続編に恵まれる悪役の勝ち組…映画『マレフィセント2』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。
製作国:アメリカ(2019年)
日本公開日:2019年10月18日
監督:ヨアヒム・ローニング
マレフィセント2
まれふぃせんとつー
『マレフィセント2』あらすじ
かつては因縁の関係にあったマレフィセントとオーロラ姫。しかし、真実の愛によってその対立は消え去り、新しい時代を迎えた。その数年後。オーロラ姫とフィリップ王子は、めでたく結婚することになる。ところが、フィリップ王子の父ジョン王と母イングリス王妃と席を共にした晩餐会で、マレフィセントとオーロラ姫の絆は引き裂かれ、再び世界は混沌に包まれる。
『マレフィセント2』感想(ネタバレなし)
ディズニーを築いた悪役です
2019年は、ディズニーが1959年に『眠れる森の美女』を公開してから「60周年」という節目の年です。
この『眠れる森の美女』は当時のディズニーにとって大事な一作でした。というのも、ウォルト・ディズニーはこの時期、アニメーション映画製作への興味が失せており、すっかりテーマパークづくりに夢中。そんなウォルト・ディズニー心ここにあらずな状況で、『白雪姫』『シンデレラ』に続く第3のプリンセス・ストーリーを作ることになったのです(結局、ウォルト・ディズニー生存中に作られた最後のプリンセス物語ということになりました)。
相当な年月と製作費でディズニー史上最大級の情熱を注いだ『眠れる森の美女』でしたが、公開当時はそれほどヒットせず、興行的にも失敗の評価を下されました。今となっては意外です。
しかし、この『眠れる森の美女』はこれまでのプリンセス・ストーリーとは明らかに異なる特徴を新しく生み出しており、そこはディズニー史を変える革命だったと私は思います。
それは悪役。
『白雪姫』『シンデレラ』の悪役の影は薄いです。覚えているでしょうか。『白雪姫』の悪役は継母で、醜い物売りの老婆に変装して毒りんごを売り、最終的には落雷で転落死します。『シンデレラ』の悪役はやっぱり継母で、何をするかと言えば、まあ、要するに家庭内イジメです。ちょっと悪役にしてはしょぼい感じは否めないですよね。
でも、どうですか『眠れる森の美女』の悪役は! ビジュアルも強烈な魔女で、凶悪な魔法を駆使しながら、ラストではドラゴンに変身するんですよ。過去2作の悪役から一気にパワーアップしました。もうあんな毒殺ババアや虐めババアと一緒にしないでくれっていう話です。ここまで来ると、さすがに主役のお姫様やその仲間たちでは歯が立たないのではないかと心配になりますけど、なんとか勝ちます。プリンセス・ストーリーにスペクタクルなファンタジー&インパクト大な極悪ヴィランが追加され、その後の作品に偉大なバトンタッチをしたのは言うまでもありません。
その『眠れる森の美女』の悪役の名が「マレフィセント」。そんな悪役を主役にした実写映画『マレフィセント』が2014年に作られたのも、こういう歴史を踏まえるとよく理解できますね。あれだけディズニー史に貢献した実績があるんですから。そりゃあ、姫や王子よりも顔が利きますよ。
この実写版『マレフィセント』、単なるアニメーション映画の実写化ではなく、悪役を主役に据えているだけあって、かなり大胆なストーリーアレンジが施されていることでも話題になりました。元の作品があまりに有名なだけに、実写化でも手を加えにくい事情があり(最近の『ライオン・キング』でもそれは如実に表れていましたが)、躊躇しそうなところをこれほどの改変をするとは。私も初鑑賞時には驚きました。
そのかいあってか、興行的にも大ヒットし(元のアニメ映画の雪辱を晴らしましたね)、日本でも65億円を超える興収を記録。なかなかのフィーバーです(ただしこの年はその前に『アナと雪の女王』の空前の特大ヒット&ムーブメントがあり、ディズニー熱狂が起こっていたことは『マレフィセント』の客足にも多大な影響を与えたでしょうけど)。
