世界は続く…アニメシリーズ『Adventure Time: Fionna and Cake(アドベンチャー・タイム フィオナ・アンド・ケイク)』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2023年~)
シーズン1:2023年にMaxで配信
原案:アダム・ムトー
恋愛描写
あどべんちゃーたいむ ふぃおなあんどけいく
『Adventure Time: Fionna and Cake』物語 簡単紹介
『Adventure Time: Fionna and Cake』感想(ネタバレなし)
#StandWithAnimation
2023年は全米映画俳優組合(SAG-AFTRA)と全米脚本家組合(WGA)が、全米映画テレビ製作者協会(AMPTP)に待遇改善を要求して63年ぶりの同時ストライキに突入して大きなニュースとなりましたが、2024年は別の組織が声をあげています。2023年と比べるとあまり話題になっていませんけど…。
それはアニメーション業界で働くクリエイターたちからなる「アニメーション・ギルド(TAG)」がAMPTPに対して業界の改善を求めたことです。現状の課題として、AIからの保護、ストリーミングにおける規定、雇用の安定性などが挙げられています(Kidscreen)。交渉は2024年8月から本格化し、SNSでは「#StandWithAnimation」というハッシュタグを用いて、多くのアニメーターやアニメーションのファンたちが連帯しています。
この抗議の以前からアメリカのアニメーション業界では象徴的な出来事がありました。業界を牽引してきた代表的なアニメーション・スタジオである「カートゥーン・ネットワーク」の顛末です。
「カートゥーン・ネットワーク」は1992年に設立し、多くのアニメ作品を送り届けてきたのですが、創立30周年を間近に控えた2021年、ワーナー・ブラザースの再編によってカートゥーン・ネットワークの組織体制にもメスが入り、2024年8月、ついにカートゥーン・ネットワークのウェブサイトも閉鎖(Slate)。作品は観れますし、アニメーションは作り続けていますが、かつてのようなスタジオのかたちは無くなりました。多くのアニメ・ファンは嘆き悲しみ、末端の雇用者を大量にクビにさせながら莫大な報酬を独占している経営者に怒りを爆発させました。
日本も例外ではないですが、アニメ業界は岐路に立っています。表面的には好調でも、創作の現場はかつてないほどにぐらついています。
だからこそ私も「アニメ、楽しいな~」で終わらせず、ちゃんとクリエイターのことを考えていきたいと常々意識を保つように心がけています。
そんな心境で今回のアニメシリーズの感想に移りましょう。
それが本作『Adventure Time: Fionna and Cake』です。
2010年から『アドベンチャー・タイム』という子ども向けアニメシリーズが「カートゥーン・ネットワーク」で放送されました。人気を獲得し、ファンダムを育み、シーズン10まで続き、2018年に完結を迎えました。「カートゥーン・ネットワーク」の顔となる代表作ですね。
しかし、シリーズは終了せず、2020年~2021年には『アドベンチャー・タイム:遥か遠い世界で(Adventure Time: Distant Lands)』というリミテッド・シリーズが公開されました。「BMO」「Obsidian」「Together Again」「Wizard City」の4つのエピソードがあり、あの世界観の延長をファンに届けてくれました。
そしてさらなる新作となったのが、本作『Adventure Time: Fionna and Cake』となります。
本作は少し変わったシリーズの拡張です。まずオリジナル本編の『アドベンチャー・タイム』の主人公はフィンという少年とその相棒の犬のジェイクでした。しかし、シーズン3第9話「フィオナとケイク」というエピソードで、アイスキングというキャラクターが創作したフィクション小説の登場人物という設定で、フィンの少女版の「フィオナ」とジェイクの猫版の「ケイク」というキャラクターが登場。この特別に登場したキャラクターがファンの間で人気となります。
