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ドラマ『Love, ヴィクター』感想(ネタバレ)…あなたの青春の味方になってくれる

Love, ヴィクター

あなたの青春の味方になってくれる…「Disney+」ドラマシリーズ『Love、ヴィクター』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:Love, Victor
製作国:アメリカ(2020年~)
シーズン1:2020年にDisney+で配信(日本)
シーズン2:2021年にDisney+で配信(日本)
原案:アイザック・アプテイカー、エリザベス・バーガー
イジメ描写 LGBTQ差別描写 性描写 恋愛描写

Love, ヴィクター

らぶびくたー
Love, ヴィクター

『Love, ヴィクター』あらすじ

ヴィクターは家族と一緒に新天地に引っ越してきて、クリークウッド高校での新しい学校生活が始まった。友人もイチから作り直さないといけない。しかし、ヴィクターは心の奥では密かに期待していた。以前の住んでいた地域よりもこの地の方が寛容で息苦しさはないかもしれない。実はヴィクターは自分の性的指向について悩んでおり、同性へのドキドキを感じていた。そして、ロマンチックな出会いが目の前に…。

『Love, ヴィクター』感想(ネタバレなし)

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ついに配信してくれました!

同性愛などセクシュアル・マイノリティへの差別の問題が取り上げられたとき、「そんなの気にしなければいいんだよ」という言葉をかける人がいます。差別をする人の相手などせず、その嫌な言動も無視すればいい…そういう趣旨の主張です。非当事者の人でも、場合によって当事者の人の中にもそんなことを言い放つ者もいます。

確かにそれでどうにかなる人ならそれでいいのかもしれません。しかし、同じ性的少数者と言えども、置かれている状況は千差万別。個人差があります。ちょっと我慢すれば吹き飛ばせる程度の差別しか受けていない人もいれば、命を脅かすほどの劣悪な差別が襲ってきている人もいるのです。そんな極端ではないにせよ、この「当事者でも状況は違う」ということは常に頭に入れておかないといけません。

でもなかなかこの感覚は理解しづらいもの。なにせたいていの人は自分の目線でしか世の中を見ていません。視野を広く持つことは難しいですし、そのためには積極的に他者の立場を鑑みていかないといけないです。

そんな性的少数者の個々人の立場の違いを映し出すアメリカの青春学園ドラマシリーズが今回紹介する作品です。それが本作『Love, ヴィクター』

『Love, ヴィクター』は、2018年の映画『Love, サイモン 17歳の告白』と同一の学校を舞台にしたスピンオフ的なドラマシリーズとなります。『Love, サイモン 17歳の告白』はゲイの高校生男子であるサイモンを主人公にした青春恋愛ストーリーで、カミングアウトするかどうかで悩んだり、自分と同じ性的指向の人を見つけようと悪戦苦闘したり、青春真っただ中の当事者の葛藤が伝わるピュアな作品。高評価を獲得したのですが、日本では劇場未公開でビデオスルーだったのであまり知られていないのが残念です。

その好評となった『Love, サイモン 17歳の告白』の次なる企画として考案されたのが『Love, ヴィクター』なのですが、当初は「Disney+」で配信予定でした。しかし、同じくディズニー傘下である「Hulu」へと移ることが決まり(その理由は『ハイスクール・ミュージカル:ザ・ミュージカル』など同ジャンルのドラマがすでに「Disney+」であったこと、「Hulu」で予定されていた別のドラマがキャンセルになったこと、本作の内容がイジメ描写があるなど子ども向けではないなどが考えられます)、「Huluオリジナル」として配信がスタート。配信時から人気ドラマとなりました。

ところが、日本の「Hulu」は日本テレビ傘下なのでアメリカの本家「Hulu」のオリジナル作品が日本の「Hulu」では扱われない…。『Love, ヴィクター』が観れない…という事態に。

もう見れないのかなと諦めていたら、2021年10月27日、日本の「Disney+」の全面リニューアルにともない、新たなに「スター」というブランドが追加。「Hulu」のオリジナル作品も加わったのです。ということで『Love, ヴィクター』は「STARオリジナル」として一挙にシーズン2つ分が配信されました。それまでの観れなかった状況が嘘のようです。

