狩りの時間
Netflix映画『狩りの時間』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

英題:Time to Hunt
製作国:韓国(2020年)
日本では劇場未公開:2020年にNetflixで配信
監督:ユン・ソンヒョン

狩りの時間

『狩りの時間』あらすじ

暗く先行きの見えない社会不安に覆われてしまった韓国。4人の若者はここで未来を見いだすことを諦め、理想の新天地で人生をやり直すことを夢見ていた。そのためには大金が必要だったため、人生の大逆転を目指して危険な現金強奪に挑むことにする。入念な計画を立てた青年たちは、恐ろしい狩人に狙われる羽目になるとは夢にも思っていなかった...。

『狩りの時間』感想(ネタバレなし)

劇場でもネットでも延期した不運な映画

どうしたらいいのか…。そんな心痛の状況にいる人を増大させているこの世界的パンデミック。それは映画業界も例外ではなく、映画ファンならご存知のように、エンターテインメントとして映画を提供してきた映画館は強制的な休業を余儀なくされ、興行は心肺停止状態です。

そんな中、一向に元通りになる道筋も見えないために、別の方向に舵を切った映画会社も現れました。つまり、映画館ではなく動画配信サービスで新作映画を公開してしまおうという決断です。本音を言えば配給会社だって劇場で観客に観てほしいのはやまやまでしょうが、劇場が使えない以上、他に選択肢もなし。少しでも収益をあげてこの苦しい時期を乗り切ろうとするのも無理はありません。

しかし、その道に進むことに決めたとある韓国映画が思わぬ壁にぶちあたりました。2月20日から開催されていたベルリン映画祭に招待され、2月26日に韓国にて一斉公開予定だった『狩りの時間』。けれども新型コロナウイルスの影響で急遽公開延期。感染収束の兆しが見えないまま、次の公開日が全く決まらず1カ月が過ぎた3月下旬、『狩りの時間』の制作会社であるリトル・ビッグ・ピクチャーズは突然「劇場公開はせずにNetflixで全世界190カ国に配信する」と発表しました。これはかなり大きな決定です。

ところが『狩りの時間』の海外セールスを担当していた海外版権窓口のコンテンツパンダは、「これは二重契約に当たる契約違反だ」と強く主張して対立。裁判沙汰になってしまいました。Netflixはすでに配信日を決定し、アナウンスをし始めましたが、なんと裁判の結果、両者の話し合いがなされるまで配信を停止するように命令が下ります。ということでNetflixでの配信もまさかの延期に。『狩りの時間』は劇場でも動画配信サービスでも延期になった稀有な映画になってしまいました。

でもすぐに二社の協議が行われ、双方納得のもと、Netflix配信が正式に確定。やっと配信されたというしだいです。きっとリトル・ビッグ・ピクチャーズ側も前代未聞の事態に焦って基本的な話し合いを怠ったのでしょうかね。まあ、そういう心理もわかります。映画会社もとにかく不安なのです。

そんなドタバタ劇もあった『狩りの時間』。どんな映画なのか。

実は偶然にも混沌とする今の社会情勢に一致するような作品です。舞台は近未来の韓国で、経済崩壊しており、国家自体すらも極めて不安定。抑圧と反発が激化しています。そんな夢も希望ない社会から脱するべく一発逆転を狙った若者たちが現金強奪をするもそれが悲劇の始まりになってしまい…というクライム・スリラーです。ディストピア映画でもあります。

監督は2010年の『Bleak Night』で大鐘賞映画祭や青龍映画賞の新人監督賞に輝いて一気に有名になった“ユン・ソンヒョン”。それ以降は全然長編を手がけていなかったのですが、10年後、ついにまたも長編映画に返り咲き、本作『狩りの時間』が公開されました。才能がどんどん花開くのは大歓迎ですね。

俳優陣も話題の人が揃っており、一番の注目度の高さは『パラサイト 半地下の家族』で極貧一家の長男を見事に演じて世界的に称賛された“チェ・ウシク”でしょうか。彼の役は厳密には主人公ではないのですけど、『狩りの時間』内では目立った活躍を見せますので、ファンは必見です。


一応の主人公を演じるのは、『高地戦』『建築学概論』などで知られる“イ・ジェフン”。“ユン・ソンヒョン”監督の『Bleak Night』では大鐘賞ならびに青龍映画賞の新人男優賞を受賞していたので、キャリアの出発点になった恩のある監督のもとに戻ってきた感じです。

他にも『操作された都市』の“アン・ジェホン”、『それだけが、僕の世界』の“パク・ジョンミン”、そして女優ではなく男優の方の“パク・ヘス”がインパクト大な演技を披露しているのも見どころ。

非常に引き込まれる映像的な重厚感と、期待どおりのサスペンスを提供するストーリーの合わさり方が絶妙ですので、なるべく大画面で観た方がいいと思います。Netflix配信ですが、テレビとかでの鑑賞が理想的です。

