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『カラーパープル』感想(ネタバレ)…2023年、時代が原作に追いついた

カラーパープル

時代が原作に追いついた…映画『カラーパープル(2023)』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:The Color Purple
製作国:アメリカ(2023年)
日本公開日:2024年2月9日
監督:ブリッツ・バザウーレ
性暴力描写 DV-家庭内暴力-描写 児童虐待描写 人種差別描写 性描写 恋愛描写
カラーパープル

からーぱーぷる
カラーパープル

『カラーパープル』物語 簡単紹介

アフリカ系アメリカ人のコミュニティが公然と差別による苦難で抑圧されていた1990年代の初期。乱暴で支配的な父に虐待され、10代で望まぬ結婚を強いられたセリーは、唯一の心の支えである妹とも離れ離れになり、辛く不遇な日々を過ごしていた。そんな中、型破りな生き方の女性たちとの出会いや交流が全てを変えていく。自分の価値に目覚めたセリーは、自らの人生を思い切って切り拓いていき、前に進む。
この記事は「シネマンドレイク」執筆による『カラーパープル』の感想です。

『カラーパープル』感想(ネタバレなし)

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2023年に映画に舞い戻った「カラーパープル」

ハリウッドではリメイクリブートは毎年のように何作も製作され観られます。中には「これ、リメイクする必要ある?」という映画もあります。正直、大手映画企業が自社の有するIP(知的財産)を更新したいだけなんだろうなという下心も透けて見えますが…。

ただ、このタイトルはリメイクされる意義が本当に大きい一作になるだろうなと思います。ほんと、いろいろあったから…。

それが2023年にアメリカで公開された本作『カラーパープル』です。

本作はアフリカ系アメリカ人の著名な作家にしてフェミニストとしても活動実績のある“アリス・ウォーカー”が1982年に執筆した「The Color Purple」を原作としていますが、この小説は“スティーヴン・スピルバーグ”監督によって1985年に『カラーパープル』として映画化されました。

この1985年の『カラーパープル』はアカデミー賞で作品賞を含む10部門(11候補)ノミネートを果たし、一般的には高評価を獲得した名作として映画史に記録されています。

その映画が2023年に再び映画となったのが本作『カラーパープル』なのですが、決定的な違いがあります。

それはミュージカル映画になったということ。そもそも原作が2005年にブロードウェイ・ミュージカル化しており、今回の2023年版はそれを基にしています。

製作は最初の映画の監督である“スティーヴン・スピルバーグ”と、主役キャストだった“オプラ・ウィンフリー”。さらにミュージカル版のプロデューサーであった“スコット・サンダース”“クインシー・ジョーンズ”

監督は『コジョーの埋葬』で長編映画監督デビューし、“ビヨンセ”のビジュアル・アルバム『ブラック・イズ・キング』も手がけたガーナ人の“ブリッツ・バザウーレ”(ブリッツ・ジ・アンバサダー)。

そしてミュージカル・パフォーマンスと共に物語を彩る俳優陣は、まずブロードウェイ版でも主役を演じた“ファンテイジア・バリーノ”(ファンタジア・バリノ)が続投。映画俳優としては新人ですけど、すでに経験値が段違いです。圧巻の才能が映画でも爆発させてます。

その“ファンテイジア・バリーノ”に並ぶのは、実写映画『リトル・マーメイド』で見事に主人公を飾った“ハリー・ベイリー”、ドラマ『Empire 成功の代償』“タラジ・P・ヘンソン”、ドラマ『ピースメイカー』“ダニエル・ブルックス”、さらにシンガーソングライターの“H.E.R.”

本作は黒人女性がメインの物語ですが、このメンバーのアンサンブルが本当に素晴らしいです。

男性陣も、『マ・レイニーのブラックボトム』『ラスティン: ワシントンの「あの日」を作った男』“コールマン・ドミンゴ”『ドラキュラ デメテル号最期の航海』“コーリー・ホーキンズ”など揃ってます。

で、話を最初の話題に戻しましょう。こうした経緯をみると、よくある再映画化のパターンです。では、なぜリメイクされる意義が大きいのか?

それは…冒頭で1985年の『カラーパープル』は「一般的には高評価を獲得した名作として映画史に記録されている」と書きましたけど、実はアフリカ系コミュニティの間では結構、賛否両論だったんですね。

当時、どうしてそんな反応だったのか…そのあたりについては話すと長くなるので、後半の感想で整理しています。それを踏まえることで、今回の2023年版の評価もできるようになってくると思うので。ちなみに私はブロードウェイ版は見ていないので、それと比較することはできません。

また、本作は黒人に対する人種差別が背景にあるのは間違いない内容ではありますので、日本ではまだまだその歴史の認知も深くないでしょうし、あらためて1900年代初期あたりまでのアフリカ系アメリカ人の歴史を後半感想内のあらすじのところにさらっとまとめています。そちらも鑑賞の際の参考にしてください。

