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『ゴリラのアイヴァン』感想(ネタバレ)…ゴリラの伝記映画って地味に凄くない?

ゴリラのアイヴァン

ゴリラの伝記映画って地味に凄くない?…映画『ゴリラのアイヴァン』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:The One and Only Ivan
製作国:アメリカ(2020年)
日本では劇場未公開:2020年にDisney+で配信
監督:テア・シャーロック

ゴリラのアイヴァン

ごりらのあいばん
ゴリラのアイヴァン

『ゴリラのアイヴァン』あらすじ

ゴリラのアイヴァンは、郊外のショッピングモールで様々な動物たちと一緒に暮らしながらサーカスに参加していた。アイヴァンは自分が捕らえられるまで生活していたジャングルの記憶がほとんどなかったが、モールにやってきた赤ちゃんゾウのルビーが、アイヴァンの心の奥深くにしまわれていた何かに触れる。そして周囲を驚かせるある行動に出る。

『ゴリラのアイヴァン』感想(ネタバレなし)

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正真正銘、ゴリラが主役

サーカスと言えば動物が芸をする姿を見られる場所…というイメージがあります。実際にサーカスでは昔から大小さまざまな動物がパフォーマンスをしてきました。日本でも古典的なサーカスは珍しくなりましたが、ニホンザルがユーモアたっぷりに芸したりする有名な観光地もありますし、水族館に行けばイルカやアシカのショーは大人気です。

しかし、その姿はいずれは見られなくなるかもしれません。というのもサーカスで動物に芸をさせる行為これを法律で禁止する国や地域が2000年代に入って続々と出現しているからです。とくに2010年代以降はグッと増えており、今後もこの流れは加速すると思われます。

サーカスというのはどうしても動物を酷使してしまうことも多いですし、芸というのは本来の動物の行動ではないものです。虐待を指摘されるのも避けられないことであり、適切に扱っていたとしても不平等であることを否定はできないでしょう。

動物はなるべく自然に近い環境でストレスなく健康的に飼育されるべきだ…この考えがスタンダードとして浸透しつつある転換期が今なのでしょうね。

そんな時期を象徴する映画が本作です。それが『ゴリラのアイヴァン』

本作はその名のとおり、ゴリラを主役にした映画で、実在のゴリラを題材にしたゴリラの伝記映画になっています。ファンタジーではありません。お話は主人公のゴリラがサーカスで過ごしていた頃に始まり…まあ、この先は観てのお楽しみ。

映画史をたどれば『キングコング』とか『コンゴ』とか、とにかくゴリラと言えば狂暴な猛獣(ほぼモンスターも同然)に扱われてきたのですけど、ついに2020年にはゴリラの伝記映画が作られる時代になったんですね…。しかも、『ゴリラのアイヴァン』は人間も登場するのですが、あくまで人間は脇役でゴリラ主体なのです。『愛は霧のかなたに』みたいにゴリラを研究する人間を主役に…とかではない、正真正銘のゴリラ映画ですよ。

『ゴリラのアイヴァン』はディズニー製作です。昨今のディズニーらしく実写版『ジャングル・ブック』や『ライオン・キング』と同様にゴリラなどの動物たちはフルCGで本物と見間違えるくらいにリアルに表現されています

もともと劇場公開を予定していたのですが、ご多分に漏れずコロナ禍のせいで中止となり、動画配信サービス「Disney+」での配信に移行してしまいました。同様の経緯を辿った実写映画『ムーラン』ばかりが話題になりがちですが、『ゴリラのアイヴァン』も忘れないであげてください…。

『ゴリラのアイヴァン』はキャスト陣も結構見どころがあります。人間側の登場人物の中で主役を演じるのは、ドラマシリーズ『ブレイキング・バッド』でおなじみの“ブライアン・クランストン”。今回も経済的に苦しそうですが、ドラッグはやりません(たぶん)。