で、その『マレフィセント』の続編が『眠れる森の美女』60周年の2019年に公開。綺麗な流れですね。そのタイトルが『マレフィセント2』。ちなみに原題は「Maleficent: Mistress of Evil」。凄い副題だ…。
キャストは前作に引き続く顔ぶれ。主役にして悪役、マレフィセントを演じるのは“アンジェリーナ・ジョリー”。彼女のあの顔つきをこれほどまでに活かした映画は他にあったでしょうか。本人も割とノリノリで、製作まで名をクレジットしています。『最初に父が殺された』では監督としても大成功していますし、キャリアに言うことなしですね(え、夫?)。
オーロラ姫を演じるのは、ティーンに絶大な人気を誇る“エル・ファニング”。『メアリーの総て』や『ガルヴェストン』など最近は硬派な作品に出演が目立ち、新しい一面をガンガン見せていますけど、やっぱりこういう王道ヒロイン役も上手いです。何より楽しそう。見てください、以下のメイキング時の風景をとらえた画像。天真爛漫にして無邪気(注:作品内では割と大人しい役です)。
王子役は、スケジュールの都合で前作の俳優から“ハリス・ディキンソン”に交代しています。
そして新しい重要なキャラクターを“ミシェル・ファイファー”が演じています。『アントマン&ワスプ』でも活躍していた姿が記憶に残っていますが、やはり“アンジェリーナ・ジョリー”に対抗するにはこれくらいの大物を出さないとダメということか。
監督は『パイレーツ・オブ・カリビアン 最後の海賊』に大抜擢され、すっかりディズニー監督になった感のあるノルウェー人の“ヨアヒム・ローニング”。
前作を鑑賞していればキャラクターのこれまでの辿ってきた成長もわかり、物語にもさらに感情移入できるでしょうが、そこまで前作鑑賞必須ではないので、2作目からでも問題ないと思います。
オススメ度のチェック
ひとり | ◯(気軽に観やすい) |
友人 | ◯(ファンタジー好き同士で) |
恋人 | ◎(恋愛も王道です) |
キッズ | ◎(子どもでも楽しい) |
『マレフィセント2』感想(ネタバレあり)
今回のお悩み:親の仲が悪い
「once upon a time…(昔々…)」といつもの言葉で始まる『マレフィセント2』。
一応、世界観を振り返ると、人間の国と妖精の国「ムーア」が存在し、歴史的に衝突が続いてきましたが、ある日、人間の国の王の私利私欲にまみれた陰謀に打ち勝つべく、王の娘だったオーロラ姫と、妖精の国を守護するマレフィセントが手を組み、見事に打破。オーロラ姫が女王となり、2つの国は統一され、めでたしめでたし…というのが1作目のおおまかなオチ。
2作目ではいよいよオーロラと、前作では良いところなしだったフィリップ王子が婚約するところから物語は動き出します。ちなみに2つの国の王女になったオーロラですけど、本当にあの妖精の森のど真ん中に玉座がむき出しであるんですね。普段どうやって生活しているのだろうか…。草と一体化した城がある風だけど。妖精世界の奴らは常識が通じないので話にもならないですし、身の回りの世話をする常識人が圧倒的に不足している気がする…。
プロポーズでOKをもらったフィリップ王子(でも時間かかったね…)は“やったよ、これで元のアニメどおりだ!”と意気揚々と両親に報告するために帰郷します。位置関係はさっぱりわかりませんが、フィリップ王子の王国も妖精の国「ムーア」と隣接しているのでしょうか。やけに距離感が近い…。
しかし、そこで息子を待っていたのはジョン王とイングリス王妃…とくにこの王妃の方はなにやら悪だくみをしていそうな雰囲気が…。
一方でカラスのディアヴァルから婚約が決まった一部始終を報告されたマレフィセントはすっかり気分を害し、顔面蒼白で(あ、元から白かった)、オーロラのもとへ。「愛なんて…」と口うるさい母として不満タラタラ(過去が過去だけにその思考になるのもわかるけど、1作目のアレは何だったんだ…)。
それでも晩餐会に呼ばれたら行かないわけにはいきません。無駄に魔力を駆使して派手に相手の王国に入場。ずいぶん禍々しい姿に住民がビビりまくっているのがちょっと面白いです(ちゃんと知らせておかなかったのか、頭に角の生えた女が来るって…)。
