実写化の再戦は調和をもたらすか…「Netflix」ドラマシリーズ『アバター: 伝説の少年アン』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2024年)
シーズン1:2024年にNetflixで配信
原案:アルバート・キム
児童虐待描写 恋愛描写
あばたー でんせつのしょうねんあん
『アバター 伝説の少年アン』物語 簡単紹介
『アバター 伝説の少年アン』感想(ネタバレなし)
悔しさをバネに汚名返上の再実写化
「残念な実写化」という評価は作り手が一番避けたいフレーズだと思いますが、どうしても起きてしまうのもこの世の自然現象。中にはそんな嬉しくない評判をずっと背負ってしまうことになった作品もありました。
ハリウッドで子ども向けのエンタメ大作の分野にて、「残念な実写化」の象徴的存在となってしまった映画がありました。
それが2010年の『エアベンダー』です。
この映画は、『スポンジ・ボブ』『ドーラといっしょに大冒険』『パウ・パトロール』などキッズ向けのアニメ作品を多数送り出している「ニコロデオン」が、2005年から2008年まで放映した『アバター 伝説の少年アン』が原作となっています(映画タイトルが「エアベンダー」なのは当時直近で公開された“ジェームズ・キャメロン”監督の『アバター』との競合を避けるため)。
『アバター 伝説の少年アン』は、世界を救う宿命を背負った少年が、世界支配を企む強国の横暴に立ち向かうという、王道なアクション・アドベンチャー。ハイファンタジーな世界観で、中国武術などアジア文化や先住民文化の要素が随所に盛り込まれているのが特徴です。絵柄もアメリカらしいカートゥーンというよりは、日本のアニメに近いところがあります。
日本ではそんなに有名ではないのですが、アメリカでは大人気で、すごく熱いファンダムに支持されています。
それだけのファンに囲まれている作品なので、実写映画化するとなった2010年のときは当然注目されました。そのぶんの失望の反動も大きかったのでしょう。何がダメだったのかは語っても長くなるだけなのでやめときますが…いろいろ…厳しかったんですよ…。私なりに付け加えておくなら、“M・ナイト・シャマラン”監督の力量とかの問題ではないと思ってますよ…(元気だして、シャマラン…)。
こうして不名誉な失敗作の烙印を押され続けて約14年。再実写化の瞬間が来ました。次はドラマシリーズです。そして今回で、あの2010年のアレがもういじられるのは無しになってほしいなと思います。
実写ドラマとなった2024年の『アバター 伝説の少年アン』。無論、作り手は過去を踏まえて「どうやったらファンが満足できるか」を考え抜いたことでしょう。最近の人気原作の実写化は『ONE PIECE』や『パーシー・ジャクソンとオリンポスの神々』といい、このファン要望とのコミュニケーションが非常に欠かせないものになっていますね。
実写ドラマ『アバター 伝説の少年アン』はその期待に応えるパワーを100%発揮できたのではないでしょうか。
広大な世界観構築、1話ごとに積み上げるストーリー、キャラクターの魅力、アクロバットなアクション…どれも一定のクオリティを超えていたと私は感じました。
個人的にはレプリゼンテーションが良くて、これは以前の映画とはもちろん比べるまでもなく、原作アニメよりも最高な座組で揃っていて、これだけでも今回の実写化はやったかいがあったなと思いました。
アジアや先住民をルーツに持つ俳優陣を中心に固められています。
主人公に抜擢されたのは、フィリピン系カナダ人の“ゴードン・コーミエ”。
そして、モホーク族の新鋭“キアウェンティオ”、ドラマ『フィジカル』の“イアン・オウズリー”、ドラマ『Pen15』の”ダラス・リウ”、『May December』の“エリザベス・ユー”。
脇には、ドラマ『マンダロリアン』の“ポール・サンヤン・リー”、ドラマ『HAWAII FIVE-0』の“ダニエル・デイ・キム”、ドラマ『ナイトシフト 真夜中の救命医』の“ケン・レオン”、ドラマ『ベビー・シッターズ・クラブ』の“モモナ・タマダ”、『プレデター:ザ・プレイ』の“アンバー・ミッドサンダー”、ドラマ『ドロップアウト シリコンバレーを騙した女』の“ウトカルシュ・アンベードカル”など。
実写ドラマ『アバター 伝説の少年アン』は「Netflix」で独占配信中。シーズン1は全8話で、1話あたり約50~60分。たっぷり堪能してください。
『アバター 伝説の少年アン』を観る前のQ&A
オススメ度のチェック
ひとり | :原作知らなくても |
友人 | :気軽に見やすい |
恋人 | :好きなジャンルなら |
