ソレはギャグにできてもアレはギャグにできない…映画『JUNK HEAD』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:日本(2021年)
日本公開日:2021年3月26日
監督:堀貴秀
性描写
JUNK HEAD
じゃんくへっど
『JUNK HEAD』あらすじ
『JUNK HEAD』感想(ネタバレなし)
努力が実を結ぶ
今のアニメーションはとにかく声優の演技あり、迫力の大音響あり、高質量のCG映像ありと、ボリューム感が凄いですが、本来のアニメーションは「動き」を見せるものです。初期のアニメーションは本当にシンプルにただ動くだけで表現をしていました。
そのアニメーションの黎明期に「動き」の奥深さを見せてくれたのが「影絵アニメーション」と呼ばれるものです。後ろから光をあてて黒い影絵だけでキャラクターを表現します。この影絵アニメーションの先駆者であり、技術を確立させたのが“ロッテ・ライニガー”というドイツのアニメーターです。まだ幼い女の子だった頃から自分で人形劇を作るのにハマり、大人になるとアニメーションの世界へ。1926年には現存する世界最古の長編アニメーション映画『アクメッド王子の冒険』を手がけ、歴史の土台を作りました。ナチスが台頭するにつれ、“ロッテ・ライニガー”は逃げざるを得なくなり、自由に創作できなくなってしまうのですが、功績は不変。彼女あってこその今のアニメーションなのは動かぬ事実です。
“ロッテ・ライニガー”作品の特徴は動き、とくにジェスチャーを重視するというもの。キャラクターはやや大袈裟な身振り手振りで動くのですが、それによって豊かな表現を実現しています。
現在では影絵アニメーションはあまり見られなくなりましたが、そのクリエイティブ性を最も受け継いでいて勢いがあるのが「ストップモーション・アニメーション」でしょうか。こちらは実物のキャラクターを実際に作ってそれを動きをつけながら1枚1枚撮影し、その膨大な撮影画像を連続再生してアニメーションにします。このストップモーション・アニメーションもやっぱり「動き」が大事です。どんなふうに動かすか、そのひとつひとつの挙動がキャラクターに命を吹き込みます。
今の海外ではCGアニメーションが主流とは言え、ストップモーション・アニメーションでも多数の良作が毎年生まれています。『ミッシング・リンク 英国紳士と秘密の相棒』などの「ライカ」や、『ひつじのショーン UFOフィーバー!』などの「アードマン」といった、有名なスタジオもたくさん。
日本でも2021年はストップモーション・アニメーション作品が話題になりました。ひとつはその可愛さとユーモアたっぷりな物語でメロメロになった人も続出した『PUI PUI モルカー』。私も大好きです。
そしてもうひとつの話題作。それが本作『JUNK HEAD』です。
スチームパンクとディストピアを混合した未来SFなのですが、そのデザインはどこかグロテスクだったり、シュールだったり、いろいろな顔を持ち合わせています。そんな多層的な世界でミニマムなキャラクターが動き回るのですが、オブジェクト含めた背景などの世界観はとても精巧に組み上げられており、そのワールドを眺めるだけでもワクワクしてくる雰囲気です。主人公はこの世界で“ある目的”のために未知の領域を探検することになり、視聴者もシンクロしながら、その冒険に没入できます。
この個性的な世界を構築したのが“堀貴秀”という映像作家。『君の名は。』で一躍時の人となった“新海誠”監督がもともと1人で創作していたことを知り、自分も1人創作にチャレンジしていったそうで、この『JUNK HEAD』も2009年から単独で作り始め、原案、監督、キャラクターデザイン、セット製作、撮影、音楽、声優、編集…全部を自分でやっています。ただ、宣伝では完全に1人で作り上げたかのように紹介されていますが、実際は4人程度の規模で長編映画を完成させたようです。それでもそんな少人数でこれほどの世界観をゼロから生み出せるのはとんでもない才能と努力でしょう。おカネはどうしたのかな…。
その『JUNK HEAD』は短編が2013年に完成し、自主上映によって世界の業界では注目を集めていたようです。そして今回の長編版。それが満を持して2021年に日本で大々的に公開され、これほどの話題をかっさらったというわけでした。苦労が実るというのはいいものですね。
