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ドラマ『三体』感想(ネタバレ)…地球人のための脚色です

三体

または虫けらのための脚色です…「Netflix」ドラマシリーズ『三体』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:3 Body Problem
製作国:アメリカ(2024年)
シーズン1:2024年にNetflixで配信
原案:デヴィッド・ベニオフ、D・B・ワイス ほか
自死・自傷描写 恋愛描写
三体

さんたい
三体

『三体』物語 簡単紹介

2024年、世界の物理学者の不審な死が各地で相次いでいた。その多くは科学プロジェクトが上手くいっておらず、自ら命を絶っているようだった。イギリスに暮らす科学の才能に恵まれた5人もこの謎の出来事に巻き込まれていく。5人には共通の科学の師がいたが、その人もこの世を去る。そして何人かの身に不思議な現象が起きる。遡ること60年近く前、中国でこの世に絶望したある人物から全ては始まった。
この記事は「シネマンドレイク」執筆による『三体』の感想です。

『三体』感想(ネタバレなし)

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Netflix版も始動しました

SFやファンタジーの作品に贈られる賞の有名なものを挙げるなら、やはり「ヒューゴー賞」は外せません。毎年の世界SF大会(ワールドコン)中に受賞が発表され、長編小説部門が一番歴史があるもののひとつで、1953年の第1回から続いています。

しかし、2024年1月の第81回世界SF大会の2023年ヒューゴー賞は大荒れとなりました。メール漏洩で自己検閲疑惑が浮上したのですEsquire。この年の開催地は中国の成都。中国は反政府的な作品やLGBTQ作品を規制することで知られています。ヒューゴー賞も関わったのではないか…と。

ヒューゴー賞の信頼性が疑われたのはこれが初めてではありません。2015年~2016年には「Sad Puppies」事件が起きました。これは一部のSF作家グループが反多様性を旗頭に投票をコントロールしようとした出来事です。

アカデミー賞やノーベル賞などと違い、ヒューゴー賞は権威的なもので成り立っておらず、どちらかと言えばファンダム・ベースなのですが、そうであっても適切な運営は難しいですね。

そんなヒューゴー賞で2015年に長編小説部門を受賞し、アジア人作家初の受賞作となったのが『三体』でした。この小説は”リュウ・ジキン”(劉慈欣)によって書かれましたが(『流転の地球』の原作者)、英語翻訳者の中国系アメリカ人の“ケン・リュウ”の功績も評価されています。というのも、原語版が第一に尊重されるのは当然ですが、英訳版は原語版よりも物語が洗練されていると評判がいいんですね。ちなみに日本語版は原語版と英訳版の双方を参照して作られています。

その『三体』は中国で映画化が試みられるも頓挫し、2023年にテンセント製作でドラマシリーズが始動。こちらも日本で観られます。

そしてさらに「Netflix」でハリウッド版とも言える別のドラマシリーズが2024年から配信が始まりました。

それが本作『三体』です。

このNetflix版は、ドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』を成功させた“デヴィッド・ベニオフ””D・B・ワイス”が主導して企画した肝入りのシリーズで、ついにお披露目となりました。

Netflix版『三体』の大きな特徴は、原作からの脚色。原作は中国を軸に展開にしていましたが、Netflix版は現代を描くパートではイギリス在住のさまざまな人種・性別の人たちからなる群像劇スタイルとなっています

ただ、原作の物語が根本的に改変されたわけではなく、原作は三部作になっているのですが、その展開を踏まえて先んじて登場人物を動かしている感じです。なのでシーズン1の時点でもう原作1巻のみならず2巻の話にも手を付け始めます。

原作ファンには多少の好みは別れると思いますが、結果的に初心者にはかなり見やすくなったと思います。そんなに難解なSFと身構えることはありません。ちょっと序盤で中国の政治史を理解していないと混乱するシーンはありますけどね。

原作未読の人が気になるであろう肝心の物語は…細かいジャンルを言うとネタバレになるから…。まあ、とにかく人類がかつてない難題に直面するのですよ(雑な説明)。

Netflix版『三体』に出演する俳優陣は、本作で本格的な初の主演作となった中国系ニュージーランド人の“ジェス・ホン”、ドラマ『ウォッチメン』“ジョヴァン・アデポ”『アンビュランス』“エイザ・ゴンザレス”『生きる LIVING』“アレックス・シャープ”『ドクター・ストレンジ』“ベネディクト・ウォン”、ドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』“ジョン・ブラッドリー”『ドラキュラ/デメテル号最期の航海』“リアム・カニンガム”『2人のローマ教皇』“ジョナサン・プライス”、実写『ムーラン』“ロザリンド・チャオ”、ドラマ『何様なのよ?』”マルロ・ケリー”など。

登場人物の数は多いですが、人種・性別がバラバラなので覚えやすくはなってます。時系列もそこまで複雑ではないですし…。話の展開は早く、2話くらいまで観ればだいたいわかってきます。

かなりの大予算で作られたビッグ・スケールのSFドラマですから、SFファンはもちろん、普段はSFをあまり見ていない人も試しに覗いてみては?

