女たちは自粛しない!…映画『ハーレイクインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。
製作国:アメリカ(2020年)
日本公開日:2020年3月20日
監督:キャシー・ヤン
ハーレイ・クインの華麗なる覚醒
はーれいくいんのかれいなるかくせい
『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒』あらすじ
ジョーカーと別れ、すべての束縛から解放されて覚醒したハーレイ・クイン。モラルのない天真爛漫な暴れっぷりを続けてきたせいで街中の悪党たちの恨みを買う彼女は、謎のダイヤを盗んだ少女カサンドラをめぐって、残忍でサイコな敵ブラックマスクと対立。その容赦のない戦いに向け、ハーレイはクセ者だらけの新たな最凶チームを結成する。
『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒』感想(ネタバレなし)
パンデミックを吹き飛ばす女たち
世界中がパンデミックになっている今。こういう社会も心を不安になってくると健康には良くないので、エンターテインメントで気分を紛らわせるのが有効です。こんな状況だからこそ「あ、エンタメってこんなに大事なんだな」「ただのお遊びなんかではないんだ」と実感しますよね。
でも映画館は自粛などで閉館している場所も多く、本当に困ってしまいます。もう映画を医療サービスとして認定してくれないかな…。
ファミリー向けの大作映画が続々公開延期を決めていき、すっかり映画館の目玉作品がごっそりなくなってしまう中、この映画が頑なに当初の公開日から変更しなかったのは本当に助かった…。
その映画が本作『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』です。
ワーナー・ブラザースさん、ありがとう…という気持ちでいっぱいですが、たぶんワーナー・ブラザースは年間の公開映画作品数が多いので延期とかしてられないという事情があるのだと思うのですけど…。
それはともかくこの『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』。いや、タイトルが長い。でも邦題よりも原題の方がもっと長い。「Birds of Prey: And the Fantabulous Emancipation of One Harley Quinn」ですからね。さすがに不便だと公式も思ったのか、本国では「Harley Quinn: Birds of Prey」という短縮タイトルをオフィシャルで使いだす始末。この感想ブログでは以降は『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒』と表記しますね。
本作はあのバットマンやスーパーマンなどアメコミ・ヒーローの世界であるDCエクステンデッド・ユニバースに連なる一作です。2016年に公開された『スーサイド・スクワッド』。このDCの悪役たちを一堂に集結して暴れた一作は前評判では非常に期待の高いものだったにも関わらず、いざ公開されると「あれれ」な空気に。それまで若干の暗雲が漂っていたDC映画に致命の一撃を与えてしまった、いわば黒歴史な一作でした。しかし、その中で登場する「ハーレイ・クイン」というハイテンション・ガールだけはキャラがひときわ立っていたこともあって好評で、そこでこのキャラクターのスピンオフ映画が作られることに。そうして生まれたのがこの『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒』です。
最近のDC映画は『ワンダーウーマン』『アクアマン』『シャザム!』『ジョーカー』と右肩上がりの絶好調ですし、この『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒』にも何ら心配する要素はなし。
ただ本作は少しこれまでのDC映画と違うところがあって、女性主人公というだけでなく、製作においても女性主体で生み出されました。そもそも本作を企画したのが作中でハーレイ・クインを演じる“マーゴット・ロビー”であり、自分の会社「ラッキーチャップ・エンターテインメント」をわざわざ立ち上げ、自身がプロデューサーとなって先導。
