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アニメ『夜のクラゲは泳げない』感想(ネタバレ)…ヨルクラは承認の有害性を批評できず

2.5
夜のクラゲは泳げない

ヨルクラは承認の有害性を批評できず終い…アニメシリーズ『夜のクラゲは泳げない』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

英題:Jellyfish Can’t Swim in the Night
製作国:日本(2024年)
シーズン1:2024年に各サービスで放送・配信
監督:竹下良平
イジメ描写
夜のクラゲは泳げない

よるのくらげはおよげない
『夜のクラゲは泳げない』のポスター。壁画の前で4人の少女が集うデザイン。

『夜のクラゲは泳げない』物語 簡単紹介

女子高校生の光月まひるにはイラストを描くのに夢中になっていたという過去があったが、今はその熱意は消えてしまい、同級生と変わり映えしない平穏な学校生活を過ごしていた。しかし、どこか胸の内には自分を追い求めたいという欲求を秘めて、モヤモヤと夜の渋谷を彷徨っている。そんな夜、自分の絵をべた褒めしてくれるひとりの少女と出会う。そこから新しい創造の扉が開いていく。
この記事は「シネマンドレイク」執筆による『夜のクラゲは泳げない』の感想です。

『夜のクラゲは泳げない』感想(ネタバレなし)

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実際のクラゲは泳げますが…

海に暮らす半透明で大小さまざまな「クラゲ」という生き物。水族館のような鑑賞の場では人気の生物ですが、海水浴などの現実の水辺では刺してくるので厄介もの扱いなことが多いです。

クラゲという日本語名の語源は諸説あり、目がないため「暗い」の意味から来ているという話もあります。英語だとシンプルで「Jellyfish」もしくは「Jelley」と呼びます。当然それは見た目がゼリーみたいだからです。1700年代には使われていた英語で、もともと特定の魚の一種だけを指していたようです。今はクラゲ全般もしくはクラゲっぽい生き物はみんな「Jellyfish」と総称されます。

そんなクラゲは、海をプカプカと漂っているだけで全然泳いでいない雰囲気がありますが、実はかなり高度な遊泳能力があります。少ないエネルギー量で1日数キロも泳げるその秘密は、水圧を操って水を巧みに押し出す精密な動きですScientific American。クラゲさん、泳ぎのプロフェッショナルですよ…。私なんて1メートルも泳げないからクラゲ以下だ…。

そのクラゲがこのタイトルを目にしたら(光を感じる程度の眼しかないけども)、ちょっと気分を害されるかもしれないですが、狙いがあるものなので我慢してね…。

それが本作『夜のクラゲは泳げない』です。

本作はオリジナルの日本のアニメシリーズ。別にクラゲが主役ではないです。

物語は「少女たちの成長を描く青春群像劇」とベタに紹介できますが、まあ、そのとおりではある…。主人公となる少女たちは、イラストレーター(ネットではいわゆる「絵師」と呼ばれる)、元アイドルの歌い手作曲とピアノに長けるアイドルオタク、動画サイトで活動するVTuber…と匿名で幅広くクリエイティブに関わる子です。そんな4人が出会い、人生を共有して、ひとつの夢に向かって進み始める…ざっくり言えば、そういうストーリーになっています。

クラゲの絵が4人を引き合わせるきっかけとなるので、活動する際のアーティスト・グループ名が「JELEE」となります。

アニメーション制作は「動画工房」。監督は『エロマンガ先生』”竹下良平”。シリーズ構成・脚本は、ライトノベル『弱キャラ友崎くん』で作家デビューを果たし、そのアニメ化の際も脚本を手がけた”屋久ユウキ”。『夜のクラゲは泳げない』はアニメ放送とほぼ同時期に漫画や小説でメディアミックス展開しており、企画では”屋久ユウキ”の作家性に大きく依存しているのかな。『弱キャラ友崎くん』でもリアルの青春で充実感を得られていない主人公がその鬱屈を原動力にしていく話でしたが、『夜のクラゲは泳げない』も似たような軸があります。

内容としては、「青春群像劇 × クリエイティブ活動」という、今の日本のアニメ界隈で最も作られまくっているサブジャンルで、アイドル業界モノとしても土台があるので、結構広く食指を動かして囲い込んだ作品だなという印象。