『狩りの時間』はNetflixオリジナル作品として2020年4月23日から配信中です。

オススメ度のチェック
ひとり◯(韓国映画ファンはぜひ)
友人◯(スリルをたっぷり味わうなら)
恋人◯(スリルをたっぷり味わうなら)
キッズ△(犯罪と暴力でいっぱい)

『狩りの時間』予告動画






↓ここからネタバレが含まれます↓





『狩りの時間』感想(ネタバレあり)

新しくやり直したかった

「どうやって売る? 儲けは出るのか?」「3着で1ドルだ」「古着を売るなんて…」そんな良い稼ぎ方をめぐる口論をコンビニでしながら出てきたのは若者二人。ギフンチャンホです。

街は煙たく荒んでおり、物々しい空気の中、錆びついた建物と行き場のない貧困者が広がっています。ここは韓国ですが、ひと昔前の韓国ではありません。財政危機によって社会は深刻な悪影響を受け、経済システム自体が機能不全に陥るほど、これまでにない大打撃を受けていました。

そんな社会もすっかり見慣れたのか、ギフンとチャンホは車である場所に向かいます。そこは刑務所。そこから出所してきた別の男…ジュンソクとは大の親友同士らしく、久しぶりの再会を素直に喜び合います。

自由な空間に解放されて浮足立つジュンソク。クラブで3人は会話します。「今後は?」と聞かれ、ムショで知り合った人が台湾で密輸の仕事をしているらしく「墾丁(ケンティン)を知ってるか?」と二人に聞くジュンソク。「台湾の最南端にある島だろ」と答えると「ハワイに似た場所らしい」「来いと声をかけてくれた」「観光客相手にあれこれ商売もしていて、これもかなり儲かる」と矢継ぎ早に説明。その儲けはなんとひと月で8000ドル以上。さすがにそれは美味しい話です。

その店はいくらなのかと一番肝心なことを聞くと「そのうちひとつの店を安く譲ってくれて、20万ドル」だと言います。それを聞き、一瞬で顔が曇る二人。それが視界に入っていないのか、ジュンソクは「そこへ行って仕切り直そう、新しくやり直すんだ」と熱弁を振るいます。

とりあえず散々ハメをはずした3人は、ボロボロの自転車の店へ。そこはジュンソクの家で、久しぶりの懐かしさに感情に浸っています。母の写真に花を添え、「温かい島での暮らしに憧れていた。それだけを夢見て3年間あの地獄を耐え抜いた」と言い聞かせるようにこぼすのでした。

友人のサンスが働く賭博場に来た3人。ジュンソクはふとチップの両替所の金庫のカネに目がいきます。そして計画を思いついたのでした。外でサンスを呼びつけ、その計画を話します。それは賭博場のカネを強盗するという無謀なもの。「暴力団が経営する店だぞ」「賭博場はマズい」と3人は難色。「あそこは違法だから警察も動かない」と銀行よりも良いんだと主張し、ジュンソクはやる気満々です。「どうせ俺たちには失うものがない」「永遠にどん底の人生だ。人らしく生きたい。やればいいんだろう」…その言葉に残りの3人は納得することにしました。

さっそく強盗計画を綿密に立てていく4人。外の監視カメラの位置をチェックし、内部はサンスに確認させます。追っ手のことも考え、5分以内で完了しないとマズいと計算。

武器もいるので、知り合いの武器ブローカーのもとに寄って、防弾ベストと、あと「M4」やショットガンなど勧められるままにゲット。大興奮です。使い方を確認し、最後は銃を持って思い思いのポーズで写真撮影する4人。ここまでは緊張感ゼロ。

そして決行の時。武装し、覆面をかぶった4人には数日前までの余裕はありません。張りつめた緊張感。窓を割り、鍵をショットガンで破壊し、賭博場内へ乗り込んだ4人。

「伏せろ!動くな!」

狩りの時間が始まりました。狩られるのはこの4人であるということは、当人はまだ自覚しておらず…。

アメリカ化してしまった韓国社会

『狩りの時間』は前述したとおりディストピア映画であり、この世界観をどう説得力を持って描くかということは大事です。

世の中には地球外生命体に侵略されたり、人種差別主義が跋扈したり、いろいろなその国ならではの事情が見えるディストピア映画がありますが、この『狩りの時間』は非常に韓国らしいディストピアでした。

冒頭で国際通貨基金の交渉反対の過激デモに関するニュースが流れることが示すように、本作の韓国は経済崩壊しています。『国家が破産する日』でも描かれたように、韓国社会は1997年に通貨危機を経験しているため、やはり韓国のディストピアになる要因として浮かぶのは通貨危機なのでしょう。それか戦争も考えられますが、『狩りの時間』の場合は通貨危機による既存経済の破壊を土台に選んでいます。

