こちらの新三部作も完結だけど…映画『ジュラシック・ワールド 新たなる支配者』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2022年)
日本公開日:2022年7月29日
監督:コリン・トレヴォロウ
恋愛描写
ジュラシック・ワールド 新たなる支配者
じゅらしっくわーるど あらたなるしはいしゃ
『ジュラシック・ワールド 新たなる支配者』あらすじ
『ジュラシック・ワールド 新たなる支配者』感想(ネタバレなし)
新三部作もついに完結
もしも絶滅したはずの恐竜が現在の時代に蘇ったら…。
そんなあり得ない出来事を映画で実現させた『ジュラシック・パーク』。1993年に公開されたこの映画は、作中で登場人物が蘇った恐竜を目撃する体験と、当時の最新CGによって観客も恐竜を映画内で目撃する体験が奇跡的にシンクロし、それはもう素晴らしい映画体験を与えてくれました。
私にとっても大好きな映画の一本であり、私の映画への想いの原動力になっています。何度見てもあの感動に勝るものはない…。
その“スティーブン・スピルバーグ”監督の『ジュラシック・パーク』はシリーズ化され、2作目の『ロスト・ワールド ジュラシック・パーク』(1997年)、3作目の『ジュラシックパークIII』(2001年)と続いていきました。
批評的にはあれこれありますが、なんだかんだでこの2作目も3作目も私は好きです。
そして2015年、シリーズに再び息吹を与え、過去の3部作から物語を受け継ぐ続編にして新たな1作である『ジュラシック・ワールド』が2015年に公開されました。
その『ジュラシック・ワールド』は私の映画愛の原初を呼び覚ますノスタルジックな体験をもたらすもので、映画の良し悪し以上に、なんだかもう心が無性に沸き立ちました。やっぱり好きなんです。
2015年の『ジュラシック・ワールド』はこの一発で終わりではなく、これは新たなシリーズの始まりでした。続いて2018年に『ジュラシック・ワールド 炎の王国』が公開。
さらに2022年、本作『ジュラシック・ワールド 新たなる支配者』が公開となり、シリーズの壮大なフィナーレを迎えます。
一応は、「ジュラシック・パーク」フランチャイズの第6作目であり、「ジュラシック・ワールド」三部作の第3作目としてこれで完結ということになっていますが、これだけ集客力のある大ヒット作品なのでたぶんフランチャイズはまだ続くと思います。でも今はこれで最終章と思っておきましょう。
前作で恐竜たちはついに島を飛び出し、世界へと散っていきました。まさに地球そのものがジュラシック・ワールドと化した世界でどんなドラマが繰り広げられるのか。
監督は『ジュラシック・ワールド』を手がけた“コリン・トレヴォロウ”がカムバック。自分で始めた新たな三部作の風呂敷を畳みます。
俳優陣は、宇宙でも近未来でも西部劇でも何でもござれな“クリス・プラット”、そしてドラマ『マンダロリアン』で監督としての才能も開花させている“ブライス・ダラス・ハワード”の主役勢は当然続投。
今作はさらに“サム・ニール”、“ローラ・ダーン”、“ジェフ・ゴールドブラム”、“B・D・ウォン”といった『ジュラシック・パーク』の旧キャストも勢揃い。懐古ファンを刺激させてくれます。
『ジュラシック・ワールド 炎の王国』からは“ジャスティス・スミス”と“ダニエラ・ピネダ”も登場しますが、出番は少なめ。『ジュラシック・ワールド』からは“オマール・シー”も再登板します。それよりも前作で衝撃的な出自が明らかになった少女を演じる“イザベラ・サーモン”の方が活躍するから注目かも…。兎にも角にも総出演って感じです。
また、『ザ・ハーダー・ゼイ・フォール: 報復の荒野』の“ディワンダ・ワイズ”や、ドラマ『セヴェランス』の“ディーチェン・ラックマン”などが新たに起用されています。
『ジュラシック・ワールド 新たなる支配者』で新しく恐竜と映画好きになる子どもが増えればいいな。
なお、虫が苦手な人にはキツイかもしれない映像が一部あるので、そのときは目をつぶってください。
『ジュラシック・ワールド 新たなる支配者』を観る前のQ&A
A:当然、全シリーズ作品を見た方が物語には入り込めますが、最低限として前作の『ジュラシック・ワールド 炎の王国』の鑑賞だけでもいいでしょう。また、今作に関連して公式サイトであげられているプロローグ映像はオススメです。
オススメ度のチェック
ひとり | :シリーズファンも注目 |
友人 | :ド派手エンタメを見るなら |
恋人 | :気楽に見られる |
キッズ | :恐竜好きな子は大興奮 |
『ジュラシック・ワールド 新たなる支配者』感想(ネタバレあり)
