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『LOU ルー』感想(ネタバレ)…Netflix;この老婆、強くて過去がややこしい

LOU/ルー

この老婆、強くて過去がややこしい…Netflix映画『LOU/ルー』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:Lou
製作国:アメリカ(2022年)
日本では劇場未公開:2022年にNetflixで配信
監督:アンナ・フォースター

LOU ルー

るー
LOU/ルー

『LOU ルー』あらすじ

島々からなるアメリカの片隅の地で愛犬と人知れずに静かな生活を送っていた初老の女性。荒れ狂う嵐の夜、その女性は自分の役割を終えたと感じていた。しかし、少し離れた隣の家に暮らしているハンナとその幼い娘に逼迫した問題が起こったことを知り、躊躇することなく行動にでる。自らの暗い過去が立ちはだかる中で、その初老の女性は自分の持っているスキルを総動員して事態を収拾しようとするが…。

『LOU ルー』感想(ネタバレなし)

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嵐よりも厄介な事態が…

2022年の日本の9月は3連休が2連続で連なっていて、いわゆるシルバーウィークだったわけですが、「よし、じゃあ観光だ!楽しもう!」という雰囲気ではありませんでした。ご丁寧なことに台風がそれぞれの3連休ごとにひとつずつ日本に到来し、列島を襲ったからです。何も連休に合わせて来なくてもいいのに…。

場所によっては甚大な被害を発生させたようで、被災者の人々は心が落ち着かない日々を過ごしたと思います。気象庁の再三の警告に関わらず、この台風の直撃の最中に旅行を決行した人もいるみたいですが、被災地ではろくに観光もできなかったでしょう。何度も忠告しますが、台風の深刻な被害が想定される予報がでたときは、素直に旅行はキャンセルするべきです。実行する勇気よりも撤退する勇気の方が大事になるときがあるものですよ。

今回紹介する映画も出だしから嵐が襲来します。でも嵐自体は題材ではありません。それよりももっと厄介なことが起きます。嵐以上に厄介なことなんてあるのか?という感じですが、それがあるんです。しかも、とんでもなくややこしい…。

それが本作『LOU ルー』です。

本作は、ある初老の女性が主人公。犬と一緒にのんびり暮らしている、いかにも高齢者の単身生活というスタイルなのですが、何やら人には話せない事情を心の奥底に隠しているような佇まいを見せます。そして、あんなことが起きる…。それに対してこんなことをやってのける…。それであんな大事態になり、こんなことできるのか!?という行動でそんな状況を突破し、でもああなってしまって…。いや、もっとちゃんと説明しろよと言われそうですけど、どこまで説明したらいいのだろうか、この映画…。

設定が非説明的に進んでいき、後々で明らかになっていくタイプなので知らない方がいいです。ネタバレすると全然面白くもなくなってしまいますからね。

とりあえず何かのっぴきならない過去を抱えた老人が人生終盤で大一番の山場を乗り越えることになるタイプのクライムサスペンスです。同類の作品だと最近はドラマ『ザ・オールド・マン 元CIAの葛藤』がありましたね。あっちはジジイでしたけど、こっちはババアで攻めるって感じかな。

でも両作品とも犬を飼っているという共通点があるのが、なんかとってもアメリカの伝統的な老人生活ですよね。しかも大型犬。自然と“犬”作品にもなってくる…。

ちなみにみんな気になるあの問い…「犬は死なないのか?」ですが、犬は元気です。『LOU ルー』に登場する犬は優秀で頼りになります。仕事は的確です。

まあ、でもなんかこうやって犬の生死ばかりピックアップするのもよくないかなとは思いもするのですが…。映画の視聴時の注目も犬にばかり集まってしまいかねないし…。今作はまだ別にいいのですけど、犬が物語を大きく左右するような要素だったら、犬の生死だって言及するのは大きなネタバレになり得るでしょうし、そういうときはどうしたらいいのかな…。

映画に出てくる犬や猫の安否が過剰に心配されすぎてしまう問題は別に議論するべき案件だな…。

それはともかく『LOU ルー』です。この映画を監督するのは、ドイツ出身の“アンナ・フォースター”。現時点で50歳のベテランで、『エイリアン4』の第2撮影班で撮影を担当するなどして、いろいろな作品に携わって実績を重ね、最近は『クリミナル・マインド FBI行動分析課』などのドラマのエピソード監督も手がけ、さらに2016年には『アンダーワールド ブラッド・ウォーズ』を監督しました。

『LOU ルー』の製作に関与するのはおなじみの“J・J・エイブラムス”で、彼のスタジオである「Bad Robot」がプロダクションです。別にこの『LOU ルー』はこれまでの“J・J・エイブラムス”作品っぽいところは全くないと思うけど…。

