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『LAMB ラム』感想(ネタバレ)…羊の子は己を考察する

LAMB ラム

そして気づいてしまう…映画『LAMB ラム』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:Lamb
製作国:アイスランド・スウェーデン・ポーランド(2021年)
日本公開日:2022年9月23日
監督:ヴァルディミール・ヨハンソン
動物虐待描写(ペット) 性描写

LAMB ラム

らむ
LAMB ラム

『LAMB ラム』あらすじ

アイスランドの山間で静かに暮らしていた羊飼いの夫婦イングヴァルとマリア。ここは滅多に人が訪れることもない。今は羊の出産期であり、次々と赤ん坊が産まれていた。この日もその出産に立ち会っていると、ある羊が見たこともないような赤ん坊を産む。イングヴァルとマリアはその子を羊小屋ではなく、家に連れて帰り、大切に育てる。そして「アダ」と名付けて可愛がっていく。アダとの生活は平穏だったが…。

『LAMB ラム』感想(ネタバレなし)

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羊は好きですか?

私の地元である北海道札幌市には「羊ケ丘(ひつじがおか)」という地区があります。さっぽろ羊ヶ丘展望台や札幌ドームがあるので観光客もよく訪れますし、地元民にとっても憩いの場所です。大部分が林地や草地として保存されていることもあって、エゾシカやヒグマも姿を見せます。

どうして地名に「羊」と入っているのかというと、種羊場があったからです。明治時代、政府は毛織物の需要増大にともなって羊毛を国内生産することに尽力を注いでいました。そこで広大な土地がある北海道では羊が飼育されたというわけです。ところが1960年代頃になると羊毛は輸入品の利用が増し、しだいに“めん羊”の飼育頭数も減っていきました。

でもそれで終わりませんでした。羊毛の産業において羊の肉は食用にできないのかという試行錯誤が実は行われており、独特の臭いもあって避けられていた羊肉の普及拡大に向けた動きが進んでいました。結果、昭和になると「羊肉を食べる」という文化が浸透。今では「ジンギスカン」として北海道の定番の食文化になっています。道民は外でバーベキューするのが好きで、ジンギスカンはみんなで肉をつついて気軽に食べられるので文化にマッチしました。スーパーに行けば「ラム肉」がずらりと並んでいます。

そんなこんなで羊と言えば私にとっても「食べ物」という印象が強いのですが、今回紹介する映画も「羊」が題材と聞いて「食うの!?」と一瞬思いましたけど、そうじゃありませんでした。

それが本作『LAMB ラム』です。

タイトルがあまりにもストレートすぎるのですが、本作はアイスランドの映画で、とある羊飼いの夫婦に起きる奇妙な出来事を描いています。いわゆる「フォーク・ホラー」であり、ちょっと怖くて奇怪な御伽噺みたいなものです。エンターテインメント性の高いホラーではありませんし、かなり物静かに進んでいくアート系の作品なのですが、好きな人はハマる雰囲気でしょうね。

約105分ちょっとあるのですが、映像がまったりと流れていることが多いので、お話の展開としては30分くらいの短編と同類のボリューム程度しかありません。比較的シンプルな起承転結の寓話です。

フォーク・ホラーでありつつ、シュールな家族コメディのようなユーモアも持ち合わせており、それはネタバレになるので詳細は言えませんが、鑑賞すれば一目瞭然ですぐにわかります。

こういうジャンルが好きな人向けですね。もちろん羊がいっぱいでてくるので、羊好きにもオススメですが、わりと動物が死にまくる映画なので動物好きにとっては凄惨な映像を目の当たりにすることになるのですけど…。

監督はこれが長編デビューとなる“ヴァルディミール・ヨハンソン”。アイスランド出身で、『ローグ・ワン スター・ウォーズ・ストーリー』や『トゥモロー・ウォー』などの美術、特殊効果、技術部門を担当していた人らしいです。『サタンタンゴ』でおなじみの“タラ・ベーラ”から映画製作を学び、“アピチャッポン・ウィーラセタクン”などから指導を受けたそうで、確かにこの『LAMB ラム』にもその雰囲気が感じ取れます。初の長編映画であるこの『LAMB ラム』でカンヌ国際映画祭ある視点部門「Prize of Originality」を受賞し、今後のキャリアにも注目大です。

そしてもうひとり忘れてはならないクリエイターが『LAMB ラム』の共同脚本を務めた“ショーン”という人で、こちらはアイスランド出身の作家で、すでに国際的に評価が高いです。“ロバート・エガース”監督の『ノースマン 導かれし復讐者』でも脚本を手がけ、今や映画界でも見逃せない脚本家となりつつあります。

