最速のデザイン修正が良い結果に…映画『ソニック・ザ・ムービー』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2020年)
日本公開日:2020年6月26日
監督:ジェフ・ファウラー
ソニック・ザ・ムービー
そにっくざむーびー
『ソニック・ザ・ムービー』あらすじ
宇宙最速で走るパワーを持つ青いハリネズミのソニックが、故郷を離れて遠い地球へとやって来る。しかし、そこには友達と呼べる存在はひとりもおらずソニックは寂しく誰にも知られずに暮らしていた。ひょんなことから出会った保安官トムとバディを組んだソニックは、マッドサイエンティストのドクター・ロボトニックが企てる陰謀を阻止するべく全力でぶっ飛ばす。
『ソニック・ザ・ムービー』感想(ネタバレなし)
失速…からの最速ダッシュで挽回!
誰だってヘマをしてしまうときがあります。仕事でも、勉強でも、恋愛でも、友情でも、家族でも…失敗は不意にやってくるものです。
そんなとき、「これは失敗なんかじゃない!認めないぞ!」と意地を張るくらいなら、さっさと自分の過ちを認めて「ごめんなさい!改善します!」と潔さを示す方がたいていは良い結果を生むものです。トライ&エラーの繰り返しが上達の基本。失敗を繰り返して強くなるのです。
テレビゲームをやっているとこのトライ&エラーの大切さを学べますよね。ゲームは「失敗→学習→挑戦」のルーチンワークを学べる最良の教材ですよ。
今回紹介する映画もそんなお手本になる“失敗からの挽回”を見せた一作でした。それが本作『ソニック・ザ・ムービー』です。
本作はタイトルのとおり日本の代表的なゲームメーカー「セガ」を象徴する作品「ソニック」シリーズを実写映画化したものです。知らない人のために簡単に説明すると、このゲームは音速で走ることができる青いハリネズミのキャラクター「ソニック」を操作するアクションゲームです。1991年に記念すべき第1作目のゲーム「ソニック・ザ・ヘッジホッグ」がメガドライブ(MD)で発売(懐かしい…)。そこからさまざまなゲーム機でシリーズを展開し、今でも新作が出続けている大人気コンテンツです。
ただ、実は日本よりも海外での人気の方が圧倒的に高いんですね。ディズニー映画『シュガー・ラッシュ』にもゲスト出演したり、そのワールドクラスなポピュラーさを証明しています。
その「ソニック」がハリウッドで映画化されるのも確かに知名度で見れば当然かなと思います。
ところが待望の『ソニック・ザ・ムービー』の予告編動画が世界初公開されるやいなや、思わぬ障害物が現れて勢いを失速させることになります。問題になったのは主役である「ソニック」のデザイン。
実写とはいえさすがにソニックはCGです。でもそのデザインが…なんか…なんか…違う。オリジナルのソニックを中途半端に人間風に寄せたアレンジがされており、これを見たファンから不満噴出。セガの関係者も苦言を呈すなど大炎上し、あまりにもヘンテコなデザインは大喜利状態でネタ化し、こっちの方がいいと一般人の改善映像が支持されたり、散々な結果になりました。
しかし、製作陣の対応は最速でした(ソニック並みに)。すぐさまデザインの修正を発表。映画の公開を延期させてまでの判断。そして、改善後のソニックのデザインは見慣れたいつもの姿になっており、ファンもひと安心でした。
さらに映画公開後は大ヒットすることができ、なんとゲーム原作の映画としてはアメリカで最も興行収入を記録した映画となり、栄光の1位を独走できたのです。おそらくソニックのデザインがあのままだったらそこまで良いヒットにはならなかったでしょうし、ほんと、修正して良かった。世の中にはデザインが不評で公開までに修正変更する映画もたまにありますが、それでも大ヒットはしないこともあり、努力が報われないこともしばしば。でもソニックはやはり人気があったおかげか実りがありました。
私は何よりも「こんなデザインは嫌だ!」とアメリカのファンたちが声を上げてくれるのが嬉しいなと思いました。愛されてるんだなぁ…。
その『ソニック・ザ・ムービー』の監督は“ジェフ・ファウラー”という、これが長編デビュー作となるアニメーターの人が抜擢。製作には『ワイルド・スピード』シリーズを成功に導いた“ニール・H・モリッツ”と、『デッドプール』など大作で活躍し始めたアニメーターの“ティム・ミラー”が揃っています。
俳優陣は、ソニックの声を“ベン・シュワルツ”が演じるほか、ソニックの宿敵として有名な狂気の科学者を“ジム・キャリー”が熱演。また、『X-MEN』シリーズでおなじみの“ジェームズ・マースデン”や、『サウスサイドであなたと』で高く評価された“ティカ・サンプター”なども「普通の人間」代表として登場。
「ソニック」ゲームのファンなら大満足の愛溢れる作品になっていますし、「ソニック」を知らない人もここからスタートダッシュできる易しいコースになっているので、思う存分走り抜けてください。
オススメ度のチェック
ひとり | ◯(ファンなら観に行こう) |
友人 | ◯(ゲーム好き同士で) |