俳優陣ですが、主人公を熱演するのは、エミー賞を多数受賞した輝かしい経歴があり、映画業界でも2017年に『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』で圧倒的な演技を見せつけ、アカデミー助演女優賞を受賞したばかりの“アリソン・ジャネイ”。『LOU ルー』では白髪だらけでかなり年に見える風貌になっていますが、この程度の演技はラクなものでしょう。

共演は、『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』やドラマ『ラヴクラフトカントリー 恐怖の旅路』の“ジャーニー・スモレット=ベル”、『アップグレード』の“ローガン・マーシャル=グリーン”、『ホワイトハウス・ダウン』の“マット・クレイヴン”など。登場人物は少ないのでシンプルです。

『LOU ルー』はNetflixで独占配信中。暇な時間にどうぞ。

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『LOU ルー』を観る前のQ&A

Q:『LOU ルー』はいつどこで配信されていますか?
A:Netflixでオリジナル映画として2022年9月23日から配信中です。
✔『LOU ルー』の見どころ
★老女と犬の活躍が見れる。
✔『LOU ルー』の欠点
☆物語自体はオリジナリティは低い。
日本語吹き替え あり
塩田朋子(ルー)/ 興津和幸(フィリップ)/ 鷄冠井美智子(ハンナ)/ 弘松芹香(ヴィー)/ こねり翔(ランキン) ほか
参照:本編クレジット

オススメ度のチェック

ひとり 3.5:暇つぶしに
友人 3.5:派手さは乏しい
恋人 3.0:ロマンス要素は無し
キッズ 3.0:やや暴力描写あり
↓ここからネタバレが含まれます↓

『LOU ルー』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):この時が来てしまったか

スコップを手にするひとりの老いた女性。考え詰めるように立ち、いざルー・アデルは犬のジャックスと共に近くのある場所に行き、雨が降り注ぐ中、何かを掘り出します。その箱のようなものを家に持ち帰り、中から資料を取り出し、それを暖炉に放り投げるルー。椅子に座り、やることはやり尽くしたので、最後の時間を味わいます。そして銃を手にして自分の喉元に向け…

その少し前…。日が出ている頃、ルーは鹿を狩っていました。ここは海辺の町であり、テレビでレーガン大統領が映っていました。ルーは銀行に向かい、全額を出金。大金を袋に入れ、車に戻ります。知り合いである保安官のランキンが犬のジャックスをあやしていました。「鹿が飛び出してきたのか?」と聞かれるもテキトーに返事するルー。車で家に戻ります。その車を公衆電話から見つめる視線が…。

暴風雨の予報がラジオから流れていました。フェリーは運航停止。ここは島なのでしばら孤立します。

森にあるルーの家の少し離れた隣には、ハンナとその娘のヴィーが暮らしていました。ハンナは嵐に備えて畑を囲う作業の真っ最中。遊び盛りな子どもに付き合ってあげつつ、ヴィーは隠れに行ってしまいます。

そこにクラクションを鳴らしてルーの車が到着。ルーは家賃を明日に払うように要求。ルーは何かを言いかけて去っていきます。

しかし、目の前にヴィーが飛び出し、急停車。駆け寄るハンナ。無事のようです。「ここは遊び場じゃない、ちゃんと注意させて」とルーは言い去ります。

ハンナのもとにクリスという男がやってきて、「またルーと何かあったの」と心配してくれます。「父親のことをヴィーに話した?」とクリスは慎重に訊ねますが、ハンナはまだ決心できないようです。

激しく雨が降ってくる中、土砂降りでずぶ濡れになって道に立ち尽くす男をクリスは乗せてあげます。クリスは男と車内で打ち解け、夫を亡くしたルーを気にかけている話をします。その瞬間、隣にいた男はクリスをぶちのめし…

夜、ハンナはヴィーに父親のことを言いかけ…言葉に悩んだあげく無難な「愛している」と告げるだけでした。ヴィーをベッドに寝かしつけると音がし、停電。ブレーカーを見に、懐中電灯を照らして外へ向かうハンナ。

一方、ヴィーは大きな物音を聞いて不安になり、隠れます。ドアノブが外れ、ガスが入り込んできて…。

ハンナは外に放置されていた車の中にクリスの遺体を発見し、急いでヴィーのもとに走って帰ります。でも部屋のどこにもいません。

その頃、自分の喉元に銃口をあてるルーでしたが、急にパニックになったハンナが入ってきます。

「娘が父親に連れ去られた。死んだはずなのに現れた…」

この時が来てしまったのか…。ルーはわかっていたかのように素早く身支度し、武装して、ヴィーを探しに向かいます。過去に決着をつけるためにも…。

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ラストの対決は絵が美しい

『LOU ルー』は冒頭から意味深な登場人物の行動ばかりが目立ちます。ルーの何か過去とけじめをつけて自ら人生を終わらせようとするかのような態度。そこにはお隣のハンナに何か言いたいような心残りも見えます。そしてハンナもまた自分の娘であるヴィーに何か言わないといけないけどそれを口にできないというもどかしさを抱えているようです。