『Adventure Time: Fionna and Cake』はそのフィオナとケイクを本当に主人公にしてシリーズ化したアニメです。いわゆる性別を反転した「ジェンダー・フリップ(ジェンダー・スワップ)」ものですね。ファン・フィクションでありがちなやつを公式でやってみせた感じです。
全く別枠でのスピンオフのようにも思えますが、しっかりオリジナル本編と接続しており、続編になっています(シーズン1は全10話)。
何はともあれ、こうしてあの世界の続きが見られるのはファンには嬉しいですね。こういうアニメーション業界のご時世だとなおさら…。
本作はファン向けでありながら、現在に対するクリエイターの姿勢が滲み出る中身になっているのですが、そのあたりは後半の感想で書いています。
『Adventure Time: Fionna and Cake』を観る前のQ&A
オススメ度のチェック
ひとり | :気軽に世界に浸って |
友人 | :ファン同士で楽しく |
恋人 | :異性同性ロマンスあり |
キッズ | :やや年齢層高めになったかも |
『Adventure Time: Fionna and Cake』予告動画
『Adventure Time: Fionna and Cake』感想/考察(ネタバレあり)
あらすじ(序盤)
華麗に魔法を使いこなすフィオナ・キャンベルは、二足歩行の愛猫のケイクと都会を駆け回り、暴走するネズミバスをビル上階で追い詰めるも反撃に遭いそうになります。しかし、その瞬間、アイス・プリンスが間一髪で水を凍らせて助けてくれました…。
でもそれは夢の話。目覚めるとだらしのない家の中。ケイクもいつもの猫。自分も普通。テレビもつまらない、動きたくもない、こんな魔法も欠片もない現実の都会は退屈でした。
ケイクはなぜか冷蔵庫の氷に顔を突っ込んだり、変な行動をとっています。病気なのかと心配して、仕事に連れて行きます。
バスツアーのガイドの仕事をつまらなさそうにこなすフィオナ。一番後ろには知り合いのマーシャル・リーが乗っています。路上でよく弾き語りをしている青年です。
ふと夢を思い出し、その夢の内容を語って疑問を口にします。なぜあんな夢をみたのか…。乗客がそれぞれ自分の見た夢を語りだすだけで何も得られません。
そのとき、同行させていたケイクがケージから飛び出し、暴れ出します。結局、乗客はぶつくさ文句を言いながら降りていきます。フィオナは仕事をクビになり、仕事は続かないし、あと何回辞めればいいのかと怒りも爆発。
イラつきながらゲイリー・プリンスの店に行き、コーヒーを注文。彼はお菓子作りに夢中な好青年です。
ゲイリーにオススメされてケイクを森の奥深くにいるエリスという人物のもとに連れて行きます。けれども、ケイクは突然、謎の青い光を追いかけ、アイスクリーム屋に飛び込み、そこで姿を消してしまいます。
一体、何が起こっているのか…。
シーズン1:創造力が寄り添う
ここから『Adventure Time: Fionna and Cake』のネタバレありの感想本文です。
『Adventure Time: Fionna and Cake』を観て少し驚いたのが、オリジナル本編と接続性を持たせていること。別に「はい、新しくフィオナ&ケイクで物語をゼロから始めま~す」でもいいじゃないですか。でもそうしていません。
オリジナル本編ではアイスキングというキャラクターが創作したフィクション小説の登場人物という設定でした。このアイスキングがまたこの作品における意外なほどに複雑で重要なキャラでして、元はサイモン・ペトリコフという人間の学者で、魔法の王冠を被ったことで人格が豹変し、アイスキングへと変わり果て、マッシュルーム戦争(要するに核戦争)で世紀末となった世界でも1000年以上生き残っていました。
今作ではそのフィクション小説のアイディアは実は多元的宇宙の中心に存在する「時間の部屋」の管理者であるプリズモの些細な気分で生み出した別世界そのもので、プリズモがこっそりアイスキングの脳内に植え付けていたことが判明。アイスキングが魔法を失ってサイモンに戻ったことで、そのフィオナの別世界も魔法を失って現実的な都会へと変貌して今に至っていました。
その魔法の無い都会世界で魔法に憧れるフィオナと、魔法世界で魔法の無かった過去の世界に想いを馳せるサイモン。この対極的な2人が異世界モノのノリで出会うことで物語は始まります。
今作はキッズ向けではなかなか見られなかった非常に哀愁漂う葛藤をフィオナとサイモンは抱えています。
