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ドラマ『インダストリー』感想(ネタバレ)…有害な企業文化に入社しました

3.0
インダストリー

有害な企業文化に入社しました…ドラマシリーズ『インダストリー』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:Industry
製作国:アメリカ・イギリス(2020年~)
シーズン1:2020年にHBOで配信
シーズン2:2022年にHBOで配信
原案:ミッキー・ダウン、コンラッド・ケイ
性暴力描写 セクハラ描写 性描写 恋愛描写
インダストリー

いんだすとりー
『インダストリー』のポスター。

『インダストリー』物語 簡単紹介

ロンドンの大手投資銀行に入社した若者たち。しかし、新入社員気分でのんびりはしていられない。半分しか残れないという半年後の本採用の座を懸けて、猛烈な勢いで働くことになる。ここでキャリアを築くには成果をだすしかない。上司に才能を見いだされる者もいれば、屈辱に耐える者もいる。オーバーワーク、ハラスメント、性差別、有害な上下関係…この業界の中で得られるものはあるのか。
この記事は「シネマンドレイク」執筆による『インダストリー』の感想です。

『インダストリー』感想(ネタバレなし)

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これが有害な企業文化です

過酷な労働環境ゆえに死に至る「過労死」。英語でも「Karoshi」と呼ばれ、日本語由来の英単語としても有名です。

でもそれを聞いたとき、ふと私は思いました。「英語圏では過労死って起きてないの?」と…。

結論から言えば、別に日本以外の国々でも過労死は普通に起きています。ただ、死因としてはいろいろあり得るので、正確に全体像を浮き彫りにするのは難しいようです。「Karoshi」とやけに日本の特有さのように強調するのはちょっと欧米視点からの日本へのステレオタイプなんじゃないかなと今は思います。

そんな過労死の根本的原因となるのは「有害な企業文化」です。欧米でも毎年のように問題視されています。

例えば、2023年秋、アメリカの連邦預金保険公社にて有害な文化が常態化していると従業員が訴えたものの、経営陣はその声を黙殺していたことが発覚しましたNPR。その後、外部調査によって詳細な問題が指摘されたものの、あまり改善の希望は期待できない状態です。

というのも、不正行為者に対しては「報酬を支払うか、昇進させるか、異動させるか」…この対応が繰り返されるだけであり、業界内で問題構造は温存されてしまうからです。

今回紹介するドラマはそんな有害な企業文化をゾっとするほどに浮きだたせる作品です。

それが本作『インダストリー』

本作は、架空の大手投資銀行を舞台にしており、金融業界を描いています。金融業界モノだと、『ウルフ・オブ・ウォールストリート』のような業界の狂乱的な裏側を痛烈に描いた作品が目立つところ。ドラマ『インダストリー』も、「カネ!セックス!」みたいな勢いは似ているのですが、あちらよりもはるかにリアルに活写しています。

何でも本作のショーランナーである“ミッキー・ダウン”“コンラッド・ケイ”は実際にロンドンの金融業界で働いていたそうです。

オフィス内の人間関係や刻一刻と目まぐるしく変化するビジネスなど、その描写は細部まで手が込んでおり、視聴者を一気にこの業界に巻き込んでいく力があります。金融業界用語もいっぱいでてきます。

そして先ほどからずっと書いているように、主題となっているテーマのひとつがこの金融業界の有害な企業文化。それは嫌というほどに生々しく描かれます。金融業界でなくとも有害な企業文化に酷い目に遭わされた経験者であれば、ちょっとフラッシュバックするくらいにはリアルなので、やや注意が必要ですけども…。ジャンルとしてはリアル寄りの企業ディストピアですね。

語り口としてはドラマ『メディア王 華麗なる一族』に似ている部分もあります。

でもドラマ『インダストリー』は新入社員の視点で群像劇スタイルで描いており、企業というものをボトムアップの目線で映しています。これがまた企業文化の有害さを表現するには最適解すぎるくらいにおぞましく機能してしまうのですが…。

ドラマ『インダストリー』の主演は、『ボディーズ・ボディーズ・ボディーズ』にもでていて自身をクィアと公表している“マイハラ”『Back to Black エイミーのすべて』“マリサ・アベラ”『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』“ハリー・ローティー”『エイリアン ロムルス』”デイヴィッド・ジョンソン”などの若手もいれば、ドラマ『LOST』“ケン・レオン”などのベテランも…。

ドラマ『インダストリー』は「HBO」の制作で、アメリカ本国では2020年にシーズン1、2022年にシーズン2、2024年にシーズン3が配信されました。それぞれ全8話で、1話あたり約50~60分です。

別にどんな感想を持とうがその人の自由ですけども、このドラマを鑑賞して「これが仕事のあるべき姿だな」とか、「こういう働き方が理想なんだよ」とか、そんなことを口走る人には個人的には近寄りたくはないですね…。

