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『ラストレター』感想(ネタバレ)…ボルゾイを持ち込む夫はご遠慮ください

ラストレター

ボルゾイを持ち込む夫はご遠慮ください…映画『ラストレター』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

英題:Last Letter
製作国:日本(2020年)
日本公開日:2020年1月17日
監督:岩井俊二

ラストレター

らすとれたー
ラストレター

『ラストレター』あらすじ

姉・未咲の葬儀に参列した裕里は、ショックから立ち直れていない未咲の娘・鮎美から、未咲宛ての同窓会の案内状と未咲が鮎美に遺した手紙の存在を告げられる。未咲の死を知らせるという目的で同窓会へ行く裕里だったが、学校の人気者だった姉と勘違いされて訂正できぬまま流される。そこで初恋の相手・鏡史郎と再会した彼女は、未咲のふりをしたまま彼と文通することにするが…。

『ラストレター』感想(ネタバレなし)

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その魅力は東アジアを席巻する

中国や韓国の若者層から最も支持されている日本の映画監督と言えば誰か?

その定番の答えは間違いなく“岩井俊二”監督でしょう。

日本でも映画好きであればファンな人を探すのは大変でもない、固定の人気を集めやすい監督です。その理由は、生みだす映画の明確な特徴。センチメンタルでピュアなラブストーリーを得意とし、とくに“少女”性を全面に出したイノセントなタッチの作風に虜になる人は男女問わず多いです。

クリエイターにも影響を与えており、『君の名は。』でおなじみの新海誠監督の作風は確かにこの“岩井俊二”監督作品をベースにしている雰囲気を色濃く感じます。

その作家性は言語に頼らない普遍的な魅力を持っているのか、中国や韓国では下手をすると日本以上に熱狂的なファン層を獲得しています。1995年の監督劇場長編第1作となった『Love Letter』は中韓で大ヒットを記録し、今まさに中国ではリメイク版の製作が進行しているくらいですから。

そんな“岩井俊二”監督は2016年に『リップヴァンウィンクルの花嫁』を世に送り出して以降、何しているのかなと思ったら、中国で『チィファの手紙』という映画を制作、そして2020年には新作『ラストレター』を用意していました。ちなみに2020年は本作以外にもコロナ自粛の中で作り上げた『8日で死んだ怪獣の12日の物語 劇場版』を公開するので大忙しです。

『ラストレター』は、“岩井俊二”監督の1995年の中編作品をアニメ映画化した『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』をプロデュースしてからの付き合いである“川村元気”との再びのタッグ作。“川村元気”いわく「“岩井俊二”監督のベスト盤」とのことで、なるほど納得の“岩井俊二”監督要素を詰め込みに詰め込んだファン大満足な一作になっています。

タイトルを観れば推察できるように、“岩井俊二”監督初の長編映画『Love Letter』を想起させる題名ですが、事実、中身も手紙を軸にした不思議な交流を描いており、ほぼ同質です。アンサームービー的な要素を意識した…のだとか。

ということで“岩井俊二”監督作品が好きな人は「これが見たかったんだよ!」というドンピシャな内容になっていると思います。“岩井俊二”監督の故郷である宮城県を初めて舞台にもしており、おそらく本人も思い入れがいつも以上に入魂されているでしょう。今作も中国や韓国のファン層にも歓迎されそうです。

気になる俳優陣ですが、主役を演じるのは『四月物語』(1998年)以来、久々の岩井組となった“松たか子”。映画を主演するのは『小さいおうち』(2014年)ぶりかな? それにしても年齢経過を感じさせない若々しさですね…。

そして、“広瀬すず”“森七菜”の二人がそれぞれ一人二役で活躍し、1作で二度美味しいポジションにいます。この二人の無邪気な戯れはずっと見ていられる微笑ましさです。今作では主題歌も“森七菜”が歌っており、結構気に入られている感じなのかな。

さらに“福山雅治”がこれまで以上に見たことがない役幅の広さを見せており、そんな“福山雅治”の演じるキャラの少年時代を“神木隆之介”が演じるという、わかっているキャスティング。