あらすじ(前半):恐竜と共存できるのか
惨劇を起こしたテーマパーク「ジュラシック・ワールド」を有したイスラ・ヌブラル島の恐竜たちは密かな闇取引を狙った者たちのせいで島の外へと持ち込まれ、案の定、そのオークション現場からも脱走してしまいました。
それから4年後。今や恐竜たちは国境を超えて世界中に広がり、人類社会に多大な影響を与えています。ある恐竜はさまざまな場所で人間を襲い、ある恐竜は人間社会のすぐそばで生活。ブラックマーケットも横行し、貴重な恐竜の市場は裏で活気づいています。
また、恐竜で莫大な利益を生もうとする企業も現れ、その筆頭として成功していたのが「バイオシン社」でした。
ネバダ。夜、柵を超えて侵入する2人。ひとりはクレア・ディアリング。ジュラシック・ワールドの元管理責任者です。もうひとりはそのクレアと恐竜保護活動をしている獣医師のジア・ロドリゲス。2人は違法な恐竜繁殖施設を映像におさめ、この劣悪な現状を告発しようとしていました。しかし、クレアはあまりに可哀想に思い、恐竜の1頭を逃がそうとその場で判断。同じく仲間のフランクリン・ウェブの運転する車が駆け付け、追っ手から恐竜の群れに突っ込んで攪乱して逃走。クレアも危ない橋を渡るのは慣れていました。
一方、ジュラシック・ワールドで恐竜監視員をしていたオーウェン・グレイディは今は雪山で馬を駆け、恐竜を追う日々でした。首に縄をかけて捕まえ、手をかざして大人しくさせます。
そんなクレアとオーウェンの帰りを人里離れた小屋でじっと待っているのはメイジーという少女。彼女は実はクローン人間であり、その出自ゆえに身を隠していました。しかし、じっとしていられず、たまに橋を渡って自転車で近くの町へ行ったりもします。今日も伐採木材置き場に大型の草食恐竜がおり、優しく誘導してあげるように現場のスタッフに指示します。
メイジーが帰るとクレアがおり、安全ばかりを優先して家に閉じ込めようとする態度にイラつくメイジーでした。オーウェンも帰ってきます。そんな3人を遠くでそれを監視するある男が…。
テキサス西部。ここでは大量の異常に大型のイナゴが発生。農家は壊滅的な被害を受け、困り果てていました。その調査に来たのはエリー・サトラーで、原因にバイオシン・シードが考えられました。そこである人物に協力を求めます。
古生物学者のアラン・グラントは発掘現場におり、エリーの訪問に驚きと懐かしさを感じます。2人は以前はイスラ・ヌブラル島で恐竜のせいで悲惨な目に遭いました。エリーはイナゴを見せ、知り合いであるイアン・マルコムから招待されたので、バイオシン社に行ってこっそり調べてみないかと持ちかけます。
ある日、メイジーは誘拐されてしまい、近くに住んでいたヴェロキラプトルの子どもも連れ去られてしまいます。クレアとオーウェンは犯人はレイン・デラコートだと突き止め、闇市へと捜索に行きます。
その頃、エリーとアランはバイオシン社が捕まえた恐竜がいるサンクチュアリを来訪していました。バイオシン社のCEOを務める遺伝学者ルイス・ドジスンが出迎えます。ここでイアンは講演で人気を集めており、密かにイナゴ実験の情報を教えてくれます。
イスラ・ヌブラル島をめぐる関係者の運命が交差していき…。
どうせティラノサウルスが…
私にとっても映画愛の原点にある『ジュラシック・パーク』のシリーズ完結となる『ジュラシック・ワールド 新たなる支配者』ですから、無論、関心は人一倍ある中で鑑賞しました。映像面は楽しいですし、ノスタルジーも刺激されたのは間違いないですが、この最終章はあまり個人的には満足できるものではなかったというのが正直な感想です。
新三部作の1作目は良かった、2作目はあれ?って感覚だった、3作目は「・・・・」だった…。
この感じはあれです、『スター・ウォーズ』新三部作とデジャヴだ…。偶然にも“コリン・トレヴォロウ”監督も『スター・ウォーズ スカイウォーカーの夜明け』を当初は手がける予定でしたし…。
『ジュラシック・ワールド 新たなる支配者』はフィナーレなのにどこか気に入らないかと言えば、まずキャラクターの活躍の発展性が何もないこと。全体的にずっとワンパターンすぎます。
オーウェンは常にありきたりなかっこつけムーブをする典型的なアクションヒーロー像のままですし、クレアも無謀なだけの無能でスクリーム・ガール的なステレオタイプも引きずっているし…。クレアなんてどうして責任を問われないのだろうと以前からずっと思っていますけど、せめてプロフェッショナルな一面をもっと見せてほしかったな…。
アラン・グラントなどの旧キャラクターも本当に旧来ファン向けに顔をだしているだけな感じで、新しい活躍のさせ方もなく、魅力に乏しかったです。アランとエリーのあの未練を引きずる関係性をまた映し出すあたりとかは、いかにもハリウッド映画のダメなプロット全開だった…。
