ダーク・マテリアルズ
ドラマシリーズ『ダーク・マテリアルズ/⻩⾦の羅針盤』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:His Dark Materials
製作国:アメリカ(2019年)
シーズン1:2020年にAmazon Primeで配信
製作総指揮:ジェーン・トランター、フィリップ・プルマン ほか

ダーク・マテリアルズ

『ダーク・マテリアルズ』あらすじ

ライラは私たちとよく似た世界に暮らす少⼥。この世界では⼈間の魂はダイモン(守護精霊)と呼ばれ、動物の姿をしており、⼈間とダイモンは強い絆で結ばれている。⼀⽅、この世界は何世紀にも渡り、あらゆる権⼒を握るマジステリアムに⽀配されてきた。ライラは何者かにさらわれた⼦どもたちを救うため、⻩⾦の羅針盤を⼿に北極へと向かう。

『ダーク・マテリアルズ』感想(ネタバレなし)

BBCが全力で贈るファンタジー大作

ファンタジー大戦が勃発しています。え? 何言っているんだという顔をされているかもしれない。いや、あれです。動画配信サービスでファンタジー作品の大規模ドラマシリーズが続々展開し始めたよ…という話です。

HBOの『ゲーム・オブ・スローンズ』を先駆者に、王道ファンタジー大作シリーズをうちも作るぞ!と各社が意気込んでいます。Netflixは『ウィッチャー』を2019年12月より投入。Amazonは『ロード・オブ・ザ・リング』でおなじみJ・R・R・トールキンの「指輪物語」の映像化を大規模投下予定です。どれも予算がかかっており、覚悟をひしひしと感じます。

そして、イギリスからはBBCが参戦しました。そのBBCが満を持して英国TV史上最⾼額といわれる制作費をぶっこんで送り出してきたのが本作『ダーク・マテリアルズ』というドラマシリーズです。

このタイトルだけ聞いても「何それ?」という反応をされそうですが、これは日本では「ライラの冒険」という邦題で出版されたファンタジー小説の映像化。実は原題は「His Dark Materials」なんですね。英国で最も偉大な作家50人に選ばれたこともある“フィリップ・プルマン”が原作者の、まさにイギリスを代表する文学。当然、映像化への期待も高まるものです。

しかし、知っている人もいると思いますが、この「ライラの冒険」はもう映像化されています。『ライラの冒険 黄金の羅針盤』というタイトルで2007年にハリウッド映画化されました。ところが原作は3部作でこの映画も1作目の映画化で、もちろんこの後に続編が続くのかと思いきやまさかまさかの打ち切り。一説には本作がもともとキリスト教批判的な要素が強く、それに怒ったアメリカのカトリック団体がボイコットしたためだとかいう話も…。

どういう理由にせよ、かなり心残りの残る映像化で終わってしまったのは事実。ファンだってこんな中途半端な扱いは望んでいません。やるからにはやりきってほしかったでしょう。

でももう安心。BBCが12年ごしに跡を継いでくれました。ドラマシリーズとして原作1作目の物語からじっくりたっぷり映像化してくれたのです。シーズン1は大枠は映画版と同じ流れですけど、尺におさめないといけない映画と違って、ドラマシリーズは時間も多めなので原作の隅々まで映像化可能。これならばファンだって納得。無論、カトリック団体やらに忖度なんてすることはしません。というかこのドラマシリーズは完全に遠慮なしに原作のキリスト教への痛烈批判要素を全開に描いちゃってます。さすがだよ、ほんと…。

アメリカの配給には「HBO」がつき、制作会社には映画も担当した「New Line Productions」も関わり、かなりの本格的な企画になっています。実際に映像技術の進化も加わって、完全にかつての映画を上回るクオリティになっています

さらに各エピソードの監督の中にはあの“トム・フーパー”もいるんですよ。え、不安になってきた? いや、猫人間は出てこないから安心してください。あれはたぶんイレギュラーです。


原作者の“フィリップ・プルマン”も製作総指揮に入っているし、大丈夫。脚本は『イントゥ・ザ・スカイ 気球で未来を変えたふたり』のシナリオを手がけた“ジャック・ソーン”

俳優陣は、まず主役の少女ライラを演じるのが『LOGAN ローガン』で強烈なバイオレンス・ガールを熱演した“ダフネ・キーン”です。あちらの作品の勢いだったら今作でも鎧熊くらいは瞬殺しそうだけど、今回はそうじゃない。でもアグレッシブさが良く出ていてピッタリです。“ダフネ・キーン”の悪ガキそうな感じがベストマッチなキャスティングではないでしょうか。