そんなこんなで私も小躍りしたい気分ですが、この『Love, ヴィクター』は本当にオススメの一作。「Disney+」で何か面白いドラマはないかな~と探しているなら、とりあえずこれを推したいところです。とくに10代はこういう作品に触れて育ってほしいですね。あなたの悩みに寄り添い、味方になってくれるようなドラマですから。

各シーズンで計10話(1話あたり約30分)なので観やすいです。

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『Love, ヴィクター』を観る前のQ&A

Q:『Love, ヴィクター』を観る前に観たほうがいい作品は?
A:前作『Love, サイモン 17歳の告白』から主人公は新しい人にバトンタッチ。同じ学校が舞台と言っても時期も違うので前作を見ておかないと困るというほどではありません。でも前作主人公もさりげなく登場するので観ておくとより作品に入り込めるでしょう。

オススメ度のチェック

ひとり 4.5:肯定感をもらえる
友人 4.5:素直に語り合える友と
恋人 4.5:ロマンス要素いっぱい
キッズ 4.5:ティーンになったら観てほしい
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『Love, ヴィクター』予告動画

↓ここからネタバレが含まれます↓

『Love, ヴィクター』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):「僕はゲイだ」と言えるまで

クリークウッド高校の初日、SNS上で知り合ったサイモン・スピアーという人にメッセージを送るのはヴィクター・サラザール。サイモンはヴィクターがこれから通う高校在籍時にちょっとした伝説になった人物でした。みんなの前でゲイだとカミングアウトしたのです。ヴィクターはそんなサイモンに不安を打ち明けます。なぜなら自分もゲイではないかと疑っていたから…。

つい24時間前。ヴィクターは父アルマンドの転職でテキサスから新居に引っ越してきました。母イザベル、同じく10代の妹でビリー・アイリッシュのファンであるピラール、弟のエイドリアン。5人家族です。さっそく近所の同年代のフェリックスが挨拶をしてきて、無線機を渡してくれます。オタクながら気さくな良い奴です。

以前暮らしていたテキサスの学校生活は保守的で息苦しく、ゲイと向き合う余裕は欠片もありませんでした。この大都会ならもっと寛容で多様だとそう思っていました。

フェリックスの迎えで学校へ。まだ初日なので「何者にもなれるぞ」と言われます。オルブライト副校長も「今夜のウィンター・カーニバルに行けば友達はできる、サイモン・スピアーの伝説は有名よ」と得意げに語ります。ああ、やっぱり寛容なんだと浮き立つヴィクター。

そこにレイクミアいう女子が話しかけてきます。「彼女はいるの?」と気軽に聞かれ、「彼女はいない」と奥歯に物が挟まったような言葉を返すのがやっとのヴィクター。隣のフェリックスは女子が去った後、「クラスで一番のミアを魅了したな」と褒めてきます。

するとある男子生徒がヴィクターの目を釘付けにしました。ベンジ(ベンジー)・キャンベルという名らしく、ボーっと見ていると彼からも挨拶されます。フェリックスは「ベンジはゲイだ、勘違いされるとあれだと思って」と教えてくれます。

先生からバスケ部に勧誘され、入るのに500ドルかかることに面食らいつつも、部長のアンドリューに勝手に寄付対象にされて怒ります。するとキレやすい転校生として学校サイト「クリーク・シークレッツ」に書かれてしまいました。ピラールも「ドーラ」と同級生にいじめられ、うんざりな様子。

この「ドーラ」というのは幼児向け知育番組「ドーラといっしょに大冒険」の女の子の主人公で、ピラール含むサラザール家と同じくラテン系です。

帰宅すると母と父は喧嘩していました。仲はあまり良くないです。

夜にカーニバルの遊園地へ。スマホを見ると悩みを相談していたサイモンから返事が来ていました。

「心を開ける相手がいないのは残念だ。本当のことを言うのは僕でもきつかった。でもやってみなよ」「もし運が良ければどこかで君の人生を変えてくれる人に出会うかもしれない」