俳優陣は、『ミレニアム』シリーズで強烈な演技を見せた“ノオミ・ラパス”が主演だけでなく製作総指揮も兼任し、『たちあがる女』の“ヒルミル・スナイル・グズナソン”、『湿地』の“ビョルン・フリーヌル・ハラルドソン”が共演。登場人物は少ないので、すぐに覚えられます。男性2人とも髭面なのですけど、後から登場する“ビョルン・フリーヌル・ハラルドソン”演じる男の方が髭がモジャっと多いと覚えておけばOKです。

『LAMB ラム』を見終わった後にジンギスカンが食べたくなった人はよほど肝が据わっていますね…。アイツに襲われちゃいますよ…。

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『LAMB ラム』を観る前のQ&A

✔『LAMB ラム』の見どころ
★ちょっと不気味で奇怪な御伽噺。
★あの羊が可愛い。あの羊が怖い。
✔『LAMB ラム』の欠点
☆独特のシュールさで展開するので好みが分かれる。

オススメ度のチェック

ひとり4.0:変わった映画が好きなら
友人3.5:ヘンテコ映画好き同士で
恋人3.0:よほど興味があるなら
キッズ2.5:やや性描写あり
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『LAMB ラム』予告動画

↓ここからネタバレが含まれます↓

『LAMB ラム』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):生まれた“それ”は…

アイスランドの山間。人が来ることはまずないその大地で、イングヴァルマリアという夫婦が羊飼いをしながら静かに暮らしていました。

やることと言えば、とにかく羊の世話です。今日も愛犬と作業し、2人で役割分担して、仕事を片付けていきます。

今は忙しい時期でした。羊の出産ラッシュで、赤ん坊を生む羊が続々現れます。2人でどんどんと赤ん坊を取り上げていく日々。生まれた羊の子は足取りもおぼつかず、それでも母羊の乳を一心不乱に飲みます。

仕事の合間に食事。タイムトラベルは理論上可能らしいという話をイングヴァルは持ちかけつつ、「今は未来を見なくてもいい。この場所が心地いい」と呟きます。2人は今だけを見ようとしていました。過去はできるだけ忘れて…。

翌日、生まれた子羊にタグをつけ、耳に一部を切る作業をします。血が出て鳴く子羊。

いつもの仕事の最中、犬が吠えだし、2人で羊小屋を見に行きます。羊がまた赤ん坊を産みそうです。顔が見えています。しかし、その赤ん坊を取り上げてみると、産まれたその存在に言葉を失い、目を見合わせる2人。その子を抱きかかえ、マリアは奥へ。お湯に入れて、体を布で覆います。ミルクを与えると勢いよく飲むその子。

その子をベッドの横に置き、大事そうに見つめるマリア。その肩をイングヴァルが抱きます。2人はその子を家で育てることにします。

イングヴァルがトラクターを修理していると、犬の様子がおかしい気がします。また、洗濯物を干していたマリアは羊が1頭鳴いているのに気づきます。イングヴァルと動かそうとするも、その羊は窓の奥にいるあの子を見ているようでした

2人であの子を抱えてソファに座ります。この子には「アダ」という名前をつけました。

マリアは出かけ、アダはイングヴァルに任せます。イングヴァルはアダをソファに寝かしつけて仕事へ。

霧がでる中、マリアは帰ってきます。イングヴァルも帰宅しますが、アダがいません。外を必死に探す2人。霧の中で見つけ、抱きかかえます。傍にはあの羊もいました。アダを抱きしめながら、マリアは鳴く羊に「あっちへいけ」と叫びます。

マリアはそれでもしつこい現れる羊に嫌気が差して発砲。羊を殺し、死体を引きずって埋めるのでした。

その光景をたまたまこの周辺に放り出されたペートゥルというイングヴァルの弟がもくげきしていました。ペートゥルはいろいろ生活に困っている様子で、しばらくここに泊めさせることにします。

ペートゥルもいる食事の席で、アダも連れて来て、ペートゥルに紹介します。アダは普通に席に座り、一緒にご飯を食べます。

「あれは一体何なんだ」とペートゥルはマリアがいないときにイングヴァルに素朴な疑問をぶつけます。でもイングヴァルは動じません。

頭は羊。でも体は人間の子ども。それでもイングヴァルとマリアにとっては我が子同然。何があろうとも、どんなことが起きようとも…。

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なんだ、可愛いじゃないか…

『LAMB ラム』の序盤はいかにもまったりとした、でもわかる人にはわかる、畜産業の忙しさを醸し出しながら、日々の仕事の様子が淡々と映し出されていきます。日本のどの畜産農家でも撮れそうな映像です(とは言え、あんな環境で放牧畜産をしているところは日本ではあまりないけど)。

アイスランドでは羊の畜産は非常に古くから歴史があり、この地に入植者が来たときに羊も持ち込まれたそうです。昔は羊の乳も食用にしていたらしいですが、今はもっぱら羊毛と羊肉の活用が主流。たぶんあのイングヴァルとマリアの夫婦の飼っている羊たちも食肉として出荷されていくのかな。

