愛は災難で深まる?…Netflix映画『ラブバード』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2020年)
日本では劇場未公開:2020年にNetflixで配信
監督:マイケル・ショウォルター
ラブバード
らぶばーど
『ラブバード』あらすじ
運命的な出会いによって育まれた愛が破局を迎えた男女。これだけでも災難なのに、自分たちをもっと追い詰める事態に直面する。それはまさかの殺人の容疑者。殺人のぬれ衣を着せられたことで一刻の猶予もないことに。手遅れになる前に真犯人を見つけだし、身の潔白を証明することはできるのか。スリリングでハチャメチャな夜が幕を開ける。
『ラブバード』感想(ネタバレなし)
『ビッグ・シック』の二人、再び
2019年の終わりから人類を突如として襲った新型のウイルスによるパンデミックは、2020年5月になり、ヨーロッパやアジアでは少しピークを越えて落ち着き始め、経済活動の再開もあちこちで実施されるようになりました。完全に業界が停止していた映画館も対策をとったうえで再びスクリーンが輝くことになってきて、私も映画ファンとして嬉しいったらありません。
でもまだまだ予断は許さない状況。それにコロナ禍の映画業界への被害は劇場が再開されればチャラになるものでもないです。経営の厳しさ、忌避する一般観客、宣伝の難しさ、感染症対策の両立のストレス…課題は山積み。
さらに忘れてはならないのが、すでに映画館での公開を諦めて動画配信サービスへと移ってしまった作品もあるということ。映画配給会社にとってもいろいろな葛藤のうえの決断だったでしょうが、率直に言えば大きなシアターで観れるチャンスがなくなるのは寂しいものです。
まあ、ウジウジと悔やんでいても始まらないので、今は映画を見まくることにしましょう。それしかできないですからね、私には…。
ということで今回の紹介する映画も当初は劇場公開を予定していたものの、やむを得ずそれを中止して、配給のパラマウントによってNetflixでの配信に移行した作品です。それが本作『ラブバード』。
物語は、やや関係がギクシャクしているカップルが犯罪に巻き込まれてしまってさあ大変…という、超ベタなクライムコメディであり、小規模な映画です。配給も「気軽にカップルで見に来てね」という位置づけで公開したかったのでしょうけど、濃厚接触になるのでキスもろくにできないこのご時世。場違いになってしまうし、もともと予算規模も小さい作品だからNetflixに売った方がいいという判断になってしまったのか。
コロナ後の映画業界ではこういうジャンルの作品はしばらくウケづらくなるのかな…。
また暗いモードになってしまった…。はい、そんな作品としては小粒なせいでやや影が薄い気もする『ラブバード』ですが、監督と主演に関しては映画ファンなら押さえておくべき人かもしれません。というか、知っている人も手広い映画好きの中には普通にいるはず。
まず本作の監督は“マイケル・ショウォルター”であり、彼と言えば2017年に『ビッグ・シック ぼくたちの大いなる目ざめ』というこれまた夫婦を題材にしたコメディを手がけて、これが批評家に大絶賛された人です。「難病モノ」というありがちなジャンルに新しい息吹を加えたことがその高評価の理由のひとつでした。
そして『ラブバード』の主演はその『ビッグ・シック ぼくたちの大いなる目ざめ』でも主演をしていた“クメイル・ナンジアニ”。パキスタン系アメリカ人の俳優として大活躍中であり、ドラマ『シリコンバレー』に始まり、今後はMCU映画の『The Eternals』でも出演するなど、目覚ましいキャリアを驀進しています。しかも、『ビッグ・シック ぼくたちの大いなる目ざめ』では脚本家としても成功していますからね。非白人の人が俳優にとどまらず製作の深い部分に広く染みわたっていくのは大歓迎したいところ。
こんなふうに“マイケル・ショウォルター”監督と俳優“クメイル・ナンジアニ”が揃ってはいますが、そうは言っても『ビッグ・シック ぼくたちの大いなる目ざめ』とは全然製作チームは違うので、『ラブバード』を同質の作品だとはあまり思わない方がいいと思いますが…。
脚本は俳優としても活動する“アーロン・エイブラムス”と“ブレンダン・ゴール”の二人で、彼らの原案・製作の企画とのこと。むしろこっちが本来は目立つべき映画ですね。この二人は2018年に『The Go-Getters』という作品でも脚本を担当しています。
“クメイル・ナンジアニ”以外の出演陣は、『Insecure』というドラマシリーズで企画原案も手がけるなど多才な活躍を見せる“イッサ・レイ”、『ピッチ・パーフェクト』シリーズでも大暴れしていた“アンナ・キャンプ”、『グレイテスト・ショーマン』や『ミッドナイト・スペシャル』にも出ていた“ポール・スパークス”など。
「そんなアホか」とゲラゲラとツッコミながらお気楽に鑑賞する映画ですので、嫌なことがあったときにはこれで気分を紛らわすのもいいでしょう。
『ラブバード』はNetflixオリジナル作品として2020年5月22日から配信中です。
オススメ度のチェック
ひとり | ◯(ほどよいコメディ) |
友人 | ◯(気楽な暇つぶしに) |
恋人 | ◯(仲の良さを取り戻せる?) |
キッズ | △(大人のコメディです) |
『ラブバード』感想(ネタバレあり)
破局しても離れられない事態に!
