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ドラマ『ウィロー』感想(ネタバレ)…王女と女剣士が恋をして、さらわれた王子を助けに旅する!

ウィロー

またあの世界が帰ってきた!それもクィアたっぷりに!…「Disney+」ドラマシリーズ『ウィロー』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:Willow
製作国:アメリカ(2022年)
シーズン1:2022年にDisney+で配信
企画:ジョナサン・カスダン
恋愛描写

ウィロー

うぃろー
ウィロー

『ウィロー』あらすじ

見習い魔術師ウィローが川を流れてきた人間の赤ん坊を拾ってしまい、しかもその子が世界を救う重大な存在だと知り、大冒険にでて悪の王女を倒した出来事から時は流れた。世界に再び不穏な気配が漂い、若者たちは平穏な世界から外へ飛び出す。運命の救世主エローラが現れることを期待していたが、それは意外とすぐそばにいた。そしてまだ世界を知らない若者たちの前にベテランとなったウィローが現れる。

『ウィロー』感想(ネタバレなし)

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今の若者に届けたい物語に!

“ジョージ・ルーカス”と言えば『スター・ウォーズ』なのは至極当然なのですが、それ以降も監督・脚本ではないけど製作総指揮を務めた作品がいくつもあります。しかし、『インディ・ジョーンズ』シリーズの特例を除けばその多くはあまり大成功とは言えず、批評的にも芳しくないものが目立ちます。一番ネタにされて酷評されているのはやっぱり『ハワード・ザ・ダック/暗黒魔王の陰謀』(1986年)かな…。

しかし、“ジョージ・ルーカス”の壮大なビジョンの片鱗を見せてくれた、映画史的にも無視できない作品もあったりします。

そのひとつが1988年に公開された“ジョージ・ルーカス”原案の『ウィロー』です。

“ジョージ・ルーカス”は『スター・ウォーズ』に匹敵するような若者を魅了する新しい神話を作ろうと奮起。当時は『エクスカリバー』(1981年)、『ドラゴンスレイヤー』(1981年)、『銀河伝説クルール』(1983年)、『レジェンド/光と闇の伝説』(1985年)などファンタジー映画が続々生まれるも、そこまで話題性をかっさらうほどにヒットしていなかった状況がありました。“ジョージ・ルーカス”は1986年に『ラビリンス/魔王の迷宮』を製作総指揮で手がけましたが、この『ウィロー』はそれに続く挑戦です。

結果としてはこの『ウィロー』もそれほど大ヒット!という勢いは生まれませんでした(『スター・ウォーズ』が桁違いすぎるんですけどね…)。

けれども「モーフィング」の技術が駆使されて特撮の可能性を切り開き、CG時代の入り口への階段を作ったとも言えますし(このあたりはドキュメンタリー『ライト&マジック』を参照)、『スター・ウォーズ エピソード6/ジェダイの帰還』でイウォーク族のウィケットを演じた“ワーウィック・デイヴィス”を主役に抜擢し、LP(いわゆる小人症の人)の表象として重大な一歩を踏み出したり…。

とにかく過小評価できない功績を残した小さな名作、それが映画『ウィロー』です。

その『ウィロー』が2022年にドラマシリーズとして再び世界を躍動させました。

それが本作『ウィロー』です。

タイトルは全く同じでややこしいのですけど、リブートとかではなく、映画の正式な続編になっています。映画から17年後が舞台で、再びあの主人公が新しい仲間と共に旅に出ます。

そしてこのドラマシリーズ『ウィロー』、やはり続編を作るならあの“ジョージ・ルーカス”の挑戦心を受け継ぐべきだと作り手も考えたのか、確かに本作も非常にその姿勢がハッキリでています。

もちろん映像技術で革新的なことをするほどの製作規模はありません(それはもう今は『アバター』シリーズくらいしかできないと思う)。

その代わりと言ってはなんですが、このドラマ『ウィロー』がやってみせたのは…あれです。とってもクィアになりました!