決心したヴィクターは、ベンジを素通りしてミアを観覧車に誘います。これで良かったのか、自分でもわからずに…。

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シーズン1:みんながそうとは限らない

ゲイの10代の若者を題材にした作品はこれまでもいくつもありました。『君の名前で僕を呼んで』『アレックス・ストレンジラブ』『Everybody’s Talking About Jamie ~ジェイミー~』、そして『Love, サイモン 17歳の告白』。重要なのはどれも「白人」が主人公だということ。

『Love, ヴィクター』は違います。主人公のヴィクターはラテン系。これが本作のドラマの肝になってきます。

まずラテン系が主役の青春学園ドラマが珍しいです。ここまでメジャーな作品として成功したのは初なのかな? 近年は『私の”初めて”日記』のインド系、『好きだった君へのラブレター』のアジア系など、マイノリティな人種がこの王道ジャンルで主役を飾る事例が目立っており、インクルージヴな取り組みの賜物です。

今回、主人公を演じた“マイケル・チミノ”。また素晴らしい逸材を見つけてきましたね。プエルトリコ系の母を持つ“マイケル・チミノ”はキャリアはほぼなく、今作で初の主役。初々しさの中に凛々しさもあるあの佇まいも良し。なんか“トム・ホランド”を思い出す…。ちなみに“マイケル・チミノ”本人はゲイではないのですけど、今作に起用されるにあたってゲイのいとこに色々話を聞いたそうです。

『Love, ヴィクター』は同じゲイでも人種や家庭環境が違えば直面する人生は当然異なってくるという事実を素直に描いています。私も前作『Love, サイモン 17歳の告白』を見た時は、これはあくまでリベラルで寛容な学校だからこういうテイストで描けるんだと納得していたのですが、まさにそんな甘い認識にパンチをかますドラマでした。

ヴィクターは先輩でありメンターであるサイモンに「みんながそうとは限らない、君は運がいい」と語ります。人種差別に苦しみながらの性的指向への葛藤はサイモンにも経験していないものです。保守的な祖父母や両親に反抗しつつも、スペクトラムな性的指向にあれこれと苦悩して、ゲイにもいろいろなかたちがあると知る。性的指向の判断は診断テストで済ますことはできない、いかに長い道のりかがよくわかる物語でした。

そこで第8話でのサイモンのセリフが印象的です。「(同じゲイとはいえ)人種も立場も違う。専門家にはなれない。でも、みんな君の味方だ」…まさに本作を象徴する言葉ですね。フェリックスも良い味方でした。

シーズン1のラストではついに両親にカミングアウト。味方がいるからできることです。

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シーズン2:差別と闘いながら

『Love, ヴィクター』のシーズン2は、ホモフォビア(同性愛嫌悪)と闘いながらいかに好きな相手と関係を構築していくか…という明確なテーマが設定されていました。こういうのは異性愛者は経験しないことです。差別がハッキリ描かれるのでシーズン1より対象年齢が少し上になったのですが、でもこれも現実的に直面するリアルな物語。

一緒に着替えるのは嫌だいう苦情でバスケ部を自主的に退部することになったり、学校でも散々。加えて最大の壁は両親。とくに信仰深い母は息子がゲイだという事実を受け入れてくれません。遠回しに否定する接し方が本当に生々しい…。

そんな中で「アライ(性的少数者の味方となる人)」になることは気安くできるものではないこともハッキリ提示されます。ここは大事です。私も実感しますが安直に「私はLGBTを何とも思っていないよ~」とか言ってくる人が多すぎますからね。大切なのは真摯さであり、加害者意識を持ち、当事者以上に踏み込んだ行動をとれるかです。

「『クィア・アイ』を見たくらいでアライにはなれない」と言われたアンドリューはちゃんと差別発言の部員を追い出し、髪を赤く染める態度で部を連帯させます。ヴィクターの父は「PFLAG」(1973年から実在する歴史あるLGBTQの子を持つ保護者団体です)に参加して、学ぶ姿勢を見せます。そしてヴィクターの母は偏見が露骨な牧師に対して「神を見限ったりしない、あなたを見限るの」ときっぱり断絶を宣言し、ベンジーにも謝罪します。