キッズ | :子どもはワクワク |
『アバター 伝説の少年アン』感想(ネタバレあり)
あらすじ(序盤)
夜にもかかわらず、火の国の都ではあちこちで火の手が上がります。そんな炎に照らされつつ、必死に追手から逃げるひとりの男。その男はアースベンダーで地面を鋭く隆起させ、追っ手を振り払います。しかし、追っ手のファイアベンダーによる炎弾の直撃を受け、対峙しつつ、「土の王に渡せ」と握っていた品を前方で待機する仲間に投げ渡します。そして捕まりました。
連れてこられたのは火の国の王ソジンの前です。ソジン王は余裕の態度で、これも策略のうちだと明かします。「我々の時代が来た」と言いきりますが、目的を阻める唯一の存在だけが気がかりでした。アバターの出現です。だからこそ皆殺しを命じます。
炎、水、土、気…何千年もの間、4つの国は共存していました。アバターは平和を維持する者で4つの技全てを操ります。アバターは死ぬと次の肉体へと魂が移って生まれ変わるという宿命があります。今世ではまだ現れていません。火の国の王であるソジンはこの好機に世界支配するべく戦争を始めました。
南にある気の寺。12歳のアンは自由に空を舞うエアベンダーで、歴史上最年少で技の精通者の印を得たほどの才能。訓練は要らないと調子に乗りますが、師匠であるギャツォには「もっと学ぶべきだったと思う時が来る」と諭されます。
今、この寺では大彗星祭の準備で人々は活気づいています。一方で、評議会では揉めていました。火の国が迫るこのとき、アバターは必須。その候補はアンです。早急に旅に出すべきだと大多数は考えていましたが、ギャツォは慎重です。
気の民出身の最後のアバターであるヤンチェンの像の前で、ギャツォはアンに「お前がアバターだ」と告げます。アンは故郷を離れることに困惑し、「どうして僕なの?」と受け止めきれません。それでも「常に自分を失うな、いつでも友達だ」と言われます。
アンは眠れないので空飛ぶバイソンのアッパに乗って、寺を少し離れます。その最中、火の軍勢が襲撃してきました。寺は一気に炎に包まれ…。
そしてアンもまた荒波に飲まれ、気を失い…。
ところかわって、ウルフ・コーヴという雪に包まれた小さな村。ここでカタラは兄のサカと暮らしていました。2人は小舟で流氷の海へ。実はカタラはウォーターベンダーですが秘密で、能力は上手くないです。兄は狙われると心配していました。
急に水の流れが速くなり船を失った2人。そこで大きな球体の氷の塊を発見します。カタラは能力を使って船を引き寄せようとしますが、氷の球体が光の柱をともない割れ、中から現れたのはアンでした。
2人はこの見かけない少年を連れ帰ることにします。その頃、近くで軍隊を率いていたズーコ王子の乗る船も光を目撃。
目覚めたアンは、水の民の老婆から大彗星から100年が経過したと衝撃の事実を突きつけられ、エアベンダーの生き残りになってしまったことを知ります。
カタラの父は火の国と戦いに出ていったきりで、村を兄に任せたそうです。現在の火の国は大半を支配、水の民と土の王国は抵抗していました。
この100年経過した世界で、アンはアバターとして成熟できるのか…。
今後も参考になりそうなアクション
ここから『アバター 伝説の少年アン』のネタバレありの感想本文です。
実写ドラマ『アバター 伝説の少年アン』の見どころのひとつにして、最も実写化での再現が難しそうなのが、ファンタジックなアクションです。本作はアジア系の武術をベースに、4つのエレメントの属性を帯びた多彩な攻撃が可能な「ベンダー」という能力使いがいて、各自でそれぞれのスタイルでバトルします。
映像作品のアクションはいろいろなものがありますけど、単純にリアルなコンバット・スタイルで対戦したり、大きなスタントで派手にアクションを決めるものはわかりやすいですし、技術蓄積もあります。
一方、こうしたVFXを織り交ぜながら行うアクションというのは、実は一番映像表現が難しいのではないかなと思います。下手にやってしまえば安っぽくなるし、かといってVFXを絡めるので工程も増えて完成形が見えにくいし、作る側も大変でしょう。
『アバター 伝説の少年アン』はアジアの体術を軸にしているので、そこをまずしっかりこなしつつ、エレメント要素を添えて派手にするというスタイルがかなり確立されて洗練されてきた感じがします。『シャン・チー テン・リングスの伝説』など同じジャンルの経験値の積み上げを経てきたからこそだと思いますし、努力の賜物。
アンの気の能力での風攻撃なども、武術のフォームがキマっているから見栄えがありますし、カタラの水を駆使して氷などに派生していく戦い方も飽きません。ズーコの火炎カンフーみたいなアグレッシブな戦い方もあったり、バリエーションで楽しませてくれます。
