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『ロング・ショット 僕と彼女のありえない恋』感想(ネタバレ)…ありえなくない

ロング・ショット 僕と彼女のありえない恋

ありえなくない恋模様…映画『ロング・ショット 僕と彼女のありえない恋』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Long Shot
製作国:アメリカ(2019年)
日本公開日:2020年1月3日
監督:ジョナサン・レヴィン
性描写 恋愛描写

ロング・ショット 僕と彼女のありえない恋

ろんぐしょっと ぼくとかのじょのありえないこい
ロング・ショット 僕と彼女のありえない恋

『ロング・ショット』あらすじ

アメリカの国務長官として活躍するシャーロット・フィールドは目前に控えた大統領選の選挙スピーチ原稿作りを、昔の知り合いだったジャーナリストのフレッドに依頼する。常に世間から注目され、脚光を浴びるシャーロットと行動をともにするうちに、彼女が高嶺の花であることがわかっていながらフレッドは恋に落ちてしまう。

『ロング・ショット』感想(ネタバレなし)

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女性クリエイティブが合わさると…

このブログでは「最近の映画は続編やリメイクばかり」は本当なのか、その実態を独自に調べた記事を新年早々公開しました(詳しくは以下のリンクへどうぞ)。

その検証の中で10年から20年前と比べて劇場公開されるラブコメ映画がめっきり減っているという話もしました。

ではラブコメは消滅したのか? それは違います。

劇場公開数は少ないもののちゃんと残っており、今の時代ならではの新しい特徴を放つようにもなりました。それは今まで光があたってこなかった人たちの恋を描くということ。

例えば、恋愛とは無縁のように扱われてきたアジア系を主人公にロマンスを描く『クレイジー・リッチ! 』『好きだった君へのラブレター』。さらにLGBTQの愛を悲劇抜きで身近に描く作品も増えました。

その多様性時代を象徴するラブコメのいち形態が「“キャリアのある女性”が“キャリアのない男性”を見いだして引っ張って恋をしていく」というタイプ。従来は「“キャリアのある男性”が“キャリアのない女性”を見いだして引っ張っていく」ことがさも当たり前のように描かれてきた歴史がありましたが、そんなものは偏見に満ちた過去のもの。別に“キャリアのある男性”の存在自体が悪いと言っているわけではなく、いろいろな愛のカタチがあってもいいよね、という話です。

同様のタイプの映画はいつかはマイ・ベイビー』が非常に批評家評価も高かったですし、『アナと雪の女王2』もそのタイプだと言えなくもないです。

そんな中での本作『ロング・ショット 僕と彼女のありえない恋』はひとつの究極と説明してもいいでしょう。これから大統領選に出るぞ!という女性政治家、そしてしがないフリージャーナリストの男。この二人のロマンスなのですから。

いかにもイマドキな感じがすると思いますが、本作の脚本は2011年のブラックリスト(優秀な脚本を選出する)に入っていたものだそうで、案外と温めていたんですね。

監督は『50/50 フィフティ・フィフティ』『ナイト・ビフォア 俺たちのメリーハングオーバー』『クレイジー・バカンス ツイてない女たちの南国旅行』とコメディを得意としてきた“ジョナサン・レヴィン”。脚本は『サウスパーク』で鍛えられてきた“ダン・スターリング”なのですが、『ロング・ショット 僕と彼女のありえない恋』を語るうえではもうひとりの脚本にクレジットされている人物が重要だと思います。

それが“リズ・ハンナ”。彼女と言えば映画脚本デビュー作の『ペンタゴン・ペーパー 最高機密文書』でいきなりの賞レースにあがってしまった逸材。まだ30代でこのキャリアアップ。ドラマ『マインドハンター』でもいくつかのエピソードのシナリオを手がけていましたが、今回の『ロング・ショット 僕と彼女のありえない恋』も当然のように素晴らしさを期待してしまいます。そして実際またもや批評家を唸らせる手腕を見せました。やっぱり凄いな…。

『ロング・ショット 僕と彼女のありえない恋』は製作・主演が“セス・ローゲン”であることもわかるように、いつものギャグ映画のノリです。下ネタも全開。基本はお下品です。でも脚本家の“リズ・ハンナ”や製作・主演の“シャーリーズ・セロン”など女性のクリエイティブが加わることでまた違った感触にも変化しており、ここがまた楽しいところ。ちなみに“リズ・ハンナ”は“シャーリーズ・セロン”の会社で働いていたみたいですね。

新年スタートしていきなりの下ネタたっぷりなラブコメを観るという選択肢はないと思っていた人。いやいや、この作品ほど気分上々で新しい1年を始めるのにぴったりな映画もないですよ。

オススメ度のチェック

ひとり ◯(俳優ファンにも大満足)
友人 ◯(ラブコメ好き同士で)
恋人 ◎(距離がグッと近くなる?)
キッズ △(大人の下ネタ多め)
↓ここからネタバレが含まれます↓

『ロング・ショット』感想(ネタバレあり)

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二人三脚してみる?