なお、以前の映画を観たことある人ならわかっていると思いますが、本作は親から子への児童虐待や性暴力を背景にした物語となっています。直接的描写は薄くても、ハッキリとその被害者の苦悩やトラウマを描いていますので、じゅうぶんに留意してください。

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『カラーパープル』を観る前のQ&A

✔『カラーパープル』の見どころ
★最も弱い立場の者への高らかなエンパワーメント。
★俳優陣のパワフルな演技と歌唱パフォーマンス。
✔『カラーパープル』の欠点
☆暴力的な背景が描かれるので注意。

オススメ度のチェック

ひとり 4.0:重いが見ごたえ充実
友人 3.5:ミュージカル好き同士で
恋人 3.5:同性ロマンスあり
キッズ 2.5:やや暴力描写あり
↓ここからネタバレが含まれます↓

『カラーパープル』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):私の解放はいつ始まる?

アメリカではアフリカ系アメリカ人を奴隷として酷使する「奴隷制度」が南部の州を中心に浸透していましたが、その奴隷制度の是非で北部と南部の州が「南北戦争」を起こし、結果、奴隷制度は廃止されることになりました。1863年、エイブラハム・リンカーン大統領によって発令された「奴隷解放宣言」は新しい時代の幕開けに…。

しかし、黒人の苦難は続きます。1860年代は黒人に市民権が与えられましたが、ジム・クロウ法が邪魔をします。これは人種の分離を合法化させ、黒人は公共施設で隔離させられ、多大な不利益を生じます。南部の州は黒人の選挙権を事実上剥奪する施策も実行し、黒人は社会で下位の存在としてなおも虐げられました。リンチも横行し、命が脅かされるのも日常茶飯事でした。

そんな中で、人種差別撤廃のために活動する黒人たちも現れ、初期の公民権運動も動き出しました。1909年に全米黒人地位向上協会(NAACP)が設立されたのはその最初の一歩です。

その1909年、差別が苛烈に残存する南部のジョージア州。10代のセリーは妹のネティと虐待的な父親のアルフォンソと暮らしていました。母親は亡くなり、今はこの父だけが家庭を牛耳っています。

アルフォンソは娘であるセリーに性行為を強要し、すでにセリーは2回妊娠しています。セリーが2人目の子どもを出産しましたが、アルフォンソは最初の子供と同じようにその子を連れていってセリーから引き剥がします。それでもセリーは子どもを忘れることはできません。

次にセリーは地元の農家で3人の子の父であるアルバート・”ミスター”・ジョンソンとの結婚を強制します。逆らうことはできません。

セリーにとってネティだけが笑顔にしてくれる存在です。ともに出歩いて楽しむのが唯一の安らぎ。

ところがそのネティさえも暴力の餌食になりそうになり、ネティは必死に抵抗。外に投げ出され、銃をぶっ放されたことで、ネティは泣き叫ぶセリーを置いて、雨の暗闇へと去るしかなくなりました

年月が経過した1917年。セリーはまだミスターと住んでおり、彼の子であるハーポは陽気で反抗的なソフィアと結婚しました。ソフィアは年上の男相手にも動じない性格です。そのソフィアも男の暴力にうんざりして、ここを出ていきます。

ある日、ジャズ歌手のシュグ・エイヴリーがこの町にやって来て、有名人の来訪にこの地で暮らす黒人たちはざわつきます。

しかも、ひょんなことからこのシュグを家に泊めることになり、自然と仲良くなるセリー。自立したライフスタイルを送るシュグの堂々とした振る舞いは、セリーには新鮮です。

そんな最中にある事実が発覚し…。

この『カラーパープル』のあらすじは「シネマンドレイク」によってオリジナルで書かれました。内容は2024/11/13に更新されています。
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1985年の「カラーパープル」論争を振り返る

ここから『カラーパープル』のネタバレありの感想本文です。

2023年版の『カラーパープル』の本題に入る前に、前半で少し触れた1985年版の『カラーパープル』がなぜアフリカ系コミュニティの間で当時は賛否両論だったのかという話をしておきましょう。

その論争に関しては「NPR」にてアフリカ系アメリカ人のライターである“アイシャ・ハリス”が要点を整理整頓しているのでそちらを見てほしいのですが、英語なので、以下に簡単にこちらでも説明します。

その第一の理由が、1985年版の監督と脚本を担当したのが“スティーヴン・スピルバーグ”“メノ・メイエス”という白人男性だったという点。

本作は見て明らかなように「アフリカ系アメリカ人の視点」を描く作品であり、それを平然と白人だけで語っていく製作体制は真っ先に批判されました。

これだけではありません。第二の理由が、その中身です。本作に登場する黒人男性は暴力的な存在として強烈に描かれていることが問題視されました。

黒人男性が社会を脅かす存在として表象されるというのは定番のステレオタイプです。それは実際の黒人男性への偏見に助長しており、『ティル』で題材になったような陰惨な事件もそうした先入観が引き金となっています。