メイジーは若い世代向けの登場であろうに、悲劇性を背負った少女という以上の意味もなく、恐竜を慈しむ女の子という定番の役目でこれも新鮮味に欠けるな、と。
ステレオタイプなのは人間だけでなく恐竜もです。今作では恐竜が人間を襲うシーンはあるのですが、ティラノサウルスやヴェロキラプトルは誰も殺しません。あからさまに映画の顔としてイメージを崩さないように配慮された正義の恐竜状態なのです。逆にいつも悪とは言わないけど“倒され役”の恐竜もいます(今作はギガノトサウルス)。
これらのせいで“型”ができてしまっており、「はいはい、どうせティラノサウルスがでてきて最後は締めなんでしょ?」と察せてしまう。今回はましてや島が舞台ではないですし、シリーズ恒例のシチュエーション・スリラーは薄く、雑に舞台が広がっていますからね。スリルやサスペンスがゼロになっていると思いました。
倫理的なテーマはどこへ…
『ジュラシック・ワールド 新たなる支配者』の個人的に致命的だなと思う欠点は、シリーズに欠かせない倫理的なテーマが欠落していること。
プロローグ映像や冒頭は良かったのです。ベーリング海で漁船が恐竜のせいで転覆するシーンとか、恐竜たちが人間社会と密接すぎて、これは共存なんて無理じゃないかと提起するインパクトはあります。
しかし、それ以降はエンターテインメント性ばかりを追い求め、野生動物学的なリアリティはどんどん薄れ、テーマを議論する土台も失せます。恐竜よりも俳優を見せることばかりになっていくような…。恐竜とホモ・サピエンスとしての人類の関係を描いているのではなく、恐竜とハリウッドスター俳優をコラボレーションさせているだけではないか…。
これだったらBBC製作&“デイビッド・アッテンボロー”がナレーションする恐竜自然ドキュメンタリー『太古の地球から よみがえる恐竜たち』を観る方がまだ興奮するし、恐竜への敬意もあるかな。
『ジュラシック・ワールド 新たなる支配者』はなぜか虫パニック要素があるのですけど、今作ではハイブリッド恐竜はせっかくでてこないのに、別に観客はイナゴを見たかったわけではないだろうに。あえて虫に焦点を絞るならジュラシック好きなら観たいのはメガネウラとかじゃないの?(古生代だけど)とか思うし…。でも序盤のイナゴ群れに襲われる子どもたちの大絶叫は本作で一番楽しかったのもあるけどね。
ともあれ最終的に「恐竜と共存できるのか」というテーマ性は雑に丸くおさまってしまい、具体的にどうするのかの話もなく、「愛」みたいな都合のいいロジックで片付く。これはさすがに…。個人的な話をしますけど、私は大学で動物学を学んで、こういう「人と野生動物の共生」を研究題材にしていたのですが、この映画はその題材へのアプローチがあまりに貧弱すぎる…。
本作はシリーズで一番恐竜に同情的で、一方で人間の無責任さに無頓着的であり、やはり作り手は興行しか意識してないのではないかと思わせます。
私だったらここは思い切って「人間全滅エンド」でもいいと考えていましたよ。今の環境問題を振り返っても『ドント・ルック・アップ』みたいにフィクションの中でくらいは何回か人類を絶滅させてやらないと…それくらいしないと加害者責任を自覚できないんですよ、人間は。今作のオチは人間は恐竜を愛せるいいやつでしょ?となっていて、私はそこまで希望的観測で人間を肯定的に捉えられないかなと思うし。
私だったら1回人間を全滅させて地球は再び恐竜の惑星となり、そこからかろうじて生存した人間がまた文明をやり直す…そういう話を見たかったかな。
『ジュラシック・ワールド 新たなる支配者』は科学的な警句もなく、商業的に作品を傾けてしまったという意味では、作中でジュラシック・ワールドを作った企業と同類。これももしかしたら恐竜で儲けたい企業の宣伝映画なのかもしれないですね…。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 30% Audience 77%
IMDb
5.7 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
作品ポスター・画像 (C)2020 UNIVERSAL STUDIOS & AMBLIN ENTERTAINMENT, INC. ジュラシックワールド3
以上、『ジュラシック・ワールド 新たなる支配者』の感想でした。
Jurassic World: Dominion (2022) [Japanese Review] 『ジュラシック・ワールド 新たなる支配者』考察・評価レビュー