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『MEN 同じ顔の男たち』感想(ネタバレ)…男たちの語る考察は聞き飽きた

MEN 同じ顔の男たち

でも映画は考察を煽り立てる…映画『MEN 同じ顔の男たち』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:Men
製作国:イギリス(2022年)
日本公開日:2022年12月9日
監督:アレックス・ガーランド
性暴力描写 DV-家庭内暴力-描写 ゴア描写

MEN 同じ顔の男たち

めん おなじかおのおとこたち
MEN 同じ顔の男たち

『MEN 同じ顔の男たち』あらすじ

夫に関する辛い出来事を経験したばかりのハーパーは、心の傷を癒すためにイギリスの田舎町へやって来る。彼女は豪華なカントリーハウスの管理人ジェフリーにその宿泊場所となる家を紹介される。のどかな自然豊かな場であり、都会の喧騒を忘れて、気持ちを落ち着けるにはちょうどいいと考えていた。しかし、そこで過ごしていたハーパーは得体の知れない恐怖を感じ始める。それは徐々にその正体を剥き出しにして…。

『MEN 同じ顔の男たち』感想(ネタバレなし)

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考察は男性に優越感を与えるもの?

映画を語るうえでよくあるのが「考察」です。「この映画のこのシーンはこんな意味があるんじゃないか…」とか「このキャラクターとあのキャラクターはこんな繋がりがあって…」とか、そういうやつです。映画鑑賞後の醍醐味のひとつは考察だと思っている人もいるでしょうし、その楽しみ方も当然大切でしょう。

ただ、私は昔はこの考察に対して苦手意識を持っていて、というのも考察という場自体がものすごく男性中心的な空気感が濃く、全然自分が入っていける感じがしなかったからです。良くも悪くも「作品を考察する」というのは、ある種の優位性の上で一方的に品評することになるわけですから、そこに上下構造が生じます。とくに男性の場合はその考察という行為に“男らしさ”の満足感を得やすいんですよね。

そもそも批評家やファン界隈は男性中心的なコミュニティになっている傾向が強く、世の出回る考察も無自覚に男性自己満足的な感じになりがちです。「この俺が言ってやったぞ!」的な優越感というかね…。

私も映画感想ブログを始めた当初は「この空気に混ざらないといけないのか…苦痛だったらすぐにブログなんてやめよう」と思っていたくらいです。

それでもいざ自分で映画の感想を好きに書いていると、だんだん男性中心的なコミュニティではあるけど、それに抗っている人も少なくないことに気づき、「じゃあ、自分ももっと個性をだしてみようかな」と勇気を持てたりもして、なんだかんだで今も感想をこうして書いています。

最近の映画は明確に男性社会批判なものも目立ち、そうした作品を男性中心的なコミュニティで考察として消費するのは厳しくなってきている感じもします。もう映画は男たちだけの考察のネタではないよってことです(昔からそうなんですけど)。

今回紹介する映画も、かなりグサグサと男性社会を痛烈に批判しているので、それに言及せずに考察するなんて、ちょっと目の逸らし方としてはいっぱいいっぱいすぎますね。

その映画とは本作『MEN 同じ顔の男たち』です。

本作はひとりの女性が主人公で、あるイギリスの田舎町にあるカントリーハウス(貴族およびジェントリの住居として建設された邸宅のことで、今は宿泊場所として活用されているものもある)に単身で泊まるのですが、そこで恐怖を味わっていく…という、ざっくり言うとそんな感じのホラー映画です。

田舎の家に泊まって恐怖に襲われる!なんてホラーの定番ですが、今回は何が襲ってくるのか。連続殺人鬼? 幽霊? ゾンビ? 悪魔? …その正体は鑑賞前に言い切ってしまうのもあれなので伏せますが、本作のタイトルが『MEN 同じ顔の男たち』であることから察しがつくように、非常に「男性」という要素に関係のある構図を持っています

この『MEN 同じ顔の男たち』を監督したのは、イギリス人の“アレックス・ガーランド”。初監督作となった2014年の『エクス・マキナ』がマニアも唸るビジュアルやストーリーで高評価をおさめ、一気に注目SF監督のトップとして頭ひとつ抜きん出ました。その後も2018年に『アナイアレイション 全滅領域』を監督し、2020年にはドラマ『Devs』を生み出しています。

“アレックス・ガーランド”監督の作品と言えば、テクノロジーを描く印象が強かったですが、今回の『MEN 同じ顔の男たち』はそういうテクノロジー要素皆無です。でも“アレックス・ガーランド”監督作の初期から脈々と実は続いているテーマを進化させていったものであり、そのあたりは後半の感想でもう少し詳細に書いています。

『MEN 同じ顔の男たち』の主演は、『ワイルド・ローズ』や『もう終わりにしよう。』、ドラマ『チェルノブイリ』の“ジェシー・バックリー”です。なんか“ジェシー・バックリー”って孤立して頑張る女性か、男性に振り回される女性…みたいなわりと不遇な女性キャラクターを演じる率が高い気がする…。でも最近の出演作なら『彼女たちの革命前夜』(2020年)とかはまだ勇ましく活動する役だったから、そんなこともないか…。