ただ、個人的に一番ワクワクと注目していたのが“庵野秀明”ですね。基本的には「エヴァンゲリオン」を作っている人ですが、今回は俳優です。もともと“庵野秀明”が監督として手がけた『式日』(2000年)で“岩井俊二”を俳優として起用しており、今回は完全にその逆アプローチ。なんだろう、この二人、遠距離恋愛とかしてそう…(私の勝手な妄想です)。『ラストレター』の“庵野秀明”もほんとに面白いので期待していてください。
昔の付き合いを思い出したくなる人がいる…そういう方にはオススメです。あと、“庵野秀明”の奇行が見たい人にもね。

オススメ度のチェック

ひとり ◯(監督or俳優ファンは超必見)
友人 ◯(大切な友達と一緒に)
恋人 ◎(ロマンチックな気分に)
キッズ ◯(ティーンなら見やすい)
↓ここからネタバレが含まれます↓

『ラストレター』感想(ネタバレあり)

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その手紙はあの人から…

夏。3人の子どもたちが自然あふれる緑豊かな河原にやってきます。うつ2人は女子で制服姿。近くに滝があり、ひとりの女子ともうひとりの小さい男の子は無邪気に水遊び。どうやら姉弟のようです。残るもうひとりの女子はふらふらと河原を歩き、物憂げに宙を見つめます。

「鮎美~、もうすぐ始めるって」

そう呼ばれて鮎美を含む3人はその場を離れます。向かったのは実家。そこでは葬儀が行われており、弔われているのは鮎美の母親である遠野未咲です。44歳で亡くなった未咲を偲び、参列した人たちはひそひそと「子ども時代は凄い子だった、優等生だった」と語ります。その間、鮎美は一言も発しません。

葬儀がひととおり終わり、部屋でぼ~っと座る鮎美。そこに遠野未咲の妹である岸辺野裕里が心配そうに近寄ります。「お母さんの遺書、開けられないです」とこぼす鮎美。そこには大学時代の未咲の写真が飾られており、それを観た岸辺野裕里の娘の颯香は「鮎美にそっくりだね」と素直に感想を口にします。

その颯香はしばらくこの実家にいるとお願いしてきて、祖父母にOKをもらい、車で帰る母と弟を見送りました。その際、鮎美が岸辺野裕里に母宛てに届いていた同窓会の連絡を渡します。

裕里は同窓会に向かい、未咲の訃報を伝えるつもりでしたが、いざ会場に向かうと未咲と勘違いされてしまいます。「私、違うんですけど」と否定するも「違わない違わない」と相手にしてくれません。未咲は学校時代はマドンナという扱いで、同窓会の広々とした会場では史上最大のヒロインなんて仰々しく紹介されてしまい、逃げ場もなく壇に立つことに。緊張しつつ言葉少なげに語り、裕里は「私はこれで…」と去ろうとします。すると校舎の写真がスライドショーで映し出され、当時のカセットテープの音声が流れて、ふと立ち止まります。それは未咲の声でした。

会場を後にし、近くのバス停ベンチで座っていると、ひとりの男が話しかけてきます。

「覚えている?」「久しぶり」

それはかつて学校時代に初恋の相手だった男子、乙坂鏡史郎でした。「少し話がしたいんだけど…」と言われるも「いいえ、帰らないと」と受け流し、それでも乙坂は「連絡先、交換しよう?」と食い下がりません。しかたなく連絡先を交換し、名刺も渡されると、小説家と書いてありました。

「どんなの書いてるの?」「話すと長くなるけど」「あの、小説読んでくれた?」「なんだっけ?」「教えない」「何それ気になる」「また機会があったら」「さようなら」

そんなたどたどしいやりとりの中、来たバスに乗る裕里。その後、SMSで少し会話します。「君にまだ恋をしているって言ったら信じますか」とドキリとする言葉を送られ、「おばさんからかうのやめてください」と返事します。

