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『ヒトラーを殺し、その後ビッグフットを殺した男』感想(ネタバレ)…でも評価はされない

ヒトラーを殺し、その後ビッグフットを殺した男

でも評価はされない…映画『ヒトラーを殺し、その後ビッグフットを殺した男』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:The Man Who Killed Hitler and Then The Bigfoot
製作国:アメリカ(2018年)
日本公開日:2020年2月14日
監督:ロバート・D・クロサイコウスキー

ヒトラーを殺し、その後ビッグフットを殺した男

ひとらーをころしそのごびっくふっとをころしたおとこ
ヒトラーを殺し、その後ビッグフットを殺した男

『ヒトラーを殺しその後ビッグフットを殺した男』あらすじ

独裁者アドルフ・ヒトラーを暗殺した伝説のナチハンター「カルヴィン」。現在は愛犬とともに平穏な老後を送る彼のもとにFBI捜査官が現れ、恐ろしい病原菌を持つ未知の生物ビッグフットの殲滅を依頼する。しかし、カルヴィンには、整理できていない過去があり、その仕事を最初は躊躇ってしまう。それでも銃を背負いナイフを片手に過酷な任務に身を投じることに…。

『ヒトラーを殺しその後ビッグフットを殺した男』感想(ネタバレなし)

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映画を観て、その後映画を語った私

今回はちょっとあまり表沙汰には言えない情報から語ろうと思います。大丈夫かな、警察とか見ていないかな…。

実はですね、私…殺ったことがあるんですよ。

えぇ、あれはまだ私が選挙権もなければ思春期も知らない若かった頃の話。知的好奇心だったのか、内に秘めた残虐性が抑えられずに放出してしまったのか。ある時、私は何も知らない無垢な命がたくさん暮らしている住宅地に火を放ったのです。瞬く間に炎の熱が全てを焦がし、あたりは煙で充満しました。それを私は一体どういう心情で見ていたのでしょうか。今となっては自分でもわかりません。

あの6本脚の住人たちは悲鳴を上げていたのではないか。巣穴の奥から断末魔が聞こえた気がする。もともと黒い体をしているから焦げたかどうかも本当はわからないのですが…。

そんな私の昔の大量殺戮の思い出です。あのとき花火で虐めてしまったアリには謝罪をしてもしきれない。一生この罪を背負って生きていきたいと思います。

そう、私は虫を殺した経験なら山ほどあるのですが、世の中にはもっと凄い人がいるもんですね。なんとヒトラーを殺して、ビッグフットも殺した男がいるらしいのです。どっちも殺すのは相当にハードルが高そうですけど、どういう荒業なのか。え、というか、ヒトラーって殺されたの? 私の知っている歴史と違うのだけど…。それにビッグフットも? まずビッグフットって実在は証明されているの?

疑問は尽きないところですが、まあ、映画を観よう。本作『ヒトラーを殺し、その後ビッグフットを殺した男』を観ればたぶん意味がわかるのだから。

本作は何よりもそのタイトルに惹かれます。どれだけ盛り盛りなんだ、と。正直、私もタイトルありきでこの映画を観ようと思った人間です、はい。

実は本作は製作陣も予想外の盛り盛りになっているのです。まず製作総指揮に名を連ねるひとりが“ジョン・セイルズ”なのです。知っているでしょうか、いや知っている人は当然知っている。あの『ピラニア』(1978年)、や『アリゲーター』(1980年)などの脚本を手がけ、クリーチャーパニック映画の発展の礎を作った映画人です。

そしてもうひとり本作の製作総指揮で注目すべきはあの“ダグラス・トランブル”。こちらもわかる人はひれ伏すレベルの大物。『2001年宇宙の旅』『未知との遭遇』『ブレードランナー』など数多くの名作の特撮を手がけた、SFX界のレジェンドです。『ヒトラーを殺し、その後ビッグフットを殺した男』では“ダグラス・トランブル”自身が特殊効果を担当しています。