簡単にあらすじを説明すると「王女と女剣士が恋をして旅をしながら愛を深め、さらわれた王子を助けに行く!」のです。これを聞いて思わず立ち上がってしまったあなた、そうです、あなたのための作品です。

本作、ドラマ『ウィロー』はこの他にもファンタジーな御伽噺の類型をあえてひっくり返すような展開を連発しており、とても先進的な仕上がりになっています。2022年は『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』『ロード・オブ・ザ・リング 力の指輪』といった大作ファンタジードラマが一斉に開幕する凄い年でしたが、その中でもこのドラマ『ウィロー』は規模では到底勝てませんけど、一番エポックメイキングで抜きん出ていたのではないでしょうか。

演出というか作品スタイルも結構Z世代をターゲットにしている感じが丸わかりなのですが、でもそもそも映画『ウィロー』もそうでしたからね。2020年代に『ウィロー』を新たに再始動するならどうするべきかを真摯に考えたうえでの帰結なのでしょう。

そのドラマ『ウィロー』を中心で手がけているのが『スター・ウォーズ』の脚本家である“ローレンス・カスダン”を父に持つ“ジョナサン・カスダン”だというのも象徴的。まさに世代交代の時ですね。

ドラマ『ウィロー』はシーズン1は全8話で1話あたり約46~60分。「Disney+(ディズニープラス)」で独占配信中です。

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『ウィロー』を観る前のQ&A

Q:ドラマ『ウィロー』を観る前に観たほうがいい作品は?
A:映画『ウィロー』を観ておくのが理想ですが、別に鑑賞していなくてもいきなりドラマから入ってもそこまで問題はありません。ドラマの第1話冒頭で簡単なこれまでの過去に何があったのかの説明があります。なお、ジョージ・ルーカスは映画の続きの物語として「Chronicles of the Shadow War」という本を手がけたこともありますが、それとは直接的な関係はないです。
✔『ウィロー』の見どころ
★女と女の熱い愛のドラマが1話目から展開。
★御伽噺のお約束を反転させる遊び心。
✔『ウィロー』の欠点
☆展開はやや早い。

オススメ度のチェック

ひとり 4.0:初心者でも大丈夫
友人 4.0:気軽に見やすい
恋人 4.0:同性ロマンスたっぷり
キッズ 4.0:子どもでも楽しめる
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『ウィロー』予告動画

↓ここからネタバレが含まれます↓

『ウィロー』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(序盤):ウィローが導く

数十年前、エローラ・ダナンという予言された救世主の子が恐怖の時代に生まれました。執拗な女王バヴモーダの魔の手からエローラを守ったのは意外な2人でした。ひとりはネルウィン族の魔法使い見習いウィローで、純粋な心と勇気を発揮しました。もうひとりはうぬぼれ屋の盗人でホラ吹きのゴロツキのマッドマーティガン。共に女王バヴモーダを倒し、ティア・アスリーンを解放し、平穏を取り戻します。

その戦いは終わりましたが、故郷に戻ったウィローはビジョンを見ます。あるとき、古の悪が再び鎌首をもたげ、未来の女帝を狙うと…。赤ん坊のエローラは素性を隠すことになり、本人さえ知らないままどこかで成長していき…。

年月は経過。野外にて剣術を鍛え合う若い2人、ひとりは王女のキット。対峙するのは赤毛で剣士のジェイド。「バランタインと話した」とジェイドが言いかけたところで来訪者があり、城に呼び戻されます。

一方、キットの兄エリクは遊び人と評判で、今も厨房のメイドのダヴとイチャイチャしていました。こちらも母のソーシャ女王に呼び戻されます。

ソーシャは不吉な声を感じ、不安を募らせていました。今日は大事な晩餐会。ガラドーンの王子である若いグレイドン・ハスターがやってくるのです。ソーシャはキットをこのグレイドンと結婚させようと考えており、王国の統合が果たされれば世界は平和になると信じていました。