フィオナの虚無感はいかにも現代的な若者が抱える鬱屈です。こんな世界で働く意味があるのかよ…みたいなね…。
一方のサイモンは今作では人間時代の恋人であるベティ(今は混沌と無秩序の悪の化身であるGOLBと融合)との馴れ初めが描かれ、自身の過去と向き合うことになります。なんかもうフィオナ以上に主人公してましたね。大事にされているキャラですよ…。
この2人のエピソードで浮かび上がるのは、創造することの大切さ。フィオナもサイモンも孤独や喪失を創造で埋め合わせています。
『アドベンチャー・タイム』はハチャメチャな世界観の作品だとざっくり語られることが多いですけど、基本的には「創造の豊かさ」を讃えるような芯のテーマはずっとブレていない作品だなと思います。
シーズン1:世界を大切にしてください
『Adventure Time: Fionna and Cake』は今作から堂々とマルチバースを導入し、盛大に広げています。
フィンやジェイク(もしくはジェイクの子どもたち)、プリンセス・バブルガム、マーセリンといったおなじみのキャラクターのその後も見られれば、別世界の別バージョンの姿もみられ(BMOはなぜ爆死するのか…)、よりどりみどり。
それにしてもプリンセス・バブルガムとマーセリンは前作のスピンオフのリミテッド・シリーズの1話である「Obsidian」でも馴れ初めと新婚生活的な続きが描かれていましたが、今作でも微笑ましかったですね。完全に幸せの真っ只中にいる…(まあ、別のユニバースだと普通に争ってたりするけど)。
そう言えば、今作でフィオナの世界で登場するプリンセス・バブルガムの性別反転版であるゲイリー・プリンス、そしてマーセリンの性別反転版であるマーシャル・リー。この2人の青年はフィオナ繋がりで出会い、なんだかんだであっさり打ち解け、第7話でキスが描かれます。
オリジナル本編のプリンセス・バブルガムとマーセリンのキスは保守的な規範の妨害で最終話あたりまでにならないと描かれなかったのに対し、2024年の本作はゲイリー・プリンスとマーシャル・リーの同性同士のキスはすぐさま描いてくれました。
『アドベンチャー・タイム』のクィア・アニメーションとしての積み重ねを感じる変化でしたね…。やっぱりこうでなくちゃ…。
話を戻して、マルチバースです。だいぶいい加減なプリズモのせいでクロスオーバー警報が鳴り響き、いろいろ大変なことになる本作。一応の悪役である世界の監視者のスカラベですが、ちょっと同情するというか、プリズモの管理が杜撰すぎでは?と思わなくもない…。
最終的に本作では異例の存在であったフィオナのユニバース(世界)を守るべく公式認定となって存続が果たされます。
こういうマルチバースにおいて消えそうな世界を守ろうというのは定番の流れ。ドラマ『ロキ』でも、映画『デッドプール&ウルヴァリン』でも観たばかりのやつです。
ただ、現在のハリウッドのアニメーション業界は続々とアニメーション・スタジオが閉じられ、作品が打ち切りになり、居場所を失っている中、本作の「私たちの世界を大切にしたい!」という想いはとてもメタに深読みしたくなってしまいますね。
「儲からない世界」であっても「視聴率が稼げない世界」であっても、どこかでその世界を拠り所にして生きている人が絶対にいるわけですから。「ただの平凡な世界」にこそささやかでも価値がある…そんな理想主義と現実主義の狭間にいる私たちを静かに肯定してくれるエンディングでした。
シネマンドレイクの個人的評価
LGBTQレプリゼンテーション評価
△(平凡)
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「カートゥーン ネットワーク」のアニメ作品の感想記事です。
・『スティーブン・ユニバース』
作品ポスター・画像 (C)Cartoon Network Studios アドベンチャータイム フィオナ&ケイク
以上、『Adventure Time: Fionna and Cake』の感想でした。
Adventure Time: Fionna and Cake (2023) [Japanese Review] 『Adventure Time: Fionna and Cake』考察・評価レビュー
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