『アリー スター誕生』のエグゼクティブプロデューサーであった“スー・クロール”を製作に加え、『バンブルビー』の脚本家である“クリスティーナ・ハドソン”に脚本を任せ、とても女性色の濃い作品に仕上がっています。
監督はジャーナリストという経歴を持つ中国系アメリカ人“キャシー・ヤン”で、スーパーヒーロー映画では初となる女性アジア人監督となりました。
それにプラスして俳優陣も女性の方が多いです。『10 クローバーフィールド・レーン』や『ジェミニマン』の“メアリー・エリザベス・ウィンステッド”、『グレート・ディベーター 栄光の教室』の“ジャーニー・スモレット=ベル”、『マクマホン・ファイル』の“ロージー・ペレス”、『いつかはマイ・ベイビー』の“アリ・ウォン”、本作で映画デビューを飾った“エラ・ジェイ・バスコ”…。こうやっていつもは大物の影に隠れがちな女性たちを引っ張ってあげる。プロデューサー“マーゴット・ロビー”のこの功績は素晴らしいとしか言いようがなく…あなたは立派なヒーローじゃないか。
今までは女性が主人公というだけで持ち上げていましたが、もうそのステージはとっくのとうに通りすぎたんだなぁ。いつかこれが「女性主体で作られた映画」とイチイチ語られなくなる日も近いのかな。
男性キャラとしては“ユアン・マクレガー”がどう動き回るのかも見物です。
お話としてはじゅうぶん単独で楽しめるので過去作なんかを観ておく必要はありません。時間があるなら『スーサイド・スクワッド』を鑑賞するのもいいでしょう。なお、大ヒットとなった『ジョーカー』はDC映画ですけどDCエクステンデッド・ユニバースではないので無関係です。『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒』でもジョーカーに関する言及がありますが、それは『スーサイド・スクワッド』での“ジャレッド・レト”演じるバージョンの彼です。ややこしい…。
元気な人は家でじっとしている必要もありません。映画館へ行きましょう。自粛なんてしやしない女たちが待っています。うがい・手洗いと映画があれば“なんとかウイルス”も怖くないのです。
オススメ度のチェック
ひとり | ◎(個人鑑賞なら感染リスク極小) |
友人 | ◎(互いの健康は確認しよう) |
恋人 | ◎(濃厚接触を気にしない仲だし?) |
キッズ | ◯(割と残酷に人が死にまくるけど) |
『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒』感想(ネタバレあり)
これは私たちのストーリー
ハーレイ・クインは自分語りを始めます。
卵子と精子が出会った瞬間、その人生は幕開けしました。いや、一般的には赤ん坊として生まれてからですが、とにかくその子、ハーリーン・フランシス・クインゼルはすくすくと成長。勉学に励み、大学も出ました。そして精神科医に就職。
ところが勤務先の精神病院で出会った担当患者が人生を変えます。その男、ジョーカーの言われるがままに身も心も捧げた彼女は「ハーレイ・クイン」として生まれ変わったのです。
しかし、それも過去。なんやかんやあってジョーカーとは破局。私の恋は終わります。
でも人生が終わったわけではない。ここから新しい私…「ニュー・ハーレイ・クイン」が始まるのです。
ジョーカーありきの依存した人生よりも一人で自由にやりたい放題できる方が性に合っている。そうやって半ばヤケクソで自由を謳歌するハーレイ・クイン。ナイトクラブでひたすら飲んで踊って騒いでのライフスタイル。そのへんにあったタンクローリーを拝借して自分がハーレイ・クインになった原因の工場に突っ込ませ、工場は禍々しく綺麗に大爆発。さあ、何をしようか。
ひとまず美味しいエッグサンドウィッチを食べよう。口を開けてまさに至福の瞬間…と思ったら警官のレニー・モントーヤに銃を突きつけられ、追われます。食事タイムは後回しで逃げるハーレイ・クイン。ところが逃走中にいろいろ憎まれることをして敵意を向けられてしまった奴らにどんどん追加で追われ、もはや何から逃げているのかもわからなくなってきます。あげくに楽しみにしていたエッグサンドウィッチは地面に虚しく落下。不条理な悲劇に絶望するハーレイ・クイン。
それでもなんとか上手く逃げおおせたと思ったら別の男が立ちふさがり、どうしようかと考えていると、謎の女がボウガンでその男を射殺。でも女は誰かはわからない。身に覚えがない。しかし考える暇なし。野蛮そうな男たちに囲まれました。