共演は、『007 ノー・タイム・トゥ・ダイ』の“ロリー・キニア”。今作はこの“ロリー・キニア”はやたらと際立ちますよ(いろいろな意味で)。さらに『オリエント急行殺人事件』の“パーパ・エッシードゥ”、『ブロー・ザ・マン・ダウン~女たちの協定~』の“ゲイル・ランキン”なども出演しています。とは言え、ほぼ“ジェシー・バックリー”と“ロリー・キニア”が対峙する映画です。

ちなみに“アレックス・ガーランド”監督作の常連である“ソノヤ・ミズノ”も声だけで出演してます。

かなり意味深なシーンがスローペースで続くような作品なので、好みは分かれると思いますが、“アレックス・ガーランド”監督作ファンや、作品のテーマが気になる人は、ぜひとも鑑賞してみてください。

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『MEN 同じ顔の男たち』を観る前のQ&A

✔『MEN 同じ顔の男たち』の見どころ
★ゾっとする強烈な視覚効果。
★男性社会の怖さを風刺するストーリー。
✔『MEN 同じ顔の男たち』の欠点
☆物語の展開がスローペース。

オススメ度のチェック

ひとり3.5:変わった映画が好きなら
友人3.5:癖が強いけど
恋人3.0:デート気分ではない
キッズ3.0:残酷描写あり
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『MEN 同じ顔の男たち』予告動画

↓ここからネタバレが含まれます↓

『MEN 同じ顔の男たち』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):男たちが私につきまとう

車をひとり運転して道路を走っていたハーパー・マーロウ。脳裏には、ベランダの窓を閉めた際に自分の夫であるジェームズがまさに転落して落ちていく姿を目撃したときの体験が浮かびます。ジェームズのあの目が私を見ていた…。

ハーパーは一軒のカントリーハウスに到着します。ここでしばらく滞在する予定です。庭にはリンゴの木があり、ひとつむしって食べてみます。

ドアを開けると、オーナーのジェフリーがでてきます。「綺麗な家ですね」と感想を述べると、ジェフリーは「築500年だ」とべらべら解説しだします。

ジェフリーが車の荷物をとってきてくれている間、ハーパーはキッチンでのんびり。ジェフリーは「ここには2週間?」と聞いてきて、食べかけのリンコに目をとめ、「これは禁断の果実だ」と冗談を言ってきます。

その後に室内を案内してくれ、落ち着いた内装で、ピアノもあったり、なかなかに快適そうでした。

ジェフリーは予約時の名が「マーロウ夫人(Mrs.)」になっていたことを気にしますが、ハーパーは夫とは今は一緒にいないとぼんやりと説明します。

こうして喋りの軽い管理人のジェフリーは去りました。

ハーパーは友人のライリーとスマホでビデオ通話。ジェフリーはいかにも田舎者の男という感じだったと感想を述べ、女同士で気楽に話していると、急に映像が乱れます。通信状態は良くないのか…。

近くの鬱蒼とした森を散策してみると、小道に出てしばらく歩きます。雨が降ってきたので小走りに木の下に避難。自然を感じ、笑みがこぼれます。

そのまま散策を続行すると、トンネルに到着しました。先の出口は見えますが、それ以外は真っ暗。「あっ」と声をだすと反響します。面白くなって繰り返してみつつ、中へ。中央でも声をあげてみて反響はどこまでも連なり、リズムを作るように重ねて楽しみます。

しかし、トンネルの出口付近に誰か立っているのが見え、こっちに来るようです。怖くなって急いで入り口へ戻ります。そのまま走って森の小道を戻るのですが、どこから来たのかわからなくなり、気配を感じてとにかく走ります。塞がれたトンネルにたどりつき、斜面を登って朽ちた家がいくつもある場所へ。

開けた草原にでて、ホっと安心してカメラを向け風景を撮影すると、ひとりの全裸の男みたいな存在が立っているのを確認。そのままハーパーはカントリーハウスに帰ります。

翌日、仕事していると家の庭であの全裸男が木の傍にいるのに気づきます。すぐに警察に通報。駆け付けた警官によってその不審者はあっけなく捕まりました。警官も慣れた感じで「もう大丈夫」と不安を払拭してくれます。

ところがそれで安堵するのはまだ早く、恐怖はここから想像を超えたかたちを見せ始め…。

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ミソジニーは増殖する

『MEN 同じ顔の男たち』は、冒頭からショッキングな始まりですが、最初はハーパーは夫のジェームズの死を単純に引きずっているだけのように思えます。

しかし、回想シーンが進むにつれ、ハーパーは離婚を切り出したときに夫から「自殺してやる」と脅迫されていたり、はたまた実際に殴られたりしていたことがわかります。つまり、精神的にも身体的にも虐待を受けていたのでした。ハーパーは明らかにトラウマを抱えており、このカントリーハウスでそれが少しでも癒されるかと期待しています。

