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『ハウス・オブ・グッチ』感想(ネタバレ)…このGUCCIは本物かはわかりませんが映画は実話です

ハウス・オブ・グッチ

本物っぽくない実話です…映画『ハウス・オブ・グッチ』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:House of Gucci
製作国:アメリカ(2021年)
日本公開日:2022年1月14日
監督:リドリー・スコット
性描写 恋愛描写

ハウス・オブ・グッチ

はうすおぶぐっち
ハウス・オブ・グッチ

『ハウス・オブ・グッチ』あらすじ

世界に名だたるファッションブランド「GUCCI(グッチ)」の創業者であるグッチ一族は、波乱と確執にまみれていた。創業者グッチオ・グッチの孫にあたる3代目社長マウリツィオは、その渦中にいる。ある日、パトリツィア・レッジャーニという女性に出会い、家族のビジネスに興味がなかったマウリツィオはパトリツィアとの愛に傾倒し、順風満帆な家庭を築く。しかし、パトリツィアの方は違う世界を夢見ていた。

『ハウス・オブ・グッチ』感想(ネタバレなし)

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グッチは誰のモノ?

私はファッションブランドに全然興味がないので何を持っていないのですが、さすがに名前くらいは知っているブランドはあります。「グッチ(Gucci)」とかね。うん…あれ、どんなロゴだったっけ…?

グッチはフィレンツェで生まれた“グッチオ・グッチ”が創業しました。麦藁帽子を製造する会社を経営するガブリエロ・グッチの息子として誕生し、ロンドンで一旗揚げようと頑張ります。ホテルの皿洗いからウェイターと徐々に下積みを重ねて努力し、故郷に戻ると1922年に革製品を扱う店を開業。1923年にあの「GUCCI」の店名を掲げ、ついにその世界に名を残す歴史が始まります。つまり、本当に底辺労働者からスタートしたんですね。

グッチオ・グッチは、1953年に72年の生涯を閉じることになるのですが、ブランドが消えたわけではありません。その後は、息子たちであるアルド、バスコ、ウーゴ、ロドルフォが事業を引き継ぐことになります。

そうです、こうやって代々と家族の伝統としてこのグッチのビジネスは発展を続けて…いきませんでした

え?という感じですが、今も「グッチ」というブランド名はしっかり残っていますけど、もうグッチの一族は関与していないんですね。

一体なぜこんなことになってしまったのか。そのグッチ一族の崩壊の決定的出来事を描く映画が登場しました。それが本作『ハウス・オブ・グッチ』です。

監督は2017年に『ゲティ家の身代金』でも巨万の富と権力を持つ家族の内情を痛烈に描いた“リドリー・スコット”。基本的に権威とか規範とかが大嫌いな人なので今回の『ハウス・オブ・グッチ』でもグッチ・ファミリーに一切忖度することなく情け容赦なく描いています。ハリウッドってファッション業界と深い関係があるものですし、遠慮してしまいそうなものですけど、相変わらず怖いもの知らずです。

それにしても“リドリー・スコット”監督は2021年は『ハウス・オブ・グッチ』に加えて『最後の決闘裁判』もあったので1年に2本の映画を公開しました。コロナ禍とは思えないフットワークの軽さですね。2022年時点で84歳のおじいちゃんなんだけどなぁ…。

なんでも2000年代初めから“リドリー・スコット”監督は本作の企画を考えていたそうで、“サラ・ゲイ・フォーデン”のノンフィクション「The House of Gucci: A Sensational Story of Murder, Madness, Glamour, and Greed」が原作になっています。

『ハウス・オブ・グッチ』は俳優陣の豪華さにも注目です。

グッチ一族の崩壊に大きく関わるグッチ家のひとりと結婚した女性を演じるのは、『アリー スター誕生』で素晴らしい名演と美声を披露した“レディー・ガガ”。『アリー スター誕生』のときは「まあ、歌手の役だし、これだけで俳優の才能を評価はしきれないかな」と偉そうに思っていたのですけど、今回の『ハウス・オブ・グッチ』はもちろん全然歌わない役ですが、俳優として唯一無二の魅力を放っていて正直に言えば圧倒されました。こんなにも俳優でもオーラを放てるなんて…。これがカリスマ性というやつなのか…。

その“レディー・ガガ”演じる主人公の結婚相手となるグッチ家のひとりを演じるのが、続3部作『スター・ウォーズ』シリーズや『ローガン・ラッキー』『デッド・ドント・ダイ』など多彩な作品で観客を魅了する“アダム・ドライバー”。今回の『ハウス・オブ・グッチ』でも抜群の魅力満載で、終始目が離せません。

他には、『アイリッシュマン』の“アル・パチーノ”、『ブレードランナー 2049』の“ジャレッド・レト”、ドラマ『ウォッチメン』の“ジェレミー・アイアンズ”、『エターナルズ』の“サルマ・ハエック”、『アンテベラム』の“ジャック・ヒューストン”、ドラマ『エージェント物語』の“カミーユ・コッタン”など。