でもメインはやっぱり動物たち。今作の動物も喋ります。主役のゴリラの声を担当するのは“サム・ロックウェル”。物語の土台になるゾウの声を演じるのは“アンジェリーナ・ジョリー”です。実は本作は“アンジェリーナ・ジョリー”が製作に加わっており、彼女の主導的な企画でもあります。“アンジェリーナ・ジョリー”とディズニーは『マレフィセント』で付き合いがありますし、上手くいっているのかな。

他には“ダニー・デヴィート”“ヘレン・ミレン”などが動物たちに声を吹き込んでいます。「Disney+」であれば字幕と吹替を切り替え選択できるのでお好きな方でどうぞ(英語字幕も選べます)。

監督は一部でセンセーショナルな論争を起こした『世界一キライなあなたに』を手がけた“テア・シャーロック”。脚本は『スクール・オブ・ロック』を手がけた“マイク・ホワイト”です。“マイク・ホワイト”は作中でアザラシの声もあてています。

子ども向けの映画になっていますが、大人も感動できる実話モノ作品ですので、時間があるときにどうぞ。

オススメ度のチェック

ひとり ◯(動物が好きな人はとくに)
友人 ◯(動物好き同士で)
恋人 ◯(ほどよい感動の物語を)
キッズ ◎(動物好きの子にはぜひ)
↓ここからネタバレが含まれます↓

『ゴリラのアイヴァン』感想(ネタバレあり)

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世界一のゴリラの悩み

「僕はアイヴァン、ゴリラだからってお気楽な毎日だろうって? とんでもない」

ニシローランドゴリラのアイヴァンは自分のいる広めの檻の窓の外を見つめます。その視線の先には自分の名前が書かれた看板があります。勇ましいゴリラの絵。そう、アイヴァンはサーカスの花形でした。

サーカスはモールの中にあり、かれこれ20年です。マックという人間の男がこのサーカスを仕切っており、今日も観客の前で「ようこそ!世界一小さなサーカスへ」とショーの始まりを告げます。

まずはヘンリエッタというニワトリが野球をする芸。続いてアシカのフランキーが心配性だがボール芸は完璧にこなします。そしてウサギのマーフィーがミニチュア消防車に乗って愛嬌を振りまき、このサーカスの古株であるゾウのステラが巨体で観客を圧倒。

アイヴァンはといえば芸はしません。ステージに登場し、唸ってみせて胸を叩くだけ。これだけでも観客は大盛り上がり。「世界一のゴリラ、アイヴァン!」…こうやってパフォーマンスは終了します。

実際の普段のアイヴァンは大人しく、いつもは檻の中で静かにしており、フラッとやってくる1匹の野良犬が親友でした。この野良犬はマックが飼っているスニッカーズというプードルのドッグフードのおこぼれが欲しくてたまりません。もしくはアイヴァンとただ他愛もなく会話するだけです。

そのアイヴァンにも気になる人間がいます。それはこのサーカスで働いている男の娘であるジュリアという少女。毎日やってきてはを見せてくるのが日課で、ジュリアの母親のサラは健康が悪いようで寂しそうです。

客足は少なく経営は厳しいサーカス。活気を取り戻せるのかは死活問題。アイヴァンも張り切ってパフォーマンスしますが、満席ではありません。モールに出店する人もどんどん減ってきました。

ある日、マックがジュリアに新しいクレヨンをくれたので、ジュリアは古いクレヨンと紙をアイヴァンに渡してくれました。ふとアイヴァンはその紙に近くにいた虫の絵を描いてみることにします(ちなみに翻訳では「カブトムシ」になってましたが、「beetle」なのだがら甲虫ではあるけどカブトムシとは限らないですよね。せめて「コガネムシ」とか和訳すればいいのに)。ボブと勝手にジュリアに名付けられた野良犬はそれが何の絵なのかわかってくれませんでしたが、ジュリアは「赤いぐしゃぐしゃ」を虫の絵だと判別してくれます。