お二方の親のご対面。空気はすでに最悪。席に着く前から緊迫していますが、テーブルに着席してもそれは変わらず。呪いや親の話は禁句状態。やっぱりSkypeとかで顔見せするくらいで良かったんじゃないか…。とびかかってきたネコを魔法で停止させるくらいの緊張感の高まりの後、オーロラの本当の両親を話題にするイングレス王妃に、マレフィセントはブチ切れモード! 魔法全開。するとジョン王が苦しみだし、どこかで見たことのある眠りにつく呪いにかかってしまいます。
どう考えても分が悪いマレフィセントはその場を離脱。しかし、攻撃を受けて水に落下。そのまま沈んでいくと思われた矢先、何かが助けてくれました。
目覚めるマレフィセントは、髪もおろされており、なんだかわからずキョトン顔。謎の場所をウロウロしていると、自分に似た角と翼を持つ集団がいるではありませんか。マレフィセント独自のファッションセンスじゃなくて、そういう種族だったのか…。コナルという話の分かる長に案内され、コミュニティを見て回るマレフィセントは、そこで自分のルーツとアイデンティティを知るのでした。
かたやイングレス王妃は着々と暗躍を進めていました。魔法の花の成分を抽出して作った赤い粉で妖精を植物化できる技術を獲得。これで妖精軍団やあの翼組にも勝てる…そう勝利を確信する悪女。
ついに戦いの火蓋は降ろされ…。オーロラとマレフィセントの関係やいかに。そして男どもに今回こそは出番はあるのか…。
ちゃんとあの頭で飛んでます!
ディズニー実写映画を観る時は毎度のことながらその豪華な予算で作られるセット撮影に驚かされることが多いわけですが、『マレフィセント2』も負けてません。
冒頭から登場するオーロラやマレフィセントが佇む妖精の森。この木々や草はセットで実際に作られています。何度言っても信じてくれない人もいますが、全部CGではないのですよ。ディズニーファンじゃなくても、こういうセットを探索してみたいですよね。撮影が終わったら取り壊してしまうのですから、もったいない…。
中盤から終盤にかけて出てくるアルステッドの城の庭園も、実際の庭園外周を巨大なブルースクリーンで全体を囲んでの空間撮影となっており、さすがスケールが違います。
コンセプトアートなんかを見ると、実際の完成版はほぼ完璧にそれを再現しているんですね。これはサラッとやってのけていますけど、とんでもないことです。
『マレフィセント2』の映像的な魅力の大きなポイントは飛行シーンです。本作はマレフィセント以外にも翼を持って飛べるキャラクターがわんさか登場するために必然的に飛行シーンだらけになってきます。もちろんこれはワイヤー撮影なのですが、ワイヤーと言っても色々な種類があるみたいで、その都度使い分けており大変そうです。マレフィセントとか、あの衣装だけでも重そうなのに、よく“アンジェリーナ・ジョリー”は耐えていますよね。
SFXも素晴らしい一方でVFXも満載。この『マレフィセント2』は元のアニメ映画がファンタジー色が強い作品でありながら、この実写版はさらに世界観がハイ・ファンタジー色を濃くしているため、架空のキャラクターを含む、とくに妖精たちはCGの出番です。3人妖精(ノットグラス・シスルウィット・フリットル)が陽光に照らされる森を飛ぶ冒頭のシーンを始め、スクリーンでの映像映えする場面がてんこ盛り。先ほどの飛行を含む終盤の乱戦といい、絶対に劇場で見た方が何倍も魅力が増すつくりです。
本作はIMAX対応になっており、かなり映像面での作り込みに力を入れているのが窺えます(その割には日本での公開劇場ではIMAX上映が全然ないという不遇)。
これ、『マレフィセント2』に限らずですけど、製作陣の望んだ最高環境で映画が観れないというのは本当にどうにかしてもらいたいです。観客としてはキッチリおカネを支払っているわけですし、理想的なクオリティの映像を見たいのは当然じゃないですか。そのための映画館です。こういう状態が乱発すると「じゃあ、動画配信サービスでいいや」という人が増幅するだけで、結局困るのは劇場側ですし…。感想を書いている身としても「この映画は映像が凄いよ!でも対応する映画館はほぼないよ!」なんて書きたくないし…。シネコンはシネコンで問題山積だな…。