私は金融業界にはいなかったけど、似たような有害な文化を有するコミュニティに属していたことはあるのでね…。このドラマもちょっと視聴中は嫌な経験を思い出してしまいました…。

仕事に疲れた後に観るのはあまりオススメしませんし(余計に疲れる)、金融業界にこれから就職します!という人が見たら絶望しかないかもですが、人としての最低限の良識を保って視聴しましょう。

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『インダストリー』を観る前のQ&A

✔『インダストリー』の見どころ
★有害さに染まっていく破滅的な業界の危うさ。
✔『インダストリー』の欠点
☆トラウマを掘り起こす生々しい描写が多いので注意。

オススメ度のチェック

ひとり 3.5:良識を保って
友人 3.5:他人不信になりそうだけど
恋人 3.0:ロマンスはあるにはあるけど
キッズ 2.0:直接的な性描写あり
↓ここからネタバレが含まれます↓

『インダストリー』感想/考察(ネタバレあり)

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あらすじ(序盤)

オフィスビルの各部屋で若者たちが各自、面接を受けています。ここは大手投資銀行「ピアポイント」のロンドン・オフィス。

面接を受けているのは、ハーパーヤスミンガスハリロバートです。面接担当者のエリックらが、それぞれに質問をし、それぞれが自分なりの回答を口にします。朗らかに答える者もいれば、少し緊張しながら答える者もいるし、律儀に答える者もいます。しかし、全員がこの企業で自分のキャリアをスタートしたいと熱意を燃やしていました。そして5人は職を手に入れることができました。

そして5人は第1の関門をクリアしました。ロンドンにある「ピアポイント」のオフィスでの仕事が始まったのです。

クロスプロダクトセールス(CPS)に配属されたハーパーは、新入社員が集められた部屋に向かいます。FXに配属されたヤスミンが隣にいて話しかけてきます。ヤスミンは裕福な家庭出身のようです。CPSにはロバートもいます。

エリックが前に立ち、説明が始まりますが、まず真っ先に言及したのは「RIF(reduction in force)デー」。6か月後に迫るこの日に組織的な人員削減があるのです。つまり、この日までに成果を出さないと容赦なく解雇となります。下手すれば半数がクビになります。いきなりの厳しい現実ですが、新入社員にできるのはとにかく働くことです。

自分のデスクに戻ったハーパーは隣のディレクターのエリックから指導を受け、真面目に期待に応えようとします。ヤスミンは飲み物を配り歩いたりと小間使いさせられていました。

投資銀行部門(IBD)に所属されたガス。隣にはハリもいます。ハリは薬で眠気を吹き飛ばし、トイレ個室の床で寝るなど徹夜働き詰めで職場に籠っていました。

上司のダリアはハーパーを顧客のニコールとのディナーに招待します。さっそく頭脳明晰なトークで心を掴み、ニコールと車まで一緒になったハーパー。しかし、車内でニコールに性的に迫られ、静かに振り払います。ニコールは何事もなく家に帰っていきました。

いつものように忙殺の日々の中にあった何気ないある日、ハリはトイレの個室で心臓発作で静かに亡くなっている姿で発見されました。遺体が担架で運ばれるのをハーパーも目にします。簡単に説明がありましたが、すぐに職場はいつもどおり。一切動じていませんでした。各自新入社員は思うことがありながらやはり働くしかできません。

そんな順調にみえたハーパーですが、秘密がありました。大学を卒業していないのです。人事部長のジャスティンが成績証明書の提出を求めてきて、ずっとそれを回避してきましたが、もうそうもいきません。偽造された成績証明書を使って騙すことにします。

ハーパーは割り切ってニコールとのコネを最大限に利用することに決め、先輩のリシよりもはるかの有能な成果をみせつけることに成功します。これが大きな決め手となり、ハーパーは社内でも新人ながら高い評価を獲得。

自信がついたハーパーは豪華なスイートルームに泊まり、ハンバーガー片手に贅沢を謳歌します。

この利益最優先の業界は若者たちをどう変えていくのか…。

この『インダストリー』のあらすじは「シネマンドレイク」によってオリジナルで書かれました。内容は2024/09/21に更新されています。
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シーズン1:改善しようがない業界

ここから『インダストリー』のネタバレありの感想本文です。

ドラマ『インダストリー』は、テクノポップなBGMと共に「これからワクワクドキドキの新入社員の人生が始まるぞ!」とまるで就活宣伝PR映像のようにポジティブな高揚感を煽る出だしですが、第1話から最も強烈なエグさで、その本性を露わにします

生真面目に張り切って身を粉にしていたハリの社内トイレでの死亡。それは「過労死」という企業問題として扱われることは一切なく、不慮の事故として事務的に処理されて終わり。このことからわかるように、この世界では同僚は「仲間」ではなく「歯車」。「命」よりも「ビジネス」が絶対的に最優先されます。この倫理観ですよ。