結果、どんな社会になってしまったのか。それは冒頭のギフンとチャンホのトークでサラリと言及されるように「ウォン」ではなく「ドル」で市場が動くようになっています。ウォンの価値はほぼなくなってしまいました。

そしてもうひとつの変化が「銃」の氾濫です。韓国はもともと銃規制がとても厳しく、銃所持許可が出てもイチイチ使い終わったら警察署に銃を返してそこで基本は保管しないといけないような国です。それがこの『狩りの時間』の世界では、街中で銃声が聞こえるほど銃が見慣れた存在になってしまい、平然と銃ブローカーがアサルトライフルなど攻撃性の高い銃を大量に売買しています。

そのため、強盗シーンも韓国映画では滅多に見られないとてつもないド派手な銃ぶっ放しの威嚇が飛び出しますし、その後の逃走劇も凄まじい銃撃戦に発展します。戦争モノじゃないのにこの銃の存在感。これは韓国映画では異様な光景です。

政治や警察など権力者は直接的にはメインでは出てきませんが、おそらく相変わらず腐敗しているのだろうなと思えるのがいつもの韓国映画っぽさですが。

ドルと銃…これらのディストピア要素が象徴すること。韓国はどうなったのか。それこそまるで「アメリカ」みたいになってしまったのでした。絵面としてもアメリカのギャング映画みたいですよね。

つまり、韓国にとってディストピアとはアメリカのようになることである。この視点は非常に皮肉めいたものですし、アメリカとの連携を昔から強める今の韓国に対する強烈な風刺でもあると考えてもいいのではないでしょうか。

ちなみに本作は女性が全然登場しないのですが(少なくとも表には出てこない)、そこもディストピア感がありますよね。

どこへ行っても抜け出せない

そんな韓国社会で生きる4人の若者。どうやらジュンソクが刑務所に入るきっかけになったのも強盗なようで、以前も同じようなことをしでかしていることが会話から推察できます。

しかも、その以前にはまだウォンが普通に流通していたみたいですし、通貨危機が起こる前の出来事のようです。つまりジュンソクが刑期を過ごした3年の間に一気に悪化したということがわかります。

さらにそれはあの4人がこんな社会になる前の社会の状態ですらも、それほど良い暮らしをしていなかったことも暗示しています。要するにあの4人は韓国がどういう社会になろうとも“持たざる者”として生きてきたわけです。

だからゆえなのか、ギフンはデモ活動をしている父に会った際も、デモに意味なんてないと冷めた態度を示します。すごく現代の韓国の若者っぽい、社会への諦めとも言える姿勢ですよね。父の世代は民衆のデモ運動で社会や国を変えた実績があるから今回も同じくやってやろうと思っていますが、若者はそうは思っていない…。

その4人がまたも強盗をすることになりますが、今回の韓国社会は銃アリの世界なので、初めての銃つき犯罪。この準備段階で若干浮かれてしまっているのもなんだか味があります。『アメリカン・アニマルズ』みたい…。この時点ではまだまだ青臭いです。


そんな彼らが目指すのはハワイっぽいらしいというアバウトな情報しかない台湾の島。ハワイに憧れるというのもまたこの韓国社会がアメリカ化していることと重なりますね。

その4人に立ちはだかるのは謎めいた男。この男はまさにハンターよろしく情け容赦なく強襲し、でもなぜかちょっと楽しむように泳がせたりもする、全く得体のしれない存在です。能力は違いますけど、しつこさと強さと豪快さで見ると「ターミネーター」感が満載です。ここもアメリカナイズなのでしょうか。追撃を受け続ける一連のシーンの緊張感がたまらないですね。

そんなターミネーター男にひとりまたひとりとやられていく4人。ギフンは親元へ行き、ジュンソクとチャンホだけになり、チャンホもあえなく戦死。唯一残ったジュンソクは覚醒し、銃をぶっぱなしながら防御一切なしのパワープレイでアタックしていきます。このへんもアメリカン・マッチョなスタイルです。

この終盤の戦闘シーンはカッコいいとも思いますが、同時にジュンソクもアメリカ化してしまったことも意味します。あの追っ手の男が「どこへ行っても抜け出せない」と発言したように、結局はジュンソクもアメリカ的な社会に取り込まれてしまった…そういうバッドエンドとも言えるでしょう。

島にたどりつき、綺麗な海を目の前にしたジュンソクですが、思い描いていた満足感はなし。彼はその砂浜で銃の射撃を訓練します。そして「俺は帰る」と決め、どこかへ向かう男の姿。

次に始まってしまったのは暴力の連鎖なのか。だとしたらディストピア社会は段階を変えていくのかもしれません。今度はどこで銃声が聞こえるのでしょうか。

映画の息苦しさが今の世界とオーバーラップして、なんだか暗澹たる感情になりました。

『狩りの時間』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 83% Audience --%
IMDb
6.3 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 7/10 ★★★★★★★

作品ポスター・画像 (C)Netflix

以上、『狩りの時間』の感想でした。