ちなみに、“サルマ・ハエック”は現在のグッチの親会社である「ケリング(Kering)」のCEOの“フランソワ・アンリ・ピノー”と婚約しているのですけど、本人的にいいんですね。

なお、アナ・ウィンターやトム・フォード、ソフィア・ローレンなど実在の大物も登場するので、それをどんな人が演じているのかも気にしてみると面白いです。

注意点として、本作は約160分も上映時間があるので長丁場を覚悟してこのグッチ家の大騒動にお付き合いください。ファッショナブルなオシャレ映画ではなく、夫婦の非常に気まずい関係崩壊映画なので、カップルで見に行くのはあまり勧められないけど…。

オススメ度のチェック

ひとり 3.5:実話に興味あるなら
友人 3.5:俳優ファン同士で
恋人 3.0:夫婦崩壊モノだけど
キッズ 3.0:性描写がハッキリあり
↓ここからネタバレが含まれます↓

『ハウス・オブ・グッチ』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):グッチ家は崩壊しました

1978年。赤い車から降りてきたのはパトリツィア・レッジアーニ。周囲にたむろしているトラック運転手のガサツな男たちに卑猥に囃し立てられる中、颯爽と歩いて向かったのは事務所。彼女は父親の小さなトラック会社でマネージャーとして働いていました。

この仕事は退屈で、気分転換にパーティーに出かけて、その快楽に身を任せます。そこでマウリツィオという男と出会いました。バーテンダーみたいですが、実は彼のフルネームは「マウリツィオ・グッチ」。あの絶大な知名度を誇るファッションブランドを生み出したグッチの家系です。

一緒に踊る2人。マウリツィオはぎこちないですが、パトリツィアは熱視線。彼が自分の人生を変えてくれるかもしれません。翌日、彼をこっそり尾行し、どう考えてもバレバレですぐに見つかります。

こうして2人は関係を深めていき、初々しいデートを重ね、愛を育んでいきました。それを見張る男がひとり…。

マウリツィオの父であるロドルフォは当然に現れ、一緒に食事することに。息子を溺愛しているロドルフォはパトリツィアは資産目当てであり、信用できないと考えていました。

しかし、マウリツィオも譲りません。パトリツィアとの愛はもう引き返せないところまで高まっており、結果、グッチ家と関係を解消するという決断までします。

こうしてマウリツィオはレッジアーニのトラック会社に就職し、運転手たちとじゃれ合って馴染みます。パトリツィアとももちろん良好な関係で、職場でも激しく体を求め合うほど。

2人は結婚式をあげ、祝福に包まれて平穏な家庭を築きました。

そんなとき、電話が来ます。グッチ家の実力者にして商才に長ける次男アルド・グッチの誕生日パーティーが別荘で開かれるのです。そこに招かれたパトリツィアは初めてグッチ家の日常を目にします。何もかも庶民的とはかけ離れていました。家族の名であるグッチが富そのものを意味している。その恩恵を受けて育った面々は誰もが特別であることを疑っていません。そしてこの富に自分が混ざるのはそう簡単ではないことも…。

ある日、パトリツィアはテレビで見かけた占い師ピーナに電話。そして直接会い、相談をします。

「信頼の裏切りが見える。あなた方を騙そうとしている。赤い色の物で身を守り、もっと緑色の服を着て。緑は浄化よ」「口紅と合わない」「口紅を変えなさい。あなたは美しい。下着を緑にすれば? 取り戻すときが来たのよ。周りの勢力に支配されないで。あなたは強く気高い女。しかも…偉大な愛のある人生よ。力を合わせ、世界を支配できる。あなたは女王になれるのよ

しだいにパトリツィアは自信を深め、大きな野望を抱くようになります。何と言われようと自分がこのグッチを支配してみせる。マウリツィオには全然やる気がない。だったら自分が動くしかない。

その一歩として、アルドの次男で、独自にブランドの新路線を作ろうと奮闘しているもののその変人っぷりから家族内でも爪弾きにされてしまっているパオロから重大な情報をゲットします。

こうしてパトリツィアのグッチ主導権奪取の戦いが幕を開けました。まさかそれが最終的にはマウリツィオの殺害へと繋がっていくとは思いもよらずに…。

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男社会に女が立ち向かう話

『ハウス・オブ・グッチ』は実話に基づいているので大まかな部分は当然事実です。しかし、大幅に脚色されています。例えば、本作はアルドとロドルフォとパオロとマウリツィオくらいしかグッチ家の人間が出てこないのですが、本当はもっと大勢いて、さらにややこしい紛争をそれぞれで抱えていたので、もっとカオスだったんですね。さすがにそれ全部は盛り込めないのでスリム化しています。また、実際に本作に対してグッチ家の当事者はここが違うなどと批判もしていますが、まあ、その点についてはそもそも本作はグッチ家の人間にとって気持ちのいい映画を作ろうとして狙っていないでしょうし、“リドリー・スコット”監督的には「知ったことか」なんだと思いますが…。