二人の男女が建物から外に出てきます。朝です。「昨晩は楽しかった」…そんなことを言いながら、見つめ合う目と目。どっからどう見ても良い雰囲気がオーラを放っています。外で食事、会話も弾み、出会ったばかりなのか、連絡先を初々しく交換し、隣り合って歩く男女の仲は急速に深まっていきました。そしてぎこちなくもキス…。
ジブランとレラーニはこうしで出会ったのでした。
それから4年後。あの一瞬の時間だけであそこまで急激に親密になったのですから、4年もあればさぞかしラブラブに…いや、口論中です。とても激しく言葉のせめぎ合いが続いています。「テレビに出て優勝なんてできるか」「この俺があの番組を見たかって?」「観てないで批判したの?」…どうやら喧嘩の原因は割としょうもないことが発端になっているようですが、当の二人は頭に血がのぼっており、反射的な言葉の応酬が止まりません。
家から出て移動中の車内でも険悪な会話は続行です。「結婚はクソだといっただろ」「ステファンの結婚を伝えるSNSに“いいね”したはなぜ?」と、もう何でも争いの火種になってしまう状態。二人の関係性は明らかにヒビが入っていました。
「もう続けられない」「もう終わってる」…二人は自覚しました。これは私たちの関係の終焉なのだ、と。今がその瞬間なのか。
そう二人同時に実感した次の瞬間、いきなり誰かが突っ込んできて車のフロントガラスに激突しました。とりあえず降りると、若い男性が血まみれになりながら朦朧としており、心配するもなぜか自転車で立ち去ってしまいます。スマホを置いて行って…。
意味がわかりません…。しかし、まだ事件は継続。今度は「車を貸せ」と警官を名乗る男がきて運転し始めます。「あいつはどこにいった」と聞くので教えてあげると、例の自転車男を発見。なんだ、これは犯人を追っている感じなのか、じゃあ、悪い奴だったなら轢いたことへの罪悪感も少し減るな…そんなことを思っていると、行き止まりに自転車男を追い込むことに成功。
「正義だな!」とジブランもテンションあがって思わず口走ると、アクセル全開で男は自転車男を轢きました。え…轢いちゃった。事故…? そしてバックしてもう1回轢く。前進してまた轢く。後退して念押しでグチャリ。
ジブランとレラーニはそこまでバカではないのでさすがに悟っています。これは警官じゃない…。硬直しているとサイレンが鳴る音が聞こえ、その謎の轢き殺し男は逃げていきました。
死体と一緒に現場に取り残され、立ち尽くす二人。そこへ偶然通りかかった男女に見られ、当然というか「なんてことしたんだ」と恐怖の顔で問い詰められます。「違う、殺してない」「確かに轢いたけど、そのときは生きていた」と必死に言い訳しますが、常識的に通報という行動をとられてしまい…。
このままではマズい。犯人にされてしまう。焦ったジブランとレラーニは何も考えずに走って逃げることに。
ダイナーで途方に暮れる二人は、このまま逮捕されてしまうし、真実なんて言っても突拍子もなさすぎるので出頭はできないと万事休す。しかも、レラーニに電話がかかってきて、その相手は刑事のメアリー・マーティンで、完全に不信な嘘をついていることもバレました。
事態が収まるまで身を潜めることも検討しますが、犯人が捕まればいいと思っても、警察が追っているのは自分たち。どうすればいいのか…。
すると轢かれた男が落としたスマホにメッセージがあり、イーディから「ドラゴンズ・デンで10時に」とあります。これしかない。二人は事件を解決しようとその場の勢いで決めるのでした。
破局して1秒で災難にあったカップルはこの試練を乗り越えられるのでしょうか…。
リアリティ番組がリアルに起きた?