このビッグネームを目にしたときはタイトルを目にしたとき以上にびっくりしました。

でもこれだけ期待を煽るようなことを書いておいてなんですが、ごめんなさい、本作はモンスターパニック映画ではありません。「この男に狩れないものはない!」なんていう、いかにもキャッチコピーが日本の宣伝で使われていますが、そういう映画ではないのです。確かにビッグフットも出てくるし、“殺した”というからには戦うのですが…違う。ロジャー・コーマン風B級映画を想像していた人もいるでしょうけど、そうでもない(インディーズ映画なのは間違いないけど)。

『ヒトラーを殺し、その後ビッグフットを殺した男』は、人生に後悔を残す老人の哀愁が漂うドラマにこそ主題があるのです。ネタバレなしで言えるのはこれくらいですが、まあ、『LOGAN ローガン』と同様の空気感ですかね(予算規模は全然違うけど)。

監督は“ロバート・D・クロサイコウスキー”という人で、本作が長編監督デビュー作らしく、なかなかの稀有な逸材が現れた感じです。今後に期待したくなります。

主演の老人を熱演するのは現在75歳の“サム・エリオット”です。最近は『アリー スター誕生』に出演し、アカデミー助演男優賞に初ノミネートされたことでも記憶に新しいですが、私もあの作品は“サム・エリオット”の方に惹かれてしまいましたね。『ヒトラーを殺し、その後ビッグフットを殺した男』では主役ですのでひたすらに堪能できて目が幸せです。

私は“映画を観て、その後映画を語った人間”ですが(いつもやっている)、本作はヒトラーを殺して、ビッグフットを殺した後に何をやるのか…そこにこそ意味があります。その点を多くの観客と共有できたら映画を語った意味もあるというものです。

オススメ度のチェック

ひとり ◯(老人映画好きは必見の一作)
友人 ◯(マイナー作品を楽しめる仲なら)
恋人 △(気分が盛り上がる効果はない)
キッズ △(子ども向けのエンタメではない)
↓ここからネタバレが含まれます↓

『ヒトラーを殺しその後ビッグフットを殺した男』感想(ネタバレあり)

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ヒトラーを殺した男のその後の余生

ひと気のない小さな酒場で佇む老人がいます。彼の名前はカルヴィン・バー。その顔は穏やかではなく、何か苦々しい記憶を追想しているようでした。カルヴィンは昔を思い出します。

時は第二次世界大戦中。ナチスが支配する領土にて、ある建物に若い将校風の男が来ます。それはカルヴィンです。受付に直行し、受付の男は「ハイル、ヒトラー」といつもの挨拶をしますが、カルヴィンはスルー。手順として身につけている所有物を全て確認、銃は没収です。何事もなく身体検査は終わり、最後に「ハイル、ヒトラー」の腕上げだけして階段を進むカルヴィン。

廊下で彼は体のあちこちに隠していたパーツを組み上げ、銃らしきものを用意。ドアをノックし、部屋の奥にいるのもとへ歩みを進めます。これから歴史を揺るがす行為をするために…。

昔の話は終わり、今のカルヴィン。酒場を出た彼をこっそりつける車が夜の街に潜んでいました。自分の車を前に不良の男たちに囲まれますが、逆にいとも簡単に圧倒してみせます。老人にしては只者ではありません。車に乗りますが、その顔が怒りでも高揚感でもなく、やはり虚しそうです。

朝食を飼い犬と仲良くとっている老人の姿は微笑ましいもの。理髪店で弟のエドと会話して、少しリラックスした雰囲気になるカルヴィン。それでもやはりまたも昔を思い出さずにはいられません。

カルヴィンは重要な任務を任せられ、ナチスの将校の服装で紛れ込み、敵地に潜入しました。列車に乗り、大勢の虐げられている人たちの横を素通りしながら目的地へ向かいます。その建物はこのナチスの頂点に立ち、あらゆる残虐で非道な行為を指揮している最悪の男、ヒトラーがいるとされる場所。映像は冒頭の回想シーンへと繋がります。部屋に入ったカルヴィンは目の前に座るヒトラーに銃を向け、発砲。こうして諸悪の根源はカルヴィンの手によって殺されたのでした。