Netflix版『三体』のシーズン1は全8話。1話あたり約60分なので大ボリューム。じっくり腰を据えて楽しみましょう。

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『三体』を観る前のQ&A

✔『三体』の見どころ
★前代未聞の難題に直面する人類の物語。
★思惑が絡み合う複雑な人間模様。
✔『三体』の欠点
☆中国の政治史の知識が多少あるとよい。

オススメ度のチェック

ひとり 3.5:じっくり堪能
友人 3.5:好きに語り合って
恋人 3.5:ジャンル好き同士なら
キッズ 3.5:SF好きな子に
↓ここからネタバレが含まれます↓

『三体』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(序盤)

1966年、北京の清華大学。大勢の学生たちの群衆が舞台を前に「虫けらを排除せよ」「革命は正義だ」とシュプレヒコールをあげています。その舞台にはひとりの男が捕まって跪き「私は反乱分子ですが更生させてください」と泣きつき許しを請います。そして次の眼鏡の男が前に連れてこられます。

それを心配そうに見つめる若い女性…葉文潔が群衆の中にいて「父さん」と呟きます。

その舞台に見せしめにされた物理学の教授である葉哲泰「相対性理論を教えたな」と糾弾され、「基本理論なので当然だ」と淡々と答えます。それでも「アインシュタインは米国帝国主義を奉じ原爆製造に協力した」と非難されます。

さらに後ろから妻が登場し、「私は人民の側に立つ」と妻は夫を見捨てて宣言。「宇宙には始まりがあるというビッグバン理論を教えた」と妻は激しく責め立ててきます。

「神がいると思っているのか?」と詰問され、「科学的には神はいるともいないとも言えない」と葉哲泰は答えます。それを聞いてますます群衆は怒り、「学術権威を打倒せよ!」と教授は暴行されていき、やがて血塗れで動かなくなりました。父の遺体を前に娘の葉文潔は泣き崩れるしかなく…。

2024年、ロンドン。クラレンス・シーは事件があったばかりの捜査現場に到着。死亡したのはマサチューセッツ工科大学で宇宙論と理論物理学を学んだサディク・モハメド博士。壁には血で謎の数字が一面に書かれており、「まだ見える」とも記されています。その死亡した博士は刃物で目をくりぬいていました。

一方、深夜のオックスフォード大学の粒子加速器の施設。プロジェクト中止ながら作業するソール・デュランド。研究主任のヴェラ・葉教授がそこに現れます。そして意味深に「神を信じる?」と聞かれ、ソールは「信じていません」と答えます。その後、ヴェラ・葉はひっそりと施設の中で身を投げ、命を絶ちました。

ところかわって、バーにジン・チェンオギー・サラザールが佇んでいました。2人とも物理学のスペシャリストです。少し前から世界中の粒子加速器の実験結果が変になっていて、ソールが送ってきたデータを見ると確かにそのとおりでした。

そのとき、オギーは何かスマホ画面やモニターに見えた気がします。それは自分にだけ見える数字のカウントダウンのようです。困惑していると、ジンから葉教授が自殺したと電話で聞かされます。

後日、ウィル・ダウニングジャック・ルーニーは葉教授の葬儀の場にいました。ソールとジンも揃い、オギーも遅れて合流。ヴェラ・葉の母である葉文潔もその場で座っています。なぜか大富豪のマイク・エヴァンズもそこにいました。その様子を上司のトマス・ウェイドの指示でクラレンスが遠くで張り込んでカメラでおさえおり…。

まだ謎の数字に悩まされているオギーが外でひとりで煙草を吸っていると、そこに見知らぬ女性が話しかけてきて「カウントダウンの残り時間は?」といきなり言い、「仕事をやめれば簡単に止まる」「明日の真夜中に空を見上げて」と言い残して去っていきます。

その時間、世界中で夜空が瞬く現象が確認されました。

1967年、中国の内モンゴル。伐採労働現場で葉文潔は酷使されていました。その際、同志だという男が書籍「沈黙の春」を渡してくれます。本が見つかり本部に連行された葉文潔はパラボラアンテナのある紅岸基地に連れて行かれ、ここで専門知識を使って働くように命じられます。

その施設では何かの座標に電波を送り、誰かと交信しようとしていました…。

この『三体』のあらすじは「シネマンドレイク」によってオリジナルで書かれました。内容は2024/11/13に更新されています。
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文化大革命を宇宙規模スケールに

ここから『三体』のネタバレありの感想本文です。

Netflix版『三体』ですが、原作小説やテンセント版ドラマなどとの比較は、もう他にいくらでもやられているでしょうし、この感想では一切しません。主題のインスピレーション元になっている古典力学における「三体問題」についてもなんか物理学に詳しそうなどっかで調べてください(丸投げ)。