『ラブバード』は簡単に言ってしまえば、カップルを主人公にした犯罪への巻き込まれ型のコメディ。当然、カップルなのでその巻き込まれている間に関係性に変化が起きるんだろうな…ということは容易に想像がつきます。つまり、主軸になっているものはすごくベタな話です。
ただ、本作の物語全体が作中でも言及があった『アメージング・レース』というリアリティ番組のパロディになっているということは大きな特徴でもあります。この番組はアメリカのCBSで放映されている大人気シリーズで、エミー賞(リアリティ番組部門)をたくさん受賞しているリアリティ番組の定番中の定番。日本でも一時的に放送されていたことがありました。
何をする番組なのかというと、2人1組のチームで決められた所持金とアイテムだけを持って、いろいろな課題を指示されクリアしてはまた別の場所に行くという、ミッション形式のペアゲームです。この2人1組というのは3年以上の付き合いがあることが条件で、恋人でも夫婦でも友人でも何でもいいです。ミッション中は絶対に離れてはいけません。他にもチームが参加しており、相手のチームを足止めするなどの作戦も実行できたりします。
『ラブバード』はこの『アメージング・レース』をほぼそのまま踏襲しており、そのリアリティ番組に出るか出ないかで揉めていたら、リアルでそのリアリティ番組と同じ状態になっちゃった…というコメディです。
まずジブランとレラーニはカップルで(話しぶりから結婚はしていない様子。今はそういうパートナーシップは普通です)、付き合い年数も4年で条件クリア。そして事件に巻き込まれたことをきっかけに着の身着のままで逃走しつつも、犯人を追うためにあれこれ奮闘します。
途中では妨害者が現れ、アツアツのベーコンを焼いているフライパンによる脂の刑か、健康な馬の後ろ蹴りの刑か、選択しないといけないことになりますが、ここでの妨害者もちゃんと2人1組です。
ジブランは『アメージング・レース』という番組を小馬鹿にしているらしく、彼はドキュメンタリーとか教育番組の方がいいと言い張り、レラーニと険悪になりますが、なんだかんだで実際に渦中に投じることになると良いリアクションを見せています。絶対に番組視聴者ウケするような。
作中で二人がトラブルを乗り越える方法も、ハイヒールでガラスを割れるかどうかとか、スマホのロックを解除できるかどうかとか、シガーライターで拘束を解けるかどうかとか、妙に“しょぼさ”があるのは全部リアリティ番組のクオリティのノリだからなんですね。
シガーライターってああいうものです
とは言っても、いくらリアリティ番組のパロディであるとはわかっていても、かなり無茶苦茶な展開は多いですけどね。
でも主演の“クメイル・ナンジアニ”と“イッサ・レイ”の何とも言えない凸凹カップル感が良い味になっており、ずっと見ていられます。
両者ともに別に賢くもないのがいいですよね。それぞれに一長一短の個性があってそれが噛み合っていくわけでもなく、二人合わせてパワーが倍増するわけでもなく、ただ一緒にあたふたしているだけという…。この平凡さが楽しいです。
スマホの暗証番号をキースに解いてもらおうとするくだりの、あからさまに下手すぎるトーク(「あれれ~パスワードが思い出せないぞ~最近始めたボクシングのせいかな~」)の持っていき方も面白いし、サクラリウムという秘密結社に潜入するくだりでの、裏切り者探しで仮面をとってしまう(真のメンバーは仮面をとらない)マヌケさといい…。
終盤は「別に犯人として疑われていなかった(防犯カメラに映っていたから)」という壮大な勘違いも明らかになり、やはりこの二人の早とちりなアホっぷりが際立ちます。
あの二人は喧嘩をしていましたけど、結局はどんぐりの背比べというか、似た者同士なんですよね。つまりお似合いカップルだというわけで…。
一応、あの二人は人種的に互いにマイノリティであり、だからこそのあの“どっちもどっちな”同類バカっぽさを出せているのではないでしょうか。たぶんこれが白人と黒人のカップルだったらこうもいかなかったでしょう。この人種ペアゆえの前提でできるギャグでもあるのかな。そういえば、作中でディスカウントストアでひととおり着替え、店の前で座っていると、巡回するパトカーが通り過ぎるシーン。運転する白人警官に凄いジロッと睨まれるので、これは逃走した奴らだとバレているんじゃないかと思ったら、スルー。「なんだ、ただのレイシストか…」とほっとしている姿は個人的に大好きな場面。
サクラリウムという秘密結社にて金持ちたち大物が出席する中での乱交パーティが行われるなど、ネタになるものはかなりあるのに、下ネタ方面にはあまり走っていないのは、ギャグスタイルとしてそこは守備範囲外なのかな。私としてはそっちでふざけてくれても良かったのですけど…。
あとどうでもいいことですが、本作でシガーライターという存在を認識した若い人は結構いるのではないだろうか。今や日本車でも一般家庭で乗る車ではほとんど見られない代物になりましたが、そんな事情もあって本作のシガーライター活躍シーンはレアで、使っているところを初めて見たという人もいるはず。そういう私も実物を見たことはあるけど、使用したことは一度もないなぁ…。
ということでシガーライター映画の代表作になりましたね。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 67% Audience 54%
IMDb
6.0 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 5/10 ★★★★★
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・『狩りの時間』
作品ポスター・画像 (C)Paramount Pictures, Netflix ザ・ラブバーズ
以上、『ラブバード』の感想でした。
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