歌い手、絵師、VTuberなど現代はクリエイティブな活動がインターネット上で身軽にでき、その創作物の受け手となるファンとの近さも目と鼻の先です。手の中のスマホに存在しています。テレビや映画の中の有名人と比べるとはるかに身近なクリエイターであり、こういう主題の作品は今後もガシガシと量産されるでしょうね。

一方で身近すぎてコンテンツ過多になっている現状もあり、それを主題にする作品すらもそのコンテンツの同類として埋もれてしまうという難しさもあると思います。次から次へと絶え間なく新出の創作物が飛び出しまくり、単発的なバズりが頻繁に入れ替わる昨今、たとえ過去に人気作を生んだ作家を加えているとはいえ、オリジナル作品は厳しい競争を強いられます。

『夜のクラゲは泳げない』も個性作として際立つまでには到達できなかったように感じますが、私になりに思ったこの作品の着眼点やイマイチな部分を、後半の感想では書いています。

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『夜のクラゲは泳げない』を観る前のQ&A

✔『夜のクラゲは泳げない』の見どころ
★現代らしい身近なクリエイターの青春群像劇。
✔『夜のクラゲは泳げない』の欠点
☆業界批評としては踏み込みに乏しい。
☆キャラクターやそのドラマはやや画一的。
日本語声優
伊藤美来(光月まひる)/ 高橋李依(山ノ内花音)/ 富田美憂(渡瀬キウイ)/ 島袋美由利(高梨・キム・アヌーク・めい)/ 上坂すみれ(みー子)/ 甲斐田裕子(早川雪音) ほか
参照:本編クレジット

オススメ度のチェック

ひとり 3.0:雰囲気が好きなら
友人 3.0:趣味が合う者同士で
恋人 3.0:恋愛要素はほぼ無し
キッズ 3.0:未成年への性的描写あり
セクシュアライゼーション:ややあり
↓ここからネタバレが含まれます↓

『夜のクラゲは泳げない』感想/考察(ネタバレあり)

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あらすじ(序盤)

高校生の光月まひるは勝手に寝姿を動画撮影していた小学生の妹の佳歩を叱りながら、目を覚まします。佳歩はインフルエンサーになりたいらしいですが、そんな無邪気な妹を現実の厳しさで窘める光月まひるもまたフォロワーを多数抱える人の紹介したコスメグッズを買ってしまっていました。

学校の教室では友人の女子高校生のひとりが「自分が何者かになったって証しを残してから死んでいきたい」と心の内を語っており、何となく共感する光月まひる。実は光月まひるはイラストレーター「海月ヨル」として以前に活動していたことがあったのですが、でももうそれは過去。他の子は現実を生きることで妥協しており、話を合わせます。

けれども、そんな日中での学校でのやりとりを引きずりつつ、光月まひるは癖になっている夜の渋谷の街をぶらつく行為でひとり佇み、幼馴染の親友の渡瀬キウイに電話して愚痴っていました。

渡瀬キウイは光月まひるとは違う学校の立北高校の生徒会長で、実はVTuber「竜ヶ崎ノクス」として活動していました。

このままでは自堕落な大人なってしまう…。でも何になりたいかと考えても…。小さい頃から絵は好きでした。しかし、今は描く理由もないです。小学生のとき、友達に自分の絵を知らずに酷評された嫌な記憶が蘇ります。

ふと路上で歌っている「みー子」という女性を目にします。その場所は光月まひるが小学生時代に描いてトラウマとなっているクラゲの壁画の前でした。

そのとき、「おい!私の好きな絵を汚してるんじゃねぇ!」と誰かが叫びます。マスクしたその少女を思わず追ってしまう光月まひる。すぐに見つかり、なぜ追ってきたのか問われ、「あれを描いたのは私で!」と告白。それを聞いたその子は「大ファン」だと目を輝かせます。

同じく高校生の山ノ内花音だと自己紹介し、何でも元アイドルだと言います。炎上で脱退したと言葉を濁す山ノ内花音ですが、今は「JELEE」という匿名シンガーとして活動中。これも光月まひるの影響だと言われ気恥ずかしくなります。