『アバター 伝説の少年アン』で本領発揮されたこのアクション映像作りのセンスは、今後の多くの映像化でも活かされるはずです。それこそ日本の漫画やアニメ作品の実写化でもアクションのデザインに役立つはずで、参考にされていく作品になりそうですね。
シーズン1:次の時代を作ろうとする子どもたち
『アバター 伝説の少年アン』は原作が子ども向けの作品なので、お話自体はシンプルで奇をてらったものはないです。ただ、その王道ながらもしっかり基本を練り込んで丁寧に作ってあり、『プリキュア』のように物語は誠実さを保っています。今回の実写ドラマ化ではそこがさらに純度アップしたように感じました。
この世界観はどうしたってオリエンタリズムを喚起させるのですけども、アジア文化を単純に美化しないようになっています。その柱となるのが、この世界における負の要素となる保守的な社会構造をきっちり描き、それに立ち向かうストーリーラインを持っていることです。
例えば、火の国の歴代王のやりかたは極めて植民地主義的な振る舞いで、統一で世界に平和を与えるという“単一民族”一国至上主義の思想となっています。
典型的な悪者ですが、本作はそこにズーコという現・火の王オザイの息子で後継者候補でありながら、犠牲ありきな横暴な手段に賛同できない姿勢を見せる若者を登場させ、「本当にふさわしい王とは何なのか」という問いに向き合うキャラを用意しています。
このズーコのドラマはいいですね。あの実は捨て駒になるはずだった第41師団を守るために父に歯向かい、それを第41師団の兵士たちには伏せていたので当初は嫌な王子として反発されつつ、メンターであるアイロー将軍の堅実な支えの中で、最後は尊敬を勝ち取る。王とはこうあるべきというお手本として…。不器用な王としての成長にグっときます。
オザイは誰から見てもわかりやすい虐待的な父でしたが、南の水の村を父に任されて頑張っていたサカも、「男らしさ」の重圧に苦しんでいる若き男子のひとりです。旅を経験する中で、サカはその重荷を下ろしていき、生き生きとしてきます。キヨシ島のスキとか、北の水の部族(アグナ・クエラ)のユエ(実は精霊)とか、わりと惚れっぽい性格なのがあれですが、たぶん尻に敷かれるタイプだろうな…。
若き男性陣に対して、若き女性陣のストーリーも今回は充実しています。どの女性キャラでも共通するのは男社会の中で認められないことへの苦悩です。
カタラは自分を過小評価し、能力も培う機会を取り上げられてきましたが、北の水の部落でついに開花。単に能力が強くなっただけでなく、「女は戦うべきではない」という社会規範を振り切る強さをみせました。
一方の火の王オザイの娘にして、厄介者の兄ズーコに対抗心を燃やすアズーラ。シーズン1はこのアズーラの導入程度ですが、権力を手にすることでしか抑圧は乗り越えられないとする歪んだ考えを振りほどける日は来るのか…。
そんな中、主人公であるアン。100年以上の年月を超えても、まだ未熟。けれどもその未熟さがときに突破口になります。卑屈で保守的な殻に籠る歴代アバターや周囲の大人に、純粋な言葉で反論できるその姿勢。かつての同年代の友人で、今は土の王として高齢で座に就いたブミに対する語り合いも印象的です。
「子どもの考えは悪いこと?」という投げかけのとおり、アンはアバターとして新しい時代を築く良識的リーダーになりうる、しっかり今の現実社会にも通用する存在として描き直されていました。
シーズン1の最終話では、一時は海の精霊に身を捧げて巨大怪物化したアンも我を取り戻し、再び仲間との団結を土台に再出発。ところが土の国のオマシュはアズーラ率いる火の軍によって陥落し、世界はまた炎に包まれ始めました。反逆者となったズーコとアイロー将軍の行く先も気になります。
実写ドラマ『アバター 伝説の少年アン』はまだまだ次の面白さを切り開く余力を残しています。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 60% Audience 75%
IMDb
7.5 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
関連作品紹介
アジア系を主体にしたエンタメ作品の感想記事です。
・『アメリカン・ボーン・チャイニーズ 僕らの西遊記』
作品ポスター・画像 (C)Netflix アバター ザ・ラストエアベンダー
以上、『アバター 伝説の少年アン』の感想でした。
Avatar: The Last Airbender (2024) [Japanese Review] 『アバター 伝説の少年アン』考察・評価レビュー
#ハイファンタジー