それからちょっとした後。ハーレイ・クインは警察署に単身突入していました。一体なぜ彼女はそんなことをしているのか。話は1週間前に遡ります。
ローマン・シオニス(発音はサイオニスだけど)が経営するナイトクラブではダイナ・ランスが美しく歌っていました。その歌唱はグラスを割るほどの振動。ローマンはミスター・キオと取り引き中。そこにはハーレイ・クインもいてダイナと少し会話。ダイナが仕事を終え、外に出ると、酔って男にいいように扱われるハーレイ・クインがおり、最初はそれをチラっと横目に通り過ぎましたが、車につれ込もうとするのを見て思わず助けます。男たちをボコボコです。それを見ていて実力を買われたダイナはローマンの個人ドライバーになります。
一方、盗み癖のあるカサンドラ・ケインは捕まって、そのパトカーの中でたまたま盗ったでかいダイヤモンドをその場の思いつきで飲み込みます。カサンドラが収容された警察ではハーレイ・クインの捜査を訴えるレニーがお払い箱になっていました。
そして例のボウガン女が登場した後のシーンです。その後、ハーレイ・クインはローマンたちに捕まり、殺されそうになります。確かにナイトクラブでは彼のドライバー男の足を折ったり、ちょっとハメを外しすぎました。なんとか命乞いをするべく、ローマンが欲しているらしいダイヤを持った少女を捕まえると口約束。
解放されたハーレイ・クインは警察署に突入した…という経緯です。
自由を謳歌するどころかまたもや男に利用され続けているこの道化の女にどんな未来が待ち受けているのか…。
私だって解放されたい
『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒』はそのタイトルどおりハーレイ・クインというキャラクターのファビュラスな解放(emancipation)を描く作品です。「emancipation」という単語は、女性解放運動なんかを表現するときにも使いますし、なにかしらの束縛や支配から脱するというニュアンスがあります。
ハーレイ・クインはご存知のとおりジョーカーに完全依存状態で存在しており、それこそ病的なくらいです。サイコパス男に支配される女…というある種の定番であり、テッド・バンディのように実際にある事例でもあります。
本作ではそのジョーカー依存症だった姿を描いた『スーサイド・スクワッド』から一転、ジョーカーとは別れた状態からスタートとします。これを文字どおり恋人との別れを乗り越える女の物語とミニマムに受け取ってもいいのですが、広義的には「男支配からの女性の解放の物語」であるというのは言うまでもないでしょう。
ただ、そんな簡単にはいかせてくれない。せっかく自由になったハーレイ・クインは今度はローマンという男にまたも悪用されてしまう存在に。
思えばハーレイ・クインはその名が示すとおり「道化」です。道化というのは周りを楽しませるための存在。冒頭でローラースケートで女たちをなぎ倒しながら進む彼女が映っていましたが、ジョーカーと別れようと、あんなふうに大衆が熱狂する「女同士の争い」に消費されていくだけ。
天真爛漫に破天荒に生きるハーレイ・クインでさえも男社会の手のひらの上というのは、なんか虚しくなる姿です。
そんな孤軍奮闘する彼女を救ったのは、敵対関係にあるか赤の他人だと思っていた他の女たち。この他の女たちもいろいろな抑圧の中で耐えて生きていました。レニーは理解もないクソな職場にイライラですし、ダイナ(ブラックキャナリー)はスキルに合った職を得られないし、ヘレナ(ハントレス)は幼少からの過酷な家庭経験で自己を失い、カサンドラは貧困の中で自分を持てあましている…。
その独りでは何もできずに苦汁をなめる女たちがいざ手をとりあえば、あら不思議。案外と強いじゃん、私たちいけるじゃん!となる。これぞシスターフッドの快感です。
個人的には主役のハーレイ・クイン以外だと、“メアリー・エリザベス・ウィンステッド”演じたハントレスがお気に入り。あの『タクシードライバー』のトラヴィスよろしく鏡の前で決めポーズ&キメゼリフを練習してユニークネームを名乗る、下手すれば痛々しいだけのキャラ。こういうの、男キャラでは腐るほど描かれてきましたけど、女性は案外と珍しいですし、そんな彼女が最後は「良い名だね」と認められて嬉しそうにしている姿はなんかほっこり。
やっぱり女性を真っ先に肯定してあげられるのは女性だけ。女性先導で作った映画がそれを伝えるのは世相を狙ったものではなく、当然の事実を映し出したまでです。
ハイエナは悪者ではない