こうしたワケで、当時の公開時からこの映画は称賛と同時に批判のマトとなり、全米黒人地位向上協会(NAACP)は強い非難声明をだしているほどです。

一方で、本作は黒人女性フェミニストの原作を映画化するという当時としては相当に画期的な映画だったのも事実です。本作が描いてみせたのは、黒人で、かつ女性、そしてクィアにも踏み込んだ物語

上記のあらすじで少し言及しましたが、1909年に全米黒人地位向上協会が設立され、公民権運動が本格的に始まったわけですが、その組織は黒人男性中心。その時代の中で、黒人差別と女性差別の両方に苦しんでいた黒人女性の叫びと解放を描く。そんなインターセクショナリティな視座が本作にはありました。

にもかかわらず1985年版の映画公開時は「白人男性vs黒人男性」という世間の反応ばかりがクローズアップされてしまい…。結果、テーマが霞み、まるで黒人が分断されたような感じにも見えてしまって、やるせない状況だったと言えます。

やっぱり巨匠と言えど万能じゃないので“スティーヴン・スピルバーグ”は適材適所ではなかったですね…。

結局、1985年版の『カラーパープル』はアカデミー賞で多数ノミネートされるも受賞は全然できず、作品賞をとったのが、白人がアフリカで暮らす姿を描いた『愛と哀しみの果て』だったというのも、すごく虚しいオチだったな…。

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正当に評価できる社会の土壌が整った

そうした複雑な感情が渦巻く過去を押さえたうえで、今回の2023年版の『カラーパープル』はどうだったかという評価です。

何よりも変わったのは映画だけではありません。時代…社会そのものが変わりました。これは本当に大事な部分です。

私たちは2018年の『ブラックパンサー』のアフターの時代に生きており、ブラック・ムービーを取り巻く業界の反応も変革しました。レプリゼンテーションは確実に幅広く豊かになっています。

前年である2022年も『ブラックパンサー ワカンダ・フォーエバー』『ウーマン・キング 無敵の女戦士たち』と黒人女性を主体にした映画が鮮烈に登場。2023年だって実写映画『リトル・マーメイド』や『スパイダーマン アクロス・ザ・スパイダーバース』が駆け巡った年です。

映画を評価するのは全米黒人地位向上協会ではありません。SNSなどで、多彩な当事者たちが多角的に分析し、あれこれ議論するのが当たり前になりました。

もう「白人男性vs黒人男性」なんて狭い論点で片付けません。包括的な批評ができます。つまり、やっと正当に評価できる社会の土壌が整ったのです。時代が本作に追いついた…。遅いよって話もありますけど…(逆にこれだけ社会の盲点を突ける作品を何十年も前に生み出した原作者の“アリス・ウォーカー”はやっぱりすごかったですね)。

そんな社会に向けた2023年版の『カラーパープル』はしっかり練り込まれていました。

黒人女性たちの連帯の物語として、家父長制を突破し、同時にトラウマを癒す…エンパワーメントなミュージカルが心を打ちます。セリーとシュグのロマンスも素直に描き抜かれていて、『ウォーターメロン・ウーマン』(1996年)の魂を継承する黒人サフィックな作品が誕生したのは喜ばしいです。

個人的にはソフィアを演じた“ダニエル・ブルックス”の演技が一番良かったかな。ネティを演じた“ハリー・ベイリー”はもっと見たかったくらいの魅力でしたけど、あの彼女のストーリーラインを濃密に描いてしまうと話が逸れるし、アフリカが舞台になると予算もかかるし、いろいろ無理だったのはわかるので…。主人公を熱演した“ファンテイジア・バリーノ”の演技は私は初めて見たのですけど、やはり文句なしに圧倒されるものでした。今後も映画の仕事するのかな…声はかかるだろうな…。

本作で描かれる黒人男性は全員が単一的な粗暴さありきではなく、周辺の黒人男性などは奥深いキャラクターとして物語を緻密に支えていました。本作は、公民権運動が男性主体だった事実を自己批判する視点を併せ持つ『ラスティン: ワシントンの「あの日」を作った男』と同じ年に公開されたのが象徴的ですよね。セットで鑑賞することがすごく大切じゃないかなと思います。

2023年に作られてよかったと純粋に思える一作です。やっと次の時代に進めます。この2023年版の『カラーパープル』を踏まえて、もっとレプリゼンテーションとしてもテーマとしても数段アップした映画を作りまくってほしい。未来が楽しみです。

『カラーパープル』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 86% Audience 95%
IMDb
7.3 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
8.0

作品ポスター・画像 (C)2023 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved. カラー・パープル

以上、『カラーパープル』の感想でした。

The Color Purple (2023) [Japanese Review] 『カラーパープル』考察・評価レビュー
#ミュージカル #リメイク