「カラフルムーンライト」という曲を聞かせてくれ、もうひとりの私でみんなを負かしてやると宣言する山ノ内花音に刺激を受ける光月まひる。

しかも「コラボしよう」と提案までされます。けれども無理だとその場では断ってしまいました。その返事を受けた山ノ内花音は「ヨルって結構普通なんだね」と寂しそうにつぶやき、光月まひるはその場を逃げるように去ってしまいます。

後にスマホで調べると、山ノ内花音は「サンフラワードールズ」に所属し、メンバーを殴って炎上したとわかります。そのときの芸名は「橘ののか」でした。

別の日、ハロウィンで渋谷の街はごった返す中、山ノ内花音を見かけて追い、互いに謝ります。山ノ内花音は壁画の前で歌い始め、その姿に背中を押され、光月まひるも壁画が見えるようにポスターを剥がします。その姿は動画配信されており、山ノ内花音は「私たちは覆面アーティスト”JELEE”」と宣言。

この人の傍にいれば輝けるのでは…クラゲみたいに…。

この『夜のクラゲは泳げない』のあらすじは「シネマンドレイク」によってオリジナルで書かれました。内容は2024/07/13に更新されています。
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「推し」で集い、肯定し合う仲間

ここから『夜のクラゲは泳げない』のネタバレありの感想本文です。

『夜のクラゲは泳げない』は、前述したように、歌い手、絵師、VTuberなどに代表されるクリエイティブな活動がインターネット上で身軽に溢れ、その創作物の受け手となるファンとも簡単に近くなれるという、現代社会の現在地が映し出されています。

たぶんこの光景は「生成AI前の”人間の手による”クリエイティブ繁栄期」として今後は歴史的に言及されるんじゃないかな(生成AI普及後は完全に違った風景になるでしょうから)。

本作は個々のクリエイティブ活動のリアルさはそんなにないのですが(わりとざっくりしている描写が多い)、その各メンバーの集い方が印象的でした。

要するに「推し」を原動力に集まっているんですね。

山ノ内花音は「海月ヨル」としての光月まひるの絵を誰よりも推しており、光月まひるは堂々とヒーローらしく振舞う渡瀬キウイを幼少期から支持し、高梨・キム・アヌーク・めいは「橘ののか」としての山ノ内花音のアイドル推しであり…。

無論、今は「推し活」という言葉が普通に使われる時代で、マニアックだったオタクは過去に過ぎ去り、多くの人が何かしらの推しの対象を持っているようになりました。なのでこうやって「推し」で集うというのも全然あり得ます。

そして「推し」なので互いの距離が近いです。匿名で活動していようとも気にしません。本作における「推し」は無条件の最大級の肯定として描かれています。

そんな関係性とは対極的で、作中で敵として描かれるのは「アンチ」です。自身のクリエイティブを酷く罵った人、ネット上でまとわりつく見下したコメントをする人、学校で嘲笑とともにイジメてきた人…。

そうしたアンチを見返すということで、本作は「承認」として再生数、SNSシェア、フォロワーといった数値が「JELEE」のモチベーションを高めます。

これらの構図は確かに現代のインターネットに存在する力場です。ただ、本作におけるこの「推し」と「アンチ」の二項対立、さらには「承認」の価値の絶対性は、少しテーマに対する安易な着地を生んでいる面もあるかなとは思います。

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「良くも悪くも仕事に生きる人」では済まない

『夜のクラゲは泳げない』における「JELEE」は部活や小さなライブハウスに留まらず、完全にショービジネスの業界へと足を踏み入れ、その構造の中で活動することになります。もともと山ノ内花音はアイドル業界に属していたので、その繋がりは消えませんし、展開としても距離をとるどころか、どんどん隣接していきます。

そこで業界構造をどう批評するかという懸念が生じるのですが、本作は正直なところ、そのあたりにやけに無頓着です。ここが安易な着地を生む元凶です。

一番の問題は、山ノ内花音と早川雪音の関係性。2人はアイドルとプロデューサーの関係ですが、同時に親子でもあり、山ノ内花音は母の薦めでアイドルの世界に入ったことがわかります。

