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『この世に私の居場所なんてない』感想(ネタバレ)…現代でも手裏剣は有効です

この世に私の居場所なんてない

現代でも手裏剣は有効です…Netflix映画『この世に私の居場所なんてない』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:I Don’t Feel at Home in This World Anymore
製作国:アメリカ(2017年)
日本では劇場未公開:2017年にNetflixで配信
監督:メイコン・ブレア
この世に私の居場所なんてない

このよにわたしのいばしょなんてない
この世に私の居場所なんてない

『この世に私の居場所なんてない』物語 簡単紹介

気弱で流されがちな看護助手のルースは、世の中にはひどい奴ばかりだと嘆いていた。しかし、自分では不満を溜め込むしかできない。そんな彼女の心をさらに折るかのように、家に空き巣が入って大切なものを奪われてしまう。しかも、世間は冷たく助けてくれない。こんな状況でもまだ自分だけでなんとか対処しないといけないというのかと憤りを感じる。犯人を探すには、変わり者の隣人の男と手を組む以外に道はなかった。
この記事は「シネマンドレイク」執筆による『この世に私の居場所なんてない』の感想です。

『この世に私の居場所なんてない』感想(ネタバレなし)

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オタク、世間にキレる

ザ・ギフト』の“ジョエル・エドガートン”など俳優から監督デビューする人は最近も後を絶ちません。

そして、ジェレミー・ソルニエ監督の『ブルー・リベンジ』で主演し、同監督の次作『グリーンルーム』にも出演していた“メイコン・ブレア”もまた監督デビューを果たした俳優のひとりです。

その監督第一作の名は『この世に私の居場所なんてない』。なんか凄い邦題ですが、原題のほぼ直訳です。

本作は、2017年のサンダンス映画祭で審査員グランプリを受賞しました。サンダンス映画祭のグランプリ受賞作といえば、2014年は『ラ・ラ・ランド』で今や世界を席巻したデミアン・チャゼル監督の有名作『セッション』が、2015年は映画オタク少年が空気も読まずに難病の幼なじみの女の子に不謹慎ジョークをかます『ぼくとアールと彼女のさよなら』、2016年は黒人奴隷の陰惨な歴史を怒りに変えて映画化したら全然別のところで炎上した『バース・オブ・ネイション』…といったラインナップ。要は、オタク気質な映画か、バイオレンスやカウンターカルチャー的な映画を評価してくれる映画祭なわけです。

じゃあ、2017年のグランプリ受賞作である本作『この世に私の居場所なんてない』はどうかというと、オタク気質+バイオレンス+カウンターカルチャーという全部盛りな内容。しかも、ブラック・コメディです。

タイトルのとおり「この世に私の居場所なんてない」と嘆いて、社会からの爪弾きもの人生を絶賛満喫させられている主人公の冴えない女性が、トラブルに巻き込まれたことで自分を爆発させていくストーリー。主人公のイタイタしさもさることながら、その主人公と手を組む男もなかなかイタい奴。ヌンチャクや手裏剣を振り回す奇行も必見です

こういうオタクがバイオレンスに頑張る系が好きな人は大満足の一作になると思います。Netflixで配信中です。

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『この世に私の居場所なんてない』を観る前のQ&A

Q:『この世に私の居場所なんてない』はいつどこで配信されていますか?
A:Netflixでオリジナル映画として2017年2月24日から配信中です。
日本語吹き替え あり
永田亮子(ルース)/ 浪川大輔(トニー)/ 星野充昭(ルマック)/ 落合弘治 / 青山穣 / 日野由利加 ほか
参照:本編クレジット
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『この世に私の居場所なんてない』予告動画

↓ここからネタバレが含まれます↓

『この世に私の居場所なんてない』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):みんなくそったれ

ルースは噛みすぎて味のなくなったガムを何年も噛み続けているような、そんな地味な人生を過ごしてました。看護助手の職場では、対応した高齢者はどうしようもない卑猥な侮蔑言葉を言い放ってこの世を去ります。買い物をしていても、普通に歩いているだけでも、なぜか自分が世界と歯車が合っていない気分。

バーで本を読んでいると「それってエルスウェア・サガ?」と隣の男に聞かれ、オタクな会話が盛り上がったときも、やっと仲間を見つけたと思ったら、ふいにネタバレをお見舞いされ、地味にダメージを受けるオチ。

家の庭には。なんでこうも世界は私に厳しいのか。

しかも、今日はさらなる追い打ちがありました。家の裏口が開いています。そして部屋がぐちゃぐちゃに荒らされているのに気づきます。まだ家に誰かいるのか。包丁を持って近づきますが窓が開いているだけでした。犯人は逃げたようです。

パソコンやら銀食器やら処方薬が盗まれ、それは抗不安剤と抗うつ剤、そして銀食器は母の形見。警察が事情聴取しに来ますが、ドアが破られた形跡はありませんと答え、「それでどうすれば?」と質問すると「盗品が見つかったら連絡しますよ」とそっけない態度。「捜査するんですよね」と聞いても「お宅の防犯を見直してみては?」とやる気のない言葉で返されます。

ひとり虚しく後片付けするルース。情緒不安定になるしかありません。人間の醜悪さにうんざりし、世の中に絶望。しかし、「あなたより辛い立場の人はたくさんいる」と言われても、ルースには「みんなくそったれ」としか思えません。