『ハウス・オブ・グッチ』は何よりもまず夫婦崩壊モノです。最初の夫婦の馴れ初めなんかは愛らしい感じの2人の恋模様で、『パターソン』『マリッジ・ストーリー』などこれまでも夫婦映画で名演を見せてきた“アダム・ドライバー”ということもあって、このままハッピーエンドを迎えるルートもありそうな気がしてきます。

しかし、そこは“リドリー・スコット”監督なので、単純な恋愛賛歌にはならない。2人の小舟での霧にまみれたキスシーンといい、体を交えるやたら激しいシーンといい、どことなく不吉さも醸し出しているのも印象的。

同時に本作はかなりパトリツィアを主体的に据えたストーリーテリングになっており、彼女の動機としてただ欲に目がくらんだ哀れな女…みたいな描き方にはしていません。強欲女でもない。彼女が求めていたのは窮屈な世界からの脱却。

冒頭、パトリツィアは父のトラック会社で運転手の男たちに性的に見られて揶揄われます。つまり、労働者階級の女性蔑視なホモ・ソーシャルをしっかり映し出しています。パトリツィアにとってここから抜け出す方法として富と権力を手にするしかない。

しかし、グッチ家もまたやっぱり男社会なんですね。あの別荘での男たちの醜態とも言える群がりのありさまがそれを物語っていました。「女の出る幕ではない」と言われてしまい、ここでも蚊帳の外。

だからこそ夫のマウリツィオと協力して、あのグッチ帝国を改革しようと乗り出すのですが、ここであの権力に興味なさそうにしていたマウリツィオもしょせんは同類だということがわかります。それは前半の彼がトラック会社に就職したときに男たちと馴染んでじゃれている風景でも暗示されているのですが、後半でついにマウリツィオは旧友のパオラと再会してあっさりパトリツィアを捨ててしまい、現実を突きつけられます。そして思うわけです。これはもう殺るしかない…と。

結局のところ、『ハウス・オブ・グッチ』も『最後の決闘裁判』と同じ、そして『エイリアン』と同様、“リドリー・スコット”監督が初期から一貫して撮ってきた「男社会に女が立ち向かう話」なんですね。

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富ある家族でも脆いものは脆い

ただ、『ハウス・オブ・グッチ』はそんなシンプルなジェンダー間の闘争でも終わりません。ここにさらに別のレイヤーが覆い重なってきます。それが資本主義という権力の弱肉強食。

パトリツィアはピーナにそそのかされてマウリツィオ殺害を決行することに決め、ヒットマンを雇って実行するのですが、実のところマウリツィオを殺しても権力が手に入るような状況ではもうありませんでした。

グッチはもう別の大企業に支配されてしまっていたからです。「インヴェストコープ(Investcorp)」という巨大資本企業に…。

つまり、家族というモンスターと戦おうとしたら、その家族というモンスターは大企業というさらに巨大なモンスターに食べられていました…ということ。このへんも『エイリアン』っぽい構図ですが…。

だから、グッチはパトリツィアが破滅させたのではない。富ある家族でも脆いものは脆く、あっけなく自滅的に崩壊してしまうものですよ…という現実を教えてくれるような、そんな後味です。

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「Father, son and House of Gucci」

それにしても“レディー・ガガ”が本当にかっこよかったです。

ファッションセンスのハマり方も完璧ですし、要所要所でキッチリとファッションが意味を成す演出も効いていたこともあって、すごい存在感でした。あんな真っ赤なスノーウェアを身にまとった人がいたら、威圧感が尋常じゃないね…。

それ以外にも自然体で振舞う姿も良くて、そこで“レディー・ガガ”の才能を認識しました。

ちなみに予告動画の時点で一部でネットミーム化していたセリフ…「Father, son and House of Gucci」…これはアドリブだというからそれはそれで驚き。やっぱり“レディー・ガガ”のカルチャーを生み出すパワーはハンパないな…。グッチの宣伝キャッチコピーに使えちゃうセリフになってるよ…。

ちょっと映画時間が長いので物語がモタつくこともあるのが欠点ですが、“レディー・ガガ”を目で追っていたらわりとあっという間のエンディングでした。

グッチは…とくに欲しくないですけどね。

『ハウス・オブ・グッチ』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 63% Audience 83%
IMDb
6.9 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
7.0

作品ポスター・画像 (C)2021 METRO-GOLDWYN-MAYER PICTURES INC. ALL RIGHTS RESERVED. ハウスオブグッチ

以上、『ハウス・オブ・グッチ』の感想でした。

House of Gucci (2021) [Japanese review] 『ハウス・オブ・グッチ』考察・評価レビュー