ひとつだけ物語の理解のために注釈をつけるなら、Netflix版『三体』の冒頭で描かれる1960年代の中国のシーンですかね。

あれは「文化大革命」を描いています。当時の中華人民共和国にて毛沢東が復権を画策して行った一連の社会政治運動です。表向きは現政権の堕落を追求して新しい社会主義文化に生まれ変わらせることを掲げていましたが、最終的には毛沢東の権威化を絶対的なものへと押し上げ、今の中国にも刻み込ませました。

この文化大革命では、毛沢東を支持する学生運動グループが作られ、「紅衛兵」と呼ばれていました。作中の冒頭で大挙して威勢よく声をあげる学生たちが紅衛兵で、掲げている赤い手帳みたいなのが毛主席語録です。

ともあれ『三体』では文化大革命における科学への弾圧が強調されます。父を目の前で殺された葉文潔がいかにして社会や人間に絶望していったか…。そして葉文潔はいっそのこと三体星人に地球の人間社会を支配してもらおうと考えるに至ります。

皮肉なことに、文化大革命の犠牲を経験した葉文潔が、今度は三体星人による宇宙大革命な科学排除を受け入れてしまうという結果です。ソフォンという粒子を駆使して次々と地球の科学者を研究中止に誘導して自殺させ、科学進歩を停止させる。結末は文化大革命と変わりありません。環境保護の志で共鳴したマイク・エヴァンズの資金で築いた地球の三体支持組織はさながら紅衛兵ですね。

西欧が宇宙侵略モノを作るなら植民地主義を自己批判的に組み込んで描いたりできますが、『三体』の場合は文化大革命を下地にする。とても中国らしい着想の作品です。

Netflix版『三体』は中国の政治事情をお構いなしに作れるという利点を生かし、わりと自由にこの文化大革命にも踏み込んで描いているので、そこはかなりプラスになっているのではないでしょうか。

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敗北主義に科学は打ち勝てるか

『三体』は「敗北主義にどう立ち向かうか」というテーマが目立ちます。

「敗北主義(defeatism)」というのは簡単に言うと「どうせもう終わりなんだから頑張っても無駄だ。負けてしまおう」という諦めと悲観に基づく考え方や姿勢です。

宇宙侵略SFはドラマ『インベージョン』など近年もいっぱいありますが、すでに宇宙生命体が地球を侵略してきた瞬間を描きます。パニックになりながらいかに対処するかという、危機直面のフェーズです。

でも『三体』は少し面白くて、侵略は400年後ですよと指定されているだけなんですね。つまり、地球人は大局的な見地で行動しなくてはいけません。そして人類はこれほど大局的な未来計画を立てたことがありません。だから前代未聞の難題です。

これは地球環境問題に似ています。気候変動など地球環境問題もスケールがデカく、ゆえに危機感を共有しづらいです。しかも、地球環境問題は人類が滅ぶ時期が明確に予測できないので余計に現実味がないです。

一方、この『三体』は時期が明確です。この図式は『ドント・ルック・アップ』にも似ていますが、『三体』は徹底して真面目に人類が、とくに科学がこの難題に答えをだせるかを検討させます。

『三体』はフィクションですが、こういう難題に科学者が直面することって実際はよくあるんですよね。未来を予測する科学者だからこそ悲観的な結果を直視することはありえます。そのとき「もうどうでもいいや」と開き直ってはダメで、それでもどうしたらいいのかという解決策を考え抜くのが科学の使命です。科学は公益のためにあり、私的な自暴自棄を正当化するための道具ではないので。

ジンは地球に迫る三体星人の艦隊に探査船を送る階梯計画で、親友で余命わずかのウィルの脳を搭載するという苦渋の決断をしますが、失敗。ソールは、惑星防衛理事会(PDC)の企てる対三体星人撃退のための面壁計画にて、戦略を指揮する面壁者に、侯(フー・ボウリン)とレイラ・アリチと並んで選ばれますが、何も案が思いつきません。オギーも自身のナノテクでジャッジメント・デイ船にて大量虐殺を引き起こし、トラウマに苦しみます。

失敗とスランプの中で極度の重圧に晒されながらも結果を出さないといけない。それも人類の命運が懸かっている。危機分野の科学者の体験を見事に物語に落とし込んでいると思います。三体星人によって自死に追い込まれる展開も、科学者のメンタルヘルスの暗示とも解釈できますし…。

シーズン1はクラレンスがジンとソールを奮起させ、虫けらの反撃を匂わせ閉幕です。三体星人を心酔するタチアナのもとにVRヘッドデバイスが送られてきたり、三体星人側も不気味に蠢いています。

シーズン2はもっとグローバルな拡張が見られそうで、Netflix版だからこそのより得意領域へと突き進むのかなと思うと楽しみですね。

『三体』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 76% Audience 69%
IMDb
7.7 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
7.0

作品ポスター・画像 (C)Netflix スリー・ボディ・プロブレム

以上、『三体』の感想でした。

3 Body Problem (2024) [Japanese Review] 『三体』考察・評価レビュー
#科学 #中国史 #地球外生命体 #侵略SF