恋人 | ◯(気軽に見やすいエンタメ) |
キッズ | ◎(子ども向けでもあり、楽しめる) |
『ソニック・ザ・ムービー』感想(ネタバレあり)
宇宙最速のハリネズミは地球で暇する
いきなりビル街で高速バトルが展開されているシーンで始まる本作。逃げているのは青い二足歩行するなんだかよくわからない奴と、追っているのは空飛ぶメカに乗るこれまたよくわからない人間の奴。一体なぜこんなことになったのか。物語の始まりは少し昔、別の世界に…。
ちっちゃなソニックは走るのが得意で、今日も“世界”を爆走中。自分の生まれた島を走り尽くして楽しんでいます。フクロウのロングクローおばさんとお喋りをしていると、謎の襲撃者が出現。どうやらこの集団はソニックの力が目当てのようです(ちなみにこの集団はソニックのライバルであるナックルズの民族なんでしょうね)。飛んで逃げるも、矢で撃たれたロングクローおばさんは「この世界とは別の世界へ逃げなさい」とリングでポータルを開き、残りのリングを渡してソニックだけを送り出しました。
こうしてソニックは見知らぬ世界で生きることになります。その世界の名前は「地球」…。
それから10年後。モンタナ州のグリーンヒルズ。道路で速度取り締まりする警官(保安官)がひとり。彼の名前はトム。しかし、ここは田舎町であり、車は1台も来る気配がありません。あまりに暇なので、同僚のウェイドと連絡して無駄話するくらいしかなく、警官としての正義心を持てあましていました。
すると一瞬何かが凄いスピードで通りすぎた…ような気がします。そして速度計に凄い速度が記録され、機械の故障か?と疑うも、外で青い毛みたいなものを拾うのでした。
トムがその場を去った後、その道路で車に轢かれそうなカメを救ったのは…すっかり成長したソニックです。カメに高速体験させてあげた後は、隠れ家でひとりピンポンしたりと楽しそうに過ごします。
グリーンヒルズではソニックの存在は気づかれていません。青い悪魔を見たというじいさんもいますが、戯言扱いです。ソニックの一番の暇つぶし相手はトムで、勝手にトムと妻マディの家を覗き、映画鑑賞を盗み見たりしています(キアヌ人気)。
そうとは知らないトムは家の前のゴミを漁るアライグマを追っ払い、妻マディにサンフランシスコ警察署に配属されることになったことを報告。マディは先に姉の家に行って下見しておくことになりました。
ソニックは今日は子ども野球の試合をこっそり見物。それに魅了されたので、夜にひとりでグラウンドでやってみることに。ピッチャーもバッターも守備も審判さえも全部ひとりで兼任。持ち前のスピードで実現できてしまいます。でも虚しい…。
孤独へのフラストレーションが高まり、がむしゃらにグラウンドを走るソニック。すると強烈なパワーが発生し、街が停電してしまいました。
それを受けて政府の要人たちは議論をしていました。不自然な停電現象は未知のエネルギーによる電磁パルスであり、解明が必要である、と。そこで専門家がいるということになりますが、「あいつ?」「変人だ」「他に選択肢はない」と半ばしぶしぶ任せられるあの人を招集することになりました。
翌日のグリーンヒルズ。軍が取り仕切る中、ものものしい乗り物から降りてきた黒い服の口髭男。この見るからに怪しい奴はドクター・ロボトニック。軍の少佐をバカにして自ら仕切り始めると、謎の空中浮遊マシンをばらまき、その卵型ドローンが森を探索。さっそく足跡を発見。地球上の生物ではないと分析します。
その頃、身の危険を感じたソニックは長年慣れ親しんだ洞窟を出ることに。ソニックは他に行き場所がないのでトムのガレージに隠れていました。そこへ偶然にもトムが入ってきて、しかもアライグマだと思って持ってきたトムの麻酔銃がソニックの足に当たってしまい、ソニックは気絶。トムのシャツのサンフランシスコを見たせいで、転げ落ちたリングはポータル化してそこにつながってしまい、リングの袋だけがサンフランシスコのどこかに落ちてしまいました。
ソニックとトム。速度が合いそうにない凸凹コンビの誕生です。
作品愛が詰まっていればそれでいい
ゲームの実写映画化は『名探偵ピカチュウ』のときも書きましたが、ゲームの遊び体験を映画に反映できない以上、作品愛をたっぷり詰め込むしかないものです。それが映画化を成功させる王道にして、唯一のスタンダードな攻略法。
その点、『ソニック・ザ・ムービー』は公開前に手痛い大失態をしてしまいましたが、最速のリカバリーを見せて、いざ公開された作品は見てのとおり愛に溢れたものになっていました。ちょっとゲームを知っているファンにしかわからないことですけど、本当に映画のいたるところにオリジナルのゲームへの目配せが散らばっています。
まず冒頭のパラマウント映画のロゴの登場からしてテンションを高める演出になっていますが、この「リング」というアイテムをどう使うか、難しいところだったと思います。ゲームでは収集アイテムであると同時にソニックの体力としての意味合いもあるわけです。ミスをするとソニックはリンクをばらまいてしまい、なくなると終わりです。映画ではリングをポータルのアイテムという映像的な見せ場として使いつつ、ちゃんとソニックが大きなヘマをすると袋のリングが散らばる展開になっており、このへんも非常に芸が細かいですね。