ジェイドは師のバランタインの推薦で「輝く軍団」での訓練許可がでたとキットに報告。女として史上初のガラドーンの騎士になれる機会ですが、キットは離れ離れになるのがショックで、自暴自棄で晩餐会の空気をぶち壊します。

キットは夜にジェイドのもとを訪れ、キスをし、立派な騎士になってと言い残して出ていこうとします。ここはもう嫌でした。

ところが怪しい霧に覆われたかと思うと、城は攻撃を受けます。ソーシャは牢の男トラクサス・ボーマンを解き放ち、加勢させ、みんなで迎え撃ちます。敵は急に退散していきます。

しかし、エリクがさらわれたと発覚。キット、ジェイド、グレイドン、ヨルゲン・カセという名の騎士、そして投獄されたボーマンはチームを組み、エリクを探しに出発することになりました。

途中でダヴまでついてきたことがわかり、さらには数人のボーンリーバーに追われ、騎士カセは殺されてしまいます。なんとか危機を脱するも、旅路はいきなり挫けそうです。

けれどもそこに現れたのは、あのウィローでした。彼は最果ての未知の領域に行くことを進言し、ダヴを見つめます。ウィローが触れると腕に刻印が現れ、彼女こそあのエローラだと告げます。ダヴはブリュンヒルドという名でしたが、自分がエローラだとは知らず、みんなと一緒に驚きます。

エローラが救世主だというのは本当なのだろうか。ウィローはかつてはキットやエリクの父であるマッドマーティガンと旅をしていたはずですが、父はどこへ消えたのか。わからないことが多いまま、一同はまだ知らぬ運命へと突き進みます。そこに目指す答えがあると願いながら…。

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同性愛が最高に成熟し、異性愛は破滅のフラグに

ドラマ『ウィロー』、まずはレズビアン作品としてやはり誠実だったと思います。

古今東西、「あれ、この女と女の間には恋愛が芽生えているの? それとも匂わせただけで終わりなの?」と多くのクィアを求める視聴者たちがモヤモヤしながらいろんな作品を目にすることになっているわけですが、そういうありがちな現状に対してこの『ウィロー』は「はい、この女と女の間には恋愛、もちろんありますとも!」と第1話から明確に描写してくれます。こちらの心情をわかってくれている、非常に安心設計です。

そんな愛を繰り広げるキット(演じるのは『メア・オブ・イーストタウン』の“ルビー・クルーズ”)とジェイド(演じるのは『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』の“エリン・ケリーマン”)の2人ですが、冒頭から両者とも互いに夢中なのが伝わってきて、でも素直になれず、どこか距離をとってしまったり…。そんなバレバレの中で「早く付き合っちゃえばいいのに」ムードを周りの登場人物も視聴者も共有しながら、この愛の馴れ初めを見守ることになります。これもいいですね。

このキットやジェイドが男性と付き合うかもという余計な演出も一切なく、本当にただひたすらにこの2人の愛に集中させてくれます。第5話でのスコーピアが率いるボーンリーバーのコミュニティにおける、「あなたが人生に必要」というもはや見てるこっちが恥ずかしくなりそうなプロポーズをし合ってからの、キスする直前に拉致されるキットのシーンとか、プロットの揶揄いも微笑ましいです。そのお預けも第7話できっちり「押し倒しキス」で満腹にさせてくれるし…。

はい、ありがとうございました、後は2人で幸せに暮らしてください、もうさらわれた王子とか助ける必要ないんじゃないですか?…って感じですよ。

一方で本作では異性愛カップルは愛の成熟が破滅的なフラグに重なるようになっていて、こちらはこちらでテンプレの真逆です。

とくにエローラ(演じるのは『ノクターナル・アニマルズ』の“エリー・バンバー”)とエリク(演じるのは“デンプシー・ブリック”)。2人は第1話でそれはもうベタなイチャつきを披露しますがここがピークで後は下り坂。エリクなんて前半は全然出番ないなと思ったら、目覚めると荒廃した都でひとりぼっち。そこで別の若い女性に出会って一瞬この女性との愛が展開されるのかと思いきや、実は悪玉であるクローン本人でした…という踏んだり蹴ったりなオチ。女たらしの王子に厳しい作品だ…。