帰宅。家には夫で漫画家の岸辺野宗二郎がいます。ところが、夫にスマホの例のメッセージが見られてしまい、不機嫌な態度をとる夫。スマホを湯船に投げ入れられてしまいます。

しょうがないので手紙で乙坂に事情を伝え、「一方的な手紙でごめんなさい、返事はいりません」と未咲として送信します。

しかし、その後も裕里は未咲として何度も乙坂に一方通行な手紙を送ってしまいます。

一方、返事をしたかった乙坂は学校のアルバムを調べて未咲の実家に手紙を送ります。もちろんそこにいたのは鮎美と颯香です。母宛てのヘンテコな手紙を読む二人。「この人、霊界と文通している?」「犯人ってこと?」「知らないのかな、亡くなったこと」と怪しみながらも、鮎美は「返事、書いておくってみない?」と提案。

こうして奇妙な三角形の文通が始まり…。

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ヤバい行為も俳優の力で中和

“岩井俊二”監督は毎度ながら俳優の魅力を引き出すのが上手いです。とくに女性をどう描くのかという部分はいつも並々ならぬこだわりを感じ、常にイノセンスを押しだしてきます。

そして主人公の女性は、天然とは違いますけど、こうどこか世間から浮いているというか、地に足がつかずにふわふわしている感じのキャラクター描写なことが多いです。どっちに飛んでいくかわからない風船みたいな。

『ラストレター』の主人公である岸辺野裕里もまさにそんな人間。だいたい大人になってからあんな一方的に住所も書かずに相手に手紙を送りまくるのはちょっと傍から見ればヤバい行為ですよね。

それでも観客がドン引きしない範囲でセーブできているのは、やはり演じた“松たか子”のなせるバランスの技なのでしょう。絶妙に許せる程度におさまっています。

そんな主人公の娘役と高校生時代の一人二役を演じた“森七菜”。彼女は『天気の子』で声優を務めて大ブレイクしますが、『ラストレター』の起用はまだその前だったのでオーディションでの抜擢。それでも監督からもこの人しかいないという一本釣りだったようです。で、実際に演技を見ると確かにこれは凄いと大納得。磨きがいのある原石を持っているのは一目瞭然。とくに颯香を演じている時のあの天真爛漫さと、裕里(高校生時代)を演じている時の内に想いを抱えてじっとしている姿、そのギャップがいいですし、それが終盤、颯香が実は好きな人がいると鮎美に告白する時にあの裕里(高校生時代)が垣間見える瞬間。このへんはもう“岩井俊二”監督マジックもあって抜群に「おお!」となりますね。

一方、鮎美と未咲(高校生時代)の一人二役を演じた“広瀬すず”。相変わらず上手すぎて言うこともないのですが、感情を押し殺した状態からの終盤にかけてスパークしていく…得意技が今回も炸裂していました。颯香(裕里の高校生時代も)を前にするとお姉ちゃん的ポジションになるわけですが、今やさらなる若手を引っ張る存在にもなりつつある“広瀬すず”の余裕すら感じさせる演技の構え。それにしても今回もそうですし、『海街diary』とか他の出演作もそうなのですが、なぜか親に不幸があって孤独になっている少女役が多いですね。

とにかくこの“森七菜”と“広瀬すず”を掛け合わせた時の破壊力は脅威的なので、摂り過ぎ注意です。

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スピンオフが見たい

そんな中、“岩井俊二”監督作品は別に女性描写だけに力を入れているわけではないとも思います。『ラストレター』に関しては男性描写も魅力的でした。

まず乙坂鏡史郎を演じた“福山雅治”。『そして父になる』など映画出演するたびに予想外の役幅の広さをじわじわ見せていく彼ですが、今作でも、チャンスがあったはずなのに失敗してしまった男…という立ち位置を見事に体現していました。手が絶対に届かないわけではなかったけど、伸ばしきれなかった、抱き留め続けることができなかった。そういう無念を背負っている男が似合っています。“福山雅治”が「モテる男性」の代名詞的に一部で挙げられやすいのは、こういう“許せる範囲のダメさ”を抱えている感じがするからなのかな。