ところがこのカントリーハウス周辺の男たちが問題です。最初の管理人のジェフリーはいかにも喋りすぎてややデリカシーのないことを言ってしまう男という感じで、ハーパーも「まあ、田舎ならこういう男もいるか」ということで流します。

けれども次の牧師は悩みを聞く素振りを見せつつ、「あなたが追い詰めたのでは?」とハーパーを責めてきます。警官もあの不審者をあっさり釈放し、ストーカー被害を軽視します。

そしてどんどんとその不気味さは加速していくことに…。多くの女性は日常で経験している男性による嫌な扱い。けれどもこれはそれだけなのか、それとももっと裏があるのか…。

邦題は「同じ顔」であることを強調していますけど、そこは作中ではことさらに取り上げられません。全員が“ロリー・キニア”の顔をしているのは言わばメタファーであり、女性蔑視という男性の同一性を視覚的に表現する仕掛けです。

思えば“アレックス・ガーランド”監督は『エクス・マキナ』でも「権力を持った男性が“女性のアンドロイド”を作って満足感に浸る」という男性社会の歪んだ女性への態度を風刺してきていましたし、以降の他の作品でもミソジニーとそれに対抗する女性が描かれてはいました。

ただ、“アレックス・ガーランド”監督は同時に作家性が非常に強くて、SFとしてのこだわりがあるので、その普遍的なテーマも自己流にデコレーションしてしまうことが多く、表面的にちょっとわかりにくいことも多々あったと思います。

その点、今回の『MEN 同じ顔の男たち』はかなりわかりやすくミソジニーの怖さを風刺して描いています。たぶん“アレックス・ガーランド”監督はテクノロジーが絡まない方がメッセージ性はシンプルに届きやすいものになるんでしょうね。

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彫刻が意味するもの

それでも『MEN 同じ顔の男たち』は奇抜なこともしており、実質的にフォーク・ホラーです。

まずハーパーが家に着いてから安易に木からリンコをもぎ取るのは「聖書のイヴ」とそのまま重なりますし、牧師も襲い掛かってくる際に貞操などの宗教的な女性支配に言及します。

そして全裸男が最終的に変化するのは頭に植物が生えたような存在。あれは「グリーンマン」といってケルト神話の要素があり、キリスト教以前の男性的な存在にまで波及します。

教会にある女性の外陰部を見せつけているかのような彫刻は「シーラ・ナ・ギグ」というイギリスやアイルランドに古くからあるもので、厄除けの意味があると言われています。今ではフェミニストの間でエンパワーメントの象徴にも用いられているそうで、面白い歴史的変移ですね。イギリスの田舎とかに行ったらぜひとも探してみたいな、シーラ・ナ・ギグ…。お土産とかで売ってないのかな…玄関に置いておきたい…。

こうやっていろいろな歴史的な男女のモチーフを混ぜ合わせつつ、“アレックス・ガーランド”監督流の珍妙なフォーク・ホラーが生まれているのでした。

このへんは個性的なアプローチではあるのですが、今作の終盤は個人的には「ちょっとあれかな…」と思う部分もあります。

終盤は視覚効果の大サービスです。あの男から別の男が生まれ、またその男から別の男が生まれ…タンポポ の単為生殖のように同質な男が無限増殖する恐怖。

女性差別の怖さを男性にだって直視でわかるように生理的嫌悪として変換してみせているのですが、このやり方はこれはこれで別の問題はあるかなとも思います。「男性が産む」みたいな既存の二元的なジェンダーを錯綜させて、そこに恐怖感情を煽る手段は、どうしたってトランスフォビア的になりかねないからです。差別を題材にしているのに別の差別を助長しかねないのは残念ですしね…。

引き裂かれた片手とかだけでもじゅうぶん怖さは伝わるんですけどね。

そんな不満もあるのですが、“ジェシー・バックリー”の演技は良かったです。ステレオタイプなスクリーミング・ガールではなく、しっかり悪態をついて罵倒するあたりは、今っぽいホラーにおける女性キャラクター。

でも本作では最後の最後の主人公の反撃を観客に見せない演出がクールです。おそらく終盤でジェームズが誕生して彼と横並びに同室した際に、ハーパーはそのジェームズを殺めたのでしょうけど、それは直接描かず、翌朝の友人のライリーが来たところで少し心が晴れた顔のハーパーが出迎える。

相当に曲がりくねっていましたが、結局は男にトラウマを負わされた女性がそのトラウマから脱却する一歩を踏み出す物語としてストレートに心に響くものでした。

まあ、言うまでもないですが、こういう映画を作っても男性観客たちが反省しないなら意味ないですけどね。「嫌な気分になりました」じゃなくて、行動を改めよ…って話。

現実でもネットでも女性に群がる同じ顔の男たちにはシーラ・ナ・ギグの彫刻を顔面にぶん投げてやりますよ。

『MEN 同じ顔の男たち』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 68% Audience 39%
IMDb
6.1 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
6.0
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作品ポスター・画像 (C)2022 MEN FILM RIGHTS LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

以上、『MEN 同じ顔の男たち』の感想でした。

Men (2022) [Japanese Review] 『MEN 同じ顔の男たち』考察・評価レビュー