とある集会に参加しているジャーナリストのフレッド・フラスキー。強面そうな参加者が集うここは白人至上主義の集まり。「ホワイトパワー」「fuck the Jews」とテキトーに調子を合わせつつ、こっそり録音するフレッドでしたが、なんだかんだでタトゥーを入れる流れになってしまいます。このままでは自分の腕にハーケンクロイツが刻まれてしまう…。そう思った矢先、参加のひとりがネットのあるページを見せてきて「お前、ジャーナリストなのか!」とあっさり身バレ。しかも録音もバレてしまい、絶対絶命のピンチ。焦ったフレッドは窓から飛び降りて事なきをえます。

そんな体を張った潜入取材で頑張るのですが、自分の所属する会社は大富豪にしてメディア王のパーカー・ウェンブリーに買収されたという衝撃の現実を告知。あんな保守的な奴が…と憤慨し、勢いのままその職場を辞めてしまいます。しかし、フレッドひとりには力もなく、やむを得ず友人のランスに頼るしかありません。求職中です。忙しくなりたい…。

一方、アメリカの政治の中心。ここで最年少の女性国務長官として毎日を送るシャーロット・フィールドは、膨大な職務に忙殺され、風呂場で気絶するように眠りこけるほどの疲労を蓄積。忙しすぎる…。

ある朝、チャンバース大統領と二人で話し合っていた彼女は、大統領が再選のための選挙には出ないという重要な決断をポロっと聞かされます。なんと映画界にデビューしようかななんて話も。

ちなみにこのチャンバースを演じているのはドラマシリーズ『ブレイキング・バッド』や『ベター・コール・ソウル』でおなじみの“ボブ・オデンカーク”。若干のメタギャグになってますね。

ともかく思わぬポッカリ空いた次期大統領候補の席。シャーロットはその場で自分が大統領選挙に出るという大きな決断をし、大統領も彼女を前向きに支持してくれました。思わずガッツポーズでチャンスを手に入れた喜びを噛みしめるシャーロット。さっそく部下のマギートムを引き連れて会議を開き、大統領選挙に勝利するための戦略をあれこれ考え始めます。自分の印象は悪くはない、あとは支持基盤をどう固めるか…。

有力者が集まるパーティ。ランスに連れられてフレッドはこの華やかなパーティにやってきましたが、ただポカンとするだけ。そんなとき、ふと参加者の中にリズムに合わせて体を揺らすシャーロットを目撃。実はフレッドがまだ13歳だったとき、自分のシッターになってくれた16歳の女子がまさにシャーロットなのでした。その時からフレッドはメロメロになっていましたが、ここでまさかの再会。

視線に気づいたのかシャーロットはフレッドと話をしますが、すぐには思い出せず。フレッドもさすがに当時の恋心はすっかり過去になっていましたし、何より彼女とは立場が違いすぎました。

そこへ例のウェンブリーが登場。なお、演じているのはモーションアクターで有名な“アンディ・サーキス”。今作でもずいぶん手の込んだキャラになってました(あそこまでする必要もないのだけど…)。

そのウェンブリーと露骨に嫌そうに会話するフレッドは、思わず感情が高ぶり、暴言を吐きます。しかし、ヘマをして周囲の笑いものになってしまい…。

ただそのインパクトだけは絶大で、シャーロットの記憶には鮮明に刻まれたのか、フレッドの書いたコラム記事を読んで気に入り、彼を選挙スタッフに引き入れることを考えだします。確かに人手はいるけどあれはちょっと…と思っているマギーは驚きますが、言われたとおりフレッドに電話してワシントンまで来てもらうことに。

シャーロットはフレッドを自分のスピーチライターという重要な仕事で雇用することに決めます。もちろん下手なスピーチであれば自分の印象は最悪になり、大統領など夢のまた夢。しかし、不安も多い中でのストックホルムでの環境問題に関するスピーチ。これをあえて無難で穏便な内容のものではなく強気なストレートのものにすべきとフレッドは進言し、結果、スピーチは聴衆の心を揺さぶりました。

こうしてフレッドとシャーロットは二人三脚をすることになりますが、その関係にはしだいに恋が芽生え…。

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男性視点だけで見るのではなく

『ロング・ショット 僕と彼女のありえない恋』を紹介するとき、「ステレオタイプな男女の役割を逆転させたロマコメ」と言われることもしばしばですが、私としてはその表現は不適切ではと思います。

というのも別に今作は“キャリアをもった男性”のステレオタイプがそのまま“キャリアをもった女性”に移り変わったわけではないからです。『軽い男じゃないのよ』とは全く違います。シャーロットは「私についてこい」と高圧的に接してきたりしませんし、ハラスメントもやりません。

また、日本の宣伝にあるように「高嶺の花を射止める」ことを目的としたドラマでもないとも思います。シャーロットはフレッドにとってのトロフィーなんかじゃないです。そもそも“キャリアをもった女性”をそういうふうに見ているのならば、結局はステレオタイプじゃないですか。邦題が「僕と彼女のありえない恋」になっている時点で男性視点オンリーであり、そこからしておかしいのですが…。「彼と彼女のありえない恋」にすればいいのに…。