『JUNK HEAD』も実に多彩な「動き」で観客を魅了させてくれます。その「動き」へのこだわりは100年以上にもわたるアニメーションに関わってきた人たちの努力の賜物。『JUNK HEAD』は少数で作り上げた映画ですが、その技術は無数のアニメーターの上に蓄積されています。
そんなことを頭の片隅に置きつつ、『JUNK HEAD』の「動き」を楽しんでください。
オススメ度のチェック
ひとり | :世界観が好きな人に |
友人 | :変な世界を一緒に楽しむ |
恋人 | :趣味が合う者同士で |
キッズ | :怖い怪物もでるけど |
『JUNK HEAD』感想(ネタバレあり)
あらすじ(前半):どこまでも落ちていく
世界は変わりました。人類は遺伝子操作による長寿を得ましたが、代償として生殖能力を失いました。そして、地下開発の労働力として創造した人工生命体「マリガン」との対立することになってしまい、その人工生命体は地下深くで人類の知らない環境を生きていきました。
それから1600年後。人類は地下世界で独自に進化するマリガンについての生態調査を始めました。そのマリガンには今や人類には失われた生殖能力に関する秘密があると考えられていたのです。
その調査にある人間が志願します。バーチャルのダンス講師をしていたのですが、人口減少で仕事も減ってしまい、地下調査員に応募してみることにしたのです。今の退屈な日常よりも刺激があるのではないか、そんな楽しみも感じていました。
そうして調査員となり、専用の白いボディで白いポッドに乗り込みます。
「ポッド投下まで、10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、0」
凄い勢いで真下に落下していくポッド。そのポッドを地下世界の比較的上層で暮らしていた住人が目撃。不審に思い、とりあえず手元にあったロケットランチャーで撃ってみます。
ポッドは撃墜され、ボディは四散。頭部だけが落下し、ダクトの中へ。
その頭部を見つけたのは、付近を探索していた3人の黒い住人。アレクサンドル、フランシス、ジュリアンという名です。3人はその頭部が何なのか理解できませんでしたが、 ぶつくさと言い争いをしつつ、回収して持って帰ります。
そしてそれを博士に見せます。フェイス部分が開き、顔が出てくると、目が開きます。
「おそらくこれは人間だ。この頭部は自我の容器でしかないがな」と博士。「人間って何ですか?」「私たちの創造主。ある意味で神と言える存在じゃ」
そう言って「体を与えてみるか」と試し始めます。衝撃で何の記憶もないようで、このままだと持ちません。とりあえずあるものでボディを作り、接続します。
新たなボディで目を覚ます新参者。鏡を見て「これが…私?」とキョトンとします。子どものような体です。
黒い3人の資材集めに付いていくことになり、身体に馴染めなくて違和感を感じつつも、同行。「ガラクタだからね」と黒い3人は言いますが、随分と気楽に神扱いされて、それも変な気分。
ところがボーっと体を見ながら歩いていたので通路で迷子になります。さらに謎の化け物に襲われ、必死で逃走。なんとか黒い3人に助けられ、その怪物は奈落の底に落ちていきました。
しかし、一難去ってまた一難。今度は壁の穴から飛び出てきた謎の芋虫のような怪物に食われ、吐き出されるも意識が朦朧と…。
そして過去を思い出します。ニュースでは「新種のウイルスが流行して6カ月。死者は2億人を超え、人口の30%を失ったことになります。中央政府は人類再生の方法を模索する中、調査を…」という報道。そうだった、自分はこの調査に申し込んだのだった。目的はマリガンの遺伝子情報…。そう、あの襲ってきた怪物こそマリガンじゃないか…。
再び、目を覚ますと記憶は戻っていました。状況が掴めず、臨戦態勢。「何だこのボディーは?」と大混乱。そのパニックのままに逃げ出してしまい、マリガンの攻撃でバラバラになり、またもや頭部だけがさらに下層へ落下。
次は何が待っているのか…。
神から人の子、そして機械に…
『JUNK HEAD』は奥深くていくらでも掘り起こせそうな世界観に冒頭から目を奪われます。ストップモーション・アニメーションなのでもっとこじんまりとした世界観なのかなと予想していた私たちを良い意味で裏切ってくる。このワールドデザインだけで本作は面白さを勝ち取っています。
展開もシンプルながら意味深いです。
主人公(パートンという名前)含むこの世界の人類は有機的な生命の身体を捨てており、ほとんどが無機質な物体で構築されています。アバターみたいに作り替えられるようですし、コミュニケーションもほぼバーチャルで成立している状況。まさしく生命の枠を超えてしまった、神の領域に足を突っ込んだ存在です。