アクション面では基本的にソニックの武器は高速移動なので、『X-MEN』シリーズのクイックシルバー みたいな映像演出が連続し、正直、既視感はあります。でもバーでのハチャメチャ大乱闘とか、サンフランシスコのビル屋上(トランスアメリカ・ピラミッド)でのミサイル回避とか、ただ見ているだけでも愉快なのであまり退屈しないというか…。やっぱり高速移動は楽しいんだなというバカみたいな感想に落ち着きました。
道路でのドクター・ロボトニックとのカーチェイスでは、倒しても倒してもしつこく次のメカが出てくる感じがいかにもゲームっぽくてここも楽しいところ。
ゲーム愛を感じる箇所は他にもいっぱいあって、ソニックはお決まりのポーズをとったり、どこかで聞いたことがある曲や効果音が流れたり、見たことのある小物があったり…。映画を観れば観るほどに発見がありそうです。エンドクレジットのゲーム風の映像も多幸感で満たされます。
なお、ソニックは作中でキノコの惑星に行くかどうかで悩み、かなりの嫌悪感を示していますが、これはそういうステージがゲームにあるのもそうなのですが、おそらく「スーパーマリオ」シリーズへの言及も遊び半分であるのでしょうね。
こうやって振り返ると昨今のゲームの映画化は安定感がありますよね。ひと昔前は本当に酷いのがゴロゴロあったからなぁ…(どれとは言わない)。
実はあれは娘のために頑張るパパ
その主役ソニックに負けず劣らずの存在感を示しているのが、悪役であるドクター・ロボトニック、後に「ドクター・エッグマン」として覚醒するあの変人です。自称「悪の天才科学者」で、自身を「世紀の頭脳を持つ大悪党」などと言い放つ自意識過剰のイタイ奴であり、ある意味、ソニック以上に映像化が難しいのでは?と思ってしまうキャラクター。
しかし、“ジム・キャリー”のさすがの怪演で、すっかり納得の存在感になっていました。クセの強さを完全に自分流に変えているあたりは“ジム・キャリー”の才能ですね。作中ではかなりアドリブも多くやっているらしく、あのノリノリでダンス(というかパフォーマンス)をするシーンはほぼ即興なのだとか。
ちなみに“ジム・キャリー”は本作の出演を決めた理由に、自分の娘がソニック好きだからという事情があるようで、つまりあの熱の入りまくりな即興ダンスも、ひとえに娘のために頑張るパパの姿なのです。そう考えると、“ジム・キャリー”、良い父だなぁ、と。
“ジム・キャリー”の渾身の「OMOSHIROI」が聞けるのは字幕版だけですね。
ストーリー自体は極めてシンプルで、ほぼソニックの世界観のプロローグというか、お披露目くらいの感じです。実際に製作陣もわかりやすさを重視してプロットを最小限シンプルにしたのだとか。登場人物も相当に少ないです。
意外なのはソニックの相棒になる人間キャラをこの手のファミリー映画の王道で「子ども」にしていない点。田舎でくすぶる成人男性にするというのは一見すると合わなさそうですが、童心に帰るというカタルシスもあって、ソニックの単純なエンタメ性としてもこれはこれでアリかなと思えるフィットをしていました。
個人的にはドクター・ロボトニックのもとで働くエージェントとの漫才的な掛け合いをもっと見たかったし、まだまだ脇役の見せ場もあり得る余地があったので、なんかもったいないなと思う部分もあったのですが、でも続編もめでたく決定ということで次にも期待ですかね。
ラストではソニックの仲間キャラである黄色い子キツネ「テイルス」も姿を見せ、次作への期待を煽ってきます。「ソニック」シリーズは本当にキャラの数が多く、まだまだ魅力的な愛されキャラがたくさん控えていますから、今後はいくらでも進化できるでしょう。
逆に堅実な作り方で足場を固め、大ヒットさせて次へと難易度をあげてステージアップするなんて、とてもゲームっぽいスタンスではないですか。『ソニック・ザ・ムービー』、そのへんは侮れませんね。
最後に、ソニックも魅力的ですけど、リアルのハリネズミは可愛いということだけは宣伝しておきます。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 64% Audience 93%
IMDb
6.6 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 6/10 ★★★★★★
関連作品紹介
続編の感想記事です。
・『ソニック・ザ・ムービー ソニックVSナックルズ』
作品ポスター・画像 (C)2020 PARAMOUNT PICTURES AND SEGA OF AMERICA, INC. ALL RIGHTS RESERVED. ソニックザムービー
以上、『ソニック・ザ・ムービー』の感想でした。
Sonic the Hedgehog (2020) [Japanese Review] 『ソニック・ザ・ムービー』考察・評価レビュー