明らかにワケあり。そんな観客には真相が提示されない中、ヴィーが謎の人間に誘拐されてしまう事件が発生し、説明は後回しにルーとハンナの即席チームによる救出が開始されます。

まずこのルーの佇まいが凄まじく、“アリソン・ジャネイ”の鬼気迫る顔つきと、ヘビーな人生を生き抜いてきたのだろうなと思わせる全身から溢れる迫力で、こちらの目を釘付けにしてきます。さっきまで自殺しようとしていたのに、ハンナが飛び込んて来た瞬間のあの臨戦態勢と、素早い救出準備への移行。完全にプロフェッショナル。加えて車が爆破されても全く動じず、次の手を立案しますからね。私だったら自分の車が爆発したら、しばらく放心状態ですよ…。

その後も「弱々しい老人のふり作戦」とか、戦略的に敵を攻めていき、このルー、現役で戦闘要員になれそうな強さを随所で発揮します。

真相はわりとすぐに明かされ、ヴィーを誘拐した男、ハンナの死んだはずの夫であるフィリップは、特殊部隊にいて中米で人質を拷問していたことで指名手配されたヤバイ奴で、しかもルーの息子でした。ルーがそもそもこの世界に息子を引きずり込んでいたわけで、そんな狂気の息子からハンナとヴィーを守るためにわざわざこのお隣の家を提供していた…という背景です。

そんなこんなで自暴自棄に狂ってしまったフィリップとルーの一騎打ちがクライマックスに開幕。ここの波打ち際で対峙する2人のショットがとてもカッコよく、本作の一番の白眉になっていました。木の棒で迎えうとうとする無謀さと、そこからの粘り強い格闘を見せるルーの気迫がやはりここでも炸裂。「老父vs息子」の因縁の対決はよくあるけど、「老母vs息子」のバトルはなかなかないですね。しかも肉弾戦ですから。そもそもの元凶である母にケリをつけたい息子と、歪んだ家父長制に沈んでしまった息子に引導を渡したい母の、それぞれの覚悟が伝わってくる闘いです。

ラストのハグからのヘリで銃撃される最期といい、綺麗な対決の終わらせ方でした。

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嵐に子どもを連れ回すのは大変です

ルーというキャラクター性はかなり良かった『LOU ルー』ですが、それ以外の諸々は全体的に詰めが甘いというか、雑な綻びが多いのが少し気になります。

そもそもフィリップが襲ってくるとわかっているなら、ルーの方からフィリップを探して攻めにいく方が絶対にいいと思うのですけど、なぜそうしないのか…。ルーもあれだけ強いんですからね。

それにハンナとヴィーを保護するにしても、この地をセレクトする意味もあまり感じないし…。本作の舞台となっているのは、ワシントン州のサンフアン郡という場所です。ここは200以上の島々からなる、アメリカの中でもかなり特殊な地形です。4つの大きな島があり、それらはフェリーが運航されているので行き来できます。島というとリゾート地みたいなイメージがありますけど、このサンフアン郡は比較的困窮している住人が多いそうです。隠れ住むにしても追い詰められたらおしまいになる地形ですけよね。

そして襲ってくる側であるフィリップの行動もなんだか中途半端で…。嵐の日に誘拐を決行しなくても…と思ってしまいます。児童誘拐を嵐の日にやるなんて犯行側にとってもハードすぎるし、リスクも高いし…。

児童誘拐描写がそんなに怖そうに見えないのは、たぶんトラウマ的なことに配慮したわけではなく、単純にフィリップの行動の合理性が妙に薄く、「こんな悪天候で児童を連れ回すのは大変だよな」という気苦労がこちらに伝わっちゃうからじゃないか…。人質を拷問したなんて過去話が飛び出すから身構えるけど、そんなたいしたバイオレンスもないですしね。

こうなってくるとフィリップは本当にその分野のエキスパートなのかと疑わしくなってくるような…。

個人的には敵となるフィリップの底知れぬ強さみたいなのをもっと徹底的に見せてほしかったです。「こいつ、どうやって勝てるんだ…」というくらいにエグイくらいに強力にして、知恵と戦術で反撃していく展開の方が盛り上がるんじゃないかな…。

エンディングでは財産と犬をハンナに譲渡して人生を終えたかに見えたルーでしたが、船で近くから見守っている姿が一瞬チラリと見えて映画は終わります。これはこれでずっと監視という名の見守りが続くのもハンナにとっては気持ち悪いだけじゃないかと思うのですけど…。本作ではつくづくハンナの自主性や独立性が軽視されすぎな気がする…。

本作から学べるのは、嵐の日に何か大事なことを決行するのはやめましょうということですかね。

『LOU ルー』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 65% Audience 68%
IMDb
5.9 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
5.0

作品ポスター・画像 (C)Netflix

以上、『LOU ルー』の感想でした。

Lou (2022) [Japanese Review] 『LOU ルー』考察・評価レビュー