ともあれ『マレフィセント2』、映像面は素晴らしいのです(再三の強調)。
頑張れ、男性陣
このシリーズはディズニー作品のベテラン“リンダ・ウールヴァートン”が脚本に加わっているからこそ、かなり踏み込んだアレンジができると思うのですが、物語面では1作目の原作アニメ映画を大幅に改変するチャレンジと比べ、2作目の『マレフィセント2』はやや王道に戻ってしまった印象があります。
簡単にまとめてしまえば、結婚にまつわる当人たちの親同士の争いですから。姑とのバトルと考えれば全く新しいものではなく、これではいつぞやの悪役は継母の時代とほぼ同類。イングレス王妃が今作のヴィランであることは隠しもしないスタイルですけど、ヴィランとしての魅力はマレフィセントに劣るという…。やっぱりマレフィセントには敵わないのは、主役の強さを強調することになりますけど、敵を倒すカタルシスにはならず、痛し痒し。どうせならイングレス王妃もドラゴン化して、怪獣バトルをしてほしかったですよ(個人の願望です)。
毎度気になるプリンセス描写については、オーロラのアクション展開があったりと、能動的な動きを見せるのは良かったですが、最終的な転換点となる物語上の活躍といえば、ジョン王の呪いはマレフィセントのものではなく、糸車の針でイングレス王妃の企みによって刺されたという真実に気づくということなのですが、体に刺し傷がある時点で誰か気づくべきだったんじゃないか、と。
というか、今作の男性陣も揃って無能だった…。前作で“お前に真実の愛はねぇ!”と落伍者のスタンプを押されてしまった(誇張です)フィリップ王子は、今作はやや頑張ってはいたものの、対立する両者の和解の糸口を作ったのも正直「あれで仲直りできるならそもそも対立なんて起こらないんじゃ…」と思わなくもないレベル。前作でいかにも愛すべき下僕っぽいへっぽこさがあったディアヴァルは、今作では聖堂に閉じ込められた妖精たちを救うべくドアを壊すという活躍。でもマレフィセントがいないと無能であるというイメージが強くなっただけのような気も…。ジョン王はもっと酷い。眠っているだけだったからしょうがないとはいえ、公式サイトのキャラクター紹介ページにも載っていない。王なのに…。それでいてこの3人、なんだかんだで何かをやり遂げた顔で立っているから、なんか哀れに見えてくる…(王はラストで状況を全然掴めてないよね)。
そんな男たちを差し置いてダーク・フェニックスにまで格上げしちゃったマレフィセント。確かにこれは男たちも敵いませんね…。
個人的には終盤の山場である戦闘シーンは迫力ありましたけど、納得はいかない部分も多々ありましたよ。空を飛べるんだったら、もっと上空真上から攻めればいいのに…。普通、飛行できる方が有利であって、今回は劣勢になっている理由が釈然としないので、なんか素直に応援しづらい…。
ただ、あの無駄に意味のないパイプオルガン式赤粉噴射装置はバカっぽくて好きです。青い妖精(あれ、名前はなんだっけ)が犠牲になって妨害するというカミカゼの必然性のなさ(木の巨人じゃダメなの?)も含めて。あそこは今作イチのツッコミどころだった…。
でもめでたしめでたしです。ハッピーエンド。よし、じゃあお祝いの料理を食べようか、今日のメニューはヤギ肉だよ。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 41% Audience 96%
IMDb
7.1 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 5/10 ★★★★★
作品ポスター・画像 (C)2019 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.
以上、『マレフィセント2』の感想でした。
Maleficent: Mistress of Evil (2019) [Japanese Review] 『マレフィセント2』考察・評価レビュー