帰宅するとまた家の前に糞。今回ばかりはキレました。ルースは犬を散歩する男に糞を投げつけます。「気づかなかった」と男は淡々と従います。

本腰を入れて家の片づけをしだすと、庭で犯人と思われる足跡を発見。ふと思いつきます。自分で悪人を捕まえてやろう。石膏を購入し、足跡の型をとるルース。次に不審者を見かけなかったかと近隣住民に聞いて回ります。

ある騒音が漏れ聞こえる家にたどり着くと、裏に回るとそこにはあの犬の男がいました。なぜかその男は「殴ってくれ、それでチャラに」と意味不明なことを言ってきます。一応、反省はしているようです。空き巣に遭ったと事情を説明すると、盗まれたものを聞いた男は全身で怒りを表すのでした。ルースはドン引きして帰ります。

途方に暮れていると、スマホに窃盗されたパソコンの位置情報が送られてきました。この犯人はマヌケなのか。でもこれはラッキーです。

急いで警察に連絡。しかし、「現時点で捜査班は派遣できません。家宅捜索には令状が必要です」とばっさり切り捨てられました。必死に訴えますが同じ回答を繰り返されるのみ。ルースは声にならない怒りに震えます。

こうなったら自分の車で向かってみるも、そこには盛り上がっている若者がいて危なそうな連中で退散します。

結局、他にあてもなく、あの犬の男に頼ることに。そいつはトニーという名のようです。あっさり納得して、家へ殴り込む手助けをしてくれます。ヌンチャク&モーニングスターを持ってトニーと問題の家へ。「私のパソコンはこの家の中にある」と言い放つも、ドア番はしらばっくれるだけであざ笑います。

しかし、トニーは手裏剣と爆竹で威嚇。若者たちはあっけにとられます。パソコンを発見。持って帰るルース。「気分が悪いでしょう。見知らぬ人が家にあがりこむなんて」

けれどもこのパソコンはリサイクルショップで買ったものだそうで、どうやらこいつらは盗んだ犯人ではないようです。銀食器はここにありません。

でも成果をあげました。こうして2人は意気投合するのでした。

しかし、2人はまだ知らない。あんな奴らは雑魚であると。この世界にはもっとヤバい存在がいることを…。

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警察よりも手裏剣だ

底辺の人間が世間の冷たさのなかで踏んだり蹴ったりな目に遭いながら、社会にキレていく序盤の展開は、最近観た『わたしは、ダニエル・ブレイク』と重なります。あの映画の主人公はイギリスの階級社会の最下層にいる人間なので構造的にもわかりやすいです。

一方の『この世に私の居場所なんてない』の主人公ルースが暮らすのはアメリカの社会の“下”。立ち位置はちょっと不明瞭です。日本人にもすぐわかりそうな点でいえば、ルースのオタク的な嗜好でしょう。まず、趣味レベルで“下”にいます。そして、職業はケア施設の看護助手…要するに日本でいうところの介護職員です。職業レベルでも“下”にいますね。さらに、家庭環境。一人暮らしで恋人もおらず、友人も多くはなさそうですが、それよりも気になるのは親の存在。祖母の銀食器をあんなに大切そうにしているあたり、両親との関係は良くないのかもしれない…そんなことを窺わせます。

そんなルースが空き巣に入られるも警察はろくに捜査してくれない。「それよりも凶悪な事件があるんだ。そっちが優先だ。それくらい理解しろ」と逆に叱られる始末。いや、正論かもしれないけれど、警察が言っちゃダメなセリフだろうに。

そして、ここからルースをバイオレンスなブラック・コメディに引きずり込むのが、前に庭に犬の糞を放置していた変人男のトニー。こいつもルースと同類の社会の“下”暮らしの人間っぽいですが、それ以上に異次元レベルで変すぎるので測定不可能。でも、ちゃんと犯罪は良くないという常識を持ち合わせていてなんか憎めない。まだもうしばらく見ていたいキャラでした。

本作は終盤に思い切ったバイオレンスを見せてくれて楽しい。“血、ドバーッ”で、“ゲロ、ドバーッ”ですから。やっぱりアメリカ映画ではゲロの勢いは大事ですね。ここを評価せずしてどこを評価するのか。ただ、本作の私の押しポイントは、銃社会アメリカで、銃よりも手裏剣の方が強いというオタク魂を体現してくれたこと。トニー、お前は現代の忍者だ。認める。

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この世に文句を言って死ぬのは嫌だ

結局のところ、空き巣に入った男も、空き巣事件を担当した警察の黒人さえも、「この世に私の居場所なんてない」という不安を抱えて生きているわけで。ちょっとしたきっかけで前を向き直したり、自滅したり、誰かのために体を張ったりするのです。

本作の冒頭はこんなニュースで始まります。…銃撃事件。黒人たちが「Stop Killing Us」のプラカードを抱えて抗議している姿。これは警察による過剰な黒人取り締まりへの反対運動を伝えたもの。それに対して、白人の死にかけのババアが「あのサルどものせいでこの国はメチャクチャだ」と罵詈雑言たれながら息を引き取っていく…。

あんなババアにはなりたくない…ルースもそう思ったはずです。どうせ死ぬなら、この世への文句を言って死ぬよりも、違う方がいいですよね。時間はたっぷりあるのだし。

「この世に私の居場所なんてない」と感じたら、とりあえず手裏剣の練習からやってみようか…。

『この世に私の居場所なんてない』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 88% Audience 77%
IMDb
6.9 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 7/10 ★★★★★★★

作品ポスター・画像 (C)Netflix

以上、『この世に私の居場所なんてない』の感想でした。

I Don’t Feel at Home in This World Anymore (2017) [Japanese Review] 『この世に私の居場所なんてない』考察・評価レビュー