宣伝自体が男性視点ゆえに先入観になってしまいますが、『ロング・ショット 僕と彼女のありえない恋』はシャーロットとフレッドという関係を通して「キャリアアップに立ちはだかるジェンダーの壁を二人の協力で互いに取り除いていこう」とする姿を描いているのだと思います。それがこのタイプのラブコメの魅力なんですよね。

そもそも恋愛の成就は本作のゴールではないです。フレッドとシャーロットはもう中盤すぎたあたりでセックスだってしているのですから。セフレとかではなく、愛のもと。

だから宣伝とかで話題にしているような、某女優と某男性芸人の婚約とは全然違う次元の物語です。そこになぞるなら、その某女優が監督になりたいと希望し、それを某芸人が支えて成就させたら、『ロング・ショット 僕と彼女のありえない恋』と近しいものになるかもですけど(それって『マリッジ・ストーリー』だな…)。

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「ロング・ショット」の意味

『ロング・ショット 僕と彼女のありえない恋』は原題が「Long Shot」といいます。直訳すると「長距離の射撃」のような感じですが、他にも「大胆で、勝ち目の薄い企て」という意味合いもあります。

この「大胆で、勝ち目の薄い企て」というのは、安易な男性視点的で見れば「シャーロットを射止めること」だと思ってしまいますし、宣伝側もそう解釈しているようです。

でも根本的に最終目標となる「大胆で、勝ち目の薄い企て」は「シャーロットが大統領になること」なんですね。それをどう達成するのかという話です。

シャーロットは政治家として人気も実力もあります。人柄だっていいです。彼女が男性ならば大統領になるのに障害はほぼなかったでしょう。ところがなれない。そこにはガラスの天井があります。

その壁をフレッドは白人至上主義団体にも潜入できる持ち前の度胸の強さで壊す手伝いをしてくれます。そもそも彼は権力者のウェンブリーにも動じずに主張できる人間です。そこを評価されてのシャーロットのスピーチライターに。そして環境保護のスピーチでは女性であるシャーロットにハッキリした物言いをさせます。この時点でフレッドはかなり既存の有害的男性とは真逆なことをやってのけています(グレタ・トゥーンベリの一件を見ているとよくわかりますね)。

けれどもとんでもない最大の難題が。ノートパソコンのカメラハッキングによるフレッドのオナニー動画流出事件。政治スキャンダルとしては最もヤバいタイプのものですが、それへの対処手段が「素直に公表する」というのも上手いです。そもそも私たちの関係はスキャンダルでもないでしょう、と。

これが本作の最後の「Long Shot」です。私たち二人の関係を国民は祝福してくれるだろうか。それと同時に女性大統領としても認めてくれるのだろうか。結果はあのとおりでした。

本作のゴールは二人の同意の自己満足ではなく「社会に受容されること」。これで初めて達成されたことになる。

キャリアを勝ち取ったのはシャーロットだけではありません。「First Mister」となったフレッド。それは文字どおり“ファースト”なことを成し遂げた男でもあるのです。それは紛れもなく誇れるキャリアでしょう。

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アホはアホでいい

『ロング・ショット 僕と彼女のありえない恋』の主演二人。このベストカップルっぷりも堪能しがいありで、この二人以外でこの映画は成しえないです。

“セス・ローゲン”は正直いつもの“セス・ローゲン”なのですが、今回はそのいつものキャラを逆手にとっていました。従来であればとにかくアホをするキャラ。ゆえに今作でも観客はどこか危なっかしさを彼に感じます(案の定、序盤にやりすぎだろうというくらいのスラップスティックを見せていますが)。

でもそのキャラクター性がジェンダーの壁をぶち破る弾丸としてこれ以上なく機能しているんですよね。これは“セス・ローゲン”にしかできそうにない。

一方の“シャーリーズ・セロン”は政治家としての佇まいといい、オーラといい、完璧。でもだからこそのあの立ち寝みたいなギャグや、街でのハメ外しが笑いになっており、最高すぎます。人質事件を見事に解決してみせての「motherfucker」とか名シーンだったなぁ…。アホに振り切った“シャーリーズ・セロン”もさまになっている…。

『ロング・ショット 僕と彼女のありえない恋』は教えてくれました。もう恋愛は“シンデレラストーリー”で語るなんて“ありえない”のだ、と。私たちは恋愛という被写体をもっと「long shot(遠写し)」で撮るべきなのではないですか。社会と交えながら。

『ロング・ショット 僕と彼女のありえない恋』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 81% Audience 75%
IMDb
6.9 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 7/10 ★★★★★★★

作品ポスター・画像 (C)2019 Flarsky Productions, LLC. All Rights Reserved.

以上、『ロング・ショット 僕と彼女のありえない恋』の感想でした。

Long Shot (2019) [Japanese Review] 『ロング・ショット 僕と彼女のありえない恋』考察・評価レビュー