そんな最近もあちらこちらの作品で目立つシスターフッド・パワー炸裂な『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒』ですが、やはりアメコミ映画なだけあってアクションでの表現に上乗せして魅せてくるのが最高です。
ハーレイ・クインもいつにもまして無邪気に男たちをフルボッコにするのがいいですね。警察署でのスプリンクラー作動の中での戦闘は普通にスタイリッシュでかっこよく、世界で一番バットを使いこなし、ドラッグでドーピングする様が似合うキャラでした。
そこからの終盤、臨時の女チーム結成からの大乱闘。この舞台がアミューズメント施設だというのがまたハーレイ・クインっぽくで本当に楽しい。傍から見るとレジャーで遊んでいる女たち一行に見えなくもない。いや~、ここに『初恋』のベッキーを加えてあげたかったなぁ…あの女も男に依存しちゃってた人だし…。
私としてはあのハイエナのブルースもバトルに加えてほしかったですけどね。ちなみにハイエナは群れる生き物ですが、そのリーダーは常にメスで、女性主体のコミュニティを持つ動物です。そういう意味ではこの映画にぴったり。そもそもハイエナを悪者にせず登場させる映画なんて、それだけで良い映画確定ですよ(あくまで私的な意見です)。
『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒』は衣装も良くて、前作の『スーサイド・スクワッド』の時はハーレイ・クインはありていに言えばセクシーな格好で、男ウケを考慮しなくてはいけない束縛感もなくはなかったのですが、今回は本当に自由奔放なファッション。金ピカのオーバーオールを着こなせるのは彼女だけでしょうし、武器すらもあの非殺傷のカラフル煙幕ガンやハンマーといい、どこか道化っぽさ満載のオシャレがあるのが味になっています。
原題の「birds of prey」とは猛禽類のこと。色鮮やかな個性をアピールさせる羽を持つこの女たちにかかれば、もう獲物となった男は子ネズミも同然。
今作のヴィランであるローマンことブラックマスクはDCヴィラン史上最弱の部類ですが、それもそのはず、コイツはジョーカーがいないからしゃしゃり出てきた、もともと小物な男なのです。“ユアン・マクレガー”はこういう狂っているけど弱い奴を演じさせたら本当に様になるなぁ…。アメコミ映画というとどうしても強大な悪役が出てきてドンガラガッシャーーン!と大暴れする固定観念がありますが、ローマンはリアルでそのへんにいる悪い奴の見本みたいな存在でした。
女性に寄ったストーリー。女性に寄った主人公勢。女性にとっての身近な悪役。女性にとってのカタルシス。もうアメコミ映画は男の嗜好品だと思ったら大間違いですよと高らかに謳う一作。爆ぜろ、わからない男たち…って言っているのです。
こうやって振り返ってみると、ハーレイ・クインは本当に恵まれた良いキャラになりましたね。アメコミ映画の中でもここまで屈託なく楽しそうにしている女性キャラはいないのではないだろうか。正義を背負っていないからこそなのかな。
正しさはヒーローが決めるのではない。社会のはみ出し者ハーレイ・クインの決めた正しさに元気をもらえる人もいる。
これからも世の中にとってハーレイ・クインは必要な存在でしょう。それで救われる人がいるかぎり。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 78% Audience 78%
IMDb
6.5 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 8/10 ★★★★★★★★
関連作品紹介
DC映画の感想記事の一覧です。
・『ワンダーウーマン』
・『アクアマン』
・『シャザム!』
作品ポスター・画像 (C)2019 WBEI and c&TM DC Comics ハーレイクイン バーズ・オブ・プレイ
以上、『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』の感想でした。
Birds of Prey: And the Fantabulous Emancipation of One Harley Quinn (2020) [Japanese Review] 『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』考察・評価レビュー