以降も有害な企業文化をこれでもかと見せつけてきます。

例えば、ヤスミンが経験する性差別的な環境。それは若い女性を雑用に使うことだったり、はたまた半ば強制でストリップ・クラブに同行させたり…。上司ケニーは典型的なミソジニー男です。

また、上司や顧客との性関係も生じます。「別に個人の自由でしょ?」で済めばいいのですが、どう考えても不適切な上下関係を助長し、有害な企業文化を形成するパーツになっていました。ガスなんかはゲイを隠しながらのキャリアですから、余計に緊張感が加わりますが…。

そんな中、ハーパーはちょっと他の新入社員と比べても異質で、どうやら家庭環境のせいなのか、もともとの家庭で抑圧と重圧を経験してきたせいか、悪い意味で(←ここ大事!)この有害な企業文化に順応する速度が速いです。大学を卒業していないことを把握しているやりての上司エリックと、成功に飢えた者同士で成り上がろうと結託。

唯一の良い上下関係が成立したのか…と思わせて、はい、このドラマがそんな優しいわけもなく…。

第5話でのエリックによるハーパーへの恫喝的叱責。鍵をかけていることにすら気づいていないあの演出も嫌な感じで…。

ショックを受けたハーパーは、サラやダリアといった有害な企業文化を改善したい陣営に促されてエリックのパワハラを会社に訴えようかと考えるも、結局、キャリアを優先してエリック側につき、ダリアを捨てるという…。

ここが有害な企業文化の怖いところ。倫理を犠牲にして自分そのものが有害な加害者になっていく…。電子タバコを頻繁に吸うなど、ハーパーが自己矛盾を抱えていることを演出で表すのが本作が随所で上手いですね。

ヤスミンも「チームプレーヤー」として有害さを黙認する傍観者にさせられるし…。そう言えば、その屈辱に耐えるヤスミンが、ロバートを支配的にコントロールする性関係で鬱憤を晴らしているのですが…大丈夫か、ロバート…。

この業界は、問題が起きても、黙殺・隠蔽・揉み消し・しらばっくれるという手口を「ダメージコントロール」という便利な用語で表現し、さらにせっかくの告発も企業内政治の武器に利用されるだけなので、本当に何も解決しない…。救いがなさすぎる…。

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シーズン2:有害さに染まり、そして毒が回る

ドラマ『インダストリー』のシーズン2は、コロナ禍の後から開幕。リモートワークしていたハーパーがオフィスに戻りたがらなかったのは、あの有害な職場を内心では避けたいという内なる本能の現れなのか…。

今作では、ハーパーはヘッジファンドマネージャーのジェシー・ブルームと、ニューヨーク・オフィスのダニエル(ダニー)・ファン・デフェンターという新キャラの登場で、エリックを捨ててこちらにつこうかと揺れ動きます。

最終的に、業績絶好調だったのに失態をしでかしたハーパーはエリック、リシ、ダニエルを加えてピアポイントを離れて別の銀行へ移ることを画策するも、ジェシーがろくでもない奴だと判明し、頓挫。しかも、結局、最後にクビにされたのは、大学を卒業していない件が発覚したハーパー自身だったという…。牙が自分に向けられたときの絶望を味わうラストでしたね。

また、同時に、ハーパー、ヤスミン、ロバートと共に家庭環境の現在進行形の問題も明らかになりました。女たらしで秘密保持契約にカネをつぎ込んでいる父を持つヤスミンが一番ヤバそうなのですが、裕福な家庭から転落したとき、ヤスミンは耐えられるのか…。ヤスミンは有害な企業文化を告発する側に回りそうな予感も匂わせていましたが、ハーパーがピアポイントからいなくなった今、シーズン1からの対立は水に流して共闘する可能性もあるのかな。

ともあれ、こうして家庭にも居場所がないと、企業キャリアに依存しやすくなり、有害な企業文化があろうとのめり込んでしまうという構造が生まれやすいですよね。

そして、最悪問題クライアントのニコールと関係を持って抜け出せなくなったロバート。ほんと、大丈夫か、ロバート…。

シーズン2は新卒体験だったシーズン1が可愛く思えるくらい(その認識もだいぶ染まってしまっているけど…)、有害な企業文化の継承と報復が往復ビンタのごとくバシンバシンと繰り出され、ボロボロになりました。有害さに染まり、そして毒が回って…もうガスみたいに辞めるのが最善の選択肢としか思えません…。

『インダストリー』
シネマンドレイクの個人的評価
6.0
LGBTQレプリゼンテーション評価
△(平凡)

作品ポスター・画像 (C)2023 Home Box Office, Inc. All rights reserved.

以上、『インダストリー』の感想でした。

Industry (2020) [Japanese Review] 『インダストリー』考察・評価レビュー
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