最終的に山ノ内花音は「山ノ内花音」として母に認められ、めでたしめでたしな空気でエンディングを迎えます。

ただ、さすがにどうなんだ、と…。なぜならあの早川雪音の言動は、ビジネスの観点で言えば有害な職場における上司による部下へのガスライティングに他ならず、親子の観点で言えば褒めて叱ってを繰り返して手懐けて搾取するグルーミングに該当するからです。これらは危険な承認のはずです。

早川雪音を「良くも悪くも仕事に生きる人」と評するのはあまりに雑で、実際は作中で最もスキャンダルというか、倫理的に問題行為をしでかしている人物ですし、本来は一番に非難されるべき人間でしょう。アイドルがメンバーを殴るよりも大炎上ですよ。

本作は何かに忖度でもしてるのか、エンタメ業界批判をしないように歩き、親子の亀裂として(または少女たちの人生の葛藤の問題として)片付けており、その親子関係の視点もいい加減です。

しかも、基本的に女性だけからなる世界としてフィクショナルに描いてしまっているから余計にマズいです。現実のショービジネス界隈は、顔出しアイドルにせよVTuberにせよ企業は「アルファ男性」と呼ばれる男性中心の男社会で成り立っているのに…。本作はその男性権力を“無かったこと”にしてしまっています。「見ろバカ」という暴露アカウントの件といい、本作は女性同士のいざこざで終わらせる癖があります。

他にも個別のキャラクターのエピソードも薄さが気になることも…。

例えば、高梨・キム・アヌーク・めいは海外ルーツがある(雑な言い方をすれば)「外国人」枠という日本のアニメによくありがちな位置づけなのですけども、「名前が変」とか「髪色が気になる」とかそういう記号的な外国人像しかなかったり。

みー子は「31歳・バツイチ・子持ち」アイドルとして娘が一番のトップヲタでいてくれるエピソードを用意していますが、そのわりには「馬場」という苗字だったり、諸々の演出だったりが、結局この作品も30代女性を小笑いする前提にあり、なんだかな…と。渡瀬キウイのキャラを通して不登校を肯定する熱量と全然違っているし…。

その渡瀬キウイですが、第11話ではゲームセンターで同級生に姿を見られ、そこで「男になりたいのか、最近流行りの多様性とか」云々とあからさまにトランスフォビアな嘲笑をされます(あの同級生たちには『プリキュア』を見せないといけないですね)。

ただ、あの冷笑同級生はジェンダー・エクスプレッションとジェンダー・アイデンティティの違いもわからない無知なだけなんでしょうけども、この作品もどこまでわかっているのか怪しい…。「私の幼馴染に世界一かっこいい女の子と…男の子がいるんですけど」と光月まひるが説明するくだりがありますが、釈然としない締め方ではありました。

山ノ内花音が光月まひるの頬にキスするみたいな百合っぽいシーンだけ挿入しても、作中で幾度も女性高校生が性的対象化される演出を入れてしまえば何の説得力もないですし、いろいろ粗雑だったなと思いました。

全体的に女子高校生を他者化している語り口があり、「少女の商品化(commodified)」というショービジネスの問題がこのアニメにもまるまる当てはまってしまっている感じ。

諸々の問題の責任を問う方向にならず、社会構造に批評を向けることもなく、感動を届ければ良し!…になってしまっていました。もし「女の子たちが輝きました! ステキですね! 以上です」から2歩3歩とステップアップした物語を提供できれば、同じ題材でも際立つ個性がでたのでないか…。そんな惜しさも感じるアニメでした。

『夜のクラゲは泳げない』
シネマンドレイクの個人的評価
5.0
LGBTQレプリゼンテーション評価
×(悪い)
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関連作品紹介

日本のアニメシリーズの感想記事です。

・『BanG Dream! It’s MyGO!!!!!』

・『ぼっち・ざ・ろっく!』

作品ポスター・画像 (C)JELEE/「夜のクラゲは泳げない」製作委員会 夜のくらげは泳げない

以上、『夜のクラゲは泳げない』の感想でした。

Jellyfish Can’t Swim in the Night (2024) [Japanese Review] 『夜のクラゲは泳げない』考察・評価レビュー
#アイドル #不登校 #女子高校生