そんな人類が地下に求めるのは極めて生物的な手がかり。そしてその世界は自分たちがかつて作った人工生命体であるマリガンによって独自のコミュニティと生態系が形作られているわけです。
要するに創造主である神が、自分の創造した世界に降りていく物語だとも解釈でき、意外にも信仰的なバッググラウンドを感じます。実際に主人公はその世界を救うことになりそうですしね。
その主人公、地下に落下して、頭部だけになった後で最初に手に入れるボディは子どもの身体。おそらくこの世界の人類は不老不死なので子どもという概念もほぼ無いのかもしれませんが、そんな人間が子どもからもう一度スタートするというのも暗示的。
と思ったら、またもや落下で今度は思いっきりコテコテのロボットみたいな見た目になってしまう。どんどん時代が退行していくようなシチュエーションであり、そんな経験をしつつ、不本意ながら神になってしまった人間は生物的な人間らしさを取り戻していく。
『アリータ バトル・エンジェル』とか、ありがちな構造ですけど。
『JUNK HEAD』はそういう考察もできるストーリーがまるでゲームみたいなダンジョン攻略のように段階を踏んで提示されていくので、とてもわかりやすさを確保し続けて観客に提供される。そういうエンターテインメントとしての見せ方も上手く、そこも『JUNK HEAD』の人気の秘訣じゃないでしょうか。
中学生男子のノリで…
別にこれは苦言というほどではないのですが、『JUNK HEAD』を見ていて「人気の理由はこれじゃないかな」と思ったポイントのもうひとつが、ギャグのノリです。
本作は生殖がテーマになっています。そもそもの地下探査の目的が人工生命体のマリガンの遺伝子情報の入手であり、生殖に絡んだことです。
そして本作ではこの生殖というテーマを下敷きに、わりとしょうもない下ネタのギャグを作中で随所に連発していきます。例えば、序盤から襲ってくるグローム型のマリガン。前後に頭部があるようなデザインながらも、明らかに後方のソレは股の間でぷらぷらしているのでペニスに見える…。しかも、モザイクつきの汚物映像までぶっこんで、確信犯的に笑いをとろうとします。
さらにバルブ村に落着して「ポン太」というロボット姿になった後のおつかいイベント。そこで買うことになるのが、「クノコ」という地下住民に食用にされているキノコ状の植物。でもその見た目も明らかにペニスで…。それが人工栽培のように生えまくり、流れ作業で刈り取られて、貨幣のような価値あるものとして取り引きされている。こういうスタンスなのが本作。
なんというか、ギャグとしては“おチン○ン”でゲラゲラ笑っていられる空気感であり、おおよそ小学生から中学生の男子のノリですよね。ニコニコ動画の匂いを感じる…。
でもこれにはまだ思うことがあって…。
『JUNK HEAD』は男性器をギャグにするのはノリノリなくせに、女性器のギャグは全然ないのです。女性のキャラクターは出てくるけど、胸の強調があるくらいで、性器ネタに積極的に踏み込みません。世界観自体が生殖をテーマにしているのですから、むしろ男性器よりも女性器の方が生物学的にも重要度は高いだろうに、言及はされない。植物から実がなって生命体に…というフワっとした着地で語られる。
この妙な遠慮具合も中学生男子っぽいですよね。普段は下ネタでゲラゲラ笑っているのに、いざ女性器となるとそれをどう扱っていいかもわからずオロオロしだすような…。貞操というか童貞風の挙動が作品から滲み出ている…。
私は『ビッグマウス』とかで女性器含む下ネタを散々見まくっていますが、それと比べると『JUNK HEAD』は奥ゆかしくて大人しいものです。
今の日本のオタク界隈も中学生男子ノリのままの大人たちが主要で目立っている感じですし、だからこその『JUNK HEAD』の評価なのかなと思ったりしました。
『JUNK HEAD』はまだ続編を作るつもりらしく、これを1作目として次の物語は見られる日は来るのか。主人公はニコとホクロと共に旅をするようですし、その先も気になります。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer –% Audience –%
IMDb
?.? / 10
シネマンドレイクの個人的評価
作品ポスター・画像 (C)2021 MAGNET/YAMIKEN ジャンク・ヘッド
以上、『JUNK HEAD』の感想でした。
JUNK HEAD (2021) [Japanese Review] 『JUNK HEAD』考察・評価レビュー