そんな中で生まれたあの子。アダという名がつけられるその子は、頭は羊ですが、胴体は手足も含めて人間の子どものそれという、いわば獣人でした。

その子を我が子のように育て始めるイングヴァルとマリア。

まずこのアダのビジュアルとその生活に溶け込んでいる姿が何とも言えないシュールさです。見た目としては一発ギャグそのもので、不気味というか、あからさまに変です。でもなんだかちょっと可愛くもあり、そのギャップがずっとしばらく続きます。

一緒に食事の席に座っているだけでも「誰かツッコむ人はいないのか?」と思ってしまう光景になりますし、テレビ観戦したり、踊ったり、そんな日常も不思議な時間が漂います。

リアリティが絶妙なところでバランスよく収まっているのがいいんだと思います。もう少しリアル寄りにやろうと思えばできると思うのです。例えば、顔は羊なのですから、食べ物とかの咀嚼の観点では明らかに人間のようにはいかないはずで、そこに「あぁ、人間じゃないよな」という違和感を発揮させることもできます。でもこの映画ではそれをしておらず、あくまで人間と同様の子どもとして扱っています。本当にただ頭が羊というだけ。なのでマスコット的な感覚でキャラクターとして観客もすんなり受け入れやすいようになっています。

喋らないというのも絶妙さを突いていましたね。喋ってしまうと人間寄りすぎるし…。

最初は草を食べさせようとしたペートゥルも、時間が経つとすっかりアダと仲良くなっていて、打ち解け合っている姿は微笑ましく、ずっとこの日常が続いてほしいと思わず願ってしまいます。

こうしてアダは幸せに暮らしました。めでたしめでたし…というエンディングでもいい。それでいいじゃないかと私たちは願望として思ってしまう。それこそあのイングヴァルとマリアの感情といつの間にかシンクロしてしまっているのと同じ。

ところがこの『LAMB ラム』はそんなハッピーな期待を打ち砕き、まごうことなきフォーク・ホラーとしての本領を発揮していくのですが…。

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アイツの正体は?

その不吉な予兆はずっとありました。『LAMB ラム』はそのあたりの演出も上手く、犬や猫の視線で“何か”を感じ取っているシーンが挟まれたり、羊の目というアップで見るとどこか不気味さを感じるその眼力で“何か”の不安を示唆したり、あの手この手で不穏なフラグをたてていきます。

そしてそれはマリアがアダを産んだ母羊を銃殺するあたりで確定的になっていきます。この物語にハッピーエンドはなさそうだぞ、と。

そうやって蓄積される不吉さがついに頂点に達して正体を現わすのは終盤。イングヴァルを撃ち殺す、屈強な体躯を持つ羊頭の獣人。それはアダの本当の父親なのか…アダの手をとって連れ去っていき…。

ここでも本作は一発オチとしてぶっこんで放置するスタイルなのですが、あえてもう少し深堀りしてみるならあの獣人は典型的なギリシャ神話にでてくる存在に似ています。半人半ヤギの神話上の生き物「フォーン」です。この牧神はフィクションにもよく登場し、『パンズ・ラビリンス』とかでも見られましたね。「フォーン」だけでなく、「サテュロス」「パーン」といった半人半獣の存在もいます。設定はだいたい似たりよったりです。

『LAMB ラム』ではその獣人が銃を構えて出現することで観客の度肝を抜きますが、見た目は何でも良かったわけではなく、一応、この獣人を選んでいる理由も察せることができるようになっています。

イングヴァルとマリアは直接的な説明はないですが、どうやら過去に子どもを失っているようで、その喪失感を引きずっています。そこに降って湧いたような存在がアダであり、夫婦にとってはその存在にすがるのも無理ありません。このアダを育てていくうちに2人の間には幸せが戻り、また体を交えるような性欲もまた湧き出てくるようになります。

「フォーン」のような獣人は男根が象徴として挙げられやすく、そういう意味では性の渇望に身が活気づいてきたイングヴァルがもっと荒々しい性の存在に蹂躙されてしまうというのは構図としては筋が通っているかなと思います。

最後に一人残されてしまったマリアの絶望感を想像すると可哀想ですが、羊の子は人間の手にはおえませんでしたね。

羊が襲ってくる映画としては他にも『ブラックシープ』などがあるのですが、この『LAMB ラム』はそこに神話的な寓話の要素を追加して、ミニマムな物語の中で最大限に面白くしており、無駄のないスマートな語り口な良作でした。

皆さん、野外で変な家畜を見かけたら、地方農政局か、市町村の農畜関係の課に連絡してくださいね。

『LAMB ラム』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 86% Audience 61%
IMDb
6.3 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
7.0
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以上、『LAMB ラム』の感想でした。

Lamb (2021) [Japanese Review] 『LAMB ラム』考察・評価レビュー