そしてエローラも当初は「愛は宇宙で一番強い」なんてセリフを口走るように「恋に恋する乙女」という定番なキャラでしたが、しだいに師のウィローから魔法を学ぶにつれて主体性を獲得。ラストは結婚式風演出からの「もう冷めた」発言。あの荒れてく感じのエローラも良かったですね。パワータイプの魔法キャラって私は好きですよ…。

そんなエローラは何やら闇落ちフラグが立っていましたが…。

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ノスタルジーではなく、新しい物語を

ドラマ『ウィロー』は御伽噺のお約束をひっくり返す展開が満載で、前述した同性愛と異性愛の反転以外にも散りばめられています。

個人的にはあのウィローが導く次世代主人公チームの中でなぜかオッサンが混ざっているというシュールな絵を見せてくれるボーマンも愉快でした。

ボーマンを演じるのは“アマール・チャーダ・パテル”ですが、こういう中東系の男性俳優はこれまでハリウッドでは背景にいる程度の役か、目立っていても悪役だったりするものでした。

でもこの『ウィロー』のボーマンは、超お茶目なオッサンですよ。無駄にモテるアピールしたり、筋肉水浴びシーンを映し出したり、ノリノリでネタにされにいっている感じがたまらなく楽しいです。

ボーマンは胸当てラックスアルカナをキットに託し、ちゃんと自分自身を適切に評価できる男になれたのかな…。

また、グレイドンも静かながら活躍が少しずつ蓄積されており、大きな飛躍を見せてくれそうな気配です。グレイドンはそれこそ映画版のウィローに立ち位置が似ていますね。ガラドーンの王子という点では身分ははるかに上ですが、自分への自身の無さを抱えているあたり…。

グレイドンを演じた“トニー・レヴォロリ”(MCUの『スパイダーマン』シリーズでも話題)はグアテマラ系の出自ですが、ドラマ『ウィロー』はこうした人種的マイノリティゆえにこれまでファンタジーでは決して主役になれなかった者たちを物語上で輝かせることで逆転的に面白くさせてもおり、そこも新しいです。

これらの新時代を導くのがウィローだというのが爽快ですよね。そう言えば、ウィローが表の導き役なら、影の導き役になっているマッドマーティガンですが、話によれば異空間にいるらしいですが、詳細は不明。まあ、演じていた“ヴァル・キルマー”の健康面もありますし、こういう登場のさせ方が無難かな…。

ラストは、エリクを解放し、一同は古都を去りますが、グレイドンは妖婆ゾンビクローンに消し飛ばされてしまいました。でもエンディングではグレイドンは闇の軍勢を従えるエローラを目にして…。彼女は本当に救世主なのか、それとも…。それにしても暗黒の軍団を従属させる元メイドの魔女…ってなんか日本のアニメにありそうな設定盛り盛りだな…。

近年のディズニーは続編系作品を量産しており、たいていはノスタルジーに頼ったもので私も食傷気味でしたが、このドラマ『ウィロー』は新しいことをやろうと世界観を切り開いていて、こういう姿勢の作品は珍しいのでは?と思います。

こういう世界の広げ方なら大歓迎です。ディズニーはドラマ『ウィロー』を見習うべきですよ。

『ウィロー』
ROTTEN TOMATOES
S1: Tomatometer 85% Audience 51%
IMDb
5.3 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
7.0

作品ポスター・画像 (C)Lucasfilm

以上、『ウィロー』の感想でした。

Willow (2022) [Japanese Review] 『ウィロー』考察・評価レビュー