大人勢だと『ウォルト・ディズニーの約束』の“ルース・ウィルソン”がコールターという物語の狂気を担う役としてかなりの怪演を披露。アスリエル卿という重要キャラクターを演じるのは“ジェームズ・マカヴォイ”です。この人の場合、急にキャラが情緒不安定に見えてくるのは私が他作品の影響を受けすぎているからかな。マカヴォイ信者さんは確実に必見ですね。

他にも“ジェームズ・コスモ”、“リン=マヌエル・ミランダ”、“クラーク・ピーターズ”、“アン・マリー・ダフ”、“アリヨン・バカレ”など。

シーズン1は全8話。ボリュームがあるのでどっしり腰を据えて鑑賞してください。映画版とはキャストも一新された別モノですから予備知識は要りません。

子どもも大人も楽しめるファンタジーの世界はやっぱりいいものです。

オススメ度のチェック
ひとり◯(原作ファンも初見も気軽に)
友人◯(ファンタジー好き同士で)
恋人◯(ファンタジー好き同士で)
キッズ◎(子どもも満喫できる)

『ダーク・マテリアルズ』予告動画






↓ここからネタバレが含まれます↓





『ダーク・マテリアルズ』感想(ネタバレあり)

世界観を専門用語を含めておさらい

『ダーク・マテリアルズ』はファンタジージャンルらしく専門用語が多めなので、多少解説を交えつつ、序盤のあらすじを紹介していきたいと思います。

主人公はオックスフォードの名門「ジョーダン学寮」で暮らす少女ライラ・ベラクアです。しかし、このオックスフォードは私たちが知っている“オックスフォード”ではありません。私たちとは違う世界のオックスフォードです。

つまり本作の世界観はいわゆるマルチバースなんですね。よく似た世界が多次元的に存在しています。

ライラのいる世界は私たちの知る現実世界(とりあえず便宜上そう呼ぶことにします)とは違う点がいくつもあります。

まず全ての人間が「ダイモン」と呼ばれる守護霊を持っており、いつもつかず離れず一緒にいてリンクしています。ダイモンが痛みを感じればその繋がりを持つ人間も苦しみ、人間が死ねばダイモンも消えます。このダイモンは動物の見た目をしており、子どもの人間はダイモンの姿が定まらず、いろいろな動物にコロコロ変化しますが、ある一定の年齢になるとひとつの動物に姿が固定されます。

ライラのダイモンはパンタライモン(愛称はパン)と呼ばれて、たいていはオコジョの姿ですけど、鳥になったりと、臨機応変に姿を変えます。

そしてライラの世界は「マジステリアム」と呼ばれる強大な組織に支配されています。これ、要するに私たちの現実世界でいうところの教会、それもガッツリ「キリスト教」なんですね。実際に作中でも「アーメン」とか「キリスト」とか固有ワードが出てきてます。ただこのライラの世界におけるマジステリアムの影響力は絶大で、あらゆる分野(科学すらも)をコントロールしています。ちなみに主要な乗り物として飛行船が発達しています。

そんな支配に欠かせない教権機関のひとつに「規律監督法院」という組織があり、ヒュー・マクフェイルを院長とし、聖職者や神父が所属しています。他にも「総献身評議会」と呼ばれる組織もあり、この組織は「General Oblation Board」の頭文字をとって「ゴブラー(Gobbler)」と呼ばれ、この組織を設立して指揮しているのがマリサ・コールター(彼女のダイモンは猿)です。そして彼女のやっている非道な実験と、彼女の正体が、シーズン1の物語では大きく関わってきます。

ある日、ライラは親友のロジャーが行方不明になり、他にも子どもの行方不明者が続出していることを知ります。そしてコールター夫人に連れられ、ロンドンに行くことに。ライラは“叔父”のアスリエル卿を慕っており、外の世界に興味があります。なぜかアスリエル卿(彼のダイモンはユキヒョウ)を毒殺しようとしていた学寮長から渡されたのは「真理計(アレシオメーター)」。使用者に真実を示すという貴重な道具ですが、なぜ自分に渡すのかは謎です。

ロンドンについたライラは持ち前の好奇心で、コールター夫人が怪しいことを察知。自力で脱出し、「ジプシャン」に助けられます。この人たちは船上で暮らす民族で、リリーという子どもがいなくなったので捜索隊を作って活動していたのでした。ジプシャンの賢者ファーダー・コーラムや実はライラの乳母だったマ・コスタの助けも借りつつ、ライラは自分がアレシオメーターを読む力があることを知ります。そして“北”へ向かうことに…。