それに対する“庵野秀明”ですよ。実質、本編のストーリーに大きく関与し続けることはないのですが、なんだあの珍生物。浮気が疑われる妻へのあてつけに犬(しかもボルゾイ2匹)を押しつけるなど、攻撃方法がいちいち意味不明に鬱陶しく、そこがまた見ているぶんには楽しい。ここは完全にコメディですからね。あの仕事場の部屋の小道具も妙にこだわっていたし…。個人的にはあの岸辺野宗二郎のスピンオフが見たい。“森七菜”と“広瀬すず”のイチャイチャよりも見ていて満足感がある。あの岸辺野宗二郎と裕里はなぜ夫婦になったのか、本編のメインストーリー以上に謎めいていて気になるじゃないですか。“松たか子”が若々しいせいか、“庵野秀明”が80歳くらいのおじいちゃんに見える…。

そして終盤に登場する未咲の元夫(結婚していないから恋人かな)で元凶的な存在である阿藤。正直、このキャラ造形に関してはストレートに嫌な奴すぎるのはちょっと安直かなとは思います。イノセントなロマンスのか弱さを醸し出すために敵役としてこういう悪者を出すのはズルいじゃないですか。

でもその阿藤とその今の妻を演じるのが“豊川悦司”“中山美穂”なんですよね。要するに『Love Letter』の主役カップルを演じた二人です。あの時はイノセントな関係を構築していた二人を、本作では反転させて持ってくるというのはなんとも嫌らしい反則技ですよ。『Love Letter』を知っている人にはメタ的に推察してしまう文脈が浮かんでくるというか…。ニクイ演出です。

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いつの時代も手紙は不滅

『ラストレター』の物語の本題は三角形の文通です。

この文通コミュニケーションが始まる流れはやや強引ですし、行われている最中もどこかツッコミ不在なところもあるのですが、そこは“岩井俊二”監督オーラで押し通していました。

大変だったと思うのです。『Love Letter』の時ならまだしも、この2020年。SNS時代に手紙でどう映画にするのか。それでも手紙というある種の不便さもあるツールをあえて逆手にとって、ミスコミュニケーションも活用して物語を成り立たせるというのは、やっぱり今の時代でも手紙でしかできないことなのかもしれませんね。

現代の、それこそアメリカ映画でも『好きだった君へのラブレター』や『ハーフ・オブ・イット 面白いのはこれから』など手紙が恋愛作品の要になっているものは依然として多いですし、たぶん不滅なんじゃないかな。

『ラストレター』は、現代で展開される三角形の文通、高校時代の伝言的な中間を挟む手紙、乙坂の小説、卒業生代表の言葉の文章…など、全てがシンプルに直通で届かなかった想いになっており、全てが綺麗にカチ
ッとハマっているので、とても気持ちのいい“岩井俊二”監督作品だったと思います。逆にもっと奇抜でヘンテコ成分強めの作品を望んでいた場合は、ちょっとオーソドックスすぎて平凡だと思うでしょうけど。

ロケーションを活かした撮影も良かったですね。最近はいつも邦画を見ると思うのですが、日本はそもそも風景の良い場所がたくさんあるし、ドローン撮影が映えるんですよね。ドローンの登場によって間違いなく日本の映画の映像センスがパワーアップしているのはそのためだろうな、と。

ともあれ、今はオンラインですぐに繋がる時代ですが、たまにはじっくり時間をかけて手紙で向き合っているのもいいのかもしれません。自分の住所は基本は書いた方がいいと思いますが。

『ラストレター』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer –% Audience –%
IMDb
?.? / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 6/10 ★★★★★★

作品ポスター・画像 (C)2020「ラストレター」製作委員会

以上、『ラストレター』の感想でした。

Last Letter (2020) [Japanese Review] 『ラストレター』考察・評価レビュー