頑なだった母を変えるきっかけになるのが、兄がゲイでも「スポンジ・ボブもゲイだよ」とすんなり受け入れるエイドリアンなのも印象的。何を難しく考えていたんだと反省する大人。何を深刻になっているんだろうと不思議に思う幼い次世代。この構図、まさに現代です。

その主人公のドラマ以外にも、フェリックスとレイクの性的関係に焦らない男女の交際のかたちだったり、と思ったら双極性障害の母をめぐってギクシャクしたレイクからピラールとの関係に乗り換えたり、なんか急にモテキャラになったな、フェリックス…。

さあ、ヴィクターはひとめ惚れの男であるベンジを選ぶのか、マイノリティな人種として共通項も多いラヒム(ラヒーム)を選ぶのか…。

王道の展開ですが、その王道をこれほどのダブル・マイノリティが平然とやってのけているのがいいのです。

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シーズン3:誰と一緒にいたい?

※シーズン3に関する以下の感想は2022年6月19日に追記されたものです。

『Love, ヴィクター』のシーズン3は、さすがにこれが最終シーズンなので、完全に風呂敷を畳みにかかってます。

ドアベルを鳴らしたのは…ベンジの家でした。彼に「愛している」と告げて関係を修復。ピラールとフェリックスも良い関係になり、ヴィクターの両親も仲直りしたし、レイクは結婚式でウェイターをしていたルーシーと急接近してキス。ミアはアンドリューと関係を深める。なんだかもうこのシーズン3の第1話でハッピーエンドでいいかなという気分。

ところが過去のアルコール依存症と飲酒運転事故を引きずるベンジは施設に行くと決め、ヴィクターと別れ、距離をとります。こういう依存症を抱えるゲイの若者のような複雑な表象があるのもいいですね。

とはいえヴィクターにはショック。ラヒムとも別れてしまった後だし…。そこでニックという新しいゲイのボーイフレンドができて…。なんか惚れっぽいな、このヴィクター…。まあ、10代なんてこれくらいの緩さがあるか…。

それにしてもLGBTQフレンドリーな教会を登場させたりと、もうどんどん前に進みますね。両親もすっかりアライになってくれて、父なんかホモフォビアな上司にキレて仕事まで辞めるし…(なんでもゲイをつける母にはちょっと笑った)。

毎話ずっと人間関係を修復し続ける作業に追われつつ、いよいよ最終話。ヴィクターは勇敢賞といういささか素直に喜べない栄誉でスピーチをしないといけなくなりますが、しかし、ヴィクターはここでサポートする側に立つ。つまり、前作のサイモンと同じ側になったことで、作品としては綺麗な原点回帰オチです。

ベンジとは苦い別れになるのかなと思いましたが、カーニバルで一緒に観覧車に乗って王道のラブラブENDでしたし…。

『Love, ヴィクター』はこのシーズン3はかなり慌ただしい感じで幕を閉じましたけど、それでも私が一番いいなと思ったのはゲイのティーンが多数登場することです。今まではひとりで悩んでいる子を描くことが多いジャンルでしたが、どんどんと当事者の数が増えていく。そういう時代なんですよね。悩みを共有して、語り合い、時に喧嘩して、でも連帯し合って…。

『Love, ヴィクター』のように、観た人に勇気を与えるドラマシリーズがもっと増えてくれるといいなと思います。今作ではゲイに焦点が置かれていましたけど、他の性的指向や性自認にフォーカスした作品も待っています。

『Love, ヴィクター』
ROTTEN TOMATOES
S1: Tomatometer 90% Audience 93%
S2: Tomatometer 100% Audience 91%
S3: Tomatometer 90% Audience 62%
IMDb
8.1 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
8.0

作品ポスター・画像 (C)Disney, 20th Television Loveヴィクター Love, ビクター

以上、『Love, ヴィクター』の感想でした。

Love, Victor (2020) [Japanese Review] 『Love, ヴィクター』考察・評価レビュー