道中、「パンサービョルネ」イオレク・バーニソンや、テキサスの気球乗りであるリー・スコーズビー(彼のダイモンはウサギ)を仲間にし、冒険を続けるライラたち。

その先にはどんな真実が待っているのか…。

シーズン1は最高のプロローグ

『ダーク・マテリアルズ』を観て、まず実感するのはファンタジーな世界観構築に欠かせない映像の美麗さ

正直、以前の映画版を見返すとちょっとCGが古いな…と思う場面がいくつもあるのですけど、そこからの映像技術の進化が凄まじかった。今作ではダイモンたちは実写の動物そのままにリアルに表現されていますし、それでいて変にキャラ付けしすぎない良いバランスに落ち着いています。なお、本作はアニー賞でテレビ作品キャラクター・アニメーション賞を受賞しています。

イオレクなんてさらにやさぐれ感の増した姿でのっそり登場しますし、熊っぽさが100倍は発揮されていた気がする(ご飯シーンもあったしね)。でも相変わらずどうやって鎧を身に着けているのかが謎だ…。

リアルになったぶんのスバールバルでのイオファー・ラクニソンとの対決シーンは結構生々しく、子ども向けとは思えない残酷さがありました。

そう、このシーズン1だけでもじゅうぶん伝わってくるのですが、明らかに原作にあった人間の狂気や社会の怖さみたいなものが全面に出ている映像化だったと思います。

マジステリアム側の暗躍する大人の描写が多めに描かれたことで組織の闇が色濃く示されていましたし、なんといってもライラの実の両親であると判明するコールターとアスリエルの狂いっぷりです。両名を演じた役者の熱演が気合入っており、ヤバさMAXでしたね。“ルース・ウィルソン”の捻じ曲がった母性愛のおぞましさと、“ジェームズ・マカヴォイ”の理想高すぎる父性愛の桁外れさがもうついていけないレベル。

『ダーク・マテリアルズ』は前述したとおり「宗教」と、そしてライラの親からわかるように「(血縁的な)家族」という2つの保守的な概念からの脱却を目指すということが本筋にはあります。作品自体がキリスト教をベースにした保守的家庭観や社会観へのアンチテーゼに溢れているのが特徴です。ダイモンだってつまるところその名前の由来は「悪魔(demon)」であり、本来は禁忌な存在との絆を武器にするライラは異端中の異端なんですね。

そしてコールターとアスリエルもその保守的な支配からの脱却を狂気じみた方法で目指しており、シーズン1最終話における「一緒に戦ってオーソリティを倒すんだ、そこで再出発しよう、この世界を分解して組み直すんだ」というアスリエルの極まりすぎたヤバい発言に到達するわけです(なんか中二病をこじらせたまま大人になったオッサンみたい…)。唐突に登場する「オーソリティ」という言葉ですが、これは「天使」で、今後は深く物語に関与することになります。「ダスト」の謎もこれからです。

一方の世界の歪さを知ったライラはどんな道を歩むのか。それは次のシーズンの物語までお預け。

このシーズン1は丁寧に物語を進めていましたが、工夫もあって、原作2作目の主人公ウィルの物語もすでに並行して描いており、現実世界とのパラレルワールド・クロスオーバーを匂わせていく感じがワクワクさせてきます。ライラとウィルが近づくのか?と期待を最高潮にさせてシーズン1終わりとか、なかなか王道ながら良い見せ方でした。

どうしても初めからスケールの大きい企画として動いているドラマシリーズのシーズン1は、その中身がプロローグ的になりがちなのですが、これはしょうがないことかな。本作はその中でも理想的で大衆を惹きつけるプロローグを描くことに成功していると思います。役者と映像と物語のミックスが最適な配合を達成しているのですから、これはもう描ききるしかないでしょう。

『ダーク・マテリアルズ』
ROTTEN TOMATOES
S1: Tomatometer 80% Audience 81%
IMDb
8.0 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 6/10 ★★★★★★

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↑『ライラの冒険 黄金の羅針盤』…映画版。急ぎ足になったうえに打ち切りで可哀想だった…。
作品ポスター・画像 (C)BBC Studios, HBO ダークマテリアルズ

以上、『ダーク・マテリアルズ』の感想でした。