別の日、新しい動物が来るらしいとの情報が飛び交います(主にボブのせいで)。そして1台のトラックがやってきて、中から出てきたのは赤ちゃんゾウでした。倒産したサーカスから買ったそうで、マックは「ルビー」と名付け、「救世主だ」と大喜び。ルビーは瞬く間に新しい看板スターとなり、観客は熱狂。

でもアイヴァンの出番は短くなってしまったので、スターの座を奪われたアイヴァンは少し不満です。

一方、ステラの健康は悪化していました。元気のないステラでしたが、ルビーに自分が自然にいた頃の話をしてくれます。「自然で暮らしている動物は自由なの?」「私たちも自然になれる?」…目を輝かせるルビーに「ここからそう遠くない場所に人間が作った自然がある」とステラは言い残し、この世を去ります。

残されたアイヴァンは使命感が芽生えます。このサーカスの動物たちのボスとして自分にできることは何か。アイヴァンがいつも手にしている「にせタッチ」と呼んでいるゴリラの人形。彼の過去の記憶が蘇っていきます。

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ゴリラを演じることに苦悩するゴリラ

前述したとおりディズニーは動物をフルCGで描くことに関して相当に手慣れるようになっており、『ゴリラのアイヴァン』でもその技術はいかんなく発揮されています。

このCG動物描写は私も以前から指摘しているのですが、ひとつ大きな問題があったと思うのです。それはリアルとデフォルメのバランスのとり方。あまりにもフォトリアルだと生々しすぎますし、かといってデフォルメしすぎると変になります。実写版『ダンボ』なんかはそのバランスに苦戦した痕が窺えます。

また、リアルなCG動物でいかにもディズニーっぽいコミカルなシーンをしようにも、どうにも相性が悪いという難点もありました。実写版『アラジン』なんかは動物キャラでコミカルな動きをするのを諦めていましたね。

そんな事情の中で『ゴリラのアイヴァン』はどうしたのか。主役であるゴリラは非常にリアルに描写され、ほぼ動物そのままです。コミカルな仕草もしませんし、顔の動きもフェイシャル・モーションで人間っぽく動かそうとはあまりしていません。完全に抑えた作りでした。

おそらくゴリラをデフォルメしすぎると、それこそ芸をさせているような印象が増してしまうので、そうなると本作の物語に対して本末転倒になるので、そこは避けたのかなと思います。

今作のゴリラは映画史上類を見ないほど深みのあるゴリラ描写でした。なにせゴリラが“ゴリラを演じること”の苦悩を映し出しているのですから。ゾウのステラと会話する中で「なんで荒っぽいゴリラがいいのだろう」「人間の勝手な思い込みね」と語り合っていくのはなかなかに異例です。さすがゴリラの伝記映画なだけはあります。

サーカスという舞台を通じて「動物本来の姿」「人間がイメージするその動物の姿」の乖離を描いていく。そこまでの繊細な描写を可能にするだけのCG技術がついてきているというのは、良い感じでテクニカルな進化と人間の動物に対する文化的目線の発達がマッチしているってことなのかな。

一方、ひょうきんなトークをするのは犬のボブの役目です。このへんはさすが犬。声は“ダニー・デヴィート”ですからね、任せておけって感じです。

まあ、消防車に乗るウサギとか、ディズニーっぽいコミカルさはありましたけどね。それにしても消防車に乗るウサギって…ウケるのか…?