また別の過去では、カルヴィンはある女性に心惹かれていました。その女性とはどんどん打ち解け合い、将来の伴侶になりたいと思える相手でした。しかし…。

そんな過去ばかりが脳内をあてもなく渦巻く日々。ある夜、家で物思いにふけるしかできないカルヴィンのもとに二人の男がやってきます。どうやらその訪問者はカルヴィンの過去のあの行為を知っているようです。祖父から聞いたという神話のような伝説にすがってまでなぜここに来たのか。なんでも巷で世間を騒がせている連続殺人事件絡みの話だとか。実はあれは殺人事件ではなく、未知のウイルスによる感染死亡事件なのだそうです。しかも、その原因はビッグフット。人に知られていないその謎の生命体が危険な病原体をばらまいている…。にわかには信じがたい話ですが、訪問者は大真面目。

そしてカルヴィンにそのビッグフットを殺害してほしいと依頼をしてきます。またも“殺し”を頼まれてしまったカルヴィン。当然、素直に返事はできません。それでも世界の危機だと言われれば、もう聞かなかったことにもできない。

老人は再び銃をとるのでした。目指すは大自然のどこかにいるであろう、ビッグフット。そこは過酷な自然環境が容赦なく牙をむく世界。老人どころか、野生動物だって気を抜けない弱肉強食の掟に縛られたエリアです。

ここでビッグフットを殺せば、自分の人生は何か変わるのだろうか。雑念を振り払うように老人は一心不乱に銃口を向けます。獲物となる相手のいるであろう場所に…。

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殺してもスッキリできない

『ヒトラーを殺し、その後ビッグフットを殺した男』は前述したとおり、そして鑑賞した人ならおわかりのとおり、モンスター映画ではありません。

しかし、人生に後悔を残す老人の哀愁というエッセンスはモンスター映画及びその他作品媒体によく出てきます。代表的なのは「白鯨」のエイハブ船長です。その「白鯨」を強く意識したキャラが出てくるスティーブン・スピルバーグの『ジョーズ』もそうでした。

ただ、これらは殺すことで人生の後悔を補填しようとする復讐に燃えた老人の物語。『ヒトラーを殺し、その後ビッグフットを殺した男』の場合は「殺してスッキリできなかった」老人の物語という点で大きく異なります。

まずあのナチスの最高指導者ヒトラーの暗殺に成功したカルヴィンですが、それで『イングロリアス・バスターズ』のように「やったぜ!」とカタルシス満点の展開…とはいきません。ヒトラーを殺しても影武者がいたりして、結局はナチスの勢力は衰えることはなく、あの行為にどれほどの意味があったのかもわからない。歴史改変SFの真逆を行くような、なんとも歯がゆいストーリーがそこにありました。

カルヴィンはこの後悔をずっと抱えて年をとっていくことになります。本当に殺さなければいけなかったのか。もっと何かできたのではないか。

そんな密かな偉業を誰にも評価されずに孤独に苦悩してきた老人の姿が、いつのまにやら神話化してまるで都市伝説のようになっているのも皮肉。カルヴィン自身もまたビッグフットみたいな存在なんですね。

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ビッグフットが意味するもの

で、カルヴィンは次にビッグフットの殺しを頼まれるのですが、この一件はなかなかにツッコミどころだらけではあります。

そもそも危険な病原体が蔓延しているとしてもその保菌者であるビッグフットを殺害すれば済むものでもないだろう…という根本的な対策ミスが思いつきますし、仮にビッグフットを殺すにしてもいくら耐性をカルヴィンが持っているからといっても、普通に防護服装備でもっと攻撃能力のある軍隊に任せられる話じゃないか、とも。

