大変そうではあります。
個人的にはあの“ジョージ・クルーニー”と“ブラッド・ピット”の2人の俳優…往年の映画ファンには「イケオジ」だなんだと依然として人気かもしれませんが、アメリカのZ世代の若者にはもうそこまで大人気というほどに熱狂させる存在感は薄れてきているので、どこまで客層を開拓できるかは不安なところがあるなとは思います。
作中では腰痛持ちですが、実際は大御所としてそろそろ現在進行形のスター性も陰り始めている“ジョージ・クルーニー”と“ブラッド・ピット”。この映画の世界観でも2人こそがどこぞのフィクサーにもみ消されて終わり…みたいなことにならないように、もうちょっと粘っていけるのでしょうか。
シネマンドレイクの個人的評価
LGBTQレプリゼンテーション評価
–(未評価)
作品ポスター・画像 (C)Apple ウルフス
以上、『ウルフズ』の感想でした。
Wolfs (2024) [Japanese Review] 『ウルフズ』考察・評価レビュー
#ジョンワッツ #ジョージクルーニー #ブラッドピット