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ディズニーらしくない現実の壁と…

『ゴリラのアイヴァン』は見るからに王道そうなストーリーですし、事実、そうなのですが、そこにはディズニーのテーマにも通じる現実と創造のミラクルを信じる純粋さがあったと思います。

中盤、アイヴァンたちはついに脱走を企てて実行に移します。この「逃走する」という展開は現実では起きていない出来事であり、映画の脚色です。あそこはいかにもディズニーっぽいファンタスティックな物語が動き出しそうな予感をビンビンに感じます。多種多様な動物たちがモールを抜け出して人間たちの暮らす道路へと進んでいく。絶対にディズニーアニメならここから奇想天外で愉快なことが起こるじゃないですか。ディズニーじゃないけどイルミネーションの『ペット』みたいに。

ところが本作はそうはいきません。ここで明確に現実を突きつけてきます。動物たちが逃げだして上手くいくわけないでしょう、と。眼下に広がる人間の街。理想としていた自然の世界はそこにはない。ショックを受ける動物たちに重い空気が漂います。

この覆しようもなさそうな現実に対して、アイヴァンは「絵を描く」ことで結果的に打開をしてみせます。幼い頃の記憶を思い出して自然の絵を描いていく。それが周囲の人の心を理屈抜きで動かしていく。

こういうことはまさに絵を描いてきたクリエイティブなスタジオであるディズニー含む多くのクリエイターがしてきたことであり、今回はまさにゴリラさえもそのクリエイターとして世界を変えられるという一歩を見せたことになります。

もちろん厳しい見方もできます。しょせんは「絵を描く」のも芸ではないか、と。この映画では絵を描く行為を自発的な動物の行動としてポジティブに描いているけど、本当にそうなのか?…と。

これに関しては正直なところわからないですよね。アイヴァン本人に聞いてみないと。ただ本作はゴリラだって自己表現できるのではないかという考えを信じています。私もその考えは信じてみたい部分です。だって動物が自己表現できないのだとしたら、それって完全に心ないモノ同然になってしまいますし…。

アイヴァンの絵が大衆を動かしてサーカスからの動物解放に繋がったのは事実ですし、こうしたムーブメントを描こうとするのは、製作に名を連ねる“アンジェリーナ・ジョリー”らしい要素でもありますね(“アンジェリーナ・ジョリー”は慈善活動に相当に力を入れていることで有名です)。

ラストではアイヴァンは広大な人工的自然の広がるパークへと移り住むことに。そこにはルビーもいてゾウの群れと楽しそうです。実際はアトランタ動物園に移ったらしいですが、映画内での描写は種の理想です。こういう施設があればいいな…という。日本ではあまり想像がつかないですが、海外では日本とは比べ物にならないレベルの大規模な自然型展示というのが動物園でも主流になりつつあります。動物を飼育するならこれくらいじゃないとね…という目標を見せる意味もあのエンディングにはあるのかな、と。

本作はあくまで甘い着地にしていますけどね。サーカスでの飼育主であるマックとの関係も良好であるという「誰も悪者がいない」結末にしていますし。子ども向けなのでこの程度の踏み込みなのかな。

もとのアフリカの自然に返せばいいのに…と思う人もいるかもしれませんが、さすがにずっと飼育状態にあったゴリラを弱肉強食のアフリカの大自然に戻したらすぐに死亡するでしょうからね。いくらなんでもそれは現実的ではないです。
なお、アイヴァンの実態はドキュメンタリー『The Urban Gorilla』(1991年)でも少し描かれているので参考にしたい方はどうぞ。

とはいえ、動物福祉(動物にストレスなく生存できる環境を与えようとする考えのこと)が遅れている日本ではこの『ゴリラのアイヴァン』の物語は自省として染みるものです。

世界中の飼育動物に最高の環境を与えるのは人間の責任ですから。

『ゴリラのアイヴァン』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 70% Audience 69%
IMDb
6.7 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 6/10 ★★★★★★
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関連作品紹介

Disney+で配信されているディズニー映画の感想記事の一覧です。

・『わんわん物語』

・『アルテミスと妖精の身代金』

・『ムーラン』(実写映画)

作品ポスター・画像 (C)Disney

以上、『ゴリラのアイヴァン』の感想でした。

The One and Only Ivan (2020) [Japanese Review] 『ゴリラのアイヴァン』考察・評価レビュー