ただ、『ヒトラーを殺し、その後ビッグフットを殺した男』における「ビッグフット」はとても多義的な解釈ができるように設定されている存在なんだと思います。

まずやはり本作のビッグフットはヒトラーと同意義の存在感です。ビッグフットは感染症を引き起こす原因を拡散しているわけですが、ヒトラーだって差別主義と戦争という悪しきものを人に感染させる、極めて危険なインフルエンサーでした。レアな存在で、あまり人前に姿は現さないけど知名度はあるという特徴も似ていますね。もしかしたらこのビッグフットは文字どおりのUMAとしてのビッグフットではなく、それこそ現代で猛威を振るう新しい差別主義者(ネオナチとか)を比喩した存在と受け取るこことも不可能ではないと思います。

そしてその存在だけをこの世から抹消しても根本的な解決にはならないという点も共通です。そうやって考えると、あの私がさっき言及したツッコミどころも脚本上は想定済みで、そのうえでのストーリーなのかもしれないですね。

またビッグフットはカルヴィン自身とも通じる存在でもあります。おそらくビッグフットも孤独にこの世界を生きていたのでしょう。あの存在を最初に発見したとき、その場で火葬しようとしてあげたカルヴィンは同情心が芽生えています。

そのビッグフットをやむを得ない死闘のすえに殺害し、自らも倒れたカルヴィン。でも彼にはまだ人生が用意されていた。そしてきっと自分が生きてきた意味が些細な形でもいいのであったのかもと実感できる。

本作は、ヒトラーを殺し、その後ビッグフットを殺し、さらに自分も殺した男。そんなふうに表現できなくもない物語であり、そうやって似た者同士3者の死の先に小さな意味を見つける御伽噺でもあったのではないでしょうか。

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演出が上手いのは監督の実力の証拠

それにしても『ヒトラーを殺し、その後ビッグフットを殺した男』は演出が地味ながら上手かったなという印象。

冒頭のヒトラー暗殺のくだりの時点から捻りの効いた緊迫感。「ハイル、ヒトラー」って元気よく言わないものだから(『ジョジョ・ラビット』を見習って)、観客としてはバレるんじゃないかとハラハラ。そこからの体のあちこちに隠したアイテムやらをカチャカチャ合体させて即席の銃ができるという、マニア魂をくすぐる銃描写に興奮。

銃と言えば、後半でビッグフットを探して自然を練り歩くとき、カルヴィンが持っていくのは「スプリングフィールドM1903小銃」という今やクラシック感すらある銃で、ここにもこだわりを感じますね。まあ、そのボルトアクション式ライフルで本当にビッグフットを倒せると思ったのかという疑問はなくはないですが…。

本作は現在パートと回想パートへの移行もアイテムなどを通して印象的に行われ、なんというか、すごくオシャレな感じです。

個人的には作中で頻繁に登場する靴を気にする描写が思わぬ伏線になっていくあたりも上手いなと思いました。最初、何でこれ見よがしに靴をトントンするのかと思いましたけど、カルヴィンの人生の心残りそのものを象徴するようなアクションだったんですね。

“ロバート・D・クロサイコウスキー”監督、まだその手腕は掴み切れない部分が多いですが、確かな演出力と派手さのない抑制の効いたストーリーテリング、ジャンルムービー要素の活かし方…すべてにおいて可能性の宝庫を感じるので、さらなる飛躍に期待しています。この監督こそビッグフットを殺すくらいの映画業界で名を馳せていってほしいな。

それまでには私もビッグフットと…友達になっておきたいと思います。ほら、最近は歌を歌う奴とかいるし、たぶんフレンドリーだよ、きっと。

『ヒトラーを殺し、その後ビッグフットを殺した男』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 76% Audience 51%
IMDb
5.6 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 7/10 ★★★★★★★

作品ポスター・画像 (C)2018 MAKESHIFT, LLC. ALL RIGHTS RESERVED. ヒトラーを殺し、その後ビックフットを殺した男

以上、『ヒトラーを殺し、その後ビッグフットを殺した男』の感想でした。

The Man Who Killed Hitler and Then The Bigfoot (2018) [Japanese Review] 『ヒトラーを殺し